COOL LADY’S PARADE

人生はレビューです。マンガ、本、ライブ、DVD、CDなど、色んなものをレビューします。
タイトルは “COOL LADY’S PARADE”。
JUNKな文章なので、お気軽に読んで行って下さい。

きたがわ翔

エキセントリックシティ

きたがわ先生の少女マンガ時代の短編集の3作目です。
4つの短編と描き下ろしのオマケ漫画が収められています。
活動の場をYJに移してから描かれた作品もあります。
これ以降、少女マンガは描いていないと思います。
作/きたがわ翔。

作風がバラバラです。前の短編集はまだ女の子視点の部分が
ありましたが、エキセントリックシティロンリーサマーなんて
完全に男視点になっています。これが少女マンガ誌に
載っていたら違和感があったのではないでしょうか。
以下は簡単なあらすじの紹介と、作品別の感想です。


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C 4〜6巻 ――SCENE2 マゼンタ・ハーレム

コンプレックスを抱えた人々を描くオムニバスの第二章。
4〜6巻は、画家・久住結良の数奇な運命を描く物語です。
週刊ヤングジャンプ’94年50号〜’95年34号に連載されていました。
作/きたがわ翔。

学園祭で見た一枚の絵に惹き付けられ、ある美大に入学した
岩崎志保は、入学早々の構内で、奇妙なダンスチームに遭遇した。
そのチームのリーダーの久住結良(くずみ ゆら)こそが、
彼女がかつて惹き付けられたあの時の絵の、作者だった。

結良は岩崎の一年先輩だが、課題を全く提出しないので留年していた。
彼は天才と言われる程の絵の才能を持ちながら、
絵筆を握ろうとしなくなっていた。
彼には賞賛の言葉と共に付け加えられるこの一言が我慢ならなかった。
「さすが、ヒロ・クズミの息子だな」――
彼の父親も画家だった。彼は両親に、歪んだ愛憎の感情を持っていた。

絵画サークルに入った岩崎は、結良もそのサークルの一員であると
知る。二人は絵に対しては、互いに怖いくらいに感性を共有していた。
岩崎は、結良の芸術のたった一人の理解者となった。

一方、結良は大学に講師としてやって来た女流画家の山岸小夜子
一目惚れする。彼女は26歳にして二度結婚、その二人とも
自殺したという、“現代のサロメ”と囁かれる曰く付きの女だった。

結良は彼女と結ばれたが、その後結良は、海外へ飛び立った。
二度と日本へは戻らないつもりだった。だったが、しかし――。
運命は、急激に暗転する。

あらすじを書くとこんな感じですが、これじゃとても雰囲気が
伝わらない、とんでもなくイカレた作品です。
ダークでディープ、耽美でアングラ。作者が描きたかったものを
思う存分描き、描いてて楽しくて、これを描いた事を全然
後悔していないと言うほど、作者の趣味に走りまくっている作品です。

まず絵。これが目を見張るほど美しい。
有名な絵画のパロディを含むイメージカットを多用し、
美しい線で丹念に描かれ、デザインも凝っていて、
まるで全てのページがそのまま芸術作品であるかのようです。
各話の扉やイメージカットは、額に入れて飾りたくなるほどです。

そして主人公の久住結良。絶世の美青年です。この連載が始まった時、
『きたがわ翔は、ガタイのいい兄ちゃんだけじゃなく、
こんな細身の美青年も描けたのか』とびっくりしました。
彼以上に“美しい”という形容がぴったりの男性キャラは、
私が今までに読んだマンガでは、見た事がありません。

更に結良の性格が、かなり歪んでいます。
若く美しい母親の肢体に絡みつき、妖しく迫る様からは、マザコンで
父に嫉妬するエディプス・コンプレックスの持ち主なのかと思えば、
父への強過ぎた思慕に由来する憎悪を持つ、ファザコンでもあります。
自分の容姿に魅力がある事を熟知していて、
女の扱いに自信がある、かなりのナルシストでもあります。

辛い過去を持っているのに明るい岩崎、結良の才能に過剰な憧れを持つ
戸塚、結良を虜にする女豹のような小夜子など、
結良以外のキャラクターにもかなり病んでいる部分があります。
岩崎の友達の佐藤ちゃんの服装や、結良が率いているダンスチーム
“アウラヒステリカ”の衣装なども、かなりブッ飛んでいます。

作者本人もコミックスのおまけページで書いているように、
これ以前のきたがわ翔と言えば、明るいオシャレなラブストーリーが
得意というイメージでした。だからこんなダークな、
マニアックな話も描けるなんて、思ってもいませんでした。
元から絵が上手いし、好きな作家だとは思っていましたが、
この作品で、きたがわ先生の真の実力を見た気がしました。

但し、YJ連載時のアンケートでの人気は、今一つだったそうです。
確かにどう考えても一般受けする話ではないでしょう。
寧ろ嘲笑したり、ドン引きする人の方が多いんじゃないかと思います。

でも私は、この耽美な世界観に、どっぷりと嵌まってしまいました。
今まで読んだあらゆるマンガの中で、私が一番好きな作品と言っても
過言ではないかも知れません。

C 5―マゼンタ・ハーレム 2

C 6―マゼンタ・ハーレム 3

C 1〜3巻 ――SCENE1 男性失格

副題は、Message to Complex People
“C”はSEXではなく、ComplexのCです。
“コンプレックスを抱える人々を描く”という中心を貫くコンセプトを
持ちつつも、計4章のそれぞれで、主人公も内容も全く違う、
オムニバス形式のストーリーになっています。
全10巻のうちの1〜3巻、このSCENE1は<男性失格>
週刊ヤングジャンプ’94年13号〜47号に連載されていました。
作/きたがわ翔。

出版社に勤めている雑誌編集者の天野格(あまのいたる)は、
“ジュラシック天野”というペンネームで人気コラムの連載を持つ、
知る人ぞ知る、ちょっとした有名人だった。
体が大きく、“女なんてお手の物”という豪快な性格を演じていた
格だが、彼には人知れず、男として最大のコンプレックスがあった。
彼は性的不能──俗に言う、インポだったのだ。

格には、楠本ユカという、高校時代からの友人がいた。
彼女とは様々な趣味を共有しており、話が合って、一緒にいると
安心できて、格は彼女の事が、ずっと前から好きだった。
本人同士も友人達も、何も言わなくても二人は両想いだと信じていた。
しかし男として自分に自信が無い格は、ほんの一歩、
今までの彼女との関係から、前に踏み出す事ができずにいた。

そんな冬の終わりの最後の雪の日。格はユカに、二人の二つ年下の
後輩で、今は大学3年の洞沢に告白されたと打ち明けられた。
『断れよ。』そのたった一言が言えず、格は
「いーんじゃねーか?」
と、軽い調子で、心にも無い事を言ってしまった。

「どうしていつだって本当に言いたい事は正直に言えないんだろう――」
自己嫌悪に陥り落ち込んでいたユカと別れた帰り道、
格はフィットネスクラブの前で、勧誘のチラシを貰った。
チラシをくれた、美人で元気で明るい彼女・佐々木由香里は、
最後に彼に微笑んで、こう言った。
「待ってますから」

その言葉が心に沁みて、格はそのクラブに入会する事にした。
格は彼女と急接近し、恋人同士になった。
不能の事と、心の大事な部分にまだユカがいる事を、隠しながら――。

これは――意外にも――作者の連載では唯一と言っていいほど、
超能力や特別な家庭環境など非現実的な設定の殆ど無い、
普通の男女の、リアルなラブストーリーです。
リアルな分だけ、妥協や打算や嫉妬や邪推など、登場人物の嫌な面、
恋愛の醜い部分が、そのままに描き出されています。

格はどうしようもないヤツです。コンプレックスの塊で、
気になる女に自分から声も掛けられないほどの臆病者なのに、
見栄っ張りで甘ったれで、悩みを克服するや否や、
調子に乗って行きずりの女とホテルに行ったりもします。

『それは本当の自分じゃない、皆何にも分かっちゃいない』と
心の中で叫びながらも、体力があって、仕事が出来て、酒も強くて、
『天野は何でも出来て凄いね』と持て囃されるのが気持ち良くて、
会社では、見栄を張って、仮面を被って、偽りの自分を演じています。

コンプレックスを告白し曝け出した後もまだ弱気な事を言う格を、
「見栄っ張り!」と諌める由香里自身も、見栄っ張りです。
彼氏と別れたばかりで辛いのに、それを隠して明るい顔を装ったり、
ユカの存在を知って本当は不安で不安でならないのに、
『気にしていない』と誇示するように、一生懸命、
ユカに対してフレンドリーに接しようとするのです。

ユカに対するその態度は、無神経にさえ見えます。
嫉妬心や対抗心が、無意識に出てしまっているんでしょうか。
由香里は“自分はいい子じゃなきゃいけない、
ネガティブな感情なんか見せちゃいけない”と思っているようです。
欠点の無いいい女を演じながら、不安や寂しさを押し殺しているのです。
結局、格と由香里は、似たもの同士の二人なんじゃないかと思います。

話が合って、一緒にいると落ち着く、安心できる女=ユカ。
一緒にいると、ドキドキする女=由香里。
『いつかははっきり告白してくれるんじゃないか』と待っていたユカ。
自分から、積極的に、(文字通り)裸でぶつかって行った由香里。

格はユカには“インポが知られたら嫌われるんじゃないか”、
“こんな自分よりも他の男の方がユカを幸せにできるんじゃないか”
と身を退いてしまっていました。でも由香里には、
“彼女なら受け入れてくれるんじゃないか”と、全てを曝け出せました。
ユカと由香里は、何もかも対照的な存在として設定されています。

格は自分が本当に好きなのはどちらなのか迷いますが、
やがてありのままの自分を受け入れてくれた由香里に夢中になります。
好き合っていた筈なのに。ずっと前からいつも一緒で、話していると
楽しくて仕方が無くて、この関係がずっと続くと思っていたのに。
ユカは自分の気持ちが誤魔化せず、嫌な女になります。

でもユカの気持ちも分かるので、それも切なく感じます。
全ては格の情けなさが招いた事なので、二人のどちらにも
共感できます。ユカも由香里も、どちらの女性も可哀想です。

これは作者にとっては初めての事だったそうですが、始めは違う結末を
考えていたけれど、描いているうちにキャラがどんどん
一人歩きしてきて、当初考えていたものとは違う結末になったそうです。
私も作者が始めに想定していたという結末になると思っていたので、
作者でさえ予想外だったというこの結末は、意外でした。

ユカが洞沢の事を相談した最初のシーンからの、ほんのちょっとのズレ。
そこから、物語が転がり始めました。
本当に言いたい事は言えない。言いたくない言葉ばかり、
すらすら出てくる。好きな相手がいながら他の人と付き合ったり、
好きでもない相手とも、寝られてしまう。

そういう事も、奇麗事だけでは済ませられない、
リアルな恋愛なのかも知れません。
全3巻という短い巻数ですが、上手くまとまった、
非常に良くできた話だと思います。

この<男性失格>は、これ以前の作者の作風から逸脱していない
事もあり、全4章のうちで最も支持された作品だそうです。
しかし絵の効果はそれまでの作品とはかなり変えられており、
スクリーントーンを減らしながらも背景を細かく描き込んだ、
落ち着いた雰囲気の絵になっています。

これは全巻共通の事ですが、カバーには特殊な紙が使われており、
表紙も額縁に入った油絵を模した、芸術的なデザインになっています。
自分の描きたいテーマを自分が切りたい所で切れるように描く。
これが作者がオムニバスという形式を選択した理由だそうです。
その事から、やはりの前に連載していた19B.B.フィッシュは、
作者の意に反して引き伸ばされていたんだろうな、と思いました。

C 2―男性失格 2

C 3―男性失格 3

PUREボーイ

現在は青年誌を中心に活躍する作者の少女マンガ時代の短編集です。
デビュー2冊目のコミックスで、発売は’87年1月です。
新しい順に掲載されていて、5本の読み切りが収録されています。
作/きたがわ翔。

話はそれ程面白いという訳ではないので、あまりお勧めはしません。
でも私はきたがわ先生が好きなので、古本屋で見つけて買いました。
初コミックスは萌子がんばります!ですが、それは私が知っている
YJ時代の作風とあまりに離れてしまっているので、買っていません。

この頃のきたがわ先生はしっかり少女マンガをやっていて、
ズッコケ方とか台詞回しがいかにも’80年代の少女マンガっぽくて
(少女マンガはほぼ読まないのでイメージです)、
読んでいて恥ずかしくなってくるところがあります。

やたらとバンドをやっているキャラが出てくるのは、きたがわ先生が
やっていたからなのでしょう。高校生のキャラが盛り場に
出入りしたりしてるのも、作者の高校生活の投影だと思われます。
次作のおまけマンガを見ると、かなり遊んでたみたいですからねぇ・・・。

この中で最も古い作品は、中2の冬休みに描いたそうです。
古いものほど絵が雑だったり、人物の身体のバランスが
おかしかったりするんですが、どんどん上手くなっていきます。
この絵の上達の速度は、凄まじいです。

しかも驚くべきは、これらを描いていた当時の年齢です。
最も新しいPUREボーイでさえ、描かれたのは
作者がまだ高校を卒業して半年後というから、18,9歳です。
この絵で19歳なんて、やはり只者ではありません。
以下に作品別のあらすじと簡単な感想を書いていきます。

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19<NINETEEN> 4巻

夏休みが終わり、大学が再開して間もなく、学内は学園祭の準備で
喧しくなりました。しかし久保田くんは沖縄での出来事が忘れられず、
はしゃぐ気にはなれないなと、感傷的な気分に浸っていました。
そんな久保田くんの感傷を無視して、彼の生活にどかどかと
踏み込むようにして現れたのが、高校時代の先輩・田口次郎と、
その腹違いの妹の、姫宮以杏(ひめみやいあん)の、二人でした。
作/きたがわ翔。

ばったり会って、偶然同じ大学だったと知った田口先輩から、
久保田くんは(かなり強引に、)応援団に誘われます。
田口先輩は久保田くんの高校時代のラグビー部の先輩でしたが、
大学では、応援団長をやっているとの事でした。

時を同じくして、久保田くんの元を可愛い女の子達が訪れます。
彼女らは人気のアマチュアバンド“ヒステリック・ぴんく”のメンバーで、
久保田くんは、コーラスが欲しいので助っ人として入ってくれと
頼まれました。そのバンドのボーカルが、運命の人・以杏ちゃんでした。

初対面で久保田くんに“あんたみたいなうじうじした男大嫌い”
と言い放った以杏ちゃんは、何故か久保田くんのバイト先の
店長(男色家)に、一目惚れしてしまいました。
メチャクチャな学園祭が終わり、街がクリスマスの色に彩られ始めた頃、
久保田くんは、以杏ちゃんの恋を応援しようと心に決めます。
以杏ちゃんへの気持ちに気付けないまま、近付くクリスマス・イブ。
その日は久保田くんの、19歳の誕生日でもありました。

この作品のヒロインの女の子は、4人とも全く違うタイプに
設定されていて、それに合わせて作品の雰囲気も、
シリーズごとに変えているように感じられます。
この以杏ちゃん編は、どたばたラブコメディーの趣になっています。

以杏ちゃんは、勝気で短気で意地っ張りの、元気のいい女の子です。
作者の初連載作ティーンズしようかの主人公も、
以杏ちゃんに近いキャラクターでした。この頃の作者には、
こういう女の子が動かしやすかったんだろうな、と思います。

作者によると、このシリーズでは久保田くんのイメージも意図的に
変えようとしていて、これまでは“真面目ないい人”としてしか
描かなかった彼の、嫌な部分を出して行こうと試みていたそうです。
成功と言うべきか失敗と言うべきか、確かにここで急に久保田くんの
性格が変わってしまったような気がしました。そして変わった
久保田くんを、私はあまり好きではなくなってしまいました。

この作品はNINETEENという題名ですが、久保田くんが
21歳くらいまで話が続きます。ヤングジャンプコミックスでは
全12巻で、最後の12巻には、久保田くんの高校時代や
店長の若い頃の話など、5編の読み切りが入っています。

久保田くんが真面目な性格、という設定上、久保田くんにこれ以上
華麗なる女性遍歴を重ねさせる事はできないので
仕方が無かったのかも知れませんが、4巻以降は、
ジャンプでよくある人気マンガの引き伸ばしとしか思えないような、
纏まりのない、ダラダラした話になってしまいました。

まず、久保田くんと以杏ちゃんが恋人同士になるまでも
回りくどい話になっていたんですが、二人が結ばれてからも、
久保田くんが芸能人を目指したり、女優になった藤崎さんが
嫌な女になって再登場したり、しかも絵柄が変わって、
4人のヒロインの中で一番可愛いと思っていた藤崎さんが、
全然可愛くなくなってしまっていました。

久保田くんがラグビーを始めてラグビーマンガになったり、
店長の病気の話を長々とやったりして、恋愛要素も無くなりました。
どんどんつまらなくなり、『良かった頃のイメージを壊すくらいなら
早く終わらせてあげればいいのに』と思っていました。
瀬川さん編で終わっておけば、綺麗なまま終われたのに、
と残念に思っています。

19<NINETEEN> 3巻

大学に入学して僅か3ヶ月で、藤崎さんと千夜ちゃんという二人の
女性に裏切られた久保田くんは、キレてしまい、こう決心しました。
「軽い男になってやる!」
瀬川さん編の後半と、以杏ちゃん編の冒頭が入っています。
ここでは2巻の内容を含めた、瀬川さん編について書きます。
作/きたがわ翔。

久保田くんは手始めに、夏はスキューバ冬はスキー、その真の目的は
ナンパという、学内一のナンパサークルに入部しました。
そして早速、そのサークルの、石垣島への
スキューバダイビング合宿に参加しました。

石垣島への船旅の途中、久保田くんは、気晴らしに出て行った
人気のない夜の甲板で、長い黒髪が一瞬藤崎さんを思い出させる、
不思議な微笑を湛えた目の、一人の女性に出会いました。
彼女は、瀬川久美子さん。

瀬川さんは久保田くんよりも3つ年上の大学4年生で、
どうやら一人旅のようでした。石垣島に着いてからも
ホテルやダイビング中の海の中で偶然顔を合わせる事が続き、
そのうちに互いに声を掛け合い、二人は親しく話すようになりました。

スキューバのシーンが多いので、透明な水、泳ぐ魚、
空から射し込む煌く光の筋など、沖縄の美しい海の絵が、
惜しむ事なくふんだんに出てきます。
物語は彼女の過去、引きずっている想い、この島に来た目的から、
やがて沈没船の探索へと進みます。

瀬川さんは久保田くんを誘うような事をするけれど、
久保田くんと一緒にいてもどこか違う世界にいるようで、
久保田くんを見つめる彼女の瞳は、久保田くんを通り越して、
どこか遠くを見ているように感じられます。

常に久保田くんを“年下の男の子”として教え導くようにしている
瀬川さんの態度から、二人が結ばれる事は無いだろうと、
これも初めから判ってしまいます。それでも素敵な思い出を
重ねていくその事が、また、物語に切なさを呼び起こします。

昼間からやっている「元気が出るテレビ」、変な外観の
ボーリング場などは、作者が実際に見てきた光景だと思われます。
これが描かれた頃には沖縄でしか売っていなかった
オリオンビール(現在は全国販売)というビールが、
切ない思い出を象徴する小道具として効果的に使われています。

ひと夏だけの思い出。それどころか、僅か一週間の出来事。
南国の楽園・石垣島での、非日常的な、幻想のような恋。
軽い男になりたかった筈なのに、やっぱりなり切れず、
久保田くんは瀬川さんに真っ直ぐな気持ちを向けて、
彼女を命懸けで守ろうとしました。
クライマックスでは涙ぐみました。今読んでも、泣いてしまいます。

これを読んで、以前はオリオンビールに憧れていました。
両親が旅行に行った時に、買ってきて貰った事もあります。
沖縄の象徴と思っていたブランドなのですが、
今ではどこでも買えるようになってしまい、しかもかなり
売上不振だというので、何だか寂しい思いがしてしまいます。

石垣島から戻って、夏休みは終わり、秋になると、
学内は学園祭の準備で賑やかになりました。
急に久保田くんの周りがドタバタしてきて、
その中で出会ったのが、最後の女・以杏ちゃん。

実は19が面白いのは、この瀬川さん編までです。
4巻以降は引き延ばしがひどく、迷走状態です。
19というタイトルなのに、面白いところは全部
久保田くんがまだ18歳、という、困った事になっている作品です。

19<NINETEEN> 2巻

千夜ちゃん編の後半と、瀬川さん編の前半が入っています。
記事のタイトルは“2巻”としましたが、
ここでは1巻の内容を含んだ千夜ちゃん編について書きます。
1巻につき一人の女性のエピソードが収録されていればいいのですが、
中途半端なところで切れているので、書くのに困ってしまいます。
作/きたがわ翔。

初恋の人・藤崎さんに裏切られ、傷心の久保田一至くん(18歳)は、
一人の女の子に出逢います。
彼女の名は、秋元千夜(あきもとちや)ちゃん。

久保田くんのバイト先のお洒落なカフェに、友達の森野さんと二人で
バイトとして入ってきた高校2年生の彼女は、イマドキ珍しいくらい
純情で、労いの為にポンと背中を叩かれただけで
「キャーー!!」と悲鳴を上げてしまう、男性恐怖症でした。

千夜ちゃんによると、彼女が“いいな”と思ったアイドルが
久保田くん似で、友達に“このカフェに似てる人がいる”
と勧められ、ここでバイトをする事になったそうです。
そして久保田くんは、彼女に“男性恐怖症を克服したいので
協力して欲しい”、と頼まれてしまいます。

優しい久保田くんに、千夜ちゃんはどんどん惹かれていきます。
久保田くんも、始めは怯えていた彼女が自分に心を許してにっこり
微笑むのを見ているうちに、優しい気持ちが芽生えてきます。
しかし彼女が明らかに自分を慕い、自分も彼女を意識しているのを
悟ると、その自分自身に対して、戸惑いも覚えるようになります。

まだ藤崎さんに失恋したばかりで、ひどく落ち込んで、
当分新しい恋なんて出来そうにないと思っていたのに。
それなのに、まだ一月も経たないうちに、もう新しい女の子なんて。
自分はそんな、軽い男じゃない、と――。

千夜ちゃんは、今で言う天然です。エロい言葉を全く知らないので、
友達やバイト先の皆にからかわれたり、とんでもない単語を、
「これってどういう意味ですか?」と平然と口にしたりしちゃいます。
そういうコメディ部分も面白くて、このシリーズは、
藤崎さんの時とはちょっと違い、暖かい、
二人を見守りたくなるような雰囲気になっています。

千夜ちゃんは真っ直ぐな性格で寂しがり屋で、
基本的にはおとなしいけど、男の子と喋った事もロクに無いので、
加減を知らず、突っ走っちゃうところもあります。

そういうところが可愛いし、またそういう彼女を見て
“自分が守ってあげなきゃな”と誓う久保田くんの優しさが、
読んでいて、凄く心に沁みてきます。

久保田くんの鍵を巡る混乱が解決するシーンでは、涙が滲みました。
こんな風に自分ににっこり微笑んでくれる人がいたら、
高校生の女の子なら、好きにならずにいられないでしょう。
でも千夜ちゃん編はコミックスではまだ2巻で、
話がまだ続いていく事から判ってしまうのですが、
久保田くんは、千夜ちゃんとも悲しい別れを経験する事になります。

そして傷心旅行とも言える沖縄で出逢ったのが、謎の美女・瀬川さん。
瀬川さん編は、2巻の後半と、3巻の前半に収録されています。
続きは3巻のレビューとして、後日また書かせていただきます。

因みに主人公の久保田一至という名前は、作者がBASTARD!!
萩原一至先生と友人である事から付けられたようです。
2巻の作中には、お遊びで萩原先生自身が描いた、
ダーク・シュナイダーとシーン・ハリが背景で出てきます。
それもちょっと楽しめると思います。

19<NINETEEN> 1巻

作者の出世作であり、初の長期連載作品です。
’88年19号から週刊ヤングジャンプで連載されていました。
文庫版も出ていますが、ここで書いている“1巻”は、
ヤングジャンプコミックスでの巻数です。
作/きたがわ翔。

顔はアイドル似でガタイはいいけど優しくて大人しくて奥手な、
大学一年生の久保田一至(くぼたかずし)くん(18歳)。
高校3年間をラグビー一筋で過ごし、全く女っ気が無かった彼ですが、
大学に入学した途端、様々な女の子との出会いが待っていました。

これは久保田くんが恋をし、楽しい思いや辛い思いを
たくさん経験しながら大人になっていくという、
ラブストーリーであり、久保田くんの成長物語です。
全体のストーリーは、主に4つのパートに分けられると思います。

中学時代の同級生の<藤崎さん編>
年下の女子高生の<千夜ちゃん編>
年上の大学生の<瀬川さん編>
最後に同じ大学の同学年の<以杏ちゃん編>
1巻には、藤崎さん編と、千夜ちゃん編の途中までが収録されています。

久保田くんが大学生になったばかりの4月、
中学時代のクラス会が催されました。そこに久保田くんの初恋の人・
藤崎雅菜(ふじさきまさな)さんが現れました。
彼女は4年経って、以前よりももっと綺麗な、大人の女性に成長し、
しかも今は、モデルとして売り出し中の身でした。

中学時代は彼氏がいるので諦めていたけれど、藤崎さんは、
“今は彼氏とは別れたばかり”と言っていました。
彼女の目の前で彼女の元彼氏の悪口を言い合う女子達から
庇ってあげたのがきっかけで、久保田くんは、彼女から
こっそり電話番号のメモを渡されました。

兄が読んでいたヤンジャンに、女の子が可愛いくて、
凄く絵が綺麗なマンガが載っていたので読んだのがきっかけでした。
とにかく絵が綺麗で、こんなに綺麗な絵のマンガは見た事がないと
思っていたんですが、今見ると下手に見えます。週刊連載で作者本来の
絵のクオリティを維持するのは、難しい事だったのかも知れません。

連載していたのがバブル真っ盛りの頃なので、服装やコマの背景、
会話などには、’80年代テイストが濃厚に現れていて、
今読むと古臭さを感じる事は否定できません。

でも、藤崎さんの囁く台詞、久保田くんの独白など、所々に
ゾクゾクするような、また切なさが伝わるような鋭いセンスを
感じます。久保田くんや相手の女の子の気持ちも非常に丁寧に、
繊細に描かれていて、その辺りには、普遍的な面白さがあります。

藤崎さんは中学から付き合っていた男性がいたというだけあって、
奥手の久保田くんが戸惑う程に、彼をどんどんリードして行きます。
その引っ張っていく様子も、上手い。
でも結局、久保田くんが彼女を見限る形で終わってしまいます。
そして出会ったのが、女子高生の千夜(ちや)ちゃん。
その話は、2巻の記事として改めて書こうと思っています。

この連載のお陰で、当時のYJには女性読者が増えたそうです。
私もこの頃から去年の終わりくらいまで、ずっとYJ読者でした。
きたがわ先生の作品は、19以外にも結構持っています。
私が複数の作品を集めている作家さんは、きたがわ先生だけです。
それを考えると、私が一番好きな作家さんなんだろうと思います。

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HN : COOL LADY
1973年生まれ みずがめ座
女性 独身 神奈川県出身

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