
新聞社でのデスク時代のこと。夕方から夜にかけて編集局の大部屋は朝刊の制作作業が佳境に入り、記者から送られてくる原稿に手を入れたり紙面編集に当たる整理部のスタッフと記事の扱いや見出しで調整したりと慌ただしい中で、ふとNHKをつけっぱなしにしているテレビを見上げると、画面からはニュース番組でなんと大学時代の同期生が深々と頭を下げている映像が流れているではないか。驚いてよく見ると彼が属している企業の不祥事の謝罪会見。彼がトップの立場にいる組織に属している社員が事件を起こし、責任者として謝っていたのだ。また、やはり大学時代からの友人がある商社で広報部長になった途端、不運にも世間に謝罪、釈明をせざるを得ない事態に相次いで見舞われてしまったこともあった。
さて、冒頭の懇談に戻る。「でもね」と友人が続けた。「大概のケースは不祥事とされた問題そのものはかなり前からやっているんだよね。なんで最近になって表沙汰になっているのか・・・」
結局、結論めいたものは出ない雑談レベルで終ったが、自分の記者体験も踏まえてまず思うのは、(これもネット時代ゆえの産物なのだろうな)ということである。
企業が触れられたくない話が表面化したりニュースになる発端は、今も昔も企業の中からの情報流出が大半なのだろうが、インターネットがこれだけ発達、誰もがメールでのやり取りが当たり前になると内部告発などインサイダー情報の外部流出のハードルがかなり低くなっていることは確実。昨年11月、東レが子会社の検査データ改ざんについての会見を行ったが、内部でこの事実が発覚したのは1年以上も前のこと。公表のタイミングについて同社が「インターネット上で不正を指摘する書き込みがあったため」と明言したことが、一部で話題になったという。
「危機管理」の必要性が企業社会で一般化して久しく、危機の代表例ともいえる法令違反や不祥事にどう対応するかが広報担当部門にとっても重要な役割のひとつとされている。 しかしこれを事前に完全に防ぐ手立てを講じるのは難しく、しかもひとたびネット空間に出てしまった情報はとめどなく拡散していく。「管理」という言葉からは企業サイドが主体的に制御・コントロールできるものだというニュアンスが感じられてしまうのだが、東レのケースはそれとは裏腹の現実が益々強まっている象徴的な出来事に思われてならない。

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