広報プラスαのガイドブログ「経済記者 シニアの眼」

——あなたの会社の危機管理は大丈夫?
——正しいメディア対応についてアドバイスします。

企業はいま、戦争や感染症、地球環境問題、ビジネスと人権など、さまざまな課題に直面しています。経済記者シニアの会は、ベテラン・OBの経済記者が毎週月曜日付のブログを発信するとともに、不祥事対応や記者会見など、広報・企業活動をお手伝いすることを目指しています。

生活インフラとしてのネット環境の必要性


貧困家庭のインターネット環境


千葉 利宏  現代社会では誰もが当たり前にインターネットを利用する時代になり、インターネット利用を前提に様々なサービスが提供されるようになった。インターネットを利用できる人にとっては便利で手軽に楽しめるサービスを受けられるが、利用できない人はサービスを受けられないという「格差」を生む。

 政府は2019年からGIGAスクール構想を推進し、学習用端末を小中高校の生徒への配布してオンライン学習が利用できる取り組みを進めている。貧困家庭の子どもたちを支援する認定NPO法人キッズドアの渡辺由美子理事長は、2024年8月26日に行った日本記者クラブでの記者会見で「貧困家庭の1割ぐらいに自宅にWi-Fiがなく、端末があっても学習できない状況にある」と述べ、「ネット環境が貧困家庭の貧富の差を如実に表している」という厳しい現実を指摘した。

 この先、急激に人口減少が進む日本では、学校教育はもちろん、子育て支援や高齢者福祉など様々な公的サービスを効率的に提供していくにはインターネットの活用は不可欠だ。エッセンシャルワーカーの人手不足はますます深刻化していくと予想されるだけに、生活インフラとしてのネット環境をどう整備していくべきかを考える必要がある。

■インターネット利用率が低い世帯は?
 総務省が毎年発表している「通信利用動向調査」によると、20歳以上の世帯主がいる世帯および6歳以上の構成員を対象とした2023年の世帯調査で、スマートフォンを保有する世帯は90.6%、パソコンは65.3%、タブレット端末は36.4%となった。インターネット利用者(個人)の割合は全体で86.2%だが、13〜59歳の年齢階層では97〜99%と、ほぼ100%に近い利用状況となっている。

 首都圏で電車に乗ると、かつては新聞や雑誌を見ている人も多かったが、いまではスマホの画面を見ている人たちばかりだ。スマホの普及率から考えても、もやはインターネットが当たり前の時代になったと言えるが、利用率が100%になったわけではない。

 インターネットの利用率を押し下げているのは、世帯収入別利用率で見ると200万〜400万円未満で77.5%、200万円未満で62.5%と、収入が低い世帯である。キッズドアの渡辺理事長が言うように「ネット環境が貧富の差に表れている」のは確かだ。

 年齢階層別の利用率で見ると、80歳以上が36.4%、70〜79歳が67.0%、60〜69歳が90.2%となっており、年齢が高くなるほど利用率は下がっていく。さらに6〜12歳も89.1%と、約1割の子どもがインターネットを利用していないことがわかる。

 現役時代にスマホやパソコンを使って仕事をした経験がない高齢者には、今もインターネットを利用していない人が多いと思われるが、年金暮らしで生活費に余裕がないために自宅にネット環境のない高齢者世帯も少なくないのではないだろうか。

 また、子どもが小学校低学年でスマホを持たせていない家庭もあるだろうが、親はスマホを持っていても自宅にネット環境がないためにインターネットを利用できない子どももいるだろう。

 教育や高齢者ケアのデジタル化が進むなかで、インターネットを利用したくても利用できない子どもや高齢者を取り残したままで良いはずがない。

■学校以外の子どものネット環境は?
 日経新聞の10月16日付け朝刊に「オンライン学習促進の一環として低所得世帯などの公立高校向けに調達された学習用端末約9万5600台のうち3分の1が使われていないことが会計検査院の調査で分かった」との記事が掲載された。この記事を見てキッズドア理事長が言っていたネット環境のことが気になって調べてみた。

 まず学校現場でのネット環境は、12月2日朝刊の日経新聞の記事にあったように「回線が不足している学校は全体の8割に達し、授業に支障がでている」のは間違いないようだ。そのことは文部科学省でも認めており、小中学校のネット環境を改善するための費用を臨時国会で審議中の来年度補正予算に計上。令和7年度(2025年度)中には、授業に支障のないようにネット環境を整備したいとしている。

 家庭でのネット環境については、低所得世帯向けの就学援助制度の枠内で各自治体が実施しているという。埼玉県川口市の小学校教員だった妻に聞くと、オンライン学習端末を家庭に持ち帰りできるようになった頃、川口市ではネット環境がない家庭の児童にはポケットWi-Fiの貸出を始めた。しかし、全ての自治体で川口市と同様の支援が行われているかどうかは文科省として把握できていないようだ。

 高校生向けの就学時支援金も、自治体を通じて授業料の支援のために提供されている制度で、家庭でのネット環境までは考慮されていない。キッズドアの渡辺理事長も指摘していたが、進学を希望する高校生にとっては家庭にネット環境がないのは大きなハンデとなる可能性がある。

 では、共働き世帯の増加によって需要が増えている学童クラブのネット環境はどうなのか。学童クラブはこども家庭庁の所管で、文科省では把握していないようだ。東京都が学童クラブの充実を図るため「認証学童クラブ制度」の創設に向けた検討を進めているので問い合わせると、学童クラブ運営事務のためのネット環境は整備されているようだが、子どもたちの利用は考慮していないという。

 文科省でも、学校のネット環境整備に力を入れ始めているので、学校施設や学校敷地内にある学童クラブでは、学校のネット環境を利用できるようにするのも一案だろう。将来的にはデジタル教科書の導入も検討されており、子どもの学習にとってもネット環境の整備は必要になるはずである。

■高齢者の見守りにもネット環境が必要
 では、高齢者のネット環境はどうか—。私の妻の実家では90歳を過ぎた父母がふたり暮らししており、妻と妹が交代で実家に行って世話を始めている。そのような状況になって最初に行ったのは、実家にインターネットの光回線を引くことだった。

 父母は現役時代にパソコンやスマホなどを使って仕事をした経験がなく、実家にネット環境はなかった。しかし、実家に頻繁に通うようになると、担当のケアマネージャーと頻繁に連絡を取ったり、病院の診察予約を入れたりするのにも便利なので、2人で利用料金などを折半してネット環境を整えたわけだ。

 65歳以上の高齢者の単身世帯は、2020年で約672万人で、全世帯の13.7%を占める。国立社会保障・人口問題研究所(社人研)が10月12日に発表した将来予測では、2050年には1人暮らし高齢世帯は約1084万人となり、32道府県で世帯数に占める割合が20%超となる。

 こうした人たちは自治体や地域コミュニティが中心となってケアしていくことになるだろう。急速に人口減少が進むなかで、民生委員など地域の人たちが電話連絡したり、訪問したりするには大変な労力がかかる。それを代替するために様々な高齢者見守りサービスが提供されているが、それを利用するにもネット環境が不可欠である。

 2024年度から石川県能美市では高齢者の見守りサービスを開始したが、希望する高齢者世帯にシャープ製の空気清浄機、または三菱電機製エアコンを設置し、情報家電機器に装備されているセンサー機能を使って高齢者の状態を把握して自治体にデータを送信。その情報を担当する民生委員またはケアマネージャーに通知して状況を把握するというサービスだ。こうしたサービスを提供するにしてもネット環境が必ず必要になる。

 ある地方自治体の担当者は「公民館などの公共施設の利用者は高齢者ばかりが多いのが現状だが、ネット環境があるところには若者が集まるので、そうした公共施設にネット環境を整えることで多世代交流を進めたい」という。

 ネット利用については、様々な課題も指摘されている。ネット詐欺や闇バイト問題、若者のSNS依存やいじめ問題など深刻な問題ばかりで、それぞれに解決策を模索する必要がある。その一方で、ネット環境を利用したサービス市場を成長させ、教育や就労の支援、子どもや高齢者のケアなどの充実を図っていくことがますます重要になるのではないだろうか。


pr-konwakai02
経済記者 シニアの眼を配信する
「経済記者シニアの会」
ホームページはこちらから≫

注目会見を斬る(2024年12月)


19日、兵庫県庁で就任会見(YouTube KYODO NEWSより)

【斎藤元彦兵庫県知事の再登板会見(11月18/19日)】
 11月17日投開票の兵庫県知事選は、地方自治体の首長選であるにもかかわらず、その少し前に行われた衆院選や米大統領選に勝るとも劣らない関心を集めた。結果は、議会からの辞職要求により失職し選挙戦に挑んだ斎藤元彦氏が逆転勝利を収め、当選が決まった翌日18日と翌々日の19日に、それぞれ選挙事務所と兵庫県庁で記者会見を開いた。2回の会見で一件落着かと思いきや、PR会社を巡る公職選挙法違反疑惑が突如浮上し、今日現在、予断を許さない状況が続いている。何がどうして、こうなって、これから先、一体、何がどうなるか…。ベテラン記者らが、ざっくばらんな床屋談義を行った。

A まず、前段として記者会見までの振り返りから始めましょう。

B 一連の騒動の原点であり最大の論点は、内部通報者が自死した、いわゆる文書問題。斎藤知事は、選挙後の2回の会見で、県つまり自身の対応を「適切で問題はなかった」と繰り返した。

●問われるのは知事の「うそ八百」発言
C 今春の会見で知事本人が語った「業務時間中に、うそ八百含めて、文書を作って流す行為は公務員失格」との強烈なフレーズが、妥当か否か…。それがずっと問われているのだろうけど、知事は、自らに非はない、と改めて強弁したわけだよね。

D まぁ、勝てば官軍だからね。そもそも、告発文書でパワハラを糾弾された知事自身が「パワハラはなかった」と否定し、そこから、パワハラがあった、なかった-の平行線の水掛け論が延々と続いているわけだけど、ある組織の最高権力者に向けられた疑惑を、権力者本人が「疑惑はなかった」と断じた点に、公平性や客観性を欠く危うさが強く感じられる。

E ともかく、選挙結果で民意が示され、再登板した斉藤氏の会見は、無難で、そつがなかった。感謝と謙虚の二つをキーワードに、多くの質問に淡々と答えていた。準備万端、想定問答に抜かりなしといった印象だった。

B 投票した兵庫県民は、首長のパワハラ体質うんぬんや文書問題にはさして重きを置かずに一票を投じたということなのだろうか。

●N党立花氏が流れを変える
A 巷間言われているように、SNS、動画サイトといったネットの影響が甚大で、とくに選挙戦に乱入したN党立花孝志氏が流れを変えたのは、アクセスデータなどから明らか。立花氏が「マスコミ報道は全部うそ」「本当のことはYouTubeで見て」とアジ演説したのが兵庫県民に響き、「斎藤さんは悪くない」「いじめられている」と多くの選挙民が判断したんだろうね。

D 公職選挙法の規制から、新聞やテレビは選挙戦が始まると特定候補者に限った報道は控えるので、いきおい、規制を受けないSNSなどの情報が、選挙結果を左右するほど拡散する-今回の兵庫県知事選は、そんな図式だったのかも。

C 二つの記者会見が終了し、選挙騒動が一段落した矢先、女性PR会社社長が“時の人”として脚光を浴びる第2幕は次の【直球・変化球】の項で。


【直球・変化球】
E 新聞、テレビの多くは匿名で伝えているが、ネットや週刊誌では折田楓の実名が出て、すっかり有名人になった、このPR会社社長。斎藤陣営にしてみれば「あんた、一体、何をしてくれたんだ!」と怒り心頭だろうね。

A 確かに。折田社長のネットで明らかにした書き込みが、微に入り細を穿ちで、実に素晴らしい。

B 「私が監修者として、運用戦略立案、アカウントの立ち上げ、プロフィール作成、コンテンツ企画、文章フォーマット設計、情報選定、校正・推敲フローの確立、ファクトチェック体制の強化、プライバシーへの配慮などを、責任を持って行い、信頼できる少数精鋭のチームで協力しながら運用した」といったくだりだね。

D 「選挙の広報・SNS戦略を東京の大手代理店ではなく、兵庫の会社が手掛けたことをアピールしたい」「広報全般を任せていただいた」とも書いている。

●盛る盛らないの話ではない
C 折田社長の書き込みに対し、斎藤氏の代理人弁護士は「頼んだのはポスタ―、公約スライド、ちらしなどの作成業務だけで、折田社長の話は“盛っている”」と抗弁しているけど、かなり苦しい説明だよね。盛る盛らないの程度問題ではなく、仕事として何を手掛けたかの基本認識が真っ向から対立するわけで、どちらが正しいかは一目瞭然だろう。
 
E いずれにしろ、折田社長がネットに自慢話を載せたのは、自身が手掛けたプロジェクトが大成功し有頂天になったためで、30代前半の若さゆえの勇み足。公選法についての知識が足りなかったのが致命的だった。

B 各メディアが大きく取り上げているこの問題。果たしてどっちに向かって行くのだろうか…

D この種の疑惑は、警察や検察が捜査に乗り出すかどうかがすべて。一般論として、警察は世間の注目を集めた事案をそのまま放置はできないので、何かのタイミング、例えば市民団体の告発などを機に動く可能性が高いと思うよ。

●警察は政治的に動く?
A 警察の上層部には、時の政権の顔色をうかがい政治的に動く癖がある。とすると、自公政権にとっては、斎藤県知事と再度の選挙で当選する誰かと比較し、どちらがベターかを忖度して、斎藤氏よりも反自公色が強い県知事の誕生が有力と判断したら、捜査見送りとなったりするのでは。

B なるほど。いろんな見方があるけど、遅くともあと1、2週間のうちには方向性は定まるだろうね。


pr-konwakai02
経済記者 シニアの眼を配信する
「経済記者シニアの会」
ホームページはこちらから≫
記事検索
月別アーカイブ
プロフィール

corporate_pr

QRコード
QRコード
  • ライブドアブログ