広報プラスαのガイドブログ「経済記者OBの目」

——あなたの会社の危機管理は大丈夫?
——正しいメディア対応についてアドバイスします。

2014年05月

企業はいま、戦争や感染症、地球環境問題、ビジネスと人権など、さまざまな課題に直面しています。経済記者シニアの会は、ベテラン・OBの経済記者が毎週月曜日付のブログを発信するとともに、不祥事対応や記者会見など、広報・企業活動をお手伝いすることを目指しています。

工場見学会で企業の素顔を知ってもらおう

eguchi_s 群馬県にある富岡製糸場が世界文化遺産に登録される運びとなり、はやくも大型連休中は大勢の観光客でにぎわった。日本近代化の基礎となった産業遺産をこの目で見てみたいという人々の思いがモノづくりを見直す契機になれば喜ばしいことだ。

 最近は一般の間でもモノづくりに対する関心が高まってきたように感じる。大手の旅行社は「大人の社会科見学」と称し、企業の工場や研究施設を訪問先に組み込んだ日帰りバスツアーを募集しているが、いずれも好評と聞く。ふだん使っている商品がどこで、どのように作られているのか、素朴な疑問や好奇心が消費者の興味を駆り立てている。とくに最近は安全・環境面に対する意識の高まりから、この際ぜひ自分の目で確認して見たいと思う人が増えているようだ。

 工場見学会は、企業の姿をありのままに見てもらい、企業や商品に親しみを持ってもらう絶好のチャンスである。バスツアーの参加者だけでなく、工場近隣の住民に対しては、工場の中がどうなっているのか自分の目で確かめてもらい、不安を取り除いてもらう機会にもなる。また、株主や投資家に対しては利益の源泉がどのように生み出されるのか、直接その目で見てもらうことができる。さらにマスメディアに開放することでそれらの広報効果はさらに高まる。企業の広報担当者は工場側と連携を密にし、ゲストの目的に沿った魅力ある見学会をどんどん企画すべきだ。筆者も記者時代に数多くの見学会に参加した。いずれも企業を身近に感じることができ、記事を書く上でおおいに参考になった。

 ただ、工場見学を開催するうえで広報サイドとして留意すべき点がいくつかある。第1は見学中の安全の確保である。工場によっては高熱を発する装置や大型重量物など危険なものがたくさんある。ふだん作業している人にとってはなんでもないことが、初めて訪れる人には脅威に感じることがある。安全には万全の上にも万全を期したい。第2はゲストからの質問である。訪れた人は初めて目にするものにさまざまな疑問を持つ。見学中に個々の質問に1つひとつ答えていたのでは先に進めない。ゲストのために、あらかじめ「よくある質問集」を作っておくとよい。

 次に写真撮影。工場には生産技術や生産管理の面でライバル企業に秘密にしておきたい部分が多くあり、ゲストによる工場内の写真撮影を禁止あるいは制限している場合が多い。そこで、どうしても写真が必要だというゲストのために事前に工場側で撮影した写真をいくつか用意しておく必要がある。だが、メディア向けの見学会ではそれですまない場合がある。企業側が用意した写真では満足せず、オリジナリティーのある写真を自分の手で撮りたいと要求する記者が少なからず出てくるものだ。そうした際に備え、写されても影響のないアングルやポイントをあらかじめいくつか決めておくとよい。「この場所に限り撮影自由」ということにすれば記者も納得するはずだ。工場見学は企業の素顔を見てもらうせっかくの機会。要望にはできる限り応えていこう。


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「STAP細胞」論文不正の記者会見で感じた企業広報との違い

yamada_s  新型万能細胞「STAP細胞」論文の不正問題に関し、4月上旬と中旬に相次いで記者会見が開かれた。上旬は発見者で論文の責任筆頭著者である小保方晴子氏。中旬は論文作成を指導した同じく責任著者の笹井芳樹氏。二人は独立行政法人・理化学研究所(理研)に共に籍を置いている。会見はいずれも論文ねつ造などの不正の有無について。説明内容は難解で、資料も官庁広報に似ており素っ気無く、企業広報と大きな違いを見せた。同会見を通じて感じたことを取り上げてみた。

 「STAP細胞」存在の有無に関するだけに、小保方氏の会見では「論文は悪意のない間違い」として、その不備を謝罪したが、「STAP細胞はある」と主張。一方、笹井氏は「論文は撤回が適切。同細胞の存在は仮説に戻すべき」との判断を示した。笹井氏は「論文作成でのアドバイス範囲は限られていた。不備を見抜けなかった責任は感じている」と釈明に終始した。

 「不正、疑義あり」として社会問題化した今回のケースを民間企業と比較すると、大きな違いは誰が責任を取るかということ。もし企業の研究論文に第三者から疑義が指摘され、それが不正であったとなれば、担当者はもとより研究開発本部長や部長らに処分が下される。降格、減給は当然のこと。社会の信用失墜に結び付くとなれば経営トップの引責問題に発展しかねない。理研の場合、幹部を含めて責任の所在を明確にすることから逃げているようにみえる。

 もうひとつの違いは、文科省所轄の理研の資料内容は難しく、理解できない箇所が多過ぎること。国際問題にまで拡大すると経済記者も社会部記者も取材に参加する。今回は芸能レポーターも多数出席していたが、笹井氏の会見では居眠りする人もみられた。これに比べ企業の場合、まず難しい文言は避けるとともに、専門用語には随所に注釈を付けるなど、広報スタッフが最善を尽くして資料作成に努める。

 それにしても笹井氏の会見で感じたことは、表情を変えることなく、「STAP細胞」論文の疑惑点を淡々と説明したことだった。「責任は感じる」というものの、「責任の取り方を考えたい」というような表現は無かった。「STAP細胞」論文作成に関わった研究者が多過ぎることが責任の所在をあいまいにしているのだろうか。理研は小保方氏の「論文不正との決めつけに承服できかねる」とした不服申し立てを5月9日退けた。彼女1人が責任を負うことになるのだろうか?


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新聞記者と相入れない一線がある

大澤 賢  どんなに仲が良い新聞記者でも、企業のトップ人事や不祥事など重大テーマでは全く別人になる。走り出した記者を止めることはできないから広報マンは報道されると覚悟しておく必要がある。記事を止めようと広告を絡めるなどは愚の骨頂である。

 昔、某社の社長人事を取材した時を思い出す。候補は技術系の筆頭副社長と営業畑の次席副社長の2人で、どちらがトップに就いてもおかしくなかった。大体の方向感覚をつかんだ後、同僚記者の協力を得てグループ各社首脳やキーマンの所へ夜討ち朝駆けした。

 ある晩、逗子市に住む役員宅へ押し掛けた。パジャマ姿で出てきた役員氏は「仕事の話なら会社で」と言ったが、当方の真剣な顔を見て応接間に入れてくれた。すでに次席副社長が有力とする情報が集まっていたから端的にそれを伝え、問題点はないかと尋ねた。一呼吸おいてできた言葉は「健康問題が残っているね」だった。頑健に見える次席副社長は一時、何かの病気で入院していた。

 最後は現社長の考えである。広報を通じて社長と面談した。インタビューの終わりに「ところで次席副社長のお体は大丈夫でしょうか?」と尋ねた。答えは「ああ彼は元気ですよ」だった。聞いていて体がカッと熱くなった。同席していた広報マンは後日「顔が変わりましたね。こっちも驚いた」と語ったほど衝撃の一言だった。

 翌朝の1面に「次期社長固まる」の記事を掲載した。その会社は直ちに「何も決まっていない」と否定する談話を発表した。昼近くになって広報室長から電話が入り呼び出された。

 険しい顔をした室長は「ただ今から会長と社長の言葉を伝えます。大澤という記者の独断と偏見に満ちた記事で大変迷惑している。今後はトップへのインタビューは受けない。当分の間、当社への出入りも禁止する」―。

 話はここからである。厳しい口調だった室長は言い終わってから静かに語った。「こういうケースは4年前にもありました。まあ暫くすればはっきりしますから…」。目元が笑っているのである。

 広報室長も広報マンも新聞記者と新聞の特徴を良くわかっていた。社是に「国家と共に」を掲げるほどの伝統があり、一介の記事に動じないたくましさがあった。1か月後の社長交代の記者会見では何事もなかったように営業畑出身の副社長昇格を発表したのだった。

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