山田 功  年が明けてまだ2カ月しか経っていないが、予想だにしない事件が相次いで発生した。一つは1月6日のトランプ支持者らによる米連邦議会議事堂の襲撃・占拠事件。5人の死者が出た。それ以上に驚いたのがミャンマーで2月1日に起きた軍事クーデターである。政権トップのアウン・サン・スーチー国家顧問らを拘束し、国軍が全権を掌握した。2013年春に取材でヤンゴンを訪れたが、民政移管後2年経った時で街は活気に満ちていた。市民らの軍政反対抗議に対する国軍の弾圧が過激化することを心配している。

 首都ネピドーや最大都市ヤンゴン、第2都市のマンダレーでの抗議デモ参加者の数は増えている。市内を警護する国軍やデモ排除の警官隊も放水やゴム弾発射から威嚇発射など対応を厳しくしている。ネピドーでは女性がデモ参加中に重体となった。ロイター通信は、彼女を手当した医師の「X線検査で頭部内に実弾がある」との地元報道を伝えていたが19日死亡した。

 国軍の軍事クーデターの狙いは何か。昨年11月に総選挙が行われて、民主化推進のスーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)が大勝した。軍政を取り戻したい国軍のミン・アウン・フライン総司令官は、国民のNLDに対する支持の高さに危機感を募らせると同時に、「総選挙に不正があり無効である。改めて公正な選挙を行う」としてクーデターを実行した。1年間の非常事態宣言中にNLD組織の関係者を拘束し弱体化させ、国軍系USDP の議席を増やす政策を展開していく、と欧米メディアは見ている。

 このクーデターには東南アジアで覇権を拡大する中国共産党独裁政権の国軍支援が見えてくる。中国はミャンマーの軍事クーデターを一言も非難していない。習近平国家主席は1月25日に世界経済フーラムの「ダボス・アジェンダ」でオンライン講演。「他者を脅かし制裁することは世界の分断と対立を招く」と述べ、トランプ前政権の対中政策を引き継いだバイデン米政権を牽制した。この後にミャンマーで軍事クーデターが起きた。中国は国軍のクーデターを予知していたのではなかろうか。

 バイデン政権はミャンマー国軍系企業の米国内にある資産凍結などの制裁を打ち出した。日本の対応はどうなのか。軍事クーデターを非難したものの、制裁は何一つ行っていない。NLD、国軍ともに協力関係を築いているため動けないという。万が一にも国軍と抗議デモ参加者らが武力行使に発展し最悪の状態に陥った時、現地の日本人の身の安全をどのように守るのだろうか。

 ヤンゴン訪問当時の日本企業の進出数は約80社だった。今は進出企業約400社、現地日本人は3500人に達している。最悪状態に備えて菅政権は日本人を安全な場所に避難させるための輸送手段を用意しているのだろうか。現地で携帯電話、ネットワークは自由に使えないようだ。情報伝達手段をどうするのか。首相官邸に設けられた危機管理センターを通じて情報収集に努めることは無論のこと、関係各国との連携を密にして日本人の安全確保に万全を期して欲しい。


pr-konwakai02
経済記者OBの目を配信する
「広報ソリューション懇話会」
ホームページはこちらから≫