座談会
意見交換するシニア記者:日本記者クラブで

 今回から、毎月1回、月初めの月曜日に「注目会見を斬る」を公開します。直近1ヵ月ほどの間に行われた記者会見の中から、一つまたは二つをピックアップし、ベテランの記者、PR関係者、危機管理専門家らが論評します。会見のどこがまずかったか、何が問題だったかなど、広報・ビジネスパーソンの参考となるポイントを指摘します。1回目はビッグモーター新旧社長会見(7月25日)と日大・林理事長らの日大アメフト部員薬物疑惑・謝罪会見(8月8日)を取り上げます。


【ビッグモーター会見】
●キーパーソン=副社長が雲隠れ
A 一般にこのような会見に当事者はどのようなプロセスで臨むのか。

B 危機管理専門会社やPR会社が入って、想定問答などを入念に準備する。その際、たいてい、基本方針の策定というか、会見の目標設定のようなものを最初に行う。今回は、キーパーソンである副社長つまり社長の息子が出て来なかったのが最大の注目点。社長に「知らなかった」を連発させ、キーパーソンの副社長は雲隠れ。それによって、責任者やトップへの追及をあいまいにさせて逃げ切りを図るのが基本方針だったのかも。結果的にはそのことが、更なる情報拡散につながってしまったが。

A なぜ、副社長が出てこなかったのか。

C 副社長はMBAを持ち頭脳明晰のようだが、明らかになったLINEの書き込み(死刑死刑死刑…など)やパワハラ行為から、エキセントリックな気質がうかがえる。会見に耐えられないと兼重社長らが判断したと考えるのが妥当だろう。いわば画竜点睛を欠く会見となったわけだが、副社長が特異なキャラクターの持ち主だとすると、欠席させるしかなかったのでは。

D そこがポイント。副社長が血祭りにあげられたら一大事。副社長隠しが至上命題だったのでは。いずれにしろ、そういう人物を副社長に登用した兼重社長の責任は重大だ。

●「ゴルフ愛好者に対する冒涜」はダメ発言
E 会見のシナリオづくりに際して、故意に車を傷つけ過大請求したという不正行為の謝罪会見を社長交代会見にすり替えたようとの意図もあったのでは。

B 確かにそうで、不正問題が隠れた感がある。辞任を前面に出したことで、メディアの追及が弱くなった。国交省による同社のヒアリングは7月26日。なぜ、その前日の25日に記者会見を設定したのか。記者たちはその点を含めて、もっと厳しく追及すべきだった。

C 保険金不正を兼重社長は本当に知らなかったのか。知らぬ存ぜぬで終始押し通したが…。

E 社長が事件を知らなかった、現場が勝手にやったというのはおかしい。トップが知らなかったら、それこそガバナンスがない証拠。現場が勝手にやったら、それもガバナンス欠如。社長失格が鮮明だった。

D 兼重社長の発言で一番、印象深かったのは、ゴルフボールを使って車を傷つける行為を評した「ゴルフを愛する人に対する冒涜」。各メディアも大きく取り上げていた。どんなにゴルフ好きでも通常、思い浮かばない発想。出刃包丁で人を刺した事件で「料理を愛する人に対する冒涜だ」といったフレーズがまず出てこないのと同じ。ユニークな思考回路と感性の持ち主だなと思った。

A あの発言はいただけない。記者会見で言うべきことではなかった。


【日大会見】
●過去の経験、生かされず
A 悪質タックル、脱税で現役理事長逮捕と不祥事が続き謝罪会見には慣れているはずなのに、あやふやな会見に終始して、経験があまり生かされなかった感がある。

B 注目の林理事長は就任後1年とちょっとだけに、まだ強力なガバナンスを発揮するのは無理だとしても、トップとしての自覚が足りないと言わざるを得ない。

C 逮捕されたアメフト部員一人だけを悪者にして、逃げ切ろうとの魂胆がミエミエ。しかし、会見後の続報で、複数の部員が関与したことが明らかになって、「あの会見は何だったんだ」となってしまった。

D 理事長、学長、副学長とトップを日大出身者だけで固めている「クローズド日大」の経営体制が問題。日大に関係のない外部の人材を幹部に登用することが、日大改革の必要条件と思える。

E 半世紀前の日大闘争は当時の古田重二良会頭の使途不明金追及が始まり。古田氏は柔道部、脱税逮捕の田中英寿元理事長は相撲部の出身で、歴代トップの多くを運動部が占めてきた。あまり頭を使わないと思える人間がトップでは大学は良くならない。そういう意味では、林理事長への期待大ではあるが。

●“本丸”後回しは通用しない
C 林理事長が「スポーツ分野はよく分からず口を挟みにくかった。後回しにしていた」と釈明したのは、残念な言い訳。悪質タックルも理事長逮捕もアメフト部、相撲部といった運動部が大きな力を持っていたことに起因する。だとすると、“本丸”のスポーツ分野に真っ先にメスを入れるのが本筋のはず。

A 会見の司会進行がイマイチだった。5年前のアメフトタックル問題の会見で、通信社OBの司会者が傲慢な態度でひんしゅくを買ったのと比べると、随分と良くはなったが、謝罪会見の意味を理解していないように思えた。

B そうかな、私は2時間超の会見をそつなく進行したと好印象を持った。


【直球・変化球】
●組織防衛を狙うも、結果は?
A ビッグモーター、日大は今回の会見で何を得ようとしたのか。

B どちらも一番の目的はやはり組織防衛だと思える。会見で追及されてもこの場を乗り切ればなんとかなるの思いが共通して感じられた。ビッグの場合は、不正問題謝罪を社長交代会見にすり替えたが、前社長の「知らぬ存ぜず」の責任逃れ発言が、メディアの同社に対する不信を増長させ、不正追及へのモメンタムをさらに強めてしまった。

D 両者とも、それなりに準備をしてポイントを押さえた会見だったとの印象もある。とくに兼重社長の発言の端々からは一代で社員6,000人の企業を築き上げた才覚が感じられた。

E 共に2時間超の長丁場の会見で、質問がほぼ出尽くすまで質疑応答を行った。その点は、評価できる。また、冒頭の兼重社長、林理事長の謝罪挨拶も、良く練られたそつのない文言で合格点をあげられる。

●社会性の認識不足が浮き彫りに
C 謝罪会見は企業も大学も社会の一員であり、社会の理解、協力を得なければ存続できないことをしっかりと認識する場でもある。ビッグモーター、日大がどこまでそうした社会性を認識していたかには?が付く。大事なのは会見後、何をするかだが、その後の報道を見る限りでは、まだまだ反省が足りないのではと思わざるを得ない。

A 民間車検場の指定取り消しなどの行政処分を受け、客離れが加速しているビッグモーターに経営が立ち行かなくなる恐れはないのか。

D 上場企業ではないので 財務状況 は 分かりにくいが、厳しくなっているのは間違いない。新しいスポンサーが必要になるかもしれない。ビッグモーターと社名がよく似た某家電量販店が触手を伸ばしているといった珍情報を耳にした。まぁ、ガセネタだろうけど、あの業界は車を取り扱うなど多角化を進めているので、案外、瓢箪から駒の可能性も…。


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