記者会見するジャニーズ事務所=ヤフーTHE PAGEから
記者会見するジャニーズ事務所=ヤフーTHE PAGEから

 『注目会見を斬る』は、直近1か月ほどの間に開かれた記者会見の中から一つまたは二つを取り上げ、ベテラン記者、企業広報関係者、危機管理専門家が論評します。会見の評価やまずかった点、どうすれば良かったのかなど、広報およびビジネスパーソンの参考となるよう、わかりやすくボイントを指摘します。

 今月は、ジャニーズ事務所創業者・故ジャニー喜多川氏の性加害問題について、姪の藤島ジュリー景子氏と新社長に就任した東山紀之氏らが出席した初の記者会見(9月7日)と、中古車販売大手・ビックモーターの保険金不正請求問題で、不正を黙認し責任を問われている損保ジャパンの白川儀一社長らが出席した記者会見(9月8日)を取り上げます。


【ジャニーズ事務所】
●今回もキーマン不在の記者会見
A 4時間あまりの長い記者会見は、社名変更に含みを持たせたが、具体策にかけるものだった。藤島ジュリー景子氏が株式100%持ったままで何が変わるのか、タレントの東山紀之氏が9月5日に社長に就任したと説明したが、被害者の救済方法はこれからなどと、中身が薄かった。社会に向けて記者会見する意味を理解していなかった。

C 今回も、キーマン・白波瀬傑副社長が出席しなかった。会見前に辞任したと言うのが理由だが、これは組織防衛を図るための典型的な対応で、7月のビッグモーター、8月の日大の記者会見の時と同じだ。東山新社長の就任記者会見とすることで、過去の悪行を隠蔽したかつたのだろう。

E そのとおりだ。もっといえば、8月29日に「再発防止特別チーム」が公表した再発防止提言のうち、性加害の事実認定とジュリー景子社長の辞任は実行されたが、被害者への謝罪と対話、適正な補償などは方向を語るだけ。特別チームの提言は最初から眼中に無かったのではないか。現状維持で中央突破をめざすーということだったのだろう。

B たしかに会見内容に不満はあるが、ある程度中身はあったと思う。ただ、質問者の声がマイクに入らないなど、司会が会見をしっかりコントロールできなかったのはダメだ。

D メディアが使う性加害という表現に違和感がある。実態は少年に対する強姦、虐待事件ではないか。一人の小児偏愛者が半世紀もおよぶ性虐待を行っていたという悪行なのだから、性加害というあやふやな言葉では被害の実態が分かりにくくなる。

C 問題はほかにもある。ジャニーズJr.たちの深夜出演は労働基準法違反に当たる可能性があるし、事務所側が出演拒否を示唆してテレビ局などに圧力をかけていたら、優越的地位の乱用で独占禁止法違反の恐れもある。ジャニーズ問題は、人権とビジネスのあり方を考えさせる重い問題だ。

E 登壇者の役割はジュリー景子氏が涙声でジャニーズタレントに罪はないと訴え、東山社長が「人類史上最も愚かな事件」と非難し、井ノ原快彦氏がわかり易い言葉で心情を吐露してジャニーズファンの同情心を煽った、というところではないか。その効果は「タレントに罪はない。ジャニーズ・バッシングはやり過ぎだ」との声が上がるほどだ。

E ジャニーズファンは旧統一教会の信者と似ている点がある。全員がマインドコントロールされているように見える。出演番組や映画、舞台などに駆けつける。我々がジャニーズを支えているんだという強い意識がある。一種の献金のようなものだ。

D それが女性の未婚率の高さに繋がっているのではないか。ジャニーズタレントに憧れて、普通の地味な男性とは付き合わない。逆に、男性ジャニーズタレントは、40歳を超えても少年をやっている。日本人は未熟なものが好きなのだろう。

●事務所は解散、被害者救済を急げ
A 被害者救済が進むか心配だ。実際にどのくらいの補償が行われるのだろうか。

E 民事裁判では性被害者への賠償額は1人平均300万円という。被害者が100人単位なら総額は数億円、仮に1000人としたら30億円となる。だがジャニーズ事務所の総資産は3000億円と言われているから、それほど大きな負担にはならない。

B 日本のエンターティンメント産業は、このままでいいのだろうか。

E ジャニーズタレントだけでなく、日本の芸能界のレベルの低さはどうしようもない。韓国のKーPOPの踊り、歌、演技のうまさは世界的だ。韓国は金融危機以来、芸術系大学に芸能科や演出科などを新設し、国を上げてエンタメ産業のレベルアップを図った。それが「冬のソナタ」を産んだ。日本の芸能界のガラパゴス化は深刻だ。

C 被害者救済の基金にはテレビ局、広告代理店、イベント会社、映画会社、音楽サービス会社などが出資すべきだ。この際、ジャニーズ事務所は解散して、別のタレント会社になったほうがいい。新しい事務所には、できれば韓国や台湾などから人材を招き、世界に通用するタレントや音楽などを育成して行ってもらいたい。

【損害保険ジャパン】
●受け答えはしっかりしていたが‥
A 大注目のジャニーズ事務所の会見と比べると、注目度は低かったが、こちらも決して見逃すことができない重要会見だった。

B  テレビ各局が生中継したジャニーズ事務所会見の翌日に、損害保険ジャパンの記者会見が設定され、テレビの生中継は一つもなし。ジャニーズの影に隠れ、バッシングを最小限に食い止めようと企てた策士がいたのかもしれない。

D 食い止めるといえば、責任者を白川社長にとどめ、責任追及がドンにまで及ばないようにしようといったシナリオも感じ取れたが‥。

C それはどうかな。記者会見ではドンこと桜田謙悟SONPOホールディングス会長への質問が白川社長に負けず劣らずたくさん投げかけられたが、そのやり取りからはトップの座に固執している感じはあまりしなかった。むしろ的確な受け答えに、さすが経済同友会代表幹事を務めただけのことはあると、感心させられた。

A 質問が集中したのは、損保ジャパンがビッグモーター(BM)への事故車紹介の再開を決めた昨年7月6日の会議の件。白川社長のひと言が会議の流れを決定したのでは、と問い詰められたが、『調査中のため詳細はお話できない』と逃げまくっていた。

C どんな不祥事会見でも、ほぼ出てくる常套句だね。記者側は、逃げ切りを許さない二の矢、三の矢を用意してほしい。企業サイドは常套句の多用がイメージダウンにつながることを認識し、極力隠さず明らかにすることを基本スタンスとしてもらいたいものだ。

D 全体の印象としては、ケチをつけるところがあまり見当たらないような上々の不祥事会見だったように思えた。司会進行の仕切りも悪くなかった。

A そうかな。ちょつと甘すぎるのでは。さっき言ったように詳細な説明を避ける場面が多々あって、好感度は決して高くはならないよ。

B ところで、損保業界はBM事件のほか、企業向け保険で事前に価格調整していた疑いで金融庁と公正取引委員会から調査を受けている。今年は厄年のようだ。そのあたりは以下の項で‥。

【直球・変化球】
●メディアの責任、徹底的な検証が必要
A ジャニーズ事務所も、損保ジャパンも記者会見した後のほうが、社会からの批判が強まっている。なぜだろう。

B 記者会見を一度がまんしてやっておけば、後は時間が経つにつれ批判は収まってくるーと甘く見ていたからではないか。ジャニーズではその後追加対策を公表し、10月2日に社名変更などの記者会見をするという。損保ジャパンも消化不良だった。世間の理解と納得を得ようとするなら、しっかり準備して情報を最大限公開することだ。

E ジャニーズ問題では、メディアの責任が問われている。特にジャニーズタレントをたくさん起用してきたテレビ局の責任は大きい。NHKは「クローズアップ現代」でこれまでの報道姿勢を自己批判したが、紅白歌合戦などを担当した肝心のディレクターが登場しないなど、不十分な内容だった。もちろん民放各社は、自発的な徹底検証が必要だ。

C 企業広告などでのジャニーズ離れが始まったね。帝国データバンクの調べでは、今年ジャニーズタレントを起用するとした企業(予定を含む)は65社あつたが、今月20日現在で32社、全体の49%が起用しないことを決めたという。これはジャニーズ離れの始まりなのかもしれないな。

●保険業界と霞ヶ関との深い関係
D 損保ジャパンの不正疑惑は、旧安田火災海上保険時代から始まっていたとの声がある。同社がBMと取引を始めたのは1988年で、2004年からはBMへ社員を出向させている。一時は40人ほど出向させ、2022年度にBMが支払った保険料のうち、約6割が損保ジャパン向けだったという。要するに双方がウインウインの関係だった。

A 旧安田火災は損保業界万年2位で、旧東京海上火災保険にコンプレックスを持っていた。東京海上が紳士なら、安田火災は野武士。事業拡大には貪欲で、そのDNAが現在まで続いている。白川社長が「取引が大きく減る可能性があると危惧した」と語ったのは、まさに大口取引先がライバル企業に奪われると不安になっていたからだ。

A 損保ではカルテル問題も次々と出てきている。これは一体、何なんだ。

B もともと談合体質が色濃い業界。ある意味、半ば黙認されてきたカルテル状態にメスが入ったということだろう。その背景には、霞ヶ関の構造変化がある、との面白い説がある。旧大蔵省時代には公正取引委員会との間で「損保はやらない(カルテルを摘発しない)」との不文律があった。しかし、大蔵省が財務省と金融庁に分割され20年以上経った今、天下り問題や何やらで、金融庁の損保離れが強まり、不文律を守ろうとのモチベーションがなくなったのが大きいといった説。元大蔵官僚T氏の見方だが、なるほどと思わせる。

C 生保を含めて保険業界と霞ヶ関の間には、「民間企業と監督する官庁」の関係性を超えた「持ちつ持たれつ」の馴れ合い関係が昔から指摘されている。6、7年前、週刊現代が「官僚の天下りが最も多いのは保険業界。保険業界にとっては、多くの省庁から迎え入れることで、行政のさじ加減が分かり何かと役立つ。天下り人材がパイプ役となり各省庁職員の保険獲得につなげられるメリットも大きい」と書いている。ネットで記事をすぐに検索できるよ。

D 大蔵省再編や週刊誌に書かれたことで、「持ちつ持たれつ」が変化し、少しは健全化してきたということか。

A 監督官庁と民間企業の間には、いつの時代も、どの国でも、さまざまな問題、課題がある。大切なのは「あるべき論」を確立し、その時代、その国にふさわしい理想形を追求することでは。


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