
宝塚歌劇団 記者会見の様子(日テレニュースより)
【劇団員急死について宝塚歌劇団の会見】
宝塚歌劇団・宙(そら)組所属の劇団員(25)が9月30日朝、宝塚市内の自宅マンション敷地内で死亡していたところを発見された。兵庫県警は自殺の可能性が高いとみている。団員は入団7年目で、若手による新人公演のまとめ役を担い、下級生の指導や稽古、打ち合わせなど重圧がかかっていた。歌劇団は外部弁護士らによる調査チームの報告書がまとまったことを受け、11月14日宝塚市内で記者会見した。
●調査チームの弁護士なぜ不在
A 会見に出席したのは木場健之理事長(12月1日付で辞任)ら歌劇団の3人。ところが司会者は阪急電鉄の広報部長。劇団にも広報責任者がいるはず。親会社が仕切るのでは記者会見の主体が曖昧になり、当事者意識が薄いと感じた。
B 劇団は阪急電鉄の一事業部門で、阪急電鉄は阪急阪神ホールディングス(HD )の傘下にある。親会社の責任で会見を仕切ったのだろうが、むしろ電鉄なりHDが前面に出て謝罪すれば、世間の受け止め方は違っていたのではないか。
D ただ、理事長は冒頭、死亡した劇団員と遺族らに丁寧に謝罪していた。ニュアンスとしては謝罪会見だったと思う。
C 調査チームの報告書では、団員の急死は過大な長時間労働が原因で、劇団側の健康管理に落ち度があったとしている。理事長はその報告書を追認しただけ。パワーハラスメントについては「全体として無かった」と語った。
E 調査チームの弁護士が一人も出席していないことが問題だ。実は弁護士の一人は、阪急阪神HDの関連会社の役員で、本当に独立した調査だったのか疑問符がついている。最悪の記者会見だったと、ネットでは批判の声が多い。
A 全体として準備不足だった感は否めない。発言者も、自分の言っていることがどんな影響をもたらすのか、重さをわかっていない点が目立った。
●劇団員はなぜ死んだのか
B 理事長は、公演スケジュールが過密で稽古も複雑・高度化していること、長時間労働で睡眠時間が十分取れず、精神的余裕がなくなったことが大きな要因と語った。だが、本当にそれだけなのか。
C 報告書は、劇団員の死亡1か月前の長時間労働について、「精神障害を引き起こしても不思議でない程度の心理的負荷があった可能性は否定できない」とした。だが超過勤務は118時間で、遺族側の277時間とは大きな差がある。
A 上級生から「うそつき野郎」などの暴言やパワーハラスメント(パワハラ)について、理事長は「伝聞であり確認できない」と逃げていた。過労死ラインを超える過重労働と先輩からのパワハラが、死因だったのではないか。
E いや、本質はパワハラだ。過重労働が原因とするのは問題のすり替えだ。前途ある女優の死の重大さを、劇団と親会社はもっと深刻に受け止めるべきだ。
D ほかにもヘアアイロンによるやけど事件もある。先輩が絡んでいるとされるが、本当に故意ではなかったのか。報告書や会見では「ヘアアイロンによるやけどは、よくあること」としたが、どうもスッキリしない。
B やけどについて、宙組66人全員に聞き取りしたというが、当事者とされる4人が拒否し、その理由も明らかになっていない。
E もっと言えば、暴言やいじめなどは伝聞情報で確認できなかったとする理事長発言にも、疑問符がついた。もう一度、しっかりと再調査すべきだ。
C 再調査について、別の弁護士らによる第三者委員会が年内に発足すると言うがはっきりしない。また歌劇団は花、月、雪、星組と専科の約400人、宝塚音楽学校生徒約80人らのヒアリングを進めているが、本音を語るだろうか。
●伝統という美名の下での不祥事
A 華やかな舞台と踊り、歌などで熱狂的なファンも多い宝塚歌劇団。109年の歴史を誇る歌劇団で、なぜこんな事件が起きたのだろうか。
D 伝統芸能である歌舞伎や国技の相撲などと、共通する部分がある。つまり厳しい上下関係と先輩への絶対的服従、昔からのやり方の踏襲だ。それが伝統を守ることだと思っている。
E だが、時代も観客も変わった。人権意識も高まっているなど変化が求められているのに、変えられない。その矛盾が吹き出たのではないか。
C ビッグモーターや日大の不祥事とも似ている。今のやり方や組織を変えたくない。閉鎖的・内向きで、コンプライアンス(法令遵守)を徹底し、ガバナンス(企業・組織統治)をきちんと確立するといった意識が薄い。
B やはり古くから続く閉鎖的な体質が元凶だろう。内部だけで考え、問題が起きたら内部で処理する。親に相談することも「外部漏らし」と咎められ、外に話ができない。伝統という美名の下、理不尽な上下関係と絶対的服従。元タカラジェンヌが語っているように「暴力と搾取」では、もはや宝塚は存続できない。
●タカラヅカは変われるか
A 劇団員の死が刑事事件に発展するか注目している。内部からの証言や映像などが明らかになれば、事態が急展開する可能性がある。
D いや、旧ジャニーズ事件と同様、当事者たちは仲間や後輩たちに迷惑をかけたくない、仕事が奪われてしまうという危機意識がある。内部から証言するような人は、出てこないだろう。
B メディアがもっと厳しく追求しなければだめだ。会見では関西の芸能担当記者が多かったようだが、どこか甘さが感じられた。
E 劇団の経済的損失は大きいだろう。宙組の東京公演は12月14日まで中止だ。これは歌劇団の業績だけでなく、阪急電鉄や阪急阪神HDの利益にも大きな打撃となることは間違いない。
C 宙組の公演は再開できるのか。ほかの組の今後の公演は大丈夫なのか。宝塚は変わらなければ、心あるファンは去るだろう。木場氏が記者会見で「危機的状況にあると受け止めている」と語ったことは、あながち間違いではない。
【直球・変化球】
A 今年は旧ジャニーズ事務所(現スマイルアップ)創業者による性加害問題、歌舞伎役者の一家心中事件、そして宝塚劇団員の急死問題と、芸能界が揺れている。これは偶然なのだろうか。
D 日本は伝統芸能から社会、さらに政治・経済まで、21世紀に対応できるのかが問われている。今その過渡期にあって、いろいろと摩擦が起きているのではないか。宝塚は軍隊式慣習をやめて、普通の人間関係を築く。会社側は労働時間管理をきちんとしなければ、音楽学校に来る人がいなくなってしまうだろう。
E 11月22日に西宮労働基準監督署の立ち入り調査が入ったことは、改善の第一歩になるのではないか。
B 一連の不祥事の記者会見で共通しているのは、どこも組織防衛を第一に考えていることだ。不祥事を起こした会社の常識は、その多くが世間の常識と違っている。自らが謙虚に反省し、おかしな点を改善・改革していかなければ、会社や組織、伝統芸能でも存続できないことを改めて認識しなければならない。

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