
巨大地震注意の記者会見(YouTube日テレNEWSより)
【初の「巨大地震注意」で気象庁が会見(8月8日)】
8月8日午後4時40分ごろ、宮崎県南部で発生した震度6弱の地震を受け、気象庁は同日、評価検討会を臨時開催したうえで、同日夜、緊急記者会見を開き「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」を発表した。会見には同検討会の平田直会長と気象庁担当課長が出席し、向こう1週間、特段の注意を払っていただきたいと呼びかけた。
●「普段より数倍」に、どう備える
A 「巨大地震注意」なるものが初めて発表されたけど、各方面で物議を醸しているね。
B そもそも、「今の科学では地震予知は不可能」という大前提、大原則があるなかで、あえて予知のようなものを試みるところに矛盾や限界が否めない。会見では平田会長が、南海トラフ巨大地震が発生する確率は、普段より数倍高くなっていると説明し、警戒を呼びかけた。この「普段より数倍」がキーワードじゃないのかな。
C 確かに。平田会長は「地震学的には数倍高くなったことは極めて高い確率」と話したけど、例えば0.01%が0.03%になったとして、それをどう評価し、どう備えるのが正解か…。この質問に答えられる人はいないと思う。。
D 普段より数倍の根拠が、過去100年余りに世界各国で起きた巨大地震のデータに基づいていて、大昔の地震も含まれるため、データの信憑性に疑問あり、と捉える専門家の見解も各メディアで紹介されている。。
E 巨大地震への備え、対応を自治体や企業任せにしたため、大きなバラツキが生じた点も見逃せない。和歌山・白浜町が遊泳禁止にして観光業に大ダメージを与えた一方で、多くの海水浴場は閉鎖まで踏み込まなかった。どちらが正しかったかは結果論で論じる話ではなく、そもそも自治体任せ、企業任せにするところに無理があるような気がするよね。
●禅問答のような記者会見
B JR各社をはじめとする鉄道会社は、減速や特急運休などを1週間後の巨大地震注意の終了まで続けていた。内陸部を走る特急を運休させた事例もあって、そこまでやる必要があったのか、との見方も出ているよう。
C どこかの新聞に、「巨大地震注意の記者会見を見た、ある鉄道幹部が『禅問答のようだ』とつぶやいた」と載っていたけど、禅問答をどう読み解くか、みんな、苦心惨憺だったことが窺える。
A 会見で気になったのは、平田会長の「南海トラフ巨大地震が30年以内に発生する確率は70%から80%」という発言。この数字は水増しされていると東京新聞の小沢記者が指摘し、国会で取り上げられ、このコラムでも紹介している。にもかかわらず、サラリと70~80%と話したのには驚いた。
E 今回の日向灘マグニチュード7.1の地震が、南海トラフ地震と言えるのかどうかを記者が尋ねたら、平田会長の答えが、何ともあいまいだったのも印象深い。
D 問題点・課題山積の初の「巨大地震注意」であり記者会見であったと言わざるを得ない。どう改善していくかに英知を集めていただきたい。その際、鍵となるのは、どんなメンバーを集めて検討するかで、まず人選に知恵を絞ってほしいよね。

小林製薬の記者会見(YouTubeニコニコニュースより)
【小林製薬の社長交代と紅麹サプリでの会見(8月8日)】
小林製薬は8月8日、同社紅麹サプリメントによる健康被害問題(3月下旬公表)で、新社長に山根聡・専務が同日付で就任するとともに、紅麹事業から撤退すると発表した。紅麹製品によると疑われる死亡者数(調査事例)は100人を超える。山根社長は被害者の救済と補償に全力を尽くし、今後「同質性を排除し、再チャレンジしていきたい」と語った。
●ガバナンス(統治力)ゼロの印象
A 前回の記者会見から5か月近く経っての会見という対応の遅さ。7月23日に事実検証委員会(第三者委員会)の報告が出たときも、会見しなかった。閉鎖的で判断が遅く、誰が方針を決めているのかわからない、ガバナンス・ゼロの会社と言われても仕方がない。
B その通り。被害の発生と拡大の原因について、山根社長は「現場の従業員の意識と設備について、安全と品質をもう一段上げなければ入れなかった」とし、さらに「もう一つは同質性にあった」と語った。要は、現場と経営が乖離していてバラバラだったんだ。
C 誰が経営の核心なのか。わかったことは小林一雅前会長(現特別顧問)の存在の大きさだ。紅麹問題のキーマンだが、今度も出席しなかった。特別顧問には月200万円の顧問料が支払われるというが、説明責任も果たさないでいいのか、と世間は疑問に思うだろう。
E 小林前会長の欠席について、前回3月は「経営執行サイドの話だから、小林彰浩社長が出席した」、今回は「すでに役員を辞任しているので」と説明していた。それこそ、忖度した結果ではないか。
D 山根社長の横に座っていた章浩前社長は、取締役・補償担当として残る。そして被害者への補償が終わった後も「会社の求めに応じて働きたい」とも語っていた。経営トップが問題の重大性を本当に理解しているのか、と疑問を感じさせた。本来なら総退陣だよ。
●同質性の改革は無理?
B 会見では何度も、同族会社で変われるのかと質問が出た。山根社長は「創業家は大株主で会社のパートナーだが忖度はしない」、「是々非々でやる」と強調した。だが本人が「入社以来30年近く創業家に近いところで働いてきた」と述べているから、語るに落ちる。
C 同質性は変わらないと思うよ。山根社長は小林前会長について「我々にない視点やアドバイスがある」と高く評価している。顧問料は世間常識から外れているが、その金額もポストも小林前会長が提案し、山根社長が取締役会に諮って正式決定したものだ。
D 豪華なメンバーがそろった社外取締役の存在も大きく問われているね。山根社長は「問題発生後、我々をいろいろとけん引してくれた。機能していた」とかばっていたが、実態はどうなのかな。
E 現場との乖離の解消も大きな壁だね。検証委員会の報告では、被害を出した大阪工場では「青カビはある程度混じることがある」と語った従業員がいたが、そのことを知っても人手不足を理由に対策を取らなかったという。果たして現場は変われるのだろうか。
A 問われたのは、被害公表と回収を遅らせたのは利益優先の経営があったのではないか、という点だ。小林前社長は「安全を軽視して売り上げ重視したことはない」と釈明したが、ではなぜ製品回収の判断が遅れたのかについては「原因究明に時間がかかった」と語るだけ。儲け優先を打ち消す説明にはならなかった。
B その原因究明も遅れているね。厚労省は検出したペプルル酸が腎臓障害を引き起こした主因とみているが、最終結果は秋以降になる見込みだ。一部ではコロナ・ワクチンとの関係を指摘する声もある。政府には公的研究機関の総力を挙げて徹底解明してもらいたい。
【直球・変化球】
●ブラック・スワンの確率は計算できない
A 巨大地震注意と1週間後の終了を巡って、さまざまな意見が出ているけど、手厳しい見方が少なくない。
E その一つが作家で国会議員の猪瀬直樹氏が月刊 Hanada10月号に寄稿した「南海トラフ地震の虚構」。科学的根拠が乏しいのに南海トラフ地震だけ特別扱いするのは、他地域の地震警戒をおろそかにするなど弊害が多いとの主張で、読み応えたっぷりだった。
C 100年に一度起こるかどうかの南海トラフ巨大地震は①まずあり得ない②予測できない③非常に強い衝撃を与える-という、いわゆるブラック・スワン(黒い白鳥)の典型。そうした事象の確率は計算できないので、確率よりも及ぼす影響の方に焦点を当てるべきだと、ブラック・スワンの提唱者、ナシーム・タレブは書いている。
B なるほど。となると、巨大地震注意を出すべきか否かといった根源的な問題にまで遡る必要があるかも知れないね。
D 今回の会見は地震学者と気象庁担当課長の二人が対応したけど、首相や担当大臣も出席すべきだったとの声が各方面から上がっている。甚大な影響を及ぼす政治マターと言えるので、確かに政治家が前面に出るべき話だよ。
●3原則は「逃げない、隠さない、嘘をつかない」
C 小林製薬の方は、会見後半になって、女性記者から「何度も電話で問い合わせたが、折り返しはなかった」「電話では取材は受けないなど言われた」と、同社の広報を批判する意見が出た。山根社長たちはちょっと慌てていた。
B そうだね。いかに会社が厳しい立場に立たされていても、広報は冷静に対応しなければいけない。山根社長は「申し訳ない。今後は考えを改めて正しくお伝えしたい」と謝っていた。経営陣に何も言えない、社内での広報の位置づけが弱かったためだろう。
E 昔から「逃げない、隠さない、嘘をつかない」という広報3原則が指摘されているが、いざというときに委縮しがちだ。だから平常時から「誰のための広報か」をきちんと考えておかなければいけない。社内野党の立場で、会社と社会の両方を見ておく必要がある。
A 小林製薬自身が、気が付かないうちに官僚的体質になっていた。同族会社で同質性が高く、ネーミングのうまさから製品の人気も高い。その強さに胡坐をかいていた。だが同質性は、不祥事など起こると弱みになる。世間は多様化していることを知るべきだね。

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