
石破新首相が記者会見(YouTubeニコニコニュースより)
【石破茂首相の就任記者会見】
自由民主党の石破茂総裁は10月1日召集の臨時国会で第102代内閣総理大臣に選出され、組閣後同日夜に初の記者会見を開いた。冒頭、石破首相は「国民の納得と共感を得る内閣」を目指すとし、基本方針として「ルール」「日本」「国民」「地方」「若者・女性」の5つを「守る」と表明した。メディアからは「9日衆院解散、27日投開票」という当初の発言を覆す超早期解散になった理由や、いわゆる裏金議員の公認問題、日米地位協定の改定への取り組みなど、政権の姿勢を問う質問が相次いだ。
●豹変と、言葉の軽さに驚く
A 就任直後の会見は、まずまずだったのではないか。語りは丁寧で、語尾もはっきりしていた。ルールを守るなど、5つの基本方針はわかりやすかった。時間の制約もあるからどうしても総花的になるものだが、無難に乗り切っていて合格点は付けられる。
B ただ、首相の豹変ぶりには驚いたよ。解散総選挙について総裁選では「野党と十分に議論してから」と語っていたのに、首相になったとたん最短の日程になった。野党は「裏金事件隠し」と怒るし、国民の多くも「十分な判断材料がない」と嘆いている。
D もっと厳しく言うと、石破首相は日本国という重責を担った政治家というより、テレビで気ままにしゃべるコメンテーター顔負けの饒舌家だ。言葉が軽く、聞けば聞くほどフラストレーションがたまった。解散総選挙の「手のひら返し」は、さもありなんだ。
E 会見では疲れていた様子が見えた。党内基盤が弱いから党役員と閣僚人事で苦労したはずだ。高市早苗氏を幹事長に起用しなかったことは今後の火種。野党からは「言行不一致内閣」と糾弾され、党内情勢も右派と左派とに分裂しかねない。先が見えない政権だね。
F ちょっと言いにくいが、首相の目つきがよくない。顔は変えられないが、目の表情は柔らかくできる。もっとメディア・トレーニングを積んでもらいたいと感じたよ。
C 司会進行のもたつきが気になった。幹事社質問までは予定通りだったが、随時質問になると誰を指名したらいいのか戸惑っていた。そのせいか静岡新聞がリニア新幹線、京都新聞が地方創生を取り上げるなど、焦点がバラバラ。政権追及は腰砕けになった。
A 記者が就任祝いを述べてから質問するなど、メディア側に政権と対峙する姿勢が感じられなかったのは残念だ。以前にも指摘したが、不祥事会見でも「ありがとうございます」などと前置きする。昭和世代の記者からは想像もつかない振る舞いだ。
●大胆な政策変更は打ち出しにくい
B 石破政権の政策を見てみよう。日米地位協定の改定への意欲と能登半島地震や水害への復旧支援などはわかりやすかったが、経済政策は迫力を欠いていたね。
C 得意じゃない分野だから、想定問答集を見ながら語っていた。株価のコメントは差し控える、金融政策は日銀に任せる、岸田政権の貯蓄から投資への流れを加速させるなど、そう言うしかなかったとはいえ、読み上げるだけでは国民の納得と共感は得られない。
E 総裁選出後の先月30日の株価は一時2000円以上も下げ、“ご祝儀相場”はなかった。イスラエルのレバノン侵攻など、世界の株価・金融市場は不確実・不透明で予測不可能な状態だから、大胆な経済政策は打ち出しづらい。慎重にかじを切るしかないよ。
D 総裁選で掲げていた金融所得課税の強化も、金融界などの反発ですぐにトーンダウンした。富裕層への課税強化は格差是正の観点から正論だが、それを実現するには知恵と工夫が欠かせない。政権として本気になってやる覚悟がなければ、到底実現しない。
F まとめれば、経済は岸田政権の政策の継続だね。最低賃金を2020年代に全国平均1500円を目指すとか、低所得者世帯向けの給付金の検討、そして金融正常化に向けた日銀の取り組みを支持するなど、目新しいものは出なかった。
A 石破首相のリーダーシップ欠如は、過去の政治経歴と党内基盤の弱さに原因があるのだろう。ところで日米地位協定の改定は、具体化するだろうか。
C ウクライナ戦争やアラブ諸国とイスラエルとの全面戦争前夜、中国と北朝鮮の軍事力強化などを考えれば、今話し合うテーマではない。米国自身、大統領選挙を来月に控えている。この問題は総選挙後、石破政権が安定してから初めて話し合いのテーマになろう。
【直球・変化球】
●今回も政権交代は起きない?
A 石破政権は長続きするだろうか。自民党の関心は総選挙で勝てるか、負けてもどの程度かにある。衆議院の定数は465。過半数は233で、自民党単独で過半数なら政権維持。しかし自公で過半数となると、自民党内で“石破おろし”が始まるーと言われている。
C これも予測不可能だね。各種世論調査では就任直後の石破首相の支持率は平均50%前後。歴代首相の就任時と比べて低い方だが、政党支持率では自民党は30%台を維持している。野党は1ケタ台だから、候補者一本化が実現しなければ勝てないだろう。
D その野党共闘だが、全面的な共闘は実現しないと思う。やはり共産党などが独自路線に固執するからだ。候補者一本化ができなければ与党候補が当選する。従って、与党が小さな負けなら政権交代は起きない。自民党は最後のところで底力を発揮するのではないか。
B 親しい政治ジャーナリストによると、裏金議員でも地元で徹底的に謝罪すれば、選挙民は「あそこまで謝っているのだから」と1票を投じる。自民党支持者は世論調査では「けしからん」と答えても、投票の時は名前を書く。米国の“隠れトランプ”と同じなんだ。
E 野党への信頼が、まだ十分に回復していないこともあるね。ただ、自民党も分裂の種を内包しているから、「一寸先は闇」の政界で何が起こるかわからない。今月下旬の総選挙投開票の結果と、その後の政治の流れに大いに注目していきたい。

経済記者 シニアの眼を配信する
「経済記者シニアの会」
ホームページはこちらから≫