JISA会見の様子

千葉 利宏 【アウトライン】
■第一歩はAI人材の育成-請負型から価値創造型ビジネスへの転換も
 情報サービス産業協会(JISA、会長・福永哲弥氏)は4月15日、東京・内神田のJISA会議室で、24年10月31日に公表した「生成AI技術の社会的活用にかかる提言」を具現化するためのアクションプランを発表した。

 提言では、日本社会の成長・革新が国際的にみて大きく遅れているという現状認識のもと、国際競争力のキャッチアップ、さらにゲームチェンジを実現するべく生成AIの社会的活用を産官学が一体となって取り組むことを要望。JISAのアクションプランとして「生成AI活用人材育成」を推進する施策をまとめた。

 さらに生成AIの社会実装が進むことで、情報サービス産業が直面すると想定される3つの事業課題を整理。従来の工数ベースの請負型ビジネスから価値創造型ビジネスへの転換へと事業革新をめざすことを打ち出した。

■人材育成に焦点に4つのアクションプランを策定
 JISAでは、2021年に新しいビジョンステートメントとして「JISA2030 デジタル技術で『人が輝く社会』を創る」を掲げ、それに基づいた事業目標・計画を立てている。今回のアクションプランも、人材育成に焦点を当てて4つの施策に取り組む。

①+(プラス)AIスキリングによる価値創造エンジニアへの転換
 受託型事業に携わってきたIT人材が生成AI活用スキルを獲得する「+AIスキリング」によって、より付加価値の高い領域にIT人材をシフトしていく。

②地域を巻き込んだ実践的共創による人材変革
 JISAが3年前から群馬県で会員のトップエンジニアを集めて3か月間で地域の課題を抽出してソリューションを提案する活動を各地域に展開。地方自治体と地域ベンダーの競争による実践的課題解決コンテストを実施する。

③企業間人材交流による実践的AI人材育成
 生成AIを活用できるIT人材をスキルアップするための実践の場をユーザー企業と連携して提供していく。

④資格認定制度によるAI人材の育成促進
 経済産業省とIPA(独立行政法人情報処理推進機構)が進める国家資格「情報処理資格者試験」の改訂作業に協力。JISAでもデジタル領域の企業対応力について認定制度を新設する。

■「真のビジネスパートナー」に向けて取り組むべき3つの課題
 今回のアクションプランで注目されるのは、近い将来に実現すると見込まれるAGI(汎用人工知能)に、情報サービス産業として「どう対応するべきか」―。その課題認識を明らかにしたことだ。

 生成AIを活用することで、ソフトウェアの開発・運用保守業務の生産性が大幅に向上することが想定される。従来の取引では、工数換算ベースで見積もり・契約が行われてきたが、生成AIの活用によって顧客から大幅に安い見積もり・契約を要求される可能性がある。情報サービス産業として収益を確保するために生成AI活用型事業の取引の共通フレームを確立し、工数ベースから「価値ベース」の契約へと移行できるかが1つ目の課題となる。

 さらに、生成AIを活用することで、ソフトウェアの開発と運用保守が統合された次世代型DevOps(デブオプス)が確立されると想定される。それによって生じた余力を活用することで、価値創造/オファリング領域へとビジネスや人材をシフトできるかどうかが2つ目の課題。

 3つ目の課題は、AGIの登場で顧客企業のAI活用に対するハードルが下がり、製造業をはじめ様々な分野で導入が進展するなかで、情報サービス産業が「真のビジネスパートナー」としての役割を果たせるようにビジネスプロセスを変革できるか。今後はソフトウェアだけでなく、AGIをハードウェアやロボティックスに装備したり、ユーザーの目的に沿ったデータ収集・解析・運用を行うデータサイエンティストの役割を求められたり、多様化する顧客ニーズにJISA会員企業が対応することで、企業のデジタル競争力向上に貢献していく必要性を示した。

【グッド・ポイント】
  • JISA会員が事業革新に取り組むべき課題認識を明確にしたことで、JISA会員が置かれているビジネス環境の課題を理解できた

【要チェック箇所】
  • アクションプランや課題認識ともに一般論的な内容で具体的な事例がなかったので、情報サービス産業の業務に詳しくない記者にはイメージしにくかった。

  • 具体例としてJISAが群馬県で3年前から行っている取り組みを紹介し、自治体からも高い評価を得ているという話題が出たが、どのような課題抽出を行ってソリューションを提供したのかといった中身を詳しく説明してほしかった。

  • 生成AI技術の社会的活用は始まったばかりで、JISAとして紹介できる事例はまだ少ないかもしれないが、コンテストなどを通じて具体的な情報発信を工夫する必要があるだろう。

【参考事例】
  • DX不動産推進協会(代表理事・古木大咲robot home代表取締役CEO)は、会員向けの勉強会を定例開催しており、4月15日の勉強会では、24年7月の東京都知事選挙に立候補して15万票を獲得して5位となったAIエンジニアの安野貴博氏を招いて講演を行った。

     安野氏は、AI技術を選挙活動にどのように活用したのかを具体的な事例をもとに紹介。有権者から広く意見を聞く方法として、自然言語処理の生成AIを活用することで意見を集約化する「ブロード・リスニング」と、自分のエージェントとなる「AIあんの」が選挙期間中24時間対応で有権者に対応することで政策の浸透を図った。

     こうした手法は、企業が顧客からの要望を幅広く聞いて商品やサービスの開発にも応用でき、受講者からも具体的な事例として分かりやすかったという声が出ていた。

  • 2025年1月期決算で連結売上高が4兆円を突破した積水ハウス(社長・仲井嘉浩氏)では、オープンイノベーションを通じて事業創造に取り組む新会社「積水ハウス イノベーション&コミュニケーション(積水ハウス イノコム)」を2024年2月に設立。東京・溜池の赤坂グリーンクロス内にオープンイノベーション施設「InnoCom Square(イノコム・スクエア)」を24年9月に開設した。

     積水ハウス イノコムでは、24年4月にコーポレート・ベンチャー・キャピタル・ファンド(CVCファンド)「積水ハウス投資事業有限責任組合」をAGS コンサルティングと共同設立し、7月にスタートアップ企業3社に、12月には生成AI分野の「Preferred Networks (PFN 社)」に出資。生成 AI 技術を活用して、営業、設計、施工、アフターフォローといった住宅事業での業務効率化をめざす。

     積水ハウスでは、住宅事業に精通してビジネスモデルの変革に取り組む「ビジネストランスレーター」と、生成AI技術の活用に取り組む「AIエキスパート」に分けて、AI人材の育成を図っていくとしている。


pr-konwakai02
経済記者 シニアの眼を配信する
「経済記者シニアの会」
ホームページはこちらから≫