東京建物の呉服橋プロジェクト「八重洲一丁目北地区第一種市街地再開発事業」の工事現場
(2025年5月21日撮影)

千葉 利宏  2025年6月に改正労働安全衛生規則が施行され、職場における熱中症対策が義務化された。暑さ指数(WBGT値)28度以上、気温31度以上の環境下で、連続1時間以上、または1日4時間超が見込まれる作業を行う場合、早期発見のための体制整備、重篤化を防止するための措置の実施手順の作成、関係作業者への周知を行わなければならず、対策を怠った場合には罰則の対象となる。職場における熱中症の死亡者数は、2020年から2024年の直近5年間で、建設業が54人と全体の4割を占め、製造業(19人)、警備業(16人)を大きく上回っている。今年は西日本で6月中に梅雨が明け、厳しい暑さが続くと予想されおり、屋外作業の多い建設業で、いかに安全な働き方を実現できるかが問われている。

■熱中症による死傷者数は2024年に過去最高を記録
 暑さ指数は、熱中症の予防を目的に米国で提唱された指数で、湿度、日射・輻射など周辺の熱環境、気温の3つを取り入れた指標である。一般的な温度計(乾球温度計)ではなく、黒球式熱中症指数計などの専用の機器で計測できるほか、環境省の熱中症予防サイトでも全国各地の暑さ指数の情報が提供されている。



 厚生労働省が5月30日に公表した「2024年職場における熱中症による死傷災害の発生状況」=表=によると、熱中症による死亡者と休業4日以上の業務上疾病者を合わせた死傷者数は、2024年に1257人を記録し、統計を取り始めた2005年以降で最多となった。直近5年間の業種別の死傷者数は建設業が961人、製造業が897人、運輸業が659人となっており、建設業の就業者数が製造業の半数以下であることを考慮すると、建設業では他の業種に比べて高い頻度で死傷者が発生している。

 建設業で熱中症対策の強化が難しいのは、大規模現場よりも中小規模の工事現場だ。冒頭に掲載した大規模な工事現場では、敷地内に仮設の現場事務所を設置して作業員が休憩できる場所を確保しやすい。現場監督が常駐し、作業員数も多いので、作業員の異変に気が付きやすい。しかし、住宅など小規模な現場では、作業員が休憩する場所を確保するのが難しく、現場監督などの目も届きにくいからだ。

■工事現場に小型のエアコン付き休憩ボックスを設置
 賃貸アパートなど小規模現場が多い大東建託が5月27日に開催したプレスセミナーでは、様々な熱中症対策の取り組みが紹介された。同社では、全国の建設現場にライブカメラ約730台を設置し、遠隔の事務所に現場のライブ映像を配信して監視を強化。都内を5つのエリアに分け、暑さ指数を計測できる気象計を設置し、建設現場には暑さ指数と連動したLEDライトを設置してアラートを発信できるようにした。

 現場作業員向けの冷却ベストも、通常の空調ファンだけでなく、身体を冷やすペルチェ素子を組み合わせたものを昭和商会と共同開発して約1500人の現場監督全員に貸与。協力会社にも1着2万円代後半で斡旋販売する。このほか現場には製氷機・冷水器・送風機や熱中症対策グッズを常備して備えるなどの対策を講じた。

 三井ホームでは、住宅の構造躯体が完成し、外装・内装工事を始める段階で室内に仮設エアコンを設置する対策を講じている。スポットクーラーや冷風機に比べて作業効率がアップし工期短縮に寄与しているという。積水ハウスでは、小規模現場にも設置可能な「(仮称)ひんやりBOX(エアコン休憩BOX)」を日野興業と共同開発して6月から一部現場で運用を開始した。



(仮称)ひんやりBOX(エアコン休憩BOX)

 建設現場での屋外作業を削減する方策として、躯体構造部分の工業化を一段と進めていくことが必要だろう。ウッドステーションでは、工場で躯体構造をパネル化・ユニット化することで、現場での組み立て作業の短工期化を実現している。工場や作業所での生産工程を増やすことで、屋外作業のネックとなっていたトイレや更衣室、休憩所を確保しやすくなる。人手不足が深刻な建設業界において女性作業員の採用拡大にも寄与するだろう。

■熱中症リスクの高い夏は「長期バカンスを楽しむ」時代は来るか?
 建設会社やハウスメーカーが現時点で取り組んでいる熱中症対策は、熱中症のリスクの高い状況でも屋外作業が継続できるようにする対策が中心である。しかし、重要なのは作業員が必要な休憩をキチンと取れることだろう。

 ある建設会社では、気温が28度を超えた環境下で屋外作業を行う場合には「50分作業したら10分の休憩を取る」という社内ルールを設定した。作業員の具合が悪くなってから重篤化しないための事後対策も必要だが、労働安全管理において事前の予防対策も重要だからだ。ただ、「発注者から、作業員が休憩ばかりして仕事をサボっているとの誤解を受けないように」との注意喚起も行ったようだ。

 確かに1日8時間労働で、50分ごとに10分の休憩を取れば、正味の労働時間は約17%減ることになる。発注者に仕事をサボっていると判断され、その分を時給換算して給与が減らされるのか。熱中症のリスクのあるなかで、10分休憩は必要不可欠な作業時間と判断するのか。発注者側にも、熱中症リスクに十分な配慮が求められる。

 今後、地球温暖化が一段と進み、日本の気温変動がさらに上昇することが懸念されている。すでに技能者不足が深刻化している建設業が、炎天下での屋外作業を行う人材をどのように確保していくのか。この際、建設作業者が1か月程度のバカンスを取れるようにして、熱中症のリスクが高い時期には屋外作業を行わないようにするといった発想も必要なのかもしれない。

 10年前に東洋経済オンラインに掲載した記事「職人軽視の日本人が、建設業をダメにするー夢や誇りを持てなければ若者は集まらない(2015/02/01)」は、スウェーデンの大工の話を紹介した。同国では大工が住宅会社と年俸契約を結んで働いており、週休2日に加えて、5週間の長期休暇が取得できる。長期休暇では家族や仲間と釣りやハンティングをして楽しむという話だった。

 日本でも、2024年11月に二地域居住推進法が施行され、交流人口を増やすことで新しい人の流れを生み出す取り組みが始まった。国交省では、東京一極集中の是正と地方創生を実現するべく、海外の事例研究を行った。その中で、フランスが、パリ市から地方への人口増に成功していることに注目したが、「フランスでは、長期のバカンスが定着しており、それが地方への人口分散にも寄与している」との分析結果だった。

 果たして日本にも、フランスやスウェーデンのように長期のバカンスを楽しめる時代は訪れるだろうか。それが実現するかどうか以前に、炎天下で屋外作業に従事する建設作業員を集められなくなる時代の方が早く来るかもしれないが…。



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