【シニア記者が注目した不祥事・トピックス   7/8~ 参院選の論点に外国人政策が浮上/注目集める「日本人ファースト」】


千葉 利宏  2025年7月20日に行われた参議院選挙では、外国人政策が大きな争点として浮上した。選挙戦の終盤になって政府は急きょ「外国人との秩序ある共生社会推進室」を内閣官房に設置。政府内で移民政策を担当する部署がようやく動き出すことになった。

 日本経済新聞が7月23日に掲載したコラム「検証日本の針路-移民政策の矛盾」で書いていたように「政府はこれまで外国人政策を自治体任せにし、本気で取り組んでこなかった」のは確かだろう。日本の社会制度の多くが外国人をこれまで想定しておらず、その状態が放置されてきた。しかし、ここに来て経済安全保障の観点から不動産の開発や管理に関する制度の見直しが進みだしている。

 25年7月から国土利用計画法に基づいて一定の面積以上の土地を取引する時に提出する届出書に「国籍」を記入することが義務付けられた。5月に区分所有法などと合わせて改正されたマンション管理法では、海外に住む外国人が所有するマンションに「国内管理人」を置く制度が26年4月からスタートする。筆者がこれまで取材してきた「まちづくり」や「災害対応」を中心に外国人政策を考えてみる。

■災害発生時に定住外国人と助け合うには
 筆者は2か月前の5月26日付けでコラム「『外国人土地法』という幽霊法が現れた!―グローバル時代の都市問題を考える」を執筆した。ここ2、3年の住宅価格高騰の要因として、外国人による不動産投資への注目が高まっており、長い間、機能せずに放置されてきた「外国人土地法」を、グローバルで自由な不動産取引を推進する立場の日経新聞が取り上げたからだ。

 上記のコラムでは、外国資本による水源林買収問題に触れたが、筆者が最初に外国人問題に注目するようになったのは、1997年頃からバブル時代の過剰な投資で不良債権化した不動産を外国資本が買収する動きが活発化したことだった。加えて、1995年に発生した阪神・淡路大震災の復旧・復興状況を取材するなかで、被災したマンションの再建や災害に強いまちづくりを地域に住む外国人と共にどう進めていくのかにも課題があると感じた。

 阪神・淡路大震災は、神戸市、西宮市などの大都市を中心に災害関連死を含めて死者6000人以上、負傷者4万人という甚大な被害をもたらした。発災直後に公的な支援が行われるまでに一定の時間を要したことから、地域ごとに住民が助け合って災害対応を行う重要性が改めて認識された。さいたま市緑区に住む筆者が参加する自治会でも、自治会館に防災倉庫を設置し、定期的に防災訓練を実施するようになった。

 しかし、自治会・町内会などの住民組織は、住民の参加が地方自治法などの法律で義務付けられているわけではない。総務省の調査によると、自治会の加入率は減少傾向にあり、2020年で約72%。さいたま市緑区では57%(2024年)と6割を切る状況となっている。自治会内で情報を共有するための「回覧板」も未加入世帯には回していないし、ゴミ集積所へのゴミ出しも認めていない自治会もあると聞く。

■自治基本条例はなぜ自治体に広がったのか
 日常生活では自治会・町内会に未加入でも困らないと感じている人は多いだろう。しかし、いざ災害が発生した時に、自治会・町内会が中心となった災害支援から落ちこぼれる住民が発生する懸念がある。そうした未加入住民を行政が個別に支援するのでは効率が悪いが、自治会・町内会に加入を法的に義務付けることは難しく、自治会・町内会を通じた災害支援には限界があった。

 そうした課題を解決する方策として、地方自治体のなかで「自治基本条例」を制定する動きが始まった。自治基本条例とは、地方自治体が住民自治に基づく行政運営の基本原則や理念を定めたもので、自治体の「憲法」とも呼ばれ、住民、議会、行政が、それぞれの役割と責任を果たし、協力してまちづくりを進めていくためのルールを定めた条例である。

 最初に「まちづくり基本条例」の名称で自治基本条例を施行したのは2001年4月の北海道ニセコ町である。翌02年4月に兵庫県宝塚市、10月に北海道が導入し、2010年までの10年間に211の自治体で自治基本条例を制定した。同条例は、著名な政治学者・丸山眞男氏の門下として知られる松下圭一氏(法政大学教授、2015年没)の思想を反映していると言われ、日経新聞の松下氏の訃報記事には「国や自治体による統治型の政治から市民による自治型への転換を訴え、菅直人元首相が2010年の所信表明演説で自身の政治理念の「原点」と述べた」と書いている。

 ニセコ町の条例では、第10条で「わたしたち町民は、まちづくりの主体であり、まちづくりに参加する権利を有する」と明記。その2項で「わたしたち町民は、それぞれの町民が、国籍、民族、年齢、性別、心身の状況、社会的又は経済的環境等の違いにより、まちづくりに固有の関心、期待等を有していることに配慮し、まちづくりへの参加についてお互いが平等であることを認識しなければならない」と定めている。

■自治基本条例に待ったをかけた自民党
 先の参院選挙など国政選挙や地方選挙では、日本国籍を有していなければ参政権は認められていない。しかし、自治基本条例では、住民であれば外国人にもまちづくりへの平等の権利を認めており、自治基本条例を制定した自治体の中には「住民投票」への参加を外国人に認めているところが出てきた。



自民党政策パンフレット「ちょっと待て自治基本条例」


自治基本条例導入の動きに危機感を持ったのが、2009年の衆院選挙で敗北して野党に転落した自民党だった。政務調査会で「ちょっと待て!!“自治基本条例”~つくるべきかどうか、もう一度考えよう~」=写真=と題した政策パンフレットを2010年に作成。この中で、地方自治体で広く行われるようになった住民投票について「地方自治法に規定がなく、投票資格についても年齢や国籍は、地方自治体の参政権に応じて定められるべき」と問題点を指摘した。

 2012年12月に自民党が政権を奪回すると、自治基本条例制定の動きにブレーキがかかる。筆者が住むさいたま市でも、自治基本条例を制定する動きがあったが、現在はペンディング状態になったままだ。その一方で、自民党政権になった後に、自治基本条例を制定する自治体もあり、NPO法人公共政策研究所のHPによると、2023年までに自治体全体の23%にあたる409団体となっている。

 国が外国人政策に対する基本的な考え方を示さずに自治体任せにすれば、「自治基本条例」で独自の取り組みを行う自治体も出てくるだろう。それぞれ地域社会の実情に合わせて外国人への対応を行うことになり、自治体によって違いが生じることにもなりかねない。国の無作為が混乱を招くことになる。

■外国人の土地取得の実態を把握するには
 外国人政策について筆者は「外国人による土地取得」と「外国人材の受け入れ」を分けて取材してきた。「外国人による土地取得」は経済安全保障の観点から、「外国人材の受け入れ」は人口減少によって建設業などで深刻化する人手不足が背景にある。

 日本では「外国人土地法」が機能してこなかったこともあり、外国人でも日本人と同様に制限なく土地を取得できる。それに対して何らかの規制を加える必要があるのかどうかを判断するにしても、外国人が日本の土地をどれくらい取得しているのか、その実態を把握する必要がある。ところが、外国人の土地取得を調べる以前に、日本には九州に匹敵する面積の所有者不明土地が存在する。

 2009年当時は東京財団の研究員だった平野秀樹氏が外国資本による水源林取得について調査レポートをまとめて問題提起したが、最も苦労したのが土地の所有者を調べることだったという。筆者も平野氏から「なぜ日本では土地の所有者を簡単に調べることができないのか?」と聞かれて答えに窮した。

 平野氏は、国会議員や古巣の農林水産省などに働きかけ、2011年4月の森林法改正で森林の土地の所有者になった個人・法人は、市町村長への事後届け出が義務付けられた。その後、国では目立った動きはなかったが、2020年から経済安全保障政策に力を入れるようになり、2021年に国境離島や防衛関係関係施設周辺などの土地の調査や利用を規制する「重要土地等調査法」が成立し、22年9月に全面施行された。

 国土利用計画法は、土地の投機的取引や地価高騰を抑制するために届出制度を設けており、市街化区域では2000㎡以上、市街化区域以外の都市計画区域では5000㎡以上、都市計画区域外では1万㎡以上の土地取引では2週間以内の届出が義務付けられている。この届出に国籍を記入することが今年7月から義務付けられ、「経済安全保障の観点から土地の所有者を明確にするための措置」(国土交通省幹部)と説明している。

 所有者不明土地問題に対応して不動産登記制度の見直しが行われ、24年4月からは相続登記の申請が義務化された。26年4月からは住所等の変更登記の申請も義務化される。これらの制度変更によって、まずは外国人の土地取得の実態を明らかにしていくことが重要だろう

■理念なき無戦略の外国人材受け入れを改める
 「外国人材の受け入れ」については、2年前にコラム「外国人転職制限を緩和、政府が技能実習は廃止し新制度検討」で取り上げた。この中で筆者は「『移民』という言葉を使わないまま、日本はなし崩しで外国人労働者が増やしていくのか。『移民』問題を正面から考えなければならない時期に来ている」と書いた。

 一般財団法人未来を創る財団(会長・國松孝次氏=元警察庁長官)が、25年3月に「「外国人材の受け入れ」に関する緊急提言~人口減少を阻止し、地域を活性化するための外国人材の受け入れを促進する「基本法」の制定を~」と題する提言を公表した。

 これまでの産業界主導による「理念なき無戦略な」受け入れを改め、「どのような外国人材をどの程度、どのような形で受け入れるのが望ましいか」といった基本理念や基本方針の議論をすぐに始めるべきと訴えた。  同財団が6月11日に日本記者クラブで行った会見では「定住外国人基本法(仮称)」を制定し、地方自治体による「地域戦略」を策定したうえで、国の「基本戦略」をまとめ、自治体が外国人人材の受け入れ計画を実施するという枠組みの考え方を示した。筆者は、同財団に外国人参政権の考え方について質問したが、今後の課題として回答はなかった。今後は定住外国人にどのような権利を認めるのかについても議論を深めていく必要があるだろう。

 国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口では、冒頭に示したグラフが示すように2070年には外国人人口が総人口の1割を超えると推計されている。先の参院選挙で外国人問題が浮上したのを機に、日本の移民政策の議論が本格化することが望まれる。


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