千葉 利宏  住宅を所有するとは、建物の維持管理に責任を持つことである。それを自覚して戸建て住宅を建てたり、分譲マンションを購入したりしている人はどれぐらいいるだろうか。建物の維持管理は厄介な仕事なので、日本人はその辺の意識が不足しているのではないかと筆者は疑っている。  戸建て住宅では高齢者を狙った点検リフォーム詐欺問題で消費者庁が注意喚起を行っているし、分譲マンションでは大規模修繕工事の談合疑惑で今年3月に公正取引委員会が大手事業者に調査に入った。こうしたニュースが報じられるたびに、建物の維持管理を適切に行うための仕組みや環境が十分ではないと感じる。



 建物の維持管理が煩わしいのであれば、賃貸住宅に住めばよいのだが、日本では住宅の約6割を「持ち家」が占めている。ここに来て分譲マンション=区分所有マンションでは、区分所有者以外の第三者に建物の管理を委託する「第三者管理方式」=図=の導入が進み出している。専門家に建物の維持管理を任せることができれば、厄介な仕事から解放されて安心できると思うかもしれないが、第三者を全面的に信用して大丈夫なのだろうか。

■戦後の「持ち家」政策で維持管理の責任を負うことに
 第二次世界大戦の敗戦で焦土となった日本では都市部を中心に420万戸の住宅不足が発生した。1950年の朝鮮戦争特需で産業復興が軌道に乗り始めると、政府が最初に行ったのは住宅金融公庫(1950年)の設立だった。まずは国民に住宅ローンを借りさせて「持ち家」を作らせる政策を進めたのである。

 1951年に公営住宅法が施行され、55年に日本住宅公団(現・UR都市再生機構)が設立されて集合住宅の開発が本格化する。56年に日本初の民間分譲マンションが誕生し、1964年の東京オリンピックを機に第1次マンションブームが到来。それから60年が経過して分譲マンションのストック数は700万戸を超え、国民の1割超がマンションに住んでいるという計算だ。

 冒頭で「日本人は建物の維持管理に対する意識が不足している」と書いたが、一般庶民が「持ち家」に住むようになって、それほど歴史があるわけではない。欧米のように既存住宅流通市場が発達せず、建物の資産価値を維持する必要性が乏しかったことも影響して、どのように建物を維持管理すれば良いのかが分からない人も多いだろう。

■マンションは「管理」で買えと言われるが…
 住宅の維持管理が声高に言わるようになったのは2000年以降のことだ。2001年に「マンション管理適正化法」が施行され、マンション管理士の資格制度、マンション管理業者の登録制度がスタート。02年には「マンション建替円滑化法」が施行され、マンション建替事業の手続きが定められた。

 2006年に施行された「住生活基本法」で、わが国の住宅政策は新築(フロー)から既存住宅(ストック)重視へと転換が図られた。2008年の「長期優良住宅法」によって戸建て住宅でも適切な維持保全計画を策定し、定期点検を行う住宅が認定されるようになった。2024年度の認定実績は新築戸建てが13.7万戸(戸建て住宅全体に占める割合は39.3%)、新築共同住宅は8231戸(同1.8%)で、2009年からの累計は173.6万戸。住宅ストック全体から見ると3%にも満たない。

 さらに分譲マンションにおける維持管理の適正化を担保するため、2022年から2つの制度がスタートした。国交省が一定基準の満たした管理計画を地方自治体が認定する「管理計画認定制度」と、一般社団法人マンション管理業協会がマンションの管理状態や管理組合運営の状態を★6段階で評価して評価する「マンション管理適正評価制度」である。

 国の制度では、リフォーム融資の金利減免や固定資産税の減額などのメリットがあり、登録件数は1000件を超えた。民間の評価制度は2025年度中に1万5000件の登録をめざしており、9月からは不動産検索サイト「SUUMO」の物件ライブラリーに評価結果の掲載を開始した。両制度ともに本格普及はこれからだ。

 2024年6月には、国交省が「外部専門家の活用ガイドライン」(2017年制定)を改訂し、「マンションにおける外部管理者方式等に関するガイドライン」を策定。区分所有者以外の者が管理者に就任する方式を「外部管理者方式」と定義。居住者の高齢化が進んでいることや、夫婦共働き世帯が増加していることなどで、大規模分譲マンションを中心に第三者管理方式の導入が進み出した。

■住宅の維持管理を元施工会社に依頼するか?
 国も建物の維持管理が適切に行われるように様々な制度や仕組みをつくってきたが、十分に機能しているとは言い難い。分譲マンションでは区分所有者で組織する管理組合が維持管理を行うのが基本だが、役員などの成り手不足で第三者管理方式の導入が進み出しているわけだし、戸建て住宅の維持管理の実態も良く判っていない。そこで、9月17、18日に開催された展示会「リフォーム産業フェア」の会場で、出展している関係者に聞いて回った。

 住宅の維持管理は、元施工会社に相談するのが最善のはず。元施工会社であれば、建物がどのように作られているのかも熟知しているからだ。筆者の自宅を施工した工務店は倒産してしまったが、設計者である友人の建築家は健在で、いつでも相談できるので安心だ。筆者と同様に元施工会社に相談している人が多いと思ったのだが、展示会で聞く限り、必ずしもそうではないらしい。

 「顧客のアフターフォローをやっていない工務店やビルダーも多いので、元施工会社に相談している顧客はそれほど多くないのではないか」

 「既存住宅を購入した顧客はもともと元施工会社とのつながりがないので、元施工会社にはリフォームを頼まないのではないか」

 展示会でも曖昧な答えしか聞くことができなかったが、住宅の維持管理・リフォームに関して信頼して相談できる相手がいる人は意外に多くないのかもしれない。公益財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センターが開設する無料電話相談サービス「住まいるダイヤル」には年間3万件以上もの相談が寄せられている。 。

■住宅ストックの性能や利用価値を市場で評価するには
 自動車であれば、トヨタ車を買えばトヨタ系ディーラーに、ホンダ車を買えばホンダ系ディーラーにメンテナンスを依頼する人が大半だろう。しかし、住宅の場合は、自動車のような車検制度はないし、維持管理が適切に行われているわけではない。どのようにしたら、自動車のように住宅の管理・修繕が行われ、一定の品質を維持できるようになるだろうか。

 分譲マンションの「第三者管理方式」は、専門の管理業者に任せることで、既存マンションの品質が高まっていく可能性も期待できる。重要なのは外部管理者が透明性の高い方法で維持管理業務を行うかどうか。国のガイドラインでも、外部管理者が利益相反取引を行うことで区分所有者が損失を被る可能性があることを指摘している。

 こうした問題に対処するには、区分所有者側が管理体制を整えていくことが重要だ。その方法の一つとして大規模修繕工事に「オープンブック方式」を導入することを、9月4日付けで東洋経済オンラインに掲載した記事で紹介した。

 ●人手不足の深刻化でインフレが止まらない…建設業は日本独特の商慣習を見直しできるか(2025/09/04)

 国は、人生100年時代を見据え、高齢者が孤立せず、希望する住生活を実現できる環境を整備するため、住宅ストックの性能や利用価値が市場で適正に評価され、循環するシステムの構築をめざす方向で議論を進めている。それを実現するためにも、住宅を適切に管理し、住宅の性能を維持していくことが必要不可欠である。



pr-konwakai02
経済記者 シニアの眼を配信する
「経済記者シニアの会」
ホームページはこちらから≫