【ニデックが不正会計問題の「報告書」を受けて記者会見(3/3)】
モーター大手のニデック(旧日本電産)は、2月27日に不正会計問題をめぐる第三者委員会からの報告書を受領したことを受け、3月3日に岸田光哉社長兼CEOらが都内で記者会見した。
昨年5月に監査の遅れが表ざたになってから9カ月。この間、創業者でカリスマ経営者ともてはやされていた永守重信氏(81歳)は取締役に続いて名誉会長の職も辞し、経営の表舞台から去った。
コーポレートガバナンスの強化が叫ばれて久しいが、ニデックにとどまらず不正行為が後を絶たない現状について、ベテラン記者がさまざまな角度から意見を出し合った。
●「最も責めを負うべきなのは、永守氏」と断定
A 報告書は昨年9月に発足した第三者委員会(委員長=平尾覚氏)が6カ月間かけてまとめたそうだね。
B 委員長の平尾さんは不祥事問題の第一人者。報告書の内容には期待していたけど、「ニデックは永守氏の会社」であり、「永守氏に絶対的な権限が集中していた」と断じるなど、かなり切り込んでいるとの印象を受けた。
C 退職者も含めグループの役職員319人に延べ536回のヒアリングを行い、2103人を対象にアンケート調査も実施したという。ただ、永守氏の経営責任についての言及はちょっと甘いのではないか。調査は今後も続けられるというから見守りたいね。
B 永守氏がどこまで不正に関与していたのかが焦点だったが、「永守氏が会計不正を主導した事実は発見されなかった」とする一方で、「一部の会計不正を容認したとの評価は免れない」、さらに「最も責めを負うべきなのは、永守氏であると言わざるを得ない」と断じている。
D 業績目標の必達は至上命題だから、売上の先食い(前倒し)や架空計上、売上原価や損失の隠蔽など、子会社も含めて現場や会計責任者は不正に手を染めざるを得なかったんだろうね。粉飾決算は詐欺罪や背任罪に該当する場合があるから、これはもはや組織的な犯罪だね。
A 内部・外部監査、会計監査、リスク・コンプライアンス、内部通報といったガバナンスに問題はなかったのだろうか。
C 社外取締役も含めて社内の監査体制が正常に働いていなかった点は見逃せない。社外取締役の責任は大きいよ。顔ぶれを見ると7人のうち官僚出身者が4人いて、あとは大学教授2人と弁護士。ビジネス経験のない “お飾り”のように思えた。
B 本当に不正を知らなかったのか、社内チェックをしっかりやってきたのか、改めて責任が問われるよ。永守氏の息のかかった人選だったとも伝えられているが、当人たちにとっては不名誉この上ないだろう。ちなみに有価証券報告書などによると報酬額は総額6000万円、一人あたり平均857万円となっている。
D 結局、何も言えないイエスマンを揃えてしまったということかな。カリスマとかワンマンとかいわれる経営者の会社で社外取締役がどう機能するかは、実に悩ましいテーマ。今回の反省を受け会計に関する専門性や倫理観やコンプライアンスなど、新たな選任の基準を設けるとしているけど、各社は他山の石としなければいけないだろうね。
A 監査法人の役割や責任についても触れる必要があると思うけど。
B 昨年9月、ニデックが関東財務局に提出した有価証券報告書について、監査法人のPwCジャパンは「意見不表明」としている。監査のための十分な情報や証拠が入手できず、虚偽表示となる可能性があるということを示したわけだ。
D “くみしやすい相手”である監査法人を使って、強引かつ不正な会計処理を果たしていたのだろうか。いずれ白日のもとにさらされるに違いない。オリンパスや東芝の粉飾決算のケースと同様、金融庁から行政処分を受ける可能性は高いと思うよ。
A 自戒を込めていうけどメディアの取材姿勢も情けない。永守氏を「経営の神様」のように雑誌や新聞で崇め、経営に関する書籍も多数発行してきた事実は消えない。
B 本人もインタビューで「気がつけば稲盛(和夫)さんと同じような道を歩んできた」と自慢げな様子で語っていたし、「油断や驕りによって人は躓く」などとよく強調していた。今となっては「どの口が言う?」と思えてくる。
D 本社ビル(京都市南区)の1階には、1973年創業時のプレハブ小屋を展示しているけど、これは売上高2兆6000億円、従業員10万人の巨大企業になった現在も初志を忘れることがないようにという永守氏の己に対する戒めだとか。それをメディアが礼賛するものだから負の部分が隠蔽されてしまう。
C 今回の会見についてもひと言…。記者側が質問の際に「ありがとうございます」と前置きしたり、ニデック側が「大変重要なご指摘をありがとうございます」などと返したり、まるで掛け合い漫才。記者には巨額不正を糾す精神のかけらもないのかな。
●アクティビストの警告も雲散霧消に
A それにしても、取締役や監査法人、メディアや株主など誰もニデックの不正を見抜けなかったのかねえ。
B いゃ、米国のアクティビスト(物言う投資家)、マディ・ウォーターズ・キャピタルLLCは2016年に「日本電産:巨大なハリボテの広報活動」というリポートを発表している。「永守氏の指導によって、非現実的な経営目標を掲げ、目標達成から大幅に外れた結果を生み出している」などと酷評しているけど、今回の第三者委員会の報告と驚くほど一致している。
D いわゆる“空売り専業ファンド”でしょ。欧米では市場の番人として評価されているけど、日本ではどうかな。このリポート公開後、株価が5%近く下落した日本電産は即座にリポートの内容を否定し、その後は沈静化し翌17年に過去最高益を計上し雲散霧消した格好だね。
C このリポートについては、フジテレビ第三者委員会の元委員で現在は東大医学部不祥事の検証委員会委員長を務めている山口利昭弁護士が自身のブログで、「なぜ、監査役や社外取締役、さらには経済メディアで問題視されなかったのか」と疑問を呈している。外部監査も見抜けないのだから、メディアが調査報道するにしても限界はあるよ。
A ニデックの今後についてはどうみている? 不正を働いたわけだから、過去の決算の訂正で済む話ではないよね。
B まず経営陣の責任が問われそうだ。ソニー出身で2022年入社の岸田社長は永守氏の側近のひとり。果たして本当に経営を刷新し、企業風土を変え、再建できるのか。疑問というか不透明感が漂っているね。
C 外部資本家がどう出てくるか、この点は注目だね。すでにアクティビストがニデックに食指を動かしているとも報じられている。モーター単体にとどまらず、精密工作機械やEV向けの駆動部品まで一貫した開発・生産体制をもっているのは最大の強み。ウミを出し切れば再生は早いと一部のアナリストはみている。
D 上場廃止の可能性も含め、巨額の株主代表訴訟が今後の焦点のひとつになりそうだ。3月末、その第一弾として個人株主の一人から現旧取締役らの責任を追及する訴訟の提起を求める書面が提出されている。永守氏や面従腹背だった役員は、金融商品取引法違反などの疑いで立件される可能性もあるよ。
C ヤクルト本社や大和銀行の巨額損失事件など過去の判例をみて分かるように、株主代表訴訟の賠償額は巨額になる。フジ・メディア・ホールディングスを巡る代表訴訟では、現旧経営陣15人に233億円の賠償を求める訴訟が提起されている。そのうちの一人に1月に会ったけど頭を抱えていたよ。
【直球・変化球】
●永守氏は「敗軍の将」として真相を語るべき
A ところで永守氏の所在は…。第三者委員会の報告書がニデックに提出された2月26日に最後の肩書である名誉会長職を辞任しているけど。
B 京都市西京区の豪邸に雲隠れとの情報がある。辞任に至ったのは不正会計の元凶と断罪されることを事前に察したのか、換言すれば敵前逃亡か真相は分からない。
D 2月26日にメッセージを出しているけど、不正問題はまるで他人事。「『経営者としての私の物語』にピリオドが打たれますが、それは私にとって『新たな私の物語』の出発点でもあります。『更なる人生のステージ』に向かって、人材育成という『もう一つの私の夢』に本格的に挑戦していきたいと思います」と逃げ口上そのものだよ。
C 本当に反省しているとは思えない文章だね。「赤字は悪」とし、非現実的な業績目標をトップダウンで決める歪んだ構造に根本的な原因があったことをどう考えているんだろう。永守氏は敗軍の将として、兵ではなく自らを正直に語ってもらいたい。
A ワンマン経営者の末路は寂しいものだね。
C 良く引き合いに出されたのがダイエーの中内功。流通革命の旗手として業界の地位向上に貢献したものの、経営悪化の責任を取り2001年に第一線から退いた。日産自動車の再建に当たったカルロス・ゴーンは金融商品取引法違反で逮捕され、会長職を解任されたあげく特別背任罪で追起訴され、最後は国外逃亡だよ。
D ワンマン経営が必ずしも悪いわけではなく、例えばホンダは本田宗一郎に藤沢武夫、ソニーは盛田昭夫に井深大という、いわばアクセルとブレーキといったように裸の王様や独裁者が生まれない経営スタイルを確立していた。その点が肝心ではないかな。
B 現役の中にも優れたワンマン経営者は少なくない。例えばソフトバンクの孫正義氏。傲慢という声も聞くけど、適材適所を心がけ人材投資も惜しまない。ファーストリテイリングの柳井正氏の真骨頂は抜擢人事にあるといわれているよ。
C そういえば、先日のユニクロとロサンゼルス・ドジャースの契約時に柳井氏は「スポーツと同様、ビジネスもチームでしないと勝てない」とフォア・ザ・チームの重要性を説いていたのが印象深い。優れたリーダーは独裁者ではないということだね。
A ニデックの陰に隠れてしまっているけど、カネに絡む不祥事が各社で噴出している。KDDI子会社ビッグローブと傘下のジー・プランで売上高の架空計上が発覚したり、ソフトバンクグループのネット広告会社イーエムネットジャパンの常務CFOによる不正送金や開示情報の改ざん…。ワンマン経営に限った話ではないけど、ガバナンス強化の契機にしてもらいたいものだ。

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