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会見感想文-ここが良かった、課題はそこ

企業はいま、戦争や感染症、地球環境問題、ビジネスと人権など、さまざまな課題に直面しています。経済記者シニアの会は、ベテラン・OBの経済記者が毎週月曜日付のブログを発信するとともに、不祥事対応や記者会見など、広報・企業活動をお手伝いすることを目指しています。

会見感想文(2025年5月)インターネットイニシアティブ(IIJ)2024年度決算発表:新社長・谷脇氏は無難な門出 ネット配信を前提とした仕掛けは音声が……


会見は映像・音響スタッフによる万全のネット対応だったが

佃 均【アウトライン】
● 増収増益を支えるストック型SI案件
 2025年5月13日、午後1時からインターネットイニシアティブ(谷脇康彦社長、略称:IIJ、東証プライム市場)が2024年度決算を発表しました。それによると、売上高は3,168億31百万円、本業の利益を示す営業利益は301億4百万円(営業利益率9.50%)、経常利益は同0.9%増の291億84百万円(経常利益率、当期利益は同0.6%増の201億4百万円(純利益率6.34%)と増収増益でした。

 売上高の前年度比14.8%増に対して、営業利益はその4分の1の3.7%増にとどまっています。インターネット/クラウドサービスに欠かせない仮想化技術「VMWare」(ヴイエムウェア)ライセンス料の値上げ、昇給に伴う人件費・外注費(原価)の増加などが営業利益を押し下げました。

 しかし長期安定収入に結びつく10億円超のストック型サービスインテグレーション(SI)案件の受注増、デジタル化と労働力不足に伴うITフルアウトソーシング・ニーズの強まりなど追い風が続いています。「中長期ビジョンを踏まえ売上高5,000億円を目指します」が、4月1日付で社長に就任した谷脇氏のメディア向け公式第一声となりました。

● まず情報漏洩の経緯を説明し謝罪
 会見はまず谷脇氏が、今年4月10日に発覚した顧客メールアドレス漏洩事案について説明、謝罪することから始まりました。4月15日にプレスリリース第一報、18日に要因となったサードパーティ・ソフトウェアの脆弱性情報を開示、22日にプレスリリース第二報(調査結果と情報漏洩件数)と、迅速で的確な対応が光ります。

 とはいえ、同社はUNIX/WIDEプロジェクトを源流とする技術指向の企業風土で知られています。1992年12月の「インターネットイニシアティブ企画」以来、インターネット市場をリードしてきた独立系ISP(Internet Service Provider)最大手、顧客数は約1万6,000社。そのIIJですら不正アクセスを検知できなかったというのは大きな驚きでした。

 谷脇氏の説明は簡潔ながら端的で、まずは無難な門出と言っていいでしょう。また、質疑応答ではこの件に関連する質問が相次ぎましたが、事案発覚後の対応が迅速かつ的確だったこと、システム内包ソフトウェアの脆弱性が原因だったこと、不正アクセスが異常検知機能をすり抜ける巧みな振舞いだったこと等から、IIJの不備を責める声は少なかったようでした。

● 2代続く元官僚社長、評価はこれから
 同氏は総務省官僚(総務審議官)時代、NTT/東北新社による高額接待問題で退官し、その翌年(2022年)、IIJの顧問を経て副社長に就任しています。清濁合わせ呑みつつ本筋を追求する胆力が評価されたのかもしれません。先代社長の勝栄二郎氏は財務省事務次官からの転職ですので、IIJは2代続けて霞ヶ関の元官僚を社長に迎えたわけです。

 インターネット/クラウドにかかる回線割当てや規制緩和への備えという見方の一方、創業会長・鈴木幸一氏独特のバランス感覚と言えないこともありません。いつものように会見を鈴木氏が締め括ったのは、大御所体制が岩盤であることを端的に物語っています。

 だからと言って、閉鎖的な空気を感じないのがこの会社の特徴です。就業者の離職率4%未満は業界平均の半分以下ですし、SI事業における外注要員数1,600人未満は多重下請け構造から離脱していることを示しています。「オープン」な大御所体制と言うことができるでしょう。

 創業から32年、技術指向の企業風土ゆえに経営に適した人材がいないのか、ステークホルダーから「プロパー社長を」の声が出ていないのか、それとも技術、営業、管理、経営の機能別プロ集団というコンセプトなのか、それはそれで興味あるところです。ともあれ谷脇氏がどのような求心力を発揮するか、これからが本番です。

【グッド・ポイント】
● 4部構成の資料は緻密な構成
 配布された資料は(1)決算短信(A4×11枚)、(2)決算概要と今後の成長戦略(同3枚)、(3)連結業績説明(同14枚)、(4)参考:会社紹介(同10枚)の4種でした。表裏びっしりなのでたいへんなボリュームですが、せっかちな人は2に目を通せばいいし、より詳細な情報を得たい人は3を、という組み立てになっています。

 決算資料ですから会計監査、法務、人事、営業、技術、広報……etc、多くの部門と連携して齟齬なく、かつ未来志向でまとめなければなりません。さらに新社長・谷脇氏による概要説明、副社長CFO・渡井昭久氏による詳細説明を正味30分内に収めなければなりません。

 作成したスタッフの労力もさることながら、全体を設計し会見を運営した企画部門の能力は大したものと感心します。これを作れと言われたら「カンベンしてよ」だな、と思いながら説明を聞いていました。

 正面にTVカメラ、記者席は脇に配置
 これはグッド・ポイントかどうか微妙ですが、筆者が注目したのは記者席の配置でした。説明者席の正面にTVカメラがデーンと構え、記者席は向かって左側、やや斜め4列にざっと30席ほど。記者席の最後尾にヘッドホンを装着した音響・画像スタッフが居並びます。

 さすがにカンペはなかったのですが、会場の奥からディレクターが登壇者に「顔を上げて」「そろそろ次に」といった合図を送っています。記者席の配置といい会見の進行といい、リアルとオンラインのハイブリッド、ネット配信による拡散を前提としているのは明らかです。

 活字系メディアからすると「けしからん」なのか「情けない」なのかは別として、記者席はネット系メディアないしネット世代の若手で埋まっています。いわゆる「受託系」ITサービス業の会見ですと、記者席は活字系メディア(ベテランというかロートルというか)が中心です。会見のしかた、記者の立ち位置、Q&Aの手法なども変わります。リアル参加の記者は演出効果のための「その他大勢」になって行くのでしょうか。

【要チェック箇所】
● 加齢で耳が遠くなったのか?
 総じて可はあっても不可はなく、オープンな雰囲気で好感が持てる会見ではあったものの、残念だったのは音声がよく聞き取れなかったことでした。加齢で耳が遠くなったか? と疑いましたが、顔見知りの活字系メディア記者氏も同じだったようで、妙なところで安心しました。

 某ネット系メディアがYouTubeにアップしたQ&Aを視聴すると音声ははっきりしているので、音声が聞き取りにくかったのはリアル会場の問題だったようです。せっかく音響・映像スタッフが万全の体制を敷いていたのに残念なことでした。

 当日の夜、広報担当者に「会場でマイク音声が聞き取りにくかった」とメールしたところ、速攻で「次回以降、改善するよう努めます」の返信がありました。ということは、次回の会見では筆者のようなベテランないしロートルの活字系メディア関係者は最前列に案内されるかもしれません(笑)。

● 記者の“分かっちゃった”風でいいのか
 もう一つ指摘しておきたいのは、若手記者諸君の質問です。最初に触れたように、質問の中心は今年4月に発覚した不正アクセスによる情報漏洩事案について、次いでスマートフォン事業についてでした。それぞれの関心事なので、それをとやかく言うものではありません。ですが二の矢、三の矢の関連質問(更問い)がなく、なんとなく「分かっちゃった」風なのが気になります。

 例えば資料に「システムインテグレーション」と「サービスインテグレーション」という用語が記載されています。アルファベットにするとどちらも「SI」で、IIJにとっては中核ビジネスです。

 ところが資料にはその説明がなく、登壇した谷脇氏も渡井氏も識別(意識)せず口にしていたように見受けられます。システムなのかサービスなのか、その違いはどこにあるのかという質問は出ませんでした。

 さらに言うと、谷脇氏が「今後の注力分野」として挙げた「データ流通・交換サービス」に突っ込む記者がいなかったのも気になります。お前が質問すればよかったじゃないか、というブーメランは必至ですが、「具体的な内容は検討中で、後日、説明の機会を設けることになると思います」という返事があったことを添えておきます。


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会見感想文(2025年5月)日本総合研究所 危機的状況にある「公務員離れ」、打開の方策は:「職務の魅力」認識させ、強みを言語化・可視化


「公務員離れ」で提言する山田英司日本総研理事 


山下 郁雄 【アウトライン】
●カギは、マネジメントスキルの明確化
 日本総合研究所は4月21日、東京・丸の内の日本総研・社会価値共創スタジオで記者発表し、公務員離れに歯止めをかけるには、公務員の管理職に共通して必要なスキルを定義・明確化することが有用だと提言した。定義・明確化したスキルの取得とキャリア開発が、公務員の「職務の魅力」を認識させるとしている。

 発表したのは、日本総研がグロービス(東京都千代田区)と共に昨年7月に設立した「行政官のスキル明確化とアップデートに関する研究会」での議論を取りまとめた報告書の骨子。国家公務員総合職の管理職に求められるスキルを主な検討対象とした。

 報告書では「複雑化・高度化する公務を着実に遂行しつつ生産性を高めるためには、公務における“マネジメント”の概念を、与えられた業務をこなす『運営』から、環境変化に機敏に対応できるように組織を戦略的かつ効率的に動かす『経営』へとアップデートした上で、必要なマネジメントスキルを明確化・共通化すべきだ」と問題提起している。

 必要なスキルに関しては表のように、職業人一般、行政官、管理職および専門領域でそれぞれ求められる四つのスキルを明示。そのうち、管理職として求められるマネジメントスキルは、民間企業の管理職に求められるスキルと共通点が多く、民間での研修システムなどを活用できるとしている。

 報告書をとりまとめた山田英司理事は「なり手不足のうえ、中堅・若手が次々と辞めていく公務員離れを食い止める解の一つを示した。スキルの明確化を通して、公務員の強みを言語化・可視化できる」と、提言の意義を説明した。



【グッド・ポイント】
●時宜にかなったテーマ設定
  • 公務における「担い手不足」は危機的状況にある、との問題意識が時宜にかなっている。

  • 今回、指摘したスキルの明確化を足がかりに、最終的には公務員人事、行政組織の改革へ展開する、というベクトルは注目に値する。与えられた業務をこなす『運営』から、組織を戦略的かつ効率的に動かす『経営』へのアップデート、というのもその流れに沿ったもの。問題は前例踏襲を宗とする“お役所仕事”をどう変えるか、役所のカルチャー、役人の意識をどう変革していくかで、難問中の難問と思えるのだが…。

  • ①長期雇用を前提にしない②リボルビングドア(官・民の間を行き来する回転ドア)を働かす-など、今日的な人材の流動化に対応している。


【要チェック箇所】
●画竜点睛を欠く嫌いも
  • 大きな目標の一つに「生産性の向上」を掲げている。ところが、公務の生産性とは何なのか、どんな物差しがあるのかが不明。記者との質疑応答のやりとりでも、その点が曖昧模糊としたままだった。

  • ホワイトカラーの業務を大きく変えているAIとりわけ生成AIに関する言及が全くないのは画竜点睛を欠くといわざるを得ない。



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会見感想文(2025年5月)イーセットジャパン サイバー攻撃&セキュリティの最新事情 :日本がサイバー攻撃の照準に 直近の攻撃増加は世界一


共同会見する永野イーセットジャパン・カントリーマネージャー(左)とスルコシュ・スロバキア駐日大使(中央)

岩辺 卓浩【アウトライン】
●スロバキア大使館と共同会見
 5月15日、サイバーセキュリティのイーセットジャパン(東京)とスロバキア大使館による「共同メディアラウンドテーブル」という形式の記者会見が東京・元麻布の駐日スロバキア大使館で開かれた。

 1992年にスロバキアで設立されたESET(イーセット)社は、欧州では「能動的サイバー防御で世界最先端の技術」を誇るとされ、欧州連合(EU)各国のシェアは高いが、日本でさらに認知度を高めるのが目的。

 まず、情報通信技術(ICT)に注力するスロバキアへの投資を促すイヴァン・スルコシュ駐日大使が自国の外交・経済環境などを紹介。その後、イーセットジャパンの永野智カントリーマネジャーが自社の取り組みなどを説明した。

    (スルコシュ大使)
  • スロバキアはEU加盟国で通貨にユーロを採用、海外からの投資には税控除も整備。ICT部門には特に力を入れ、高度な専門性を持つ技術者が育っている。北大西洋条約機構(NATO)にも加盟。

  • これまでもロシアなどによるサイバー攻撃の脅威にさらされる地政学的なリスクを抱えていた。それがウクライナへの軍事侵攻が始まり、サイバー攻撃が激化し、防御が重要なテーマ。

  • 最近も東京で、EUと共同で日本政府と人工知能(AI)や通信技術で戦略的パートナーシップを進める会議を開催。

  • ESET社はサイバー防御だけでなくGPSや顔認証技術などに優れ、日本の防衛省とも取引をしている。



サイバー攻撃の脅威を解説(イーセットジャパン作成の「地政学リスクとサイバー防御」より)

    (永野マネジャー)
  • 世界中でランサム攻撃が増え被害も拡大している。サイバー攻撃は大企業が対象と思われているが、実際は51人から200人規模の企業の被害が最も多い。

  • 日本は中国からのサイバー攻撃が要注意

  • 大阪・関西万博を利用した攻撃も見られる。

  • 高価値データが含まれる証券・保険会社の攻撃が目立ち、2024年下期、25年上期とも日本は攻撃が増加している国の第一位。EUは歴史的にサイバー攻撃への危機意識が高いが、日本も積極的な対策が必要。


【グッド・ポイント】
●地政学リスクがICT先進国を生む
  • 出席した記者から「経済発展が分離したチェコより遅れていると思われているスロバキアがどうやって高度のICT先進国になれたのか」との質問があった。スロバキアの優位性はほとんど知られておらず、大使がロシア問題などの地政学リスクに対応するため人材育成に尽力したことなどを丁寧に説明、その中で育った会社の一つがECET社ということを理解できた。

  • また、永野マネジャーからは、ロシアのウクライナ侵攻以降、同国の重要インフラ施設の80%以上をサイバー攻撃から保護していると説明があった。「現実の戦場で役立っているサイバー防御」というのは、明快なPR材料で、前面に出すこともできただろう。しかし、現状説明の一つとして簡単に説明したことは逆に好感を持てた。米国流の企業ならそれをセールスポイントにしたかもしれない…。

  • 大使らを囲んだ元麻布の大使館屋上での懇親会で、ウクライナの難民を積極的に受け入れていることなどを聞くことができた。ロシアへの危機感→サイバー防御→ESETの役割と支援という会見の背景が理解できた。

  • 会見で使用したデータが翌日、Eメールで送られてきた。

【要チェック箇所】
●知りたかった競合製品との違い
  • 企業や個人のサイバー攻撃やウィルス対策という性格上、契約している国内外の具体的な企業等を明らかにすることは難しかったと思うが、もう少し具体例が欲しかった。

  • 競合する「norton」や「Kapersky」などとの違いを知りたかった。

  • 日本ではキヤノンマーケティングジャパンが総代理店となってサポート運営をしているようだが、日本での納入実績や営業戦略・提携状況なども聞きたかった。



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「会見感想文-ここが良かった、課題はそこ」を始めます

 新コンテンツとして「会見感想文-ここが良かった、課題はそこ」を立ち上げます。当会(経済記者シニアの会)所属のベテラン記者たちが、タイトルの通り、参加した記者会見の率直な感想を執筆・掲載します。内容は会見概要、グッドポイント、要チェック箇所-の3点セットを基本構成とします。当面、月一回のペースで公開し、順次、更新頻度・本数を増やしていきます。ご期待ください。

会見感想文(2025年4月)情報サービス産業協会(JISA)生成AI活用プラン


JISA会見の様子

千葉 利宏 【アウトライン】
■第一歩はAI人材の育成-請負型から価値創造型ビジネスへの転換も
 情報サービス産業協会(JISA、会長・福永哲弥氏)は4月15日、東京・内神田のJISA会議室で、24年10月31日に公表した「生成AI技術の社会的活用にかかる提言」を具現化するためのアクションプランを発表した。

 提言では、日本社会の成長・革新が国際的にみて大きく遅れているという現状認識のもと、国際競争力のキャッチアップ、さらにゲームチェンジを実現するべく生成AIの社会的活用を産官学が一体となって取り組むことを要望。JISAのアクションプランとして「生成AI活用人材育成」を推進する施策をまとめた。

 さらに生成AIの社会実装が進むことで、情報サービス産業が直面すると想定される3つの事業課題を整理。従来の工数ベースの請負型ビジネスから価値創造型ビジネスへの転換へと事業革新をめざすことを打ち出した。

■人材育成に焦点に4つのアクションプランを策定
 JISAでは、2021年に新しいビジョンステートメントとして「JISA2030 デジタル技術で『人が輝く社会』を創る」を掲げ、それに基づいた事業目標・計画を立てている。今回のアクションプランも、人材育成に焦点を当てて4つの施策に取り組む。

①+(プラス)AIスキリングによる価値創造エンジニアへの転換
 受託型事業に携わってきたIT人材が生成AI活用スキルを獲得する「+AIスキリング」によって、より付加価値の高い領域にIT人材をシフトしていく。

②地域を巻き込んだ実践的共創による人材変革
 JISAが3年前から群馬県で会員のトップエンジニアを集めて3か月間で地域の課題を抽出してソリューションを提案する活動を各地域に展開。地方自治体と地域ベンダーの競争による実践的課題解決コンテストを実施する。

③企業間人材交流による実践的AI人材育成
 生成AIを活用できるIT人材をスキルアップするための実践の場をユーザー企業と連携して提供していく。

④資格認定制度によるAI人材の育成促進
 経済産業省とIPA(独立行政法人情報処理推進機構)が進める国家資格「情報処理資格者試験」の改訂作業に協力。JISAでもデジタル領域の企業対応力について認定制度を新設する。

■「真のビジネスパートナー」に向けて取り組むべき3つの課題
 今回のアクションプランで注目されるのは、近い将来に実現すると見込まれるAGI(汎用人工知能)に、情報サービス産業として「どう対応するべきか」―。その課題認識を明らかにしたことだ。

 生成AIを活用することで、ソフトウェアの開発・運用保守業務の生産性が大幅に向上することが想定される。従来の取引では、工数換算ベースで見積もり・契約が行われてきたが、生成AIの活用によって顧客から大幅に安い見積もり・契約を要求される可能性がある。情報サービス産業として収益を確保するために生成AI活用型事業の取引の共通フレームを確立し、工数ベースから「価値ベース」の契約へと移行できるかが1つ目の課題となる。

 さらに、生成AIを活用することで、ソフトウェアの開発と運用保守が統合された次世代型DevOps(デブオプス)が確立されると想定される。それによって生じた余力を活用することで、価値創造/オファリング領域へとビジネスや人材をシフトできるかどうかが2つ目の課題。

 3つ目の課題は、AGIの登場で顧客企業のAI活用に対するハードルが下がり、製造業をはじめ様々な分野で導入が進展するなかで、情報サービス産業が「真のビジネスパートナー」としての役割を果たせるようにビジネスプロセスを変革できるか。今後はソフトウェアだけでなく、AGIをハードウェアやロボティックスに装備したり、ユーザーの目的に沿ったデータ収集・解析・運用を行うデータサイエンティストの役割を求められたり、多様化する顧客ニーズにJISA会員企業が対応することで、企業のデジタル競争力向上に貢献していく必要性を示した。

【グッド・ポイント】
  • JISA会員が事業革新に取り組むべき課題認識を明確にしたことで、JISA会員が置かれているビジネス環境の課題を理解できた

【要チェック箇所】
  • アクションプランや課題認識ともに一般論的な内容で具体的な事例がなかったので、情報サービス産業の業務に詳しくない記者にはイメージしにくかった。

  • 具体例としてJISAが群馬県で3年前から行っている取り組みを紹介し、自治体からも高い評価を得ているという話題が出たが、どのような課題抽出を行ってソリューションを提供したのかといった中身を詳しく説明してほしかった。

  • 生成AI技術の社会的活用は始まったばかりで、JISAとして紹介できる事例はまだ少ないかもしれないが、コンテストなどを通じて具体的な情報発信を工夫する必要があるだろう。

【参考事例】
  • DX不動産推進協会(代表理事・古木大咲robot home代表取締役CEO)は、会員向けの勉強会を定例開催しており、4月15日の勉強会では、24年7月の東京都知事選挙に立候補して15万票を獲得して5位となったAIエンジニアの安野貴博氏を招いて講演を行った。

     安野氏は、AI技術を選挙活動にどのように活用したのかを具体的な事例をもとに紹介。有権者から広く意見を聞く方法として、自然言語処理の生成AIを活用することで意見を集約化する「ブロード・リスニング」と、自分のエージェントとなる「AIあんの」が選挙期間中24時間対応で有権者に対応することで政策の浸透を図った。

     こうした手法は、企業が顧客からの要望を幅広く聞いて商品やサービスの開発にも応用でき、受講者からも具体的な事例として分かりやすかったという声が出ていた。

  • 2025年1月期決算で連結売上高が4兆円を突破した積水ハウス(社長・仲井嘉浩氏)では、オープンイノベーションを通じて事業創造に取り組む新会社「積水ハウス イノベーション&コミュニケーション(積水ハウス イノコム)」を2024年2月に設立。東京・溜池の赤坂グリーンクロス内にオープンイノベーション施設「InnoCom Square(イノコム・スクエア)」を24年9月に開設した。

     積水ハウス イノコムでは、24年4月にコーポレート・ベンチャー・キャピタル・ファンド(CVCファンド)「積水ハウス投資事業有限責任組合」をAGS コンサルティングと共同設立し、7月にスタートアップ企業3社に、12月には生成AI分野の「Preferred Networks (PFN 社)」に出資。生成 AI 技術を活用して、営業、設計、施工、アフターフォローといった住宅事業での業務効率化をめざす。

     積水ハウスでは、住宅事業に精通してビジネスモデルの変革に取り組む「ビジネストランスレーター」と、生成AI技術の活用に取り組む「AIエキスパート」に分けて、AI人材の育成を図っていくとしている。


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会見感想文(2025年4月)日本データ・エンジニアリング協会(JDEA) データ・エントリー料金


JDEA会見の様子

高橋 成知 【アウトライン】
■1文字単価から人月単価に-データ・エントリー料金を抜本改定へ
 日本データ・エンジニアリング協会(JDEA、河野純会長)は3月28日、東京・銀座の電算で記者会見し、抜本的改定を行った「データ・エンジニアリング料金積算のための資料」を公開した。

この資料は、同協会の前身、日本パンチセンター協会が1971年より発刊してきた「データ・エントリー料金資料」の後継版。但し、今回のものは議論途上のべータ版という位置づけだ。

データ・セントリックな社会・経済が本格化し、AI利活用に向けたデータの重要性が指摘されている。しかし現状を見ると、データの標準化が進まず、ダークデータの混在、データ流出・漏洩・改ざんなど負の課題が顕在化している。



データ品質の4階層

 そこでJDEAは今回、データ・エンジニアリングにおける安心・安全/品質/信頼とガバナンス(SQT*G)、データ・ライフサイクル(DLCP)およびデータ品質の4階層モデル(Dark/Verifiable/Clean/Trust)を提唱、併せてこれを実現する人材と費用を定義した。

 そこから、1文字単価から人月単価へ料金が変更され、データクリエータ(エントリーオペレータ)の一人当たりの月売上高(人月積算目安)は80~85万円となると算定した。データ構造の調整、電子認証、電子証明など高度で複雑なニーズには有償のデータ・コンシュルジュ・サービスも提供していく、としている。

 同協会の河野会長は「データの生成現場ではいまだに、旧来のパンチカード由来の1文字当たりの単価ベースの積算と受発注が行われ、最低賃金を下回るケースも増えてきている。グローバルに扱われるデータには集合(実像、写真、合成、巡回等)や格付け(品質、信頼性、真正性、統治等)を意識した整理が必要だ」と述べた。



DLCP人材の職能配置

 今後、同協会では策定した「JDEA版品質評価指標」と「国際標準のデータ品質評価指標」を用いて、取引先と料金積算の合意形成に努めるとともに、DLCP人材の育成に努めていく。

【グッド・ポイント】
■銀座の会場、懇親会良かった
  • 案内時期が適切

  • 会長と担当者が出席し丁寧な説明がなされた。

  • 公開資料が配布されて理解しやすかった。

  • 会見場所が銀座で広さも十分あり、懇親会が良かった。

【要チェック箇所】
■作業困難さの説明が必要
  • JDEAさんの知名度が低いため、いきなり「料金積算資料の公開」というタイトルでは、インパクト不足で記事になりにくい。もう少し、現況の文字単価による労働環境や生産性、複雑な作業による作業の困難さの説明が必要。

  • データ生成環境の変化の実情をわかりやすく説明してほしかった。

  • いきなり経営コストの上昇といわれても、理解されない。働いている人の労働環境がみえず、会見で実際に働いている人の声も聴きたかった。

  • 日本ではなぜデータの標準化がとりわけ難しいのか? とか、データの4階層、Cleanであれば、精度が99.997%(誤謬率10万分の3)レベルの仕事をしているのだ、という協会の自負を示してもらいたかった。



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会見感想文(2025年4月)テクニコ LEDライト新製品


テクニコ会見でのデモ風景

山下 郁雄 【アウトライン】
●業務用の高機能LEDライトを発売-納入先ホテルでデモ
 テクニコ(大阪市中央区)は3月6日、東京・日本橋蛎殻町のロイヤルパークホテルで、業務用LEDライトの新製品を開発し5月下旬に発売すると発表した。自然光との近さを表す“演色性”や、照明対象物を魅力的に見せる照明演出効果を従来品より大幅に高めた。ホテル宴会場や各種の展示施設・店舗・式場などの需要を掘り起こす。



“演色性”が高いLEDスポットライト

 新製品「SL1MK-Ⅲ」は10年ほど前に製品化した「SL1MK-Ⅱ」をベースに、各面で改良・改善を加えた。①本来の自然の色をどれほど忠実に再現できるかを表す“演色性”の向上②無段階調光や楕円形の調光フィルターによる照明演出の高度化③冷却用内蔵ファンや内部温度センサーの高機能化による安全性の大幅アップ-が主な特徴となる。

 同社はホテルや商業施設の映像・音響・照明・空間演出を主力事業とし、各現場で同社エンジニアが演出業務などに携わっている。照明演出の現場の声を反映する形で2011年にLED ライトを自ら製品化し今日に至る。発表会場のロイヤルパークホテルは顧客先・納入先の一つで、同社製LEDライトが採用されている4F宴会場「琥珀」で発表会&デモンストレーションを行った。

 新型コロナ感染症が蔓延した期間中、同社も大きなダメージを受けたが、コロナ収束以降、業績は順調に推移。今回の新製品発表を機に、さらなる業容拡大を図る。

【グッド・ポイント】
●デモが充実、流れが自然で理解深まる
  • 会見全体の所要時間を1時間と設定し、その過半をデモンストレーションに割り当てた時間配分が良かった。発表会は午前と午後の2回実施。そのうち午前の部に参加したのは筆者を含め10名弱。デモンストレーション担当者は過不足のない配置で、各記者の質問に丁寧に応えてくれた。

  • 式次第は社長挨拶→新製品説明→デモンストレーション→質疑応答→フォトセッションの順番。会社及び新製品の理解を促すには自然な流れであり、実際、理解が深まった。


【要チェック箇所】
●シリーズもの、ver3をどうアピールする…
  • 新製品の位置づけというか、事業全体の中でどれほどの重みがあるのか、あるいはどういった役割を果たすかの説明がなかったのが残念。ライトのメーカーなら新製品の拡販が至上命題となるが、照明演出・空間プロデュースが本業だとすると、新製品が本業の活性化にどれほど役立つのか、新製品は既存顧客、新規顧客のどちらに訴求するかといったマーケティング周りの話を聞きたかった。

  • 新製品は従来品のシリーズもので、しかもバージョン3。となると、一般論としてニュースバリューはかなり低いと言わざるを得ない。そのため、今回のように、機能アップした点を訴求しても記者の食いつきは芳しくないと思える。それよりも、新製品発売のタイミングで販売方式を一変させる、あるいは照明演出の新方式を打ち出すといったサービス/ソフト面の新機軸をアピールする手立ては考えられなかったか。

  • コロナ収束後のインバウンド急増、ホテル新設ラッシュなど、時代の大きなうねりが本業にどう関わっているかの説明もほしかった。新設ホテルは宿泊がメーンで、宴会部門には力を入れていないとデモンストレーション中の雑談で教わったが、ホテル業が活性化しているのは間違いないので、その辺りの見通しを話してもらえれば、記者たちは興味深く聞いたはず。



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