「投資家の能力ってさ、どうやってわかるの?」

なるほど、いい質問です。

ある人の投資能力を推し量るとき、もっとも簡単な方法は、その人の金融資産保有額をみることです。

投資家としての能力があれば、いずれ金融資産は増えていきます。



「でも金融資産って、貯金しても増えるじゃん?」



いやいや、投資家としての能力があれば、サラリーマンが10年間働きづめで貯金し続けた場合よりも、金融資産は増えていきます。

簡単な計算をしてみましょう。

資産2,500万円の人が、10年間、年率15%で運用し続けたとしましょう。ちなみに生活費は別で稼いでいるとします。

このとき、10年後の彼または彼女の資産は、

 ・2500*1.15^10=10,114万円

になっていることになります。

たったの10年で夢の1億円超えです。

2,500万円くらいなら、いわゆる「貯金」(=銀行への貸付金という原始的な投資)でも、なんとか達成できます。

しかし、1億円となると、貯金で達成することは、一般のサラリーマンには不可能です。

ですので、サラリーマンがとうてい及ばないような水準にまで金融資産を積み上げていたのであれば、その人は投資家としての能力とその実績があると判断できるわけです。



「じゃあ、どの程度の金融資産を保有していたら、投資家としての能力・実績があると判断できるんだよ」
「1,000万円? 2,000万円? 5,000万円?」

そうですね、まずは以下の図表をご覧になってください。


20160806-1
http://www.nri.com/jp/news/2012/121122.html

これは、野村総合研究所が2012年11月12日に発表した、2011年時点での日本人の金融資産の保有額の分布です。

この表では、日本人全世帯を以下の5分類に分けています。

 ① 超富裕層: 純金融資産5億円~ 5.0万世帯
 ② 富裕層: 純金融資産1億円~5億円 76.0万世帯
 ③ 準富裕層: 純金融資産5,000万円~1億円 268.7万世帯
 ④ アッパーマス層: 純金融資産3,000万円~5,000万円 638.4万世帯
 ⑤ マス層: 純金融資産~3,000万円 4,048.2万世帯

ここで「純」金融資産というようにあたまに「純」がついていますが、これは金融負債を除いた純額であることを意味しています。

これによれば、日本人全世帯のうち8割が「マス層」です。

逆に「超富裕層」「富裕層」「準富裕層」など「富裕」の名称がつくグループは、全体の7%にすぎません。




「てかさ、この野村総研の調査した数字って、信用できるのかよ」
「どうやって調査したのかわかんなくない?」

なるほど、いい視点です。

世の中の数字を疑いもせず真に受ける方は、投資家には向いていません。

ではこの野村総研の数字を、簡単に検証してみましょう。

公認会計士が実施する財務諸表監査の手法を使ってみます。




以下は日銀が公表している資金循環統計です。
https://www.boj.or.jp/statistics/sj/sjexp.pdf

これによれば、家計の金融資産および金融負債の状況は以下のようになっています。

・金融資産: 1,598兆円
・金融負債:  356兆円

したがって2013年9月末の日本人全世帯の純金融資産は以下のように算定されます。

・純金融資産(日銀の統計): 1,598-356=1,242兆円




かたや、さきほどの野村総研のデータにもどりましょう。

野村総研の図表によれば、2011年の日本人全世帯の純金融資産合計額は、以下のようになります。

・純金融資産(野村総研の調査): 44+144+196+254+500=1,138兆円




というわけで、1,138兆円÷1,242兆円×100=91.6%ですから、そこそこ両者には整合性があるといえます。

異なるソースデータを用いて両者を突合する――これが公認会計士の財務諸表監査の一手法です。

もちろん2011年と2013年では日本株の株価が全く異なりますから、保有株式の値上がりも考慮すれば、両者はかなり近くなります。




「なるほど、で、じゃあどこで線を引くんだよ」
「3,000万円? 5,000万円? どこからが投資家としてプロなわけ?」

たしかに線の引き方は人それぞれでしょう。

しかし、人は高齢になればなるほど、資産を蓄えていきます。

大富豪と聞いて、渋谷のチーマーの姿を思い浮かべる方は稀でしょう。

日本人のうち、2割強は高齢者(65歳以上)です。

かたやさきほどの野村総研の調査でも、2割近くは3,000万円以上保有していることになります。

もちろん、高齢者はすべからく3,000万円保有しているわけではありません。

が、3,000万円以上保有しているアッパーマス層であれば、高齢者――つまり、引退したサラリーマンのレベルに達しているといえることになります。




「でもさ、若くして成功した人だって、結構いるんじゃない?」
「ほら、ホリエモンとか与沢翼とか、芸能人なんかも」
「だったら、年齢と資産総額って、あまり関係なくない?」

いえいえ、そんなことはありません。

以下の調査報告をご覧になってください。

これはメリルリンチ・グローバル・ウェルスマネジメント社とキャップジェミニ社が2011年に公表した「World Wealth Report」です。

http://www.muml-pb.co.jp/companypro/document/2011/2011_06_23_JOrignal.pdf

このレポートの23ページによれば、日本人富裕層(ここでは投資可能資産100万ドル≒1億円以上と定義)の年齢構成は、以下のようになっています。

・75歳~: 15%
・66歳~75歳: 32%
・56歳~65歳: 33%
・46歳~55歳: 13%
・31歳~45歳: 7%
・   ~30歳: 1%

合計すると101%にしかなりませんが、端数処理の関係ですので、ご容赦ください。

このデータの意味することは、明らかです。

つまり日本人の富裕層の93%は45歳以上なのです。


日本人の富裕層の80%は55歳以上なのです。




「てゆーか、5,000万円くらいあったら、働かなくても投資収益だけで生きていけるじゃん」
「だって、5,000万円×15%=750万円だぜ。投資収益だけでサラリーマンの平均年収を軽く上回っているだろ」
「だったら、5,000万円あったら、プロ投資家といってもいいよな」

なるほど、いい着眼点です。

たしかに江戸時代の武家層は、概ね人口の7%程度といわれています。いまの日本でいえば、全国に対する東京23区の人口の割合に近いでしょう。

かたや、さきほどの野村総研の調査によれば、5,000万円あれば人口の上位7%程度に入っている計算になります。

ですので、5,000万円以上保有している準富裕層であれば、江戸時代の武家階級と同じレベルに達しているといえることになります。

そうすると、「マス層」は農民階級、「アッパーマス層」は町民階級ということになるかもしれません。あるいはいまの日本でいえば、「マス層」は地方居住者、「アッパーマス層」は23区以外の南関東居住者ということになるかもしれません。

だてに5,000万円以上で「富裕層」の名がついているわけではないのです。




「で、なんで投資リターンは年率15%なの?」
「俺、去年のリターン30%超えた」
「『インベスターZ』っぽくいうなら、15%くらいじゃ『コンサバね』って感じ?」

いやいや、これが限界なはずです。

その点は当ブログの記事「バフェット氏の生涯投資収益率③-バークシャー社の50年間のリターン 」をご覧ください。

このブログの記事で計算した通り、著名投資家のウォーレン・バフェット氏ですら、日本円に換算すると48年間の実績は(インフレ率控除後、日本円ベースで)年率13%のリターンでした。

これ以上出せると思い込むのは、いくらなんでも非現実的でしょう。




今までの話をまとめますと、
・普通の人は65歳で3,000万円を達成している。
・なので、優秀な投資家と定義するには、3,000万円超(たとえば、次のステップである5,000万円)は必要。
・一方、富裕層世帯主のほとんどは45歳以上。
・なので、45歳以下で5,000万円を達成していれば、優秀な投資家。

といったような感じになります。

ポイントは、金額だけでなく、年齢も考慮することですね。

実際、5,000万円の投資可能資産を投資して15%のリターンを上げれば、それだけで食べていけますので、プロ投資家といっていいでしょう(注:ちなみに、金融商品取引法における個人のプロ投資家の定義は3億円以上です)。

そして投資可能資産を100万ドル以上保有している世帯の93%が45歳以上であることを鑑みると、45歳までに1億円を達成していればある意味人生の成功者です。

100万ドル以上保有している世帯の80%が55歳以上であることも考えると、55歳までに1億円を達成しても成功者と呼べるでしょう。




もちろん経済的な成功は、人生の成功の構成要素の一つにすぎません。




たとえばキモいビジュアル(ハゲヒゲデブメガネなど)を避けることも、人生の成功の構成要素でしょう。

健康を維持することも、人生の成功の構成要素でしょう。

1億円を達成しながら健康を害して45歳で生活習慣病に倒れては、成功した人生とは言えないのは明らかです。

塩分の多い食べ物(ラーメン干物)やタバコに溺れて50代や60代かそこらで生活習慣病に倒れては、人生の成功者とは呼べません。

とはいうものの、金融資産が5,000万円、1億円とある人は、スポーツクラブに通い、運動筋トレに励む経済的・時間的余裕があることでしょう。

また金融資産が5,000万円、1億円とある人は、世界有数の長寿国であるフランスや日本の料理(フレンチ和食)を楽しめる経済的・時間的余裕があることでしょう。

HDLが40mg/dL、いや50を下回ることすらなくなるでしょう。

世の中の経済的な成功者の中には、精神年齢が低く、健康を維持することの大切さを理解できない方もいらっしゃいます。

しかし経済的な成功は、本人の精神年齢が高ければ、健康を維持することにもつなげることができるというわけです。



「いや、俺は太く短く生きるぜ!」
「健康になんか気をつかってられるか! 過労死してでも出世するぜ!!」
「目標、スティーブ・ジョブズ!!!」




いやいや、徳川家康の例をもちだすまでもなく、「無事これ名馬」です。

武田信玄や豊臣秀吉は戦闘能力には優れていましたが、家康ほどには長生きできませんでした。

信玄は三方ヶ原の戦いで家康を討ち取る寸前までいきましたが、戦いの途中、1573年に52歳で病没しました。

秀吉は息子秀頼が幼少のうちに病に倒れたため、家康に全権を与えて、1598年に61歳で病没しました。

その結果彼らは武田幕府や豊臣幕府を創設することなく、栄華は一代限りで終焉しました。

逆に家康は運動や摂生が健康によいことを知っており、鷹狩りと生薬に精通していました。

平均寿命が30歳前後の時代に73歳まで生きた家康は、長生きするために精進し、徳川幕府を創設し、抵抗勢力・豊臣氏を滅亡させるところまで見守りました。

健康管理の大切さを知っていた家康は、民度(=精神年齢)の高さで他の諸大名を圧倒していたのです。

このことが徳川幕府260年の存立基盤を固めたことは、言うまでもありません。





それでは、優秀な投資家を目指して、これからも切磋琢磨を続けましょう。