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 ホテルでの朝、波のさざめきで目が覚めた。外は青い光の夜明け。僕はベッドから抜け出すと、白いレースのカーテン越しに海を見た。海はきのうとまったく表情を変えていなかった。でもどこか新鮮な感じがした。

 顔を洗い、歯を磨いてから、まだベッドの中でぐずぐずしていた父さんに行き先を告げ、僕はひとりで散歩に出ようとした。すると父さんに「ここは外国で治安が良くないから、ホテルの敷地からは出るなよ」と呼び止められた。僕は「わかったよ父さん」と返事をし、そのまま部屋を出た。

 吹きさらしになっている開放的なロビーに下りてきたところで、海が僕を呼んでいた。

 芝生の敷地とプールの脇を抜け、プライベート・ビーチに出ると、そこにはエメラルドグリーンとオーシャンブルーのハワイの海が待っていた。

 東の空を振り仰ぐと、ちょうど朝日が昇るところだった。うっすらとバラ色に染まった漂う雲の切れ間から、金色の曙光が射し、惜し気もなく無償の財宝をこの世界に投げ掛けていた。

 この静かな気持ちはいったい何だろう?

 僕はこの限りある時のうちの永劫を、うつろいゆく時の美しさの中に、しっかりと繋ぎとめた。

 今日、そう、いよいよこの日が来たんだ。その時は、はじまりは静かで、やがて勢いを増す日輪のように白昼の闘いへと移行してゆく。しかし僕は、その輝ける時がどのように過ぎてゆくのかを知らない。

 コンピュータと人間との闘い。それはコンピュータを生み出した、人工知能の実現を志す人間と、己の頭脳の限界に挑戦する専門棋士との闘い。

 計算力では人間を遥かに凌駕するコンピュータに対して、人間が勝るもの。それは読みを省略する能力「直観力」だ。

「直観力」とはいったい何なのだろう?

 この神秘の能力を解き明かすことが、これからの僕自身の「闘い」なんだ。

 すべては神様のお導きのままに――。僕の想いは朝焼けに染まった雲の彼方に、海原を渡りゆく潮風によって運ばれ、そして広大無辺の大空の中に溶け込んでいった。

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弓月城太郎によるSF小説『神秘体験』では精神世界と科学の融合が正面から取り上げられていますが、個人的にはコンピューター将棋を取り上げたシーンが何といってもイチオシです。

いつコンピューターが将棋のチャンピオンを倒すことができるのかは科学の世界では大きな話題になっていますが、そんなテーマが『神秘体験』では正面から取り扱われています。

進化したコンピューターに人間は勝つことができるのか?将棋ファンなら必読と言えるのではないでしょうか。読んでいるとついつい人間を応援したくなります。



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