2005年07月28日

2決算が締まらない(2)

 ライズ社の決算月は5月です。法人税の申告は決算日の2月後です。7月までに仕訳を入力して決算書を作成しなければなりません。その後に法人税や消費税、地方税などの申告書を作成して税務署に提出です。

 取引件数は少ないようなのですが、現預金に多額の動きがあるようです。分かっているのは現金と預金の残高だけです。経理経験のある人ならあせるところですが、三浦課長は泰然自若です。

私「この多額の仮払金はどういう内容ですか?いっけんあたりの金額が大きいですね。仮払精算書を見せてください。」

 仮払精算書とは誰が、いつ、いくら、仮払金を出金してそれを何のために、いくら使って、そのお金を誰に渡して、返金はいくらか明細が書いてある書類です。今の現金出納帳は、例えば仮払金出金100万円、そのうち戻ってきたお金について仮払金入金30万円と記載されているだけです。差額の70万円が何のために使われたか、調べないと経理処理できません。

三浦課長「当社は毎日、高額の商品を現金買取で仕入するので仮払金が発生するんですよ。現金残高はきっちり合ってます。仮払精算書はこうしてしっかり保管してあります。」

 いただいた仮払精算書をざっとめくってみます。ある伝票で手が止まりました。仮払出金50万円、支払金額30万円、返金額0円、残高0円と記載されています。仮払出金が50万円で支払金額が30万円ですから、差引20万円の返金がないとおかしいわけです。添付されている領収書も30万円です。三浦課長に、この伝票はおかしくないですか?と聞きます。

三浦課長「あ〜、先生この伝票は大阪の伝票ですよ。大阪の責任者はよく分かっていませんからね〜。あっ、この社員、もう退社してますよ!」

 郷原会長が怒ったときの顔が頭に浮かびます。私に怒ることはないのですが、部下にはものすごい剣幕と迫力で怒鳴ります。この事実関係をどう報告するか・・・・。考えるだけで嫌になってきます。
(このブログは毎週木曜日に更新予定です。)
  

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2005年07月21日

2決算が締まらない(1)

 ライズ社の決算月は5月とのことです。業務を受託したのが5月ですから、早速業務開始です。まずは現状確認です。
経理の責任者は三浦課長という方です。

 既に三浦課長には説明してあるという話です。挨拶がてら経理に向かいます。
経理は会長室の隣にありました。ノックをすると「ど〜ぞ」と返事があったので入室します。

 3畳くらいの広さでしょうか、グレーの机があり入り口に向かって三浦課長が座っています。小柄で白髪の、かなり高齢なお爺ちゃんです。まじめで堅そうな雰囲気です。65才くらいでしょうか。横に大きな金庫がおいてあります。
 
 挨拶をして、さっそく経理の状況について教えてもらいたいとお願いします。できれば帳簿も見せてくださいと付け加えます。
 
 課長は黙って手書きの帳面を一冊手渡してくれます。よくみるコクヨのノートです。表紙に『金銭出納帳』と記載されています。

 開いてみると記入欄が科目、収入金額、支払金額、差引残高に区分されています。よくある現金出納帳です。科目の欄を見ると、すべて仮払金と記載されています。偶に預金引出しとして多額の金額が記載されています。

 預金引出1000万円、仮払出金100万円、仮払入金70万円、仮払出金200万円、仮払入金30万円  残高800万円という具合です。
仮払金とは、仕入担当者や営業担当者に対して、仕入代金や経費精算のために仮に渡す金額です。これでは、いったい何にお金を使ったのか分かりません。
少し不安になってきました。

私「これだけですか?経理ソフトはどこにあるんですか?」
課長「現金残高はぴったりあってます。経理ソフトって何ですか?私はコンピューターのことは分かりません。」
思わず、「だまされた・・。」と呟いていました。

(このブログは毎週木曜日に更新予定です。)
  
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2005年07月19日

1上場支援受託(2)

 郷原会長が上場を手伝って欲しいという会社は、宝石や時計、バックなど有名ブランド品の買取販売会社だそうです。
 実務は郷原会長の片腕の津島社長に任せているので、社長に話を聞いてほしいとのことです。

 翌日、麹町にある本社を訪ねます。入り口に大きな看板があり、スカイブルーに白抜きの文字で会社名「ライズ Rise co.Ltd」と表示されています。

 応接室で待っていると、ほどなく津島社長が入ってきました。精悍で、見るからに切れ者の雰囲気です。
社長「ライズは中古品の買取販売の会社ではありません。日本初の情報商社なんです。消費者側と供給者側、双方の情報を収集しダイレクトセーリングを可能にします。アメニティ、テレマーケティング、これから次々に新規事業を展開します。可能性は無限大です。」

社長「もうすでに500万の顧客データに対して情報提供を行っており、全国各地に直営店、FC店を配置します。無在庫流通を実現し、日本に流通革命を起こします。先生、そのために経理体制を立上げて下さい。」

 なんだかワクワクしてきました。さらに話は続きます。

社長「証券会社、監査法人、IR会社、ベンチャーキャピタル、生命保健会社すべて一流の会社の最も優秀な人材を採用します。上場後は、金融、不動産、人材派遣にも事業展開します。経済研究所も設立する予定です。」

私「分かりました。当面、新しい仕事の依頼があっても受けないようにします。上場まで週3回くらい訪問させていただいて、支援させていただこうと思います。」
 つい経理の実態も聞かずに受託してしまいました。ところで、ここの経理はどうなっているのでしょうか?

(今回は、臨時公開です。通常は毎週木曜日に更新予定です。)

  
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2005年07月14日

1上場支援受託(1)

 もう10年以上も前の話です。朝起きるとなぜか勤務していたアカウンティングファームを退職する気持ちになっていました。
(アカウンティングファームとは、国際的な大型の会計事務所を総称する言葉のようです。)
 2度目の退職です。最初のときは、メーカーの管理会計から税理士業務への転職でした。あまり先のことを考えて転職を思いついた訳ではありませんでした。
後で考えると何か新しい仕事がしてみたくなったのがいちばんの理由のような気がします。
 ほどなく退職が決まり、今までおせわになった「ある経営者」の方に挨拶にいきました。

 あいさつにお伺いした経営者の郷原会長は大学卒業後すぐ独立して30代前半で既に売上1千億円以上のグループ会社を経営していたそうです。まだ40代前半です。
ただ急成長した他の会社にもれず、管理体制が追いついていませんでした。
経理がかなり混乱していたため私に依頼があり、経理体制構築のコンサルティングをしていました。

 実は、かなり真剣に取り組んだのですが、さっぱり実績を上げることができず嫌気がさしていた会社です。
私は多少、肩の荷が降りた気分で、会社を退職すること、現在の会社との関係で契約を継続するのが不可能なことを説明しました。

郷原会長「いやあ、この会社はもういいんですよ。それより今度、新しい会社を創ります。この会社は急成長しますよ。そのまま上場まで持っていきます。
先生が退職されるのはラッキーですよ。是非、手伝ってください。お願いしますよ!!!」

 想像していたのと随分と雲行きが変わってきました。
散々苦労させられた会社です。悪い予感がしました。
 ただ一から立ち上げる会社のようです。今度こそ納得できそうな仕事ができそうな期待もあり複雑です。

(このブログは毎週木曜に公開予定です)

  
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