2005年11月24日

5企業買収(M&A)(11)

 深夜2時を過ぎています。
報告会の空気は、一気に緊迫してきました。
弁護士が、おそるおそる切り出します。

弁護士「今回の法務監査では、時間的な制約がありまして、私どアーンダーセン古川といたしまして、最大限の努力を・・・」

郷原会長「何十億もの買い物なんです。後から、経営陣が嘘をいってました、じゃ困るんです。だいたい、彼らが証言したという証拠は残してくれたんですか?」

弁護士「も、申し訳ありません。早朝に、先方に訪問させていただいて、説明内容に間違いがないことについて書面で確認させていただきます。」

 会議テーブルの横のソファーに控えていた山二証券の山下次長が、おもむろに発言します。

次長「先生、我々としてもそれは是非お願いしますよ。ところで、買収監査ではとりたてて大きな問題はなさそうだ、という気はします。いかがでしょう本日は、もう遅いですし、早朝のこともありますので、また翌日ということにしませんか?」

さすが場数を踏んでいるだけあって、妙な説得力があります。
場の雰囲気が変わってきました。


(このブログは毎週、火曜日と木曜日に更新予定です。)  

Posted by cpiblog01214 at 08:55Comments(1)TrackBack(0)

2005年11月17日

5企業買収(M&A)(10)

 会計監査の報告が終わり、次は法務監査の報告です。
オブザーバーとして立ち合っていた私としては、少し不安になります。
その後、蓮谷社長の協力は得られたのでしょうか?

 有名な法律事務が優秀な弁護士を4人も投入しているのですから、しっかりとした報告をしてもらいたいものです。

 弁護団の責任者的な立場だった方が報告を始めます。

弁護士「私どもは法務買収監査提出書類リストに記載の各項目について蓮谷社長と総務部参与の方に必要事項の聴取を行いました。

尚、留意事項といたしまして当事務所は監査書類が完全かつ正確であることまでは確認できておりません。

以下、経営管理制度から説明させていただきます・・・」

 以下、説明が延々と続きます。

弁護士「○○○に関しては、社長は×××と申しておりました。

○○○に関しては会社の説明では×××となっているそうです。」

郷原会長の顔が険しい表情になってきました。

郷原会長「おたくらは子供の使いか?」

弁護士「はい?」

郷原会長「さっきから聞いていると、“社長がこういってる”ばかりじゃないですか。何百万もかけて、ただ社長の話を聞いてきただけですか?

いってることの証拠はないんですか?

相手の話しを聞くだけなら小学生だってできるじゃないですか!

そんな報告で十億以上もの買い物をする側の立場になって見てください!!」

正論です。弁護士の顔が青ざめます。

僅かに震えています。

(このブログは毎週、火曜日と木曜日に更新予定です。)
  
Posted by cpiblog01214 at 08:00Comments(0)TrackBack(0)

2005年11月15日

5企業買収(M&A)(9)

 買収監査もようやく終わりました。
こういう話はスピードが命です。もたもたしていて、情報がもれたらインサイダー取引で問題になったり、買収を妨害して儲けようとする筋の人が介入してくる可能性もあります。

 買収監査の翌日の深夜11時から買収監査の報告会です。
KMMCもアーンダーセン古川もたった一日で報告書を作成してレビューしなければいけないのですから大変です。

 報告会の場所は、会長室のミーティングテーブルです。席数が不足しているため証券会社と数名の方はテーブルの脇のソファーセットに陣取ります。

 まず会計監査の報告ですが、資産、負債は健全とのことです。
これは実際に私も立ち合いましたので、間違いありません。
ただ、これからどうやって利益を出すかについては、何の保証もない訳です。

 ただ適格退職年金の積立不足が5千万くらいありそうだ、とのことです。
上場会社は社員の福利厚生のために年金を積み立てているのですが、利回りが思ったようにあがらず、現在の積立額では足りなくなっているという指摘です。

 この問題は、どの上場会社も抱えている問題です。

 会計監査の報告は、一応無事に終了です。

 時計を見ると深夜0時を回りました。

(このブログは毎週、火曜日と木曜日に更新予定です。)
  
Posted by cpiblog01214 at 08:00Comments(0)TrackBack(0)

2005年11月10日

5企業買収(M&A)(8)

 買収監査三日目です。突然、蓮谷社長が話しかけてきます。
何故か私には好意的な表情です。

私も個人的には、技術者然としていて、筋を通すタイプの蓮谷社長みたいな方は好きです。
社長室で少し話をしたいといいます。

 上場会社といっても社長室は質素な造りです。
創業30年以上の上場会社なのに売上は30億程度です、成長性よりも収益性を重視し堅実経営に徹してきたようです。

 見方によっては、親会社に頼りすぎて親会社が斜陽になって何年も経つのに現経営陣は何の対策も打てていないようにも感じます。

蓮谷社長がぼそりと切り出します。

蓮谷社長「ライズ社とはどんな会社ですか?」

私「まだ創業2年を経過したばかりですが、急成長している会社です。

宝石や時計、バックなど有名ブランド品の買取販売という新しい業態を展開しています。
社員の平均年齢は20才代ではないでしょうか。」

蓮谷社長「郷原会長はどんな人ですか」

私「最近成長が著しいベンチャービジネスの起業家のひとりだと思います。

ソフトブックの得さんとか光コミュニケーションの重畑さんとかも知り合いだと思います。」

 意に反して蓮谷社長は苦り切った表情になります。

蓮谷社長「そんな輩ですか・・・」

 流石に、この反応はライズ社に報告する自信はありません。

(このブログは毎週、火曜日と木曜日に更新予定です。)
  
Posted by cpiblog01214 at 08:00Comments(0)TrackBack(0)

2005年11月08日

5企業買収(M&A)(7)

 今年の夏は猛暑です。世間はお盆休みの最中ですが、個人事業者の私には休んでいる暇もありません。

本日は、買収監査2日目です。

(現在は、「デューデリジェンス」といわれますが、当時はそのような言葉は使われていませんでした。)

 製品別の売上の推移と粗利を調べていると、法務監査のほうで蓮谷社長と担当弁護士が口論になっています。

蓮谷社長「そんな大事な契約書は、見せることはできないよ。」

弁護士「しかし、法定監査をする上では欠かせない書類です。開示していただけないでしょうか?
ライズ社さまからのご依頼ですし・・。」

蓮谷社長「ライズ社、ライズ社って、まだ親会社になると決まった訳じゃないじゃないですか。今の段階で、いきなり重要機密書類を出せて言われても、出せんよ!」

弁護士「もしご提出いただけない場合は、蓮谷社長が開示を拒まれたので調査することができなかった、と報告させていただくことになります。」

蓮谷社長「役員会で検討させてもらうよ。」

雰囲気から察すると、現社長はライズ社に買収されることは本意ではないようです。

現社長の協力は得られそうにありません。

儲かっていないし御高齢のようですから、場合によっては退任するつもりかもしれません。

こんな会社、私なら買わないな〜。

(このブログは毎週、火曜日と木曜日に更新予定です。)  
Posted by cpiblog01214 at 08:00Comments(0)TrackBack(0)

2005年11月03日

5企業買収(M&A)(6)

 会計監査が始まります。荷台で大量に運ばれてきた資料を会計士が着々と確認していきます。小黒取締役も会計士のメンバーも手際がよく、順調のようです。

帳簿類にざっと目を通してみますが、堅実で精密で内部管理体制はしっかりしているようです。

小黒取締役に気になっていることを、それとなく聞いてみます。

私「製品別の売上・粗利実績表を拝見すると、今期は売価がダウンしているのに仕入単価は上がって収益は悪化していますね」

取締役「仕入単価が上がっているのは、為替相場の影響です。売価が下がっているのは消耗品が価格競争になってきているためです。」

私「それでも機械は4割から5割の粗利を確保できていて、好採算ですね。この粗利は維持できるのですか?」

取締役「今の親会社が経営不安なものですから、今後1年間は製品を供給してもらえる契約になっているのですが、その後は難しいと思います。
今後は国内メーカーからのOEM製品が中心になります。」

私「・・・・・それじゃ、高利益を確保するのは難しいですよね。」

取締役「厳しいでしょうね・・。」

 小黒取締役は、かなり正直な方のようです。

それにしても主力製品を調達できなくなるような会社を買収して、大丈夫なのでしょうか?
(このブログは毎週、火曜日と木曜日に更新予定です。)
  
Posted by cpiblog01214 at 08:00Comments(0)TrackBack(0)

2005年11月01日

5企業買収(M&A)(5)

 企業買収を実施する際には、事前に弁護士による法務監査と公認会計士による会計監査が行われます。

 株式の取得に多額のお金を使った後で、買収した会社が係争事件を抱えていて、多額の損害買収を払うことになったり、簿外負債といって帳簿に記載されていない負債を抱えていては大変です。

 法務監査、会計監査では以下のようなことを調査します。

法務監査

・経営管理制度は整備されているか
・文書管理の状況
・経営権が異動した場合の諸契約の規定
・経営上重要な契約の内容
・組合の有無や労使関係など人事労務関係の調査
・登録商標など知的財産のライセンス関係など

会計監査

・決算書の適正性と修正すべき事項
・資産負債の実在性の検証
・含み資産、含み負債の調査
・税務申告の内容と適正性

 これらの調査には収益分析と予測の検証は含まれないのが通常のようです。
現況調査が主になります。

 どうも私の仕事は、監査状況の報告と、収益分析などになりそうです。



(このブログは毎週、火曜日と木曜日に更新予定です。)


  
Posted by cpiblog01214 at 08:00Comments(0)TrackBack(0)