エレクトーンが生まれてほぼ50年。国内には多数のプレイヤーが存在するけれど、平部やよいさんは、そんな中でも一度ライブで聴いてみたかったエレクトーン奏者だった。
1959年東京生まれの平部さんは、ジュニアの時から輝かしい活動を始め、様々なコンクールでも受賞歴をもつベテランなんである。

以前のことなんだけど、ミヨーの「ルネ王の暖炉」という曲が聴きたくて、たまたま買ったヤマハ木管五重奏団のライブ録音のCDに、これまたたまたま平部さんの「燦〜The sunlight is playing on the leaves and a stream,and is singing in the wind〜」という自作の作品が入っていた。
その頃ちょっと切ない恋をしていて(汗)、、この「燦」というファンタジックでちょっぴりセンチメンタルな曲、特に静かな中間部でフルートとエレクトーンが寄り添うように語らうところなど、俺の心にすごく沁みたんですね。
結局ミヨーそっちのけで、何度も何度も聴き返す作品になった。
きっと人それぞれ、そういう思い出の曲、みたいなものがあるんじゃないかな?
今でも、この「燦」を聴くとキュンとなってしまうんだなぁ、俺。。

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平部さんは1989年から“Chamber Tone”というリサイタル・シリーズをほぼ隔年で開いていて、そこでとても興味深いのはエレクトーン以外の楽器の、それも一流のプレイヤーとコラボをしていることだろう。
今回は、サックスのトルヴェール・クヮルテットをフィーチャーして、エレクトーン・ソロ(使用楽器はELS-01X)や、オリジナルのサックスのための作品も演奏された。

平部やよい:4つの自我(for Saxophone Quartet and Electric Organ)
        暁の光にも似て(for Electric Organ)
        - インターリュード(for Electric Organ)-
        Möbius Circle(for Electric Organ)
        研ぎ澄まされた月(for Alto Saxophone and Electric Organ)
         Reflection of Mind(for Soprano Saxophone and Electric Organ)
         Sound Gallery(for Electric Organ)
         黎明(for Electric Organ)
バーバー:ピアノ・ソナタop26より第2、4楽章
平部やよい:Dice(for Saxophone Quartet)
         輝きのルーツ(for Saxophone Quartet and Electric Organ)

プログラムの最初は、トルヴェール・クヮルテットのみの演奏による「4つの自我」。
これはタイトルの通り、4種のサックスの音域、音色の個性、そして何より個々の奏者の個性を浮き彫りにするような作品だ。
トルヴェール・クヮルテットが見せる4人のアンサンブルのぶつかり合いのエネルギーは拡散的で溌剌としているんだけど、どうも音色的な美感や滑らかさに欠けるため硬質で刺激的に聴こえてしまう。
むしろ後半に演奏された「Dice」という新作での、コロコロと転がるようなリズム感とメロウな旋律線が交互する響きの中で生まれる明るいカラーはトルヴェール・クヮルテットの持ち味に相応しく、人生肯定的で楽しかった。

また、トルヴェール・クヮルテットのメンバーの須川展也さんのソロによる「研ぎ澄まされた月」では、青白い月の形や望遠で見たそのクレーター、そして水のイメージが入れ替わるように舞台のバックに映像として映し出される。
そんな映写を背後にして、アルト・サックスとエレクトーンの深々としたオーラを放つコラボは、オーロラの揺らめきのような色彩感と無重力に漂うかのような音空間を演出してゆく。
ソプラノ・サックスとエレクトーンのための「Reflection of Mind」は、幾何学的な音の絡みを特徴としているようで、いつもせかせかした感じが人間的で面白く、サックスにはスラップや重音などの特殊奏法が時折顔を出す。
バックの映像も、クレーやカンディンスキーのような色彩のタッチをちょっと淡くしたようなシュールな絵を交錯させながら、不思議な感じを出していたなぁ。

平部さんのエレクトーン・ソロでは、黄金色の小さなリングが知恵の輪のようになったり、大きな円形を形作ったりするグラフィックな映像をバックに演奏された新作「Möbius Circle」の迷宮的でダイナミックな感じが魅力だったし、広大で凛とした空気感がストリングスのような音色で綴られる「暁の光にも似て」の降り注ぐような美しさは、優しくて印象的。
「Sound Gallery」のキャッチーなメロディーを彩る艶やかで透明な音色も心地良かったし、「黎明」のモティーフ操作による無調で交錯的な音楽は、なかなかストイックだ。

また平部さんにはピアノの作品をリダクションしてエレクトーンで演奏するというライフ・ワークのようなものがあって、今回は何とバーバーのピアノ・ソナタ。
抜粋ではあったけれど、第2楽章の超クールで駆け抜けるような音楽を4つのスピーカーを使って様々な方向性で鳴らすサラウンド的な音空間は、すごくミラクルな世界。
フーガの第4楽章では、3つの声部が音色の違った描き分けでカラフルに仕上げられていたけれど、原曲のモノトーン的な禁欲性とシャープな運動性は後退していたのはちと残念だった。

プログラムのラストの「輝きのルーツ」は、トルヴェール・クヮルテットと平部さんによる演奏。
エレクトーンはピアノの音色を基調に、サックスの木管楽器としての暖かい音彩、また時に金管的なソリッドな響きと溶け合い、あるいはコントラストを成しながらゴージャスな作品を創り上げてゆく。
そこにもう少し繊細な味が加われば、より起伏ある音楽になったようにも思うんだけど。

アンコールは、須川さんのサックスとのデュオで、ジャズ・テイストの「マイ・ファニー・バレンタイン」、そしてエレクトーン・ソロで「キャッチ・ア・ビーム」。
最後のパワフルなコードまで、表情豊かな貫禄十分のプレイでバッチリ締めてくれた平部さんだった。

2008年3月21日 サントリーホール ブルーローズ

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