副題?小さく背表紙には「しっそう×ホリデイ」と書かれている。
表題作と、「しあわせは子猫のかたち ~HAPPINESS IS A WARM KITTY~」
の二編が収録。

手にとってすぐにわかる、物理的に薄い本。
おそらくその見た目質量に同じくらい、薄ぺらい物語なのだろうと想像してしまったが、
そんなことはなかった。
とくに「しあわせは子猫のかたち」の方は短い文章に淡々とした情景描写ながら、
関わる登場人物の心がかなりよく書けている。
幽霊・死者など、既に死んだ人間が、死んだことに気がつかないまま
生きている主人公と生活する、という物語はこれまでにも何度か見たことがある。
大島弓子の「ページワン」では、主人公には普通に生活する姿が見えるのに
他人には全くその姿の見えない同居人の姿が描かれていたし、
吉田秋生も「ナサナエルの肖像」で、特徴的な姿の、他人には見えない隣人が物語にされた。
厭世的な主人公が、他人との付き合いから離れているうちに
霊と生活する、というのは割とメジャーなのか?と思ってしまう。
もしかしたら今昔物語とか徒然草なんかに話があるのかもしれないな…。
(設定的には坂田靖子あたりは確実に描いてそうだが、パッとタイトルが出てこない。年だな)

「しあわせは子猫のかたち」の完成度の高さ、読後感があまりにすっきりしているため
表題作「失踪HOLIDAY」のほうは今ひとつ冗長な感があった。
挿絵の感じからも、少女漫画を読んでいる気分。ただし前半まで。
ラストのどんでん返し、「しあわせは子猫のかたち」のほうもそうだったが、
推理小説的謎解きをこういう話に混ぜ込んでくるのがこの作者なのか。
楽しそうな主人公の姿が見られる偽装失踪の前半と、後半の狂言誘拐の演出の緊迫感で
十分な面白さを感じていたため、このラストはなかなかの衝撃を受けた。

それにしても「しあわせは子猫のかたち」の、ラストの手紙は良いものだ。
前出の「ページワン」の手紙のように、他人が見たら真っ白な紙だった、
などという落ちがついたらこの読後感はなかった。
子猫のラストだけはちょっと納得がいかないが、ヒロインと主人公と子猫との生活ぶり、
コミュニケーションの方法も、主人公の不思議な同居人を淡々と受け入れるあたりも、
主人公の過去のわだかまりが氷解するシーンも、短編なのにしっかり書いてあり良し。

良作。特に前半はほぼ文句なし。
物理的に薄いが、内容は濃い本だった。
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