2005年12月15日

SAYURI

原題『MEMOIRS OF A GEISHA』
主演チャン・ツィイー、大後寿々花、渡辺謙、ミシェル・ヨー、コン・リー、役所広司、桃井かおり、工藤夕貴
監督ロブ・マーシャル
脚本ロビン・スウィコード、ダグ・ライト
製作2005年、アメリカ

芸者の追憶
貧困から置屋に売られ、一人の男を思い続けながら、花街一の芸者になった女の人生を描いた作品。原作はアーサー・ゴールデンの小説『さゆり』。
昭和初期の頃、貧しい漁村の貧しい家に生まれ、母は死の病に臥しているという境遇にあった佐津と千代(大後寿々花)の姉妹。二人は父親に京都の花街に売られる。千代は置屋に、姉の佐津は女郎屋に売られて、姉妹は引き離されてしまう。置屋には初桃(コン・リー)という花街一の売れっ子芸者がいたが、初桃は九歳の千代をことあるごとにいじめる。千代は姉に会いたさに何度も逃げようと試みるが失敗、芸者になる道さえ閉ざされて、下働きとして辛い労働の日々を過ごしていた。そんな時、街で見かけた千代に優しくしてくれた会長(渡辺謙)と呼ばれる紳士がいた。千代は人の優しさにふれて生きる希望を見出し、会長との再開を夢見て成長していく。月日は流れ、千代(チャン・ツィイー)は十五歳になる。一流芸者豆葉(ミシェル・ヨー)が美しく成長した千代を芸者として育てたいと申し出たことで、千代の人生は一変する。やがて千代は芸者になってさゆりと改名し、花街一の芸者へと変貌していくのだった…。
日本のもっともコアな文化である芸者の世界を、製作スティーブン・スピルバーグ、監督ロブ・マーシャルで製作したハリウッド大作の登場。しかも、主要な芸者三人がチャン・ツィイー、コン・リー、ミシェル・ヨーというチャイニーズの女優で(ミシェル・ヨーは中国系マレーシア人)、全篇英語という異例づくめの異色作である。
結論を言うと、私としては大満足だった。この映画に対しては色々批判もありそうだし、たしかに考証的には妙なところもあり、日本に似た、どこにもない国の物語、ファンタジーと考えた方がいいところもある。しかし日本文化のコアの部分を把握していると感じたし、何よりも絢爛たる映像世界が私の好みに合った。
主役クラスの芸者を演じた三人が中華圏の女優なのだが、チャン・ツィイーを筆頭に堂々の日本女性ぶりであった。中国女性の押し出しの強い存在感が、映画が求めるものにむしろハマったのではないかと思う。脇を固めた桃井かおり、工藤夕貴は、三人に比べると表情や目に力がないのは否めなかった。唯一、チャン・ツィイーの少女時代を演じた大後寿々花は、可愛らしさも存在感も素晴らしかった。チャン・ツィイーに面差しが似ていて、成長後との連続性を感じさせたキャスティングは偉い。
主役クラスの女優陣がチャイニーズなのに対し、男優は日本人で、渡辺謙と役所広司というこちらも豪華な顔ぶれ。さすがに作品を引き締めていた。
戦争を挟んで日本が一変する姿が描かれている。これはハリウッド映画なのだが、ヒットラーと組んでアメリカと戦争した日本のことを、ことさらに敵国として描いていないことも記しておこう。しかも、現在日本との間で大きな政治的葛藤がある中国の女優が日本女性を演じているのだ。アメリカに占領されて、アメリカの軍人を相手にする芸者の姿までを演じているのである。
コン・リーとミシェル・ヨーの演技力や妖艶な美しさも素晴らしかったが、チャン・ツィイーが文句なしだった。これまでの彼女の作品の中でいちばん好きかもしれない。
(☆☆☆☆☆)  

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2005年09月22日

NANA

主演中島美嘉、宮崎あおい、松田龍平、成宮寛貴、丸山智己、寺島伸夫、岡崎真一、平岡祐太、サエコ
監督大谷健太郎
脚本浅野妙子、大谷健太郎
製作2005年、日本

女の友情
同じ日、同じ新幹線に上京のために乗り合わせたのをきっかけに親友になった二人のNANAの友情を描いた作品。
彼氏を追いかけて東京へ押しかけてきた小松奈々(宮崎あおい)。歌手になるために東京へやってきた大崎ナナ(中島美嘉)。二人のNANAは偶然新幹線で隣り合わせて前途を乾杯し、偶然引越し先の部屋で鉢合わせしてルームメイトになることに。奈々は犬のように人懐っこいのでナナから「ハチ」と呼ばれるようになる。奈々は恋人の遠藤章司(平岡祐太)に負担に感じられながらも、新生活に希望の希望に胸をふくらませてバイトを始める。ナナは昔の仲間と新しいバンドメンバーを加えてバンド活動を再開。その頃、ロック界ではトラネスというバンドが人気だったが、そのメンバーである本城蓮(松田龍平)はナナのかつての恋人だった…。
原作は矢沢あいの人気コミック『NANA‐ナナ‐』。今のところ第13巻まで出ているが、まだ完結していない。多少詳細は変えてあるが、映画版は原作の雰囲気をうまく再現していると思う。映像や構成、一つ一つのシーンが充実していて、美味しい要素がたっぷり詰め込まれた映画だ。冒頭の新幹線のシーンを始めとして、随所に印象的で感動させられるシーンがある。
原作でももちろんダブル主人公なのだが、原作では小松奈々メインという感じなのが、映画版では大崎ナナにウエイトがかかるように作ってある。これは映画版は原作とは多少違う視点から撮りたかったからだろう。ナナを演じる中島美嘉はハマリ役だった。一見クールに見えながら他人への共感性が高く、弱さや優しさの演技も垣間見せて、女優としての幅を感じさせた。これからもっと色々な役に挑戦していって欲しいと思う。宮崎あおいも原作を損なわず、しかもリアルな存在感を放っていた。二人のシーンは色々良いのだが、奈々が章司に裏切られ、ナナが怒ってやるシーンが好きだった。
映画は原作のストーリーの途中までで終わっているが、続編は撮られるのだろうか。展開的にはここから先は青春物からレディースコミック的な世界になるのだが、この監督、このキャストで続編を観てみたいと思う。
(☆☆☆☆)

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NANA 中島美嘉 宮崎あおい 松田龍平 大谷健太郎  
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2005年09月19日

女王の教室

主演天海祐希、志田未来、松川尚瑠輝
監督大塚恭司、岩本仁志、渡辺智明
脚本遊川和彦
製作2005年、日本NTV

サバイバル小学校
反抗や我儘を一切許さず、あらゆる手を使って徹底的に教室を支配する悪魔のような女教師と児童との真剣勝負を描いた作品。
とある公立小学校に阿久津真矢(天海祐希)という女教師が赴任してきた。真矢は6年3組の担任になり、テストの成績で児童を徹底的に差別し、父兄の心理をもコントロールしながら、恐怖政治による教室の管理と支配を進めていく。神田和美(志田未来)をはじめ、6年3組の児童たちは人生で初めて出会う恐るべき試練に、混乱しながらも徐々に立ち向かっていく…。
学園ドラマ史上最悪の教師像を造型し、物議をかもした作品。一応、ラストには真矢の動機を解釈可能なように描かれているが、真矢の人物像は安易な説明に回収されるようなものではなく、視聴者は最後まで安心することができないまま観せられることになる。
真矢はかつて問題を起こし、再教育センターに送られて現場に復帰したという経歴を持っている。再教育センターに送られていたのは、頭が良くて他人を人とも思わずいじめていた児童から「なぜ人を殺してはいけないのか」と問われ、他人の痛みを身体で教えるためにその児童に暴行したからである。復帰してからも、真矢は一切妥協せず、馴れ合わず、児童をひどい目に合わせているという評判に動じることもせず、ひたすらストイックに「教育」を行なう。
真矢は、児童が現実を生き抜いていける人間になるために、現実とはどういうものであるかを教え、道徳を叩き込む。子供を子供扱いしない。周囲の教師たちや教育委員会は真矢を理解できず、排除しようとする。そして、現に排除されることになるのだが、驚くべきことに、真矢の教え子たちは、規律と意欲と思いやりを備えた自立した人間に変貌しているのだ。
7月〜9月期のドラマに『ドラゴン桜』と『女王の教室』というリアリズムの学園物が並んだのは面白い。共に現実に全く対応できなくなった旧来の教育理念を組み換えようとする視点を持った作品である。プロ教師の会的なものを取り入れた作品といってもいい。『ドラゴン桜』の相手は高校生であり、自己責任を取るべき大人である。だから実用的に使える方法論を教えればいい。しかし、『女王の教室』の相手は子供であるから、まず自己責任を取れる人間になるために、秩序を叩き込み、道徳を教えるところから始めなければならない。当然ながら教師と子供の死闘が繰り広げられることになる。両作とも未だに薄甘い考えを持っている人には観るに耐えないものだろうが、とりわけ『女王の教室』はそうだ。
真矢の教え子たちが規律と意欲と思いやりを備えた自立した人間に変貌するのは、「本当のこと」を、知識としてだけではなく、体験的に教えてもらったからだ。子供たちはもっと色々なことを知りたいと思い、自分が何をすべきなのかを悟り、規律と意欲を持つのである。
天海祐希が圧倒的な存在感を誇っている。彼女しかなかったというキャスティングだったと思う。天海さんをはじめ、宝塚出身の女優には魅力的で優れた人が多いので、もっと様々な役柄に起用して欲しいと思う。子役では何といっても志田未来が難しいドラマを見事に演じているだけではなく、生き生きしていて、人間味があふれていて、素晴らしかった。
(☆☆☆☆)

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天海祐希  
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2005年09月18日

ドラゴン桜

主演阿部寛、長谷川京子、長澤まさみ、山下智久、小池徹平、サエコ、新垣結衣、中尾明慶、野際陽子
演出塚本連平、唐木希浩、小松隆志
脚本秦建日子
製作2005年、日本TBS

バカとブスこそ東大へ行け!
偏差値36、大学進学率2%の底辺校に乗り込んできた暴走族上がりの弁護士が生徒たちを東大受験にチャレンジさせる奮闘を描いた作品。
創立以来一貫して落ちこぼれ校だった私立龍山高校は、巨額の負債を抱えて倒産寸前だった。そこへ倒産処理に来たのが、元暴走族のリーダーという異色の経歴を持つ弁護士桜木建二(阿部寛)。桜木は一流弁護士になるという野望のために、落ちこぼれ高校から東大合格者を出して進学校化するというアイデアで龍山高校を再建しようとしていた。桜木の話を誰も信じようとはしなかったが、桜木は父親の借金を背負う矢島勇介(山下智久)、母子家庭で飲み屋の娘の水野直美(長澤まさみ)、アイドル志望の小林麻紀(サエコ)など五人を選抜し、特進クラスに放り込み、五人全員の東大合格を公約する…。
7月〜9月期のドラマはアタリが多かったが、『ドラゴン桜』が一番面白かった。原作は三田紀房の漫画『ドラゴン桜』。まだ「モーニング」(講談社)に連載中で、ストーリー的にはドラマの方が先行する形になった。はっきりいって、ドラマ版の方が面白くなっていると思う。キャスティングが良かったことが大きい。特進クラスを担当する教師役の阿部寛と長谷川京子は完璧なハマリ役だったし、長澤まさみや山下智久たち生徒役も素晴らしかった。
ひとことでいえば、受験をスポ根にした物語である。それも、オチャラケではなく、マジの受験物にしているのが面白い。受験というものを人生を賭けるに足りる目標として描き切ったのは見事だった。龍山高校特進クラスの目標は東大受験だが、桜木の情熱に裏打ちされたリアリズムの思想は、人生におけるあらゆるテーマに応用可能な実践的方法論になりえている。
水野直美役の長澤まさみはこういう庶民的な役もいいと思った。苦労して底辺を生きている少女をきちんと演じられていた。注目したのは水野の幼なじみの矢島役の山下智久で、とてもいい演技をしていた。ここまで男らしい優しさを演じられる若手俳優は少ない。小池徹平、サエコ、新垣結衣、中尾明慶も、真剣に生きている十代をリアルに演じていて、良かった。後半、生徒たちの顔が知性に輝いてくるのが凄い。受験勉強をしたからではない。世の中を見る目を開かれたからである。
『ドラゴン桜』は勝ち組になるためのハウツー物なのだが、最大のメッセージは敗北主義を持たずにチャレンジしろということである。戦う前に泣き言をいわずに、戦ってみろ、ということだ。桜木曰く、
「自分で壁を作るな。越えられない壁があると思い込むな」
「自分を否定するな、胸を張って生きろ」
(☆☆☆☆)

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ドラゴン桜 阿部寛 長谷川京子 長澤まさみ 山下智久  
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2005年09月17日

タッチ

主演長澤まさみ、斉藤祥太、斉藤慶太
監督犬童一心
脚本山室有紀子
製作2005年、日本

南を甲子園に連れて行く!
隣同士に住む双子の兄弟と一人の女の子。幼なじみの三人の中で繰り広げられる恋模様を描いた青春映画。
上杉達也(斉藤祥太)と和也(斉藤慶太)は双子の兄弟。同じ年に生まれた隣りの浅倉家の一人娘南(長澤まさみ)とはずっと仲良しで、両家の真ん中のスペースには三人共有の勉強部屋を建てるほどの家族のような関係だった。子供の頃から野球好きの三人は甲子園を夢見ていたが、女の子であった南は達也と和也に夢を託すようになる。しかし、南を甲子園に連れてゆくという約束を果たすべく野球を続けたのは和也だけで、達也は途中でやめてしまい、ボクシングに転向していた。三人一緒に進学した明青学園では、和也が一年生エースとして期待され、甲子園に出場することも夢ではなくなる。南はマネージャー兼スコアラーとしてチームをサポートする。しかし、甲子園出場をかけた西東京大会の決勝戦の日、試合会場に向かう途中で和也が子供を助けようとして事故死する…。
原作は1981〜86年に少年サンデーに連載されたあだち充の漫画(コミックスは全26巻)。85〜87年にはフジテレビ系でアニメ化され、最高視聴率32.9%という大ヒット作になった。劇場版アニメもパート3まで作られている。ヒロインの浅倉南は『うる星やつら』のラムちゃんと並ぶアニメ史上のアイドルになり、彼女が部活でやっていた新体操がブームになるほどだった。売れないアイドルだった日高のり子が声優に起用されて一躍アイドル声優になったり、フジテレビのニュース番組「スーパータイム」では「南ちゃんを探せ!」という美少女スポーツ選手を紹介するコーナーが人気だったりした。たしかミュージカルにもなっていた。
さて、今度の映画版だが、原作の設定はかなり変えられていて、南が新体操をやっていないのが決定的に違う。それはいいのだが、三人が過ごしてきた時間の重みが描き切れておらず、二時間見てもダイジェスト版のような感じだったのはやや物足りなかった。演出もちょっとぬるかったが、ケレンのないストレートな青春物になっていたのは好感が持てた。長澤まさみと斉藤ブラザーズは等身大のリアル感があって良かった。
岩崎良美が歌っていたテレビアニメ版のテーマ曲は、韓国出身のユンナがカバーして、挿入歌として使われていた。テレビでパフォーマンスを見たが、ボーイッシュな感じで、日本で活動していた頃のSESのパダにちょっと似ていた。
(☆☆)

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タッチ 長澤まさみ 斉藤祥太 斉藤慶太 犬童一心  
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2005年09月07日

2046

主演トニー・レオン、フェイ・ウォン、チャン・ツィイー、コン・リー、木村拓哉、マギー・チャン
監督・脚本ウォン・カーウァイ
製作2004年、香港

失われた愛と街を求めて
近未来の香港を舞台に、男女の織り成す愛の形を描いた作品。『花様年華』の続編。
1967年、香港。チャウ(トニー・レオン)は新聞記者を辞めて作家になっている。チャン(マギー・チャン)と別れたチャウは、女性遍歴を繰り返しながら、心の奥に満たされぬものを抱えて生きていた。チャウはとあるホテルの2046号室に泊まるが、ホテルの主人の娘ジンウェン(フェイ・ウォン)が日本人青年(木村拓哉)との恋愛を反対されて苦悩していることを知り、インスピレーションを受けて『2046』という近未来小説を書き始める。小説の中の人物は、失われた愛を取り戻せるという「2046」という場所を目指して、ミステリートレインに乗っている。列車の客室乗務員は美しい女性の姿をしたアンドロイドだった…。
近未来を舞台にしているが、SFというより幻想芸術である。失われた恋愛をテーマにしていると共に、急速な発展によってすべてが様変わりしている現代中国の近未来のヴィジョンを、すべてが失われてしまうという喪失感を以て描いている。『花様年華』が郷愁を描いたものだとすれば、こちらは喪失感を描いたものといえるだろう。
部分部分の映像は美しいが、全体としては失敗作だと思う。
木村拓哉が出演しているのだが、香港の名優たちを前に明らかに格負けしていた。
(☆☆)

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2005年09月04日

花様年華

主演トニー・レオン、マギー・チャン、レベッカ・パン、ライ・チン
監督・脚本ウォン・カーウァイ
製作2000年、香港

郷愁の香港
1960年代の香港を舞台に、不倫関係にある男女の機微を描いた作品。
1962年、香港。同じ日に同じアパートに、新聞記者のチャウ(トニー・レオン)と商社の社長秘書として働くチャン(マギー・チャン)が引っ越してきて、隣人になった。二人は親しくなるが、ある時、お互いの伴侶が不倫をしていることを知る。チャウとチャンはそれ以後も頻繁に会うようになり、愛し合うようになる。しかし、その関係に終止符を打つべく、チャウはシンガポールへと旅立つのだった…。
美しい映画である。ウォン・カーウァイ監督としては、大人の恋を描いた、いぶし銀の作品だ。
ストーリーはないに等しい。映像やひめやかな心理描写を味わうタイプの映画である。そしてそれらが本当に素晴らしい。全篇にウォン・カーウァイ監督の古き良き時代(返還前)の香港への郷愁が横溢しているのだが、どういうわけか、日本的な美学を感じる。日本映画や日本文学を下敷きにしているのではないかと思うほどだ。
チャイナ服を最も美しく撮った映画でもある。
(☆☆☆☆☆)

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2005年09月02日

少年義勇兵

原題『BOYS WILL BE BOYS,BOYS WILL BE MEN』
主演ルンルアン・アナンタヤ、テーヤー・ロジャーズ、ワラヨット・パニチャタライポップ
監督ユッタナー・ムクダーサニット
脚本ユッタナー・ムクダーサニット、ワニット・チャルンキットアナン
製作2001年、タイ

祖国のために
第二次世界大戦下、日米戦争開戦前後のタイを舞台に、独立を守り抜こうとするタイの義勇兵に志願した少年たちの訓練と戦い、恋と友情を描いた作品。
第二次世界大戦が激化しつつあった1941年の春。タイ政府は、日本につくべきか連合国につくべきか、決めかねていた。チュンポーンの高校に通うマールット(ルンルアン・アナンタヤ)は、姉と姉の夫の三人暮らし。写真館を経営する姉の夫は日本人で、川上といった。中立を保っていたタイは日本とは長く友好関係にあったが、タイにもアジア諸国へ侵攻する日本に対する警戒心や反感があり、川上やマールット自身もスパイだといわれることもあった。そんな時、チュンポーンにやってきた将校が高校で義勇兵の募集をする。国を取り巻く情勢は日に日に切迫しており、祖国を侵すものが白人なのか日本人なのかはどうであれ、国防体制を整えておかなければならなかった。少年義勇兵にも国防の一端を担うことが期待された。日本人を家族とするマールットは、日本を仮想敵国として軍事訓練を行なうのは厭だったが、祖国を守ることには異論のないので、少年義勇兵に志願した。マールットは、義兄を「日本のスパイ」とからかい、何かにつけて対立する副知事の息子プラユット(ワラヨット・パニチャタライポップ)とチッチョンという少女(テーヤー・ロジャーズ)をめぐって三角関係になりながら、義勇兵の訓練に励んでいた。そして十二月八日、日本軍はハワイ真珠湾攻撃と英領マレー半島への上陸作戦を行なう。日本軍は中立国タイの領土内を通過するためにタイ沿岸にも上陸し、政府の態度が決まらないまま日本軍とタイ軍との間で戦闘が起きる。少年義勇兵も戦闘に参加する…。
日米戦争開戦直後に日本軍とタイ軍との間に一時的に戦闘が行なわれた。その時タイ軍の中にいた少年義勇兵をテーマにした作品だ。近代のアジアで欧米列強から独立を守った国は、日本とタイだけだ。日本はアメリカに占領されることになったので、独立を守り抜いたのはタイだけといってもいい。そして、これはそのタイの独立を守ろうとする努力を描いた映画である。
日本軍と戦う話だが、反日映画のニュアンスは全くない。友好関係にある日本であれどこであれ、国を侵すものとは戦うという愛国心を謳い上げた映画だ。愛国心を謳い上げた映画といっても、少しも宣伝映画臭はなく、すべては自然な感じで、政治問題も客観的に描かれている。タイは日本の半ば支配下に入るのだが、これも独立を守るための外交的選択として客観的に描かれている。
歴史映画であると共に、爽やかな青春映画の佳作である。
(☆☆☆)

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2005年08月31日

珈琲時光

主演一青窈、浅野忠信、余貴美子、小林稔侍、萩原聖人
監督ホー・シャオシェン(侯孝賢)
脚本ホウ・シャオシェン、チュー・ティエンウェン
製作2003年、日本

電車と喫茶店の映画
東京と群馬県高崎市を舞台に、台湾関係の仕事をしているフリーライターの日本人女性が台湾のテレビ局の依頼で在日台湾人作曲家の足跡を調査する日々を描いた作品。
2003年、東京。仕事先の台湾から戻ったフリーライターの陽子(一青窈)は、親友の神保町の古書店の若主人肇(浅野忠信)の協力を得ながら、台湾のテレビ局の依頼で在日台湾人作曲家江文也の生涯を調べていた。両親が幼い頃に離婚してしまった陽子は、北海道の目の不自由な親戚に育てられたが、今は高崎の実父(小林稔侍)、再婚相手の継母(余貴美子)と良い関係を築き、行き来している。ある時、お盆で高崎に帰った際、両親に自分が台湾人の恋人との子供を妊娠していることを告げる…。
これは喫茶店の映画である。それはタイトルからも伺えるだろう。喫茶店は人と人とのつながりの場、そして現在と過去とのつながりの場として随所に登場する。
もう一つ、これは電車の映画である。侯孝賢監督は、東京を電車と喫茶店の都市として把握し、表現している。私は鉄ちゃんではないが、この作品の電車の描写は美術的に素晴らしい。
ストーリーはほとんどない。親との関係に距離感があり、独りで生きようとしているフリーライターの女性の仕事と日常を、家族との関係と友人関係を中心に、淡々と描いているだけである。陽子は未婚の母になろうと決めているが、家族の形が流動している世界における生命としての女の存在感を、侯孝賢監督は見事に表現している。子供を宿したり仕事をしたりしている女の周囲に家族や友人たちのつながりを浮き上がらせる描き方は、侯孝賢監督ならではの味わいである。
小津安二郎生誕百年記念作品として作られたもので、台湾映画界の巨匠がメガホンを取った。日本人監督でないことが少々さびしい気もするが、侯孝賢監督は適役だったと思う。
(☆☆☆☆☆)

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2005年08月30日

北京ヴァイオリン

原題『TOGETHER』
主演タン・ユン、リウ・ペイチー、ワン・チーウェン、チェン・ホン、チェン・カイコー
監督チェン・カイコー
脚本チェン・カイコー、シュエ・シャオルー
製作2002年、中国

ああ、北京砂漠
天才的な才能を持つヴァイオリニストの少年と息子を演奏家にするために奔走する父親の絆を描いた作品。
中国北部の田舎町でコックをやっているリウ(リウ・ペイチー)は十三歳の息子チュン(タン・ユン)と二人暮らし。チュンは母の形見のヴァイオリンを幼い頃から弾いていて、いつしか見事な腕前になっていた。周囲で評判になっていた。リウの夢は息子を一流のヴァイオリニストにすること。必死に働いて貯めた金で、息子をコンクールに出場させるために親子で北京へ出る。拝金主義が渦巻く音楽界でコネのないチュンは五位に終わるが、リウは有名な先生の個人授業を受けさせるためにそのまま北京に移り住むことに。チュンは彼の才能を認める音楽教師チアン(ワン・チーウェン)の指導を受けることになる。しかし、思春期のチュンは偶然知り合った奔放な娘リリ(チェン・ホン)を慕うようになり、リウの気を揉ませるのだった…。
現代中国映画の最大のテーマは、経済成長に伴って拝金主義が跋扈する社会と古い人情の世界との葛藤である。この映画も例外ではない。さらにチェン・カイコー監督らしく拝金主義と芸術という対立軸を提示している。拝金主義と人情、拝金主義と芸術というわかりやす過ぎる構図なのだが、それを充分に魅力的に描いているのはさすがだ。
リリとチュンの異性愛と姉弟愛の交じり合ったような関係がいい。リリは現代的な生活スタイルを送る女だ。水商売をやっているのだろうか、稼いだ金を男に貢いで騙されてばかりいる。リリは一見勝手気儘でクールな女に見えて、その心の底に流れているのは熱い人情だ。チュンは初めて出会った奔放な都会の女性に憧れの感情を抱いて接近するが、リリの優しさや人の良さを見抜き、リリのことを何かと気遣うようになる。
このように親子や都会で出会った人々が気持ちを通わせる人情話なのだが、それだけではなく、この映画はとびっきり映像が美しい。美し過ぎる。それを観るだけでも価値がある。
チェン・カイコー監督自らがチュンをヴァイオリニストとして売り出そうとするユイ教授役で出演している。
(☆☆☆☆☆)

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北京ヴァイオリン チェン・カイコー  
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2005年08月28日

ビヨンド・サイレンス

主演シルヴィー・テステュー、ハウイー・シーゴ、エマニュエル・ラボリ、タチアナ・トゥリーブ、シビラ・キャノニカ
監督カロリーヌ・リンク
脚本カロリーヌ・リンク、ベス・サーリン
製作1996年、ドイツ

心で聴く音楽
聾唖者の両親と音楽を志す娘との絆を描いた作品。
聾唖の両親を持つ八歳のララ(子役タティアーナ・トゥリープ)は、叔母のクラリッサ(シビラ・キャノニカ)からクラリネットをプレゼントされる。練習を始めたララはみるみる上達し、音楽に打ち込むようになる。しかし、音楽を聴くことができない父のマルティン(ハウィー・シーゴ)は、ララがクラリネットに夢中になっていることに否定的だった。対照的に、母のカイ(エマニュエル・ラボリ)はララが音楽の道を見出したことを応援していた。それから十年後、ララ(シルヴィー・テステュー)は十八歳になり、クラリネット奏者を目指すようになっていた。父は反対だったが、ララは親元を離れてベルリンの音楽学校を受験することに…。
聾唖の両親の耳代わりになり、体の一部のように両親を助けてきた少女が、両親とは決して共有することができない音楽の世界に自分の居場所を見出すことになる。娘と別々の世界に引き裂かれるような気がして、父親は娘が音楽をすることに反対する。父親の反対はエゴではあるが、理解はできる。娘は父親の気持ちも充分にわかりながらも、自分の人生を歩むしかない。
家族の絆や子供の自立(親離れと子離れ)というテーマを、聾唖者と音楽という背反する設定を用いて描いている。抑制されたタッチで撮られていて非常に地味だが、心に沁みる作品である。
(☆☆☆)

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ビヨンド・サイレンス カロリーヌ・リンク  
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2005年08月27日

ミュージック・オブ・ハート

主演メリル・ストリープ、アンジェラ・バセット、グロリア・エステファン、エイダン・クイン
監督ウェス・クレイヴン
脚本パメラ・グレイ
製作1999年、アメリカ

ハーレムに響く子供たちの音楽
ハーレムの子供たちにヴァイオリンを教え続けた教師を描いた作品。
夫に別の女性のもとに走られたロベルタ(メリル・ストリープ)は、同級生ブライアン(エイダン・クイン)の口添えでイーストハーレムの小学校のヴァイオリンを教える臨時教員になる。その小学校は黒人が多く、家庭環境に問題を抱える子供も多かったが、ロベルタの指導の下、素晴らしい演奏者になっていく。十年後には三校に150人の生徒を教えるほどの人気クラスになったが、突然、ニューヨーク市の予算削減でクラスが閉鎖になることに…。
1999年の作品だが、もっと古い作品に感じる。現代の映画では白人や黒人の内面をもっと踏み込んで、情緒的に描くことが多いからだ。しかし、実話を映画化したものなので、その辺の表現は控え目なのかもしれない。一流のヴァイオリニストが一同に会し、カーネギーホールで救済コンサートが開かれるところにまで発展するのは、アメリカならではだ。
メリル・ストリープが持ち前の金属的な不快な違和感を放っている。
(☆☆☆)

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2005年08月26日

ブラス!

原題『BRASSED OFF』
主演ピート・ポスルスウェイト、ユアン・マクレガー、タラ・フィッツジェラルド、スティーヴン・トンプキンソン
監督・脚本マーク・ハーマン
製作1996年、イギリス

ボタ山に響く労働者の音楽
炭坑閉鎖問題で揺れる炭坑夫のブランスバンドを描いた作品。
1992年、イングランド北部ヨークシャー地方の炭坑町グリムリー。炭坑夫の有志で運営している結成百年の伝統を誇る名門ブラスバンド、グリムリー・コリアリー・バンドは、突然持ち上がった炭坑閉鎖問題で存続の危機に陥っていた。メンバーの生活や炭鉱の経営問題よりバンド活動を至上価値とするリーダー兼指揮者のダニー(ピート・ポスルスウェイト)は、間近に迫った全英ブラスバンド選手権に出場し、優勝することで頭がいっぱいだった。そんなダニーと生活のことが気になるメンバーとの間に不協和音が生じていた。ある日、グリムリー出身でダニーの親友の孫娘グロリア(タラ・フィッツジェラルド)が練習場に現われ、持参したフリューゲル・ホーンで「アランフェス協奏曲」を見事に演奏してみせる。グロリアはバンドに加わることになり、男ばかりのメンバーの気持ちは美しい娘の登場に華やぐ。実はアルト・ホーン奏者の若者アンディ(ユアン・マクレガー)はグロリアがグリムリーにいた少女時代に交際していたのだが、再び二人は接近する。しかし、グロリアは炭坑の閉鎖を前に実態調査のために呼ばれた会社側の人間だった。そのことが発覚し、メンバーがグロリアを見る目は冷ややかなものになる…。
最近の日本では全く作られなくなったプロレタリア映画だ。サッチャー以来の市場原理主義的な新保守主義路線への批判の意味を籠めて作られている。労働者問題を扱っており、しかもイギリス映画ということで、決して明るい映画とはいえないが、音楽映画として観てもなかなかよくできている。
ラストのところ、ダニーが優勝の栄誉を抗議の意味で受け取らないといいつつ、気がつくとちゃっかり受け取っているのが、イギリス的で面白い。
(☆☆☆)

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2005年08月25日

Quartet カルテット

主演袴田吉彦、桜井幸子、大森南朋、久木田薫
監督久石譲
脚本長谷川康夫、久石譲
製作2000年、日本

優雅で感傷的なクラシック根性物語
弦楽四重奏団としてコンクールに挑戦する若き音楽家たちの青春を描いた作品。
才能はありながら三年前の日本アンサンブルコンクールで大失敗した弦楽四重奏団のメンバー四人は、その後バラバラになり、個々の音楽活動をしていた。高名なヴァイオリニストの父を持つ相葉明夫(袴田吉彦)は盛岡交響楽団のコンサートマスター、坂口智子(桜井幸子)はポップス演歌のバック奏者、山田大介(大森南朋)は音楽学院の教官助手、漆原愛(久木田薫)は大学院に進んで勉強していた。そんな時、盛岡交響楽団と仙台交響楽団が合併し、明夫は新東京管弦楽団のオーディション会場でかつてのメンバーと再会、カルテットを再結成してアンサンブルコンクールに再度挑戦することになる。四人は大学の恩師青山教授(三浦友和)の紹介による合宿を兼ねたドサ回りのコンサートツアーをしながら、明夫が父が明夫のために遺していた未完成の課題曲「カルテット」に取り組む…。
久石譲が脚本・監督を手がけた作品。ストーリーは泥臭くて、ドサ回りの試練の中で四人が次第に絆を深め、演奏に深みが加わっていくというもの。これが意外と良かった。特に演奏シーンの美しさが素晴らしい。
(☆☆☆)

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2005年08月24日

青春デンデケデケデケ

主演林泰文、大森嘉之、浅野忠信、永掘剛敏、佐藤真一郎、柴山智加
監督大林宣彦
脚本石森史郎
製作1992年、日本

エレキに燃えた青春
地方都市を舞台に、ロックバンドを結成した高校生たちの青春を描いた作品。
1965年、香川県観音寺市。高校入学を控えた藤原竹良(林泰文)は、ラジオから流れてきたベンチャーズの「パイプライン」にシビれ、高校に入ったら絶対ロックバンドを結成しようと決意する。ベースは浄泉寺の住職の息子合田富士男(大森嘉之)、ギターは白井清一(浅野忠信)、ドラムはブラスバンド部の岡下巧(永掘剛敏)、サイドギター兼ボーカルは竹良とバンドメンバーを集め、バイトで稼いだ金で楽器を購入する。バンド名はロッキング・ホースメン。かくして観音寺市初のエレキバンドが誕生する。理解のある顧問の寺内先生(岸部一徳)にも恵まれ、四人は音楽活動をスタートする…。
今から四十年前のエレキギターを持つのは不良だといわれた時代の高校生活を描いている。大林宣彦監督なので、ことさらに社会との対立というテーマとして取り上げるようなことはしていない。エレキにのめり込んだ三年間を淡々と描いていて、大林監督にしては比較的普通に完成度の高い作品に仕上がっている。
1965年ということで、『パッチギ!』『69 sixty nine』のような政治的テーマもまだ登場せず、地方都市の穏やかな雰囲気の中で「あの頃」の懐かしい青春を味わえる。
顧問の寺内先生役の岸部一徳は1967年にグループサウンズのザ・タイガースのベーシストとしてデビューしているから、ほぼロッキング・ホースメンと同世代だ。ちなみに、岸部のGS当時の愛称はサリー。
(☆☆☆☆)

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Posted by critic at 20:48Comments(0)TrackBack(6)映画
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