2005年08月11日

乙女心

 MysteryCircleの原稿が二本できあがってしまった。
 MysteryCircleというのは私が参加させてもらっている、創作活動好きが集まるBlogのことである。
 知らない人で興味があるお方は、ぜひ一度覗いてもらいたい。

 さて、そこでは毎月テーマが各参加者に渡され、それに従って小説を書いていくのだが、そのテーマで物語が二本浮かび上がってしまった。
 二本とも送ろうかと考えたのだが、私だけが輪を崩してしまうのは忍びない。
 しかしせっかくだから発表したい。
 そういった経緯でここに掲載することとあいなったわけである。

 原稿用紙7枚 2159文字


 私は何かしらゾッとして、前のガラスに映る人の姿を見た。
「気のせいか」
 隣に座る陽子に必要以上に驚いた様子を悟られまいと、私は気取った調子でおどけてみせた。
「でね。どうやら出るみたいなのよ、そこに」
 ひっと短く息を飲む声が部屋中を埋め尽くした。
 わざと照明を落とし、時代遅れのろうそくなんかで恐怖を演出しようとしたのが裏目にでたか。
 微々たる光に映し出された今の話し手である由里の顔は、悪ふざけで懐中電灯を顔の下から当てた少女のようだ。
 簡易で使い古された演出といえども、人間の想像力というのは、いつだって予測の一歩踏み込んだところに潜んでいる恐怖を連れてくる。
 おまけに近所の花火大会の帰りだからみんな浴衣。もし遠巻きに今の私たちの姿をみたら、もっと怖いんだろうな。
 やはりこんなことになるなら浩史のこと話しておくんだったなあ。
 浩史というのは他でもない、つい二週間ほど前から付き合いだした私の恋人だ。
 元々はそのことで放課後に友人二人から詰め寄られ、どうせ話すならとその中の一人である由里の部屋でお泊りなんかして告白してしまおうと思った。
 飽くまでもそのときは。
 人間の気持ちなんてわからないものだ。とくに私たち十代の気持ちなんてまるで羽の生えた蝶のようにひらひらと花壇を舞う。そのくせ花が枯れた花壇にはよりつこうともせず、次の花咲く季節を待ちわびてさなぎになる。口を閉ざして誰にも本当のことを語りたがらないのだ。
 だからといって怪談に話題を移したのはミスったなあ。
 私は校内では図太い神経というキャラクターが定着している。いつかだって学校のトイレでかつあげされそうになっていたクラスメイトを救ったものだ。
 しかし。しかしだ。こういうのはもうダメ。
 そんな私の気持ちも知らずに、得意げな顔をした由里の話は佳境に差し掛かっていた。
「それでやめときゃいいのに墓地にまで行っちゃって」
 出たよ。
 わかってるんだよなあ。怪談といえば墓地。それから電話。極めつけは水場ね。
 だからホラー映画を観たあとのお風呂ほどいやなものはない。
 シャワーを浴びてるとなんとなく背後が気になる。気になって気になってしょうがなくなる。あれいったいなんだろうね。
 で、シャンプーを完全にすすぎきっていないのに、無理やり目を開けちゃう。しみるしみるって思いながら。結局はなにもないんだけど、内心ではすっごい安心しちゃうの。
 でもまた目をつむろうとすると、まるでそれを待っていたかのように再び背後に気配。そうなるともう怖い。早くお風呂から出たい。そう思うんだけど、やっぱり綺麗にしたい。乙女心は複雑だ。
 それでお風呂からあがって次にやってくるのが、洗面所の鏡。もはやセットよね。わかってるんだけど、つい鏡に面と向かってバスタオルで頭拭いちゃうの。だって後ろ見えなきゃ不安じゃない? でも逆に後ろが見えるのも不安だったりする。
 ああ、なんだかこうして考えてみると、不思議とそういうときの心境って恋愛に似てるかも。先の見えない恋愛って不安。だけど先を知ってしまうのもどうかと思う。やっぱり似てるよね、これ。
「それで結局は二人とも帰ってこなかったんだってさあ」
 やっぱりそうだ。私の予想したとおり。
 そうやって曖昧に終わらせて、あとは聞き手の想像力にお任せってパターン。王道よね。
 この前、浩史と観にいった映画もそうだった。ホラーじゃなかったけど、曖昧なラスト。言い方を変えれば観る人によって結末の別れるタイプの映画。
 はっきりしないなあって思いながらも、その後どうなるんだろうって考えちゃう。それが製作者の思う壺でなんとなく悔しい。けど、やっぱり気になっちゃうんだよねえ。
「よし、次は陽子の番ね」
 来た。どうしよう。
 陽子の話はすっごく面白い。
 お腹を抱えて笑うっていう意味の面白さじゃなくって、表情の作り方とか仕草、それに声のトーンの高低が絶妙。おまけに浴衣姿も手伝って真っ黒な髪が映える。そしてこの雰囲気。
 まさに今日の陽子はクイーンオブホラーだよ。
「それはいいんだけどさ」
 そういうと陽子は由里の後ろにある窓を指差した。
 どうも由里の後ろにある窓が気になるようだ。
 それには私も同調した。何の気なしに目線が自然と夜の闇に吸い込まれてしまう。
 さっきも窓ガラスに映っていたろうそくの火と私たちの薄っすらとした人影に驚いた。実は人数がちゃんと三人なのかまで確かめてしまうほどに。
「そこのカーテン。閉めてもいい?」
 言い終えるまえに陽子はすっと音もなく静かに立ち上がると、小さな歩幅で窓際まで移動していく。
 続いてしゃっという鋭いカーテンレールの悲鳴とともに、彼女はこちらに背を向けたまま語り始めた。
「いくつもの顔を持つ女の人がいるって知ってる?」
 消え入りそうな声で陽子はささやいた。いや、今の声は陽子なのだろうか。
 すでにいくら目を凝らしてみても、窓ガラスに映る彼女の表情は見えなくなっていた。当たり前だ。カーテンが閉まっているのだから。
 頼りないろうそくの火。
 白地に淡い赤の模様をあしらった浴衣に身を包む、黒髪の一人の女性。
 淡々とつむがれる、悲運に満ちた女の生い立ち。
 そうして話をしてみると、彼女の美しさは一段と風情を増してくるのであった。

 (了)

 MysteryCircle Vol.05 OpeningVer.

 追記。
 もちろん、正式に掲載されるであろう作品はまったくの別物である。
crow0825 at 19:12│Comments(3)TrackBack(0)短編小説 

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この記事へのコメント

1. Posted by Clown   2005年08月14日 17:59
うわぁぁぁ、曖昧なラストだ(笑)。
こっちが没と言うことは、本編は更に凄いことになってそうだなぁ・・・。
2. Posted by カラス   2005年08月15日 20:10
曖昧なラストは別に狙ってたわけじゃなくて、成り行きに任せたらこうなっただけなんだけどな(笑)

まあ、あれだよ。没っていってもMysteryCircleに掲載されるってことを考えると、こっちはイマイチかな、と思っただけで。
これはこれでなかなかいいんじゃないの、とうぬぼれてみたりするわけですが。

っていうかClownは作風を変えてみたんだとか言ってたっけ。
オレ的にはそっちのが楽しみだねえ。
3. Posted by Clown   2005年08月16日 16:55
いや、これが変えたつもりで大して変わってないんだ○∠\_
過去の自作を見たら、似たようなことをしてるのが一つあった。
パターンか・・・('Д`;)

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