カウンセラーに必要とされる能力の一つに、相手の感情を観察する、推測するというものがあります。

たとえばある人が、「私は昨日、家族4人、父と母と姉と一緒に旅行に行きました。旅行先ではどこへ行って、何を買って・・・」というような話をしていたとします。
情報量が多いので、「どこに旅行へ行ったんだっけ?」とか、「お姉さんは同居してるんだっけ??」とか、色々な部分が気になりますが、「この人は、どんな感情でこの話をしてるんだろう?」という部分に注目していく事が重要ですよ、という考え方です。

なぜ感情が重要なのかというと、どんな感情で話しているかがわかれば、「どんな目的の話か」もある程度推測ができるからです。
楽しい気持ちで話しているなら、「私は家族と仲が良くて幸せだなぁ」という事を言いたいだけかも知れません。
しかし、なんとなく会話の中に怒りや不満のオーラを感じたとしたら、「おや、旅行先で家族と揉めたという話になるのかな?」という予測もできるかも知れません。

これはカウンセラーに限らず、日常会話の中でも役に立つ場面が多いかと思いますので、今回は感情に注目する事について考えてみたいと思います。




感情の中でも、特に注目する価値があるというか、注意してみて欲しい感情は、「怒り」かなと思います。
怒りが重要な理由は沢山あるのですが、一番わかりやすい理由として、「ある程度以上怒っている人」とは、まともな会話はできません(笑)。

怒っている状態の時というのは、「問題を解決したい」とか「あなたと仲良くなりたい」とか、そういった事を考えられる状態ではありません。「とにかく怒りを発散させたい」とか「誰でもいいからこの気持ちをぶつけたい」とか、そういう状態ですから、下手な接し方をすると余計に怒らせたり、攻撃されて巻き込まれてしまうかも知れません。

また、そういう怒っている状態の人が言う「言葉」というのは、ちゃんと考えて言っている訳ではなく、「とにかく怒りを発散したいからめちゃくちゃな事を言っている」場合が多いですから、こういう状態の人が言っている言葉を真に受けないのも大事な事です。


怒りが重要な理由は他にもあり、多くの人は「自分が怒っている事を隠そうとする」という事です。これによって、見分ける事が難しくなる場合があります。
日本人が特にそうなのか分かりませんが、「怒ったり短気になるのは良くない事だ」という教育や文化があったりするので、仮に怒っていたとしても、「怒ってないですよ」という態度を取るんだけど、「実は怒っている」という事もあったりします。

一番わかりやすいけど厄介なのは、「怒ってないって言ってるでしょ!!」と、明らかに怒りながら言われてしまったりするパターンです。
こういう時、本人は本当に怒っていないつもりで、「私はあなたと話し合って、問題を解決したいと思っているのに、何故あなたは私が怒っているとか言って話し合いから逃げようとするんだ!!」というような感情だったりします。

しかし、この時に前に出てくる感情は「問題を解決する」よりも「怒りを発散する、相手を攻撃する」という方が強く出るので、ちゃんと会話が成立して問題が解決する事はまず無いと思われます。一度冷静になって、後日また話し合った方がいいでしょう。


怒りについてばかり沢山語ってしまいましたが、他にも「文句を言いたい」とか「自己嫌悪」とか、厄介な感情は沢山あります。

たとえば、「文句を言いたい」という感情を(自覚は無くても)持っている人がいて、その人の会話を聞いて何かアドバイスをしたりすると、多分怒られるか嫌われます(笑)。
なぜなら、その人の目的は(自覚は無くても)「文句を言う事、聞いてもらう事」であって、それ以外は求めていないからです。求めていない事をされても、喜ぶ事はないというわけですね。


こういう時に、「あの人はいつも悩んでいるみたいだから、アドバイスをしてあげるんだけど、全然聞いてもらえないのは何故なんだろう?」という風に悩んでしまったりする事が無いように、「あの人はどんな感情(または目的)で話をしているんだろう?」という所に注目してもらいたいと思います。
そこで、「あぁ、あの人は文句を聞いてもらいたいだけなんだな」と分かったら、「あらそうなの、いつも大変ねー」と聞いてあげてもいいでしょうし、「文句は聞きたくないなぁ」と思ったら、アドバイスなどはせずに逃げてしまった方がいいかも知れません。


「自己嫌悪」なんかはもっと厄介だと思いますが、それも気が付いたら、「なんで何でもかんでもそんな風に悪く取るの!」と言った所で解決しませんね。「ほら、また怒られた。どうせ自分はダメなんだ」と、また悪く取られてしまうだけでしょう。そっとしておいてあげる時間も必要かも知れません。

こんな風に、相手の会話の内容や情報だけでなく、「どんな感情や目的で話しているかな?」という事に気が付けると、怒っているとかいないとかの水掛け論になったり、何年も同じような言い争いを繰り返したりする事は、かなり少なくなるはずです。




最後に、相手の感情に注目する事と同じくらい大事なのが、自分の感情に注目する事です。

怒りまくっている人に近づいたら危険なのは何となく理解しやすいですが、「自分が怒っている状態の時」というのは、自分が「人と会ったら何を言うか分からない、危険な状態である」という事です。
そして、その事に多くの人は気づかないので、怒ったまま人に会って、心にもない暴言などを吐いてしまい、後で後悔しても今更謝る事もできず、誤解されたまま終わってしまう・・・なんて事になったら、大変もったいないかと思いますよね。

会話ではついつい、情報や出来事、表面的な言葉の意味などに意識がいってしまいがちですが、そこだけに囚われてしまうと本質を見失ってしまうかも知れません。
普段から少し余裕をもって、相手の言葉の一歩奥へ意識を向けると、より深いコミュニケーションができるかも知れません。今より一歩先へ進みたいという上昇志向のある方には、オススメしたい方法です。