こんにちは、まだ育児休暇をいただいている平田紀子です。いかがお過ごしですか?

 カウンセリングをお休みしてから、もうすぐ2年が経とうとしています。先輩ママから育児中は毎日が過ぎるのがとても早いよ、と聞いていたのですが本当にその通り!あっという間に時間が過ぎ、そのスピードにびっくりしています。2007年10月に産まれた息子も4月で1歳半になり、私の母親っぷりもだんだん板についてきました。夫も徐々に父親らしくなり夫の父親としての成長にも楽しませてもらっています。
 結婚当時、私たち夫婦はお互いのことを名前で呼び合っていましたが、息子が産まれてから夫は私のことを「母さん」と呼ぶようになりました。私も夫のことを「父さん」と呼ぶようになりました。
 最初は呼ぶ方も呼ばれる方もなんだか気恥ずかしかったのですが、1年半も経つともうすっかり慣れ「母さん、お醤油がないよ」なんて漫画「サザエさん」でよく耳にする磯野家の大黒柱、波平さんのお馴染みのセリフが我が家でも聞こえるようになりました。

 それでも私の実家に遊びに行くとちょっとした混乱が起きます。私はまだ自分の父親のことを「父さん」と呼んでいるのでうっかり「父さん、そのタオル取って」なんて言おうものなら夫と父、二人の男がほぼ同時に立ち上がります。息子をお風呂に入れてもらおうと「父さん、お風呂の準備ができたからお願いします」と言った時には、可愛い孫と一緒にお風呂の入るチャンスを伺っていた父が「よし!」と夫より早く立ち上がり笑ってしまいました。さらに実家で食事をした時には、夫に「これは誰の箸?」と聞かれて「父さんのだよ」と答えると「どっちの父さん?俺、それとも母さんの父さん?」とややこしい会話になってしまいました。そろそろ私は夫の呼び名を「父さん」に変えたように、父のことを「おじいちゃん」と呼ぶように変えた方がよさそうです。同じ場所に「父さん」が二人居ると「どっちの父さん?」という混乱を招いてしまうので。

 さて、私が夫を「父さん」と呼ぶようになって、もうひとつ可笑しくも切ない私の変化がありました。既にこうなることは心理学を勉強していて分かっていたのですが、こんなに想像通り、いや想像以上の状態になろうとは…驚きました。
 私は息子が産まれる前、まだ夫が「父親」ではなかったときには気にならなかった些細な夫の行動がことが妙に気になり始め、我慢できずに怒ってしまうようになりました。自分でも不思議なくらい、まるで怒るチャンスを狙っているかのように、夫の振舞いにいちいち腹を立ててガツン!スバッ!と文句を言ってしまいます。
 こんな調子で優しかった奥さんはすっかり鬼嫁になってしまいました。温厚な夫は「育児でストレスが溜まっているのだろう」と優しく受け止めてくれていたのですが、私はその態度にもなぜかイライラし、きつい言葉を投げ続けてしまいました。そのうち夫にも限界が来て「いいかげんにして!」と悲鳴をあげ、そのときは「あぁ、やってしまった…」と反省するのですが、またなにかの拍子に攻撃してしまいます。 もちろん、これは私が夫を心から自分の味方だと信頼しているからこそできる「甘え」の行動なのですが、こんな可愛くない甘え方では夫も喜びません、それどころか、傷つき消耗してしまいます。

 どうして、こんなことになってしまったのでしょう…そうなのです、夫が「父親」になったからなのです。
 私は子どもの頃に自分の父親にぶつけられなかった痛みの感情や文句を今になって新たに「父親」となった夫にぶつけ始めたのです。
 既に心の中にある過去の傷はキレイに癒したつもりでいたのに、まだまだ、たくさん傷ついた分、残っていた痛みが「今がチャンス!感じて!消化して!」と言わんばかりに飛び出してきました。

 パートナーが父親(母親)になると、自分が子どもの頃、自分の親に対して感じ、子どもの小さな心では消化できなかった不満や痛みが湧き出てくると分かっていたので、私はこれによる夫婦の衝突を避けられるだろうとのん気に構えていたのに、こうも自分の心の動きに逆らえないとは、本当に心のパワーはすごいです。

 そこで、同じような状況で悩んでいる方がいらっしゃいましたら、ちょっとアドバイス。もし、あなたがパートナーを攻撃してしまって自己嫌悪を感じることがあれば、それは過去の痛みが原因ではないか?と一度考えてみてください。

 どんな優しく立派な親でも子どもの心を傷つけてしまうことがあります。たとえそれが愛情のいっぱい込められた子どものための厳しい言葉でも、子どもにはそんなことは分からずに只々傷つき、その痛みを表現できず、感じ切れずに心の中に溜めておいてしまうのです。その痛みが心も成長した大人になって「今ならこの痛みに耐えられる、消化して!」と飛び出してくることがよくあります。ですから、どうか落ち込まないで、あなたがとても繊細な心を持った子どもだった証拠です。繊細な心をもった人は優しい人です。

 私も自分の夫へのきつい態度を反省しつつも、あまり自分を責めないようにしています。夫には「これは私が昔、私の父親に言いたくて言えなかった文句なの、あなたを責めているわけでもないし、もちろんあなたが嫌いになったわけじゃない」と説明し、夫はそれを聞いてかなり安心した様子でした。さらに、夫を攻撃してしまいそうになったときはまず自分の心の中に向かって「辛かったんだね、傷ついたんだね、母さんを泣かせる父さんに怒っていたんだね、母さんを大好きだったんだね、父さんことも大好きで、父さんに幻滅したくなかったんだね」と子どもの頃の自分を思い浮かべてその子に共感してあげるようにしました。この方法で、夫へ理不尽な文句を言うことはかなり減りました。

 過去の痛みが出てくるのは心が大人になった証拠、仕方がないことですが、そのことで大切な夫婦関係、パートナーシップを壊してしまっては大変です。どうか、お互いに自分の心の動きを良く知って、必要以上の喧嘩をせずに済みますように。
 上手に甘えて、上手に癒して、自分の傷も相手の傷もまるごと愛してあげられますように。