その４ 「Happy End」
―――あれからもう何年経つのかしら。
あの人は、二人のパパになったと風のうわさで聞いた。懐かしさとほろ苦い想いが交差する。
夫に言えなかったことを、あの人にも私はやっぱり言えなかった。好きだということも、解ってほしい想いも何ひとつ。
「でも、これで良かったんだな。」
言葉がひとりでに漏れていたことに気づいていなかった。
「ん？どうしたの？」
「あ、私何か言った？」
「なんだ、いつものひとりごと？」
はにかんだような笑顔がそこにあった。
この人には、色んなことを話してきたな。いつも一方的だけど。どんなひどい自分も、見てもらった。駄々っ子になって、はぐらかしたりしたこともあったのに、この人はすごいな・・・。見捨てられると思ったこと、何回もあるわ。
彼は、そんな彼女を見ながら、自分にはない素直さを感じいる。素直な気持ちを伝えられない自分と比べて、引け目に思っていたときもある。
けれど、どうして自分を解ろうとしてくれるんだろう、ということがこのごろ、少しずつ解ってきたように思う。
要するに、
「似たもの同士ってことかな。」
「え？なに？」
「別に。俺、何か言った？」
何も言わないその場の楽さと、ずっと言わないでいる苦しさを、どこかで天秤にかけていたのかもしれない。
自分にとっては、いずれにしてもどちらも苦しいことだった。今となってはこの人が、そんな苦しさも解ってくれる。自分も解ってあげられる。
それぞれが、相手の知らない時間の中で、自分をもてあましていた。そのことも含んで丸ごと、一緒にいる時間と空間が、今、手の中にある。
今になってみれば、どんな出来事にも意味があったと思えるけど、そんな風に思えるときが来るとも思ってもいなかった。上手く立ち回ろうとすればするほど距離が開いてしまうこともあった。
少なくとも、どうしても伝えなければいけないことだけは、言葉を使うことが必要だ、と最近は感じざるを得ない。それでも、言葉以外に頼っていることは多いけれど。
窓の外を叩いていた雨が弱まったと思ったら、雲の隙間から幾筋もの光がおりてきてゆるゆると束をなしていた。にじんでいた景色は、輪郭をくっきりと浮かばせながら、少しずつ夜に向かっていく。
何だか人生みたいだなあ。
小さくつぶやいて窓を覗き込んでいたら、窓ガラスに同じように除いている姿が、あって笑ってしまった。
「さ、食事にしましょうか。」
二人で並べた食卓に向かおうとしたら、知らない間にワインが置いてあった。
「あれ？これ・・・。」
「あれ、じゃないでしょう？」
「ありがとう。」
ありがとう。
ごめんなさい。
少なくとも、これだけはちゃんと言葉にしようね、と言う約束があった。
すれ違って、相手の想いを感じ取れなくて、自分の心も相手の心も、ひどく掻き毟ったときに、二人で決めたのだった。
テーブルの上のワインのように、ゆったりと育まれた時間がそこにはあった。
柔らかに流れる時間を、夜の帳が包み始めていた。
―FINE―
―――あれからもう何年経つのかしら。
あの人は、二人のパパになったと風のうわさで聞いた。懐かしさとほろ苦い想いが交差する。
夫に言えなかったことを、あの人にも私はやっぱり言えなかった。好きだということも、解ってほしい想いも何ひとつ。
「でも、これで良かったんだな。」
言葉がひとりでに漏れていたことに気づいていなかった。
「ん？どうしたの？」
「あ、私何か言った？」
「なんだ、いつものひとりごと？」
はにかんだような笑顔がそこにあった。
この人には、色んなことを話してきたな。いつも一方的だけど。どんなひどい自分も、見てもらった。駄々っ子になって、はぐらかしたりしたこともあったのに、この人はすごいな・・・。見捨てられると思ったこと、何回もあるわ。
彼は、そんな彼女を見ながら、自分にはない素直さを感じいる。素直な気持ちを伝えられない自分と比べて、引け目に思っていたときもある。
けれど、どうして自分を解ろうとしてくれるんだろう、ということがこのごろ、少しずつ解ってきたように思う。
要するに、
「似たもの同士ってことかな。」
「え？なに？」
「別に。俺、何か言った？」
何も言わないその場の楽さと、ずっと言わないでいる苦しさを、どこかで天秤にかけていたのかもしれない。
自分にとっては、いずれにしてもどちらも苦しいことだった。今となってはこの人が、そんな苦しさも解ってくれる。自分も解ってあげられる。
それぞれが、相手の知らない時間の中で、自分をもてあましていた。そのことも含んで丸ごと、一緒にいる時間と空間が、今、手の中にある。
今になってみれば、どんな出来事にも意味があったと思えるけど、そんな風に思えるときが来るとも思ってもいなかった。上手く立ち回ろうとすればするほど距離が開いてしまうこともあった。
少なくとも、どうしても伝えなければいけないことだけは、言葉を使うことが必要だ、と最近は感じざるを得ない。それでも、言葉以外に頼っていることは多いけれど。
窓の外を叩いていた雨が弱まったと思ったら、雲の隙間から幾筋もの光がおりてきてゆるゆると束をなしていた。にじんでいた景色は、輪郭をくっきりと浮かばせながら、少しずつ夜に向かっていく。
何だか人生みたいだなあ。
小さくつぶやいて窓を覗き込んでいたら、窓ガラスに同じように除いている姿が、あって笑ってしまった。
「さ、食事にしましょうか。」
二人で並べた食卓に向かおうとしたら、知らない間にワインが置いてあった。
「あれ？これ・・・。」
「あれ、じゃないでしょう？」
「ありがとう。」
ありがとう。
ごめんなさい。
少なくとも、これだけはちゃんと言葉にしようね、と言う約束があった。
すれ違って、相手の想いを感じ取れなくて、自分の心も相手の心も、ひどく掻き毟ったときに、二人で決めたのだった。
テーブルの上のワインのように、ゆったりと育まれた時間がそこにはあった。
柔らかに流れる時間を、夜の帳が包み始めていた。
―FINE―
を用意しました。
）。めんどくさい。みんな我慢せなあかんし、不自然や。」
と言うブーイングの嵐。
って思うんですが、本当の強さをそこに感じるからなんです。
というのも、つまり、お互いの自信のなさ、自己嫌悪と言ったことも、相手を遠のける絶好？の材料になってしまったりもするのです。
から、この国の結婚に関する考察（というような高尚なものでもないのですがぁ）でした。
だと思います。
と思われますか？
）。
