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吸血塾

佐紀波若生は姉の助けた吸血鬼を匿うことになったのだが・・・

2012年06月

しかし、3人はすぐに若生の攻撃力の凄まじさを目の当たりにすることになる。
七緒の自家用車フィットがショッピングモールの進入路に入ってすぐのことだった。
若生を心配していた七緒が立体駐車場の上階を見るのは当然だった。
その屋上階で空気の歪みが広がる。
そして走っている車のハンドルを取られる程の衝撃が伝わってきた。
七緒は車を脇に停めて飛び出した。
「若生君!?」
屋上階から何かが高く舞い上がったのだ。
それを追うように影が飛び上がる。
一瞬送れて「ドンッ」という音が衝撃波とともに伝わる。
後で飛んだのが若生だ。
若生は先に飛び上がったのか吹き飛ばされたのか分からない人影を突き抜けた。
若生の相手の体の何割かが四散した。
更に遅れて衝撃波が伝わる。
近づいていたので、鼓膜が破れる寸前だった。
若生は空中で振り向いてあの髪の毛を鞭のように使う技で残った相手の体を絡め取ったようだ。
あのままでは、地面に飛び降りることになる。
七緒は血液を入れたジュラルミンのケースを持って走る。
若生が地階の車道に着地すると同時に髪の毛を振るって地面に叩き付けた。
アスファルトに人型の上半身が原型をとどめずにありえない広がり方でアスファルトに張り付いた。
若生は右腕を振るって、巻きついた髪の毛ごと衝撃波で吹き飛ばした。
粉砕されたアスファルトで舞い上がった土埃が風でゆっくり流された後には全裸の若生が立っていた。
恐らく、最初に衝撃波を作った時に全身を変形させたので衣服は吹き飛んでしまったのだろう。
若生は七緒の方を一瞥して立体駐車場の三人が車で来たのとは反対方向に歩きだした。
「若生君!?」
しかし、若生は止まらずに角を曲がっていく。
「そこで待ってて」
そう言われて七緒は足を止めたが、若生は先を進んでいく。
髪はまた伸びたようで、地を這うような位置で後ろになびいている。
若生は何かを投げるように右手を振りかぶり突き出した。
その動作に思わず七緒は耳を塞ぎながら若生から目を離すことが出来なかった。
ばおおおっ!!
若生の向かう前面に歪んだ空気の壁が突進していく。
その先には人型をしたものが吹き飛ばされていた。
やや遅れて七緒の方にも爆風、衝撃波の余波が襲ってくる。
耳を覆っていなかったら、また鼓膜を破られていただろう。
蓮夏と早紀は鼓膜をやられたかも知れないが、二人ともスレイブだ。
暫くすれば回復するだろう。
それよりも前方の衝撃波をもろに食らった女、恐らくはあのリタという眷属のように見えたが、あちらの方が問題だった。

スクーターではなく、七緒の自家用車に乗り込む。

蓮夏に続いて早紀も後席に乗り込んだ。

七緒と蓮夏はどうしたものかと顔を見合わせたが、

「あちらで血液が足りなくなった場合は『生のタンク』が必要でしょ?」

と、早紀に押し切られる形になった。

「マルリックには何とか連絡はつきそう?」

車を覗き込むエディーに七尾は訊く。

「シスターから簡単な携帯による合図で、こちらに戻っているはずです」

「とにかく、こちらは急ぐわね。場所は分からないでしょうけど松崎のショッピングモールの立体パーキングだから」

七緒は車を発進させた。

すでに日が変わって交通量は少なかったが二輪と比べて進行が遅く感じてしまう。

「本当に勝てたのか?あのロード・フィルに?」

実際にロード・フィルを見ている蓮夏には正直信じれれなかった。

「ええ、尻上がりに攻撃力を増強させてね」

「どうやって?優ってたスピードと回復力じゃ足元にも及ばなねーはずだったろ?」

「そのスピードと回復力で圧倒したのよ。あの子、筋肉を棘状にしたりブレードにしたり、傷口を治したり出来たでしょう?あれを究極的にスピードアップしたエネルギーで衝撃波を作ったり、その威力で体当たりしたりね。伸びた髪の毛も鞭のように使ってたけど」

「すっげー!見てみたかったぜ」

「冗談じゃない!」

同時に車のクラクションが鳴った。

七緒が思わずハンドルを叩いてボタン部分を押してしまったのだ。

「とても見ていられなかったわ!衝撃波で自分自身が吹き飛んで壁に激突して手足を潰して、その部分の再生力を利用して攻撃、フィルにダメージを与えても自分がボロボロになって、まだ繰り返して・・・」

泣き出しそうな七緒の声だった。

「先生」

対して早紀の声は冷静だった。

「・・・ごめんなさい」

その後は七緒は黙って車を運転し続けた。

蓮夏も早紀も黙っていた。

七緒はスクーターで30分ほど走っただろうか、塾の手前の道を減速して走るのがかったるかった。
吸血鬼になっても気は焦るものだ。
塾に戻ってまずは冷凍血液を集める。
蓮夏と早紀に連絡を取ってエディーに採血をしてもらう。
二往復ほどしなければならないかも知れない。
マルリックがバイクを運転出来れば先ずは冷凍血液を持って・・・いや、あのショピングモールを知らないかもしれない。
やはり、自分が走らねばならないだろう。
とにかく、いくらか血を飲ませれば吸血衝動は抑えられる可能性が高い。
そうなれば後はどうとでも出来るはずだ。
考明塾に戻りスクーターを乗り入れると蓮夏と早紀が飛び出してきた。
ついている!これで二人と合流する時間を省くことができる。
「何やってたんだよ!」
蓮夏がきつい口調で訊いてきた。
「蓮夏!桐蔭寺さん!血をちょうだい!」
七緒はそう言いつつ医務室に向かった。
献血用の注射器は何セットか最近手に入れていた。
それを取り出しながら蓮夏を見ながら言う。
「蓮夏、ベッドに寝て腕を出して、400ccはもらうわ」
「若生に飲ませるのか?」
「ええ、フィルと闘ったの」
「はあっ?」
「勝てたのだけれど消耗が激しいの」
診察台に座っていた蓮夏の肩を押さえて寝かせ、左腕にゴムチューブを巻きながら続けた。
「いいわね?」
「いや、いいのか?400で?今の俺なら800はいけそうだぜ」
「多分、血と同時に水分補給すれば・・・しまった。ポカリでも何でも別れ際に渡しておけば良かった」
悔やんでも仕方が無い。
今は新鮮な血を確保しよう。
七緒は蓮夏の腕の血管を注意深く採血針をさす。
人間の血管が見える吸血鬼体質はこういう時便利だった。
半透明のチューブを血が流れていくのを確認して七緒は振り返った。
「桐蔭寺さん、こっちに来て!」
和室に入って入り口のすぐ横に早紀を寝かし、蓮夏と同じ処置をした。
「本当に若生がフィルに勝ったのですか?」
エディーが弥生の腕をつかんで下りたばかりの階段の下で訊いた?
「見てなければ私も信じられないわ」
首をやや横に傾けて信じられないといった顔をしたエディーに七緒は言った。
「マルリックはどうしたの?」
「あなたと若生を捜しに行ってますよ」
「悪かったわね。誘い出されてしまったの。若生君はそんな私についてきてしまって」
「何故、若生は連絡してこなかったのです?」
「あの子、最初からフィルと決闘するつもりだったのね。結果的に私がきっかけを与えてしまった」
「あんのバカヤローがーっ!!」
医務室の蓮夏の叫び声だった。
七緒はその叫び声のした医務室に入って蓮夏の採血を終えて回収する。
「ついてくる?」
「ったりめーだ!」
「いきなりは会わすことは出来ないわよ。最初の吸血衝動よりひどいことになってるはずだから」
「理性は残ってるんだろ?」
「ええ、はっきりとね。だから余計に暴走させたくないの」
七緒は和室の早紀の下に向かった。
早紀の血液を回収して、生理食塩水のパック、そして硫黄溶液を充填した注射器を診察ようバッグに入れて外に出た。

若生は七緒にキーを渡した。
七緒はキーを受け取った代わりというわけではないのだろうが、着ていた白衣を若生に渡した。
裸の上半身では腹から突き出たフィルの腕が無くとも目立ってしまう。
若生は白衣を羽織って中ほどのボタンを二つ三つ留めながら階段を上りきってガレージに出ると隅にカバーを被せたそれらしきデティールの物を見つけた。
カバーを捲くると中は250ccのスクーターだった。
若生と七緒は知らなかったがフィルが考明塾を襲った時に移動に使ったスクーターだった。
七緒はシートを空けて起こすとヘルメットが二個入っているのを確認して若生に渡しながら自分も被りスクーターにまたがる。
若生もヘルメットを被り後ろのタンデムシートに乗った。
七緒はキーを挿して回し、セルボタンを押すとエンジンはスムーズに回った。
重たそうに見えたが走らせると意外に軽快なバイクだった。
スクーターは考明塾に向かって走っていく。
若生は石油工場から充分離れてから七緒に声を掛けた。
「塾に着く前に、どこか人気の無い場所に止めてよ」
「分かってるわ」
若生は今、強烈な吸血衝動と戦っているはずだった。
人間、ましてやスレイブの蓮夏や早紀を近づけるのは危険すぎた。
とにかく、七緒が血液を取りにいって戻るまでの間、若生を人の接触から避けなければならなかった。
七緒はスクーターをショッピングモールのある方向に向けた。
ショッピングモールの駐車場に入ろうとする七緒に若生は怪訝そうに声を掛ける。
「人気の無い場所にって――」
「意外な盲点があるのよ」
七緒は立体駐車場に入り通路を上階へ駆け上がっていく。
最上階のすぐ下で七緒はバイクを止めた。
「ここのR階はちょっと前墜落事故があってね。利用禁止になっているのよ」
七緒は立ち入り禁止の表示をつけたチェーンの張ってある上階に上がって行った。
七緒は最上階の周囲を見渡して、また若生の許に戻ってきた。
「ここも車が少ないわね」
「ああ、人が来たら上に飛び上がるよ」
「今はここにいるのよ。R階は、たぶん監視カメラがあるわ」
七緒はスクーターに再び乗って走り去っていった。
若生は支柱に寄りかかって座り込んだ。
座るとフィルの腕が食い込んだ右腹が強烈に痛んだ。
「まあ、このまま死んでも後はマルリックに任せておけばいいか・・・」
座り込んでみると、かなりの無理を体に掛けたことがわかる。
筋肉疲労を通り越してミイラになる寸前のような消耗の仕方だった。
これでよく生きて尚身体が動いているものだ。
若生は自分の体を見下ろし格好を確認した。
「まあ、そんなに不細工な死に様じゃないし」
若生はズボンをくれたケンジに感謝していた。

最初にフィルの横たわっていた部屋に出て、ケンジに出くわしてしまった。
スレイブを二人連れていた。
「な、何故、お前達がそこに居るんだ?まさか・・・」
ケンジは上ずった声を出して訊いた。
「フィルは死んだわ。負けたのよ、若生君にね」
「まさか・・・信じられん。」
「私も信じられないのだけれどね」
ケンジは腰の鞘から大型の刃物を取り出した。
日本製ではない、南米でよく使われるマシェットという山刀だった。
「やめろ・・・リタはあんたの主なんだろう?あそこから出してやってくれ」
若生は七緒の肩にかけていた腕を外して、ケンジから横に距離を取るように歩いた。
「それから、そこのスレイブを俺に近づけるな。どうなっても知らねえぞ」
スレイブの一人がびくりと身を震わせた。
若生を見張って捕えられた女スレイブだった。
「俺達をここから見逃すんだ!」
「お前、吸血鬼の主従関係舐めてるだろ?」
ケンジは若生に仕掛けようとする。
若生は右腕をケンジに向けて上げた。
肩から肘に針状の剛毛が生え始めた次の瞬間、若生の右手首から先が爆発した。
もちろん、それは爆発などではない。
剛毛を生やした状態に瞬間的に変形させることで衝撃波を発生させるという、覚えたての若生の新技だった。
100ミリ砲の空砲を砲口の前で受けた程度の破壊力にケンジの体は吹き飛ばされた。
後ろの壁に激突したケンジはそれでもすぐに起き上がった。
しかし、うんうんという感じで首を縦に振って、マシェットを拾ったり再度の攻撃に転ずる事はなかった。
代わりにズボンを脱いで、若生に投げ与えた。
「何不思議そうな顔してんだ?お前、自分がどんなカッコか分かってんのか?」
若生下を向くとほぼ全裸に近い状態であることに初めて気づいた。
かろうじてベルトの周囲と股間はサポーター(勃起を隠すために密かに穿き始めた)の周りに僅かに残ったジーパンの布切れだけだった。
後は体を隠すものは前後左右に不自然に伸びた髪の毛だった。
「せめて下だけでも穿いて行け」
「主従関係はいいのか?」
「長いものには巻かれる主義・・・にした」
ケンジはため息混じりに言い訳した。
若生はケンジに背を向けて出口への通路に向かった。
「先生は前を歩いて」
「でも・・・」
七緒は追撃が無いか後ろを気にしていた。
「俺の背中を狙ったりしたら、この通路からミンチにして吹き飛ばす」
七緒は納得して若生のすぐ右前に出た。
この構造と堅牢な壁面なら若生の衝撃波は周囲に分散したりせず確実に相手を粉砕しながら吹き飛ばすことだろう。
若生は地上階に上がる階段を上り始めて膝の付け根に違和感を感じた。
ポケットを探ると鍵が入っていた。
ヤマハのマークの入ったキー。
バイクのキーなのだろう。
「戦利品か?それとも餞別のつもりかな?」

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