酪酸菌による酪酸と水素の生産

水素は老化の原因となる体内活性酸素をダイレクトに消去してくれるので体に良さそうと思ってなんとなく市販の水素水を飲んでいる方々は多いのではないでしょうか?

 

確かに水素ガスは虚血・再灌流障害、神経変性、メタボリックシンドローム、炎症、ミトコンドリア病、さらには癌など、一連の疾患の予防や治療に有望な可能性を持つ医療用ガスとして注目されています。

 

しかしながら、その一方で水素水の効能やメカニズムに関する科学的根拠を示すような学術論文は皆無に近いのが現状です。

 

そのような中、水素水の効能を議論する論文が一つ見つかりました。2012年、日本老年医学会雑誌に投稿された『水素分子の生理作用と水素水による疾患防御』という論文です。その論文の考察に、『水素水による糖尿病患者の酸化ストレスの抑制と肝がん患者の放射線治療におけるQOLの改善が挙げられているのですが、効果の検証には今後の臨床レベルの研究が必要とされる。』とありました。そして、『摂取した水素は体内に拡散して、血流に乗り、大半は呼気ガスとして排出される。ヒトに飲水後の呼気ガス中の水素濃度のピークは10分程度で、1時間後にほぼ元に戻る。』とありました。

 

つまり、水素水を飲んでも水素は体内に僅か10分程度しか滞在できず、水素の効能効果を期待することはクエスチョンマークのようです。そこで、この『健康まめ知識』では、それが事実であることを示し、水素を医療用ガスとして利用するのであれば、水素水よりも水素を発生させている腸内細菌のエサとなる難消化性オリゴ糖の方が有用であることを明らかとした論文を紹介します。

 

酪酸発酵の代謝経路から酪酸菌のような酪酸を産生する腸内細菌は水素も同時に発生させていることが分かります。理論的には1モルのブドウ糖から1モルの酪酸に変換する際に4モルの水素分子が作られることになります。分かりやすく言うと、ブドウ糖1個から酪酸1個と水素4個ができることになります。

 

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ショ糖を基質とした場合、酪酸菌の代謝産物濃度、水素収率、培地のpHの関係を図2に示しています。pH7.0では乳酸濃度が高く、酢酸や酪酸の濃度は低いのですが、培地pHが低くなると乳酸の生産量は低くなり、反対に酪酸と酢酸の生産量が増え、水素収率も高まっていることが分かります。つまり、酪酸や酢酸が作られpHが低くなれば水素も発生することを意味しています。
水素エネルギーシステム Vol.29, No.1(2004)


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では、今回、紹介したい論文です。協同乳業と慶応大学の共同研究で2017年にJournal of Functional Foods誌(Journal of Functional Foods 35 (2017)13-23)に掲載されています。そのタイトルはEffects of functional milk containing galactooligosaccharide, maltitol, and glucomannan on the production of hydrogen gas in the human intestine (ガラクトオリゴ糖、マルチトール、グルコマンナンを含む機能性ミルクがヒト腸内の水素ガス発生に及ぼす影響)です。

 

まず、この論文では、健康な成人10名の糞便懸濁液と23種類のプレバイオティクス(腸内細菌のエサとなる)候補を37℃、24時間培養し、水素発生量を測定し、水素発生量の多かったガラクトオリゴ糖、マルチトール、グルコマンナンを水素ガス発生能力の高い難消化性物質として選択しています。図2に示すように、腸内における酪酸の産生量と水素の産生量には正の相関があるので、酪酸産生に最も有効なαオリゴ糖が検討対象(候補)の一つにあるべきですが、残念ながら23種類の中に含まれていませんでした。

 

次に、健康な成人21名に食物繊維としてガラクトオリゴ糖1.5%、マルチトール1.0%、グルコマンナン0.1%を添加した牛乳、無添加牛乳、そして、水素水(メロディアン社製)を200ml飲んでもらい、呼気中の水素濃度を1時間ごとに測定しています。

 

その結果、水素水を飲んだ場合にはすぐに呼気中の水素濃度は高まるのですが10分程度で、1時間後には低濃度となっていましたが、食物繊維を添加した牛乳を飲むことで呼気中の水素濃度は高まり、数時間も維持されることがわかりました。また、総水素ガス産生量(AUC)も水素水に比べて食物繊維添加牛乳の方が有意に高く、食物繊維添加牛乳の一般的な効果が水素水を上回ることが示されています。このことから、食物繊維添加牛乳は酸化ストレスに起因する疾患の予防に有効であると考えられます。

 

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最後に、各種食物繊維(難消化性オリゴ糖)の中で酪酸菌との相性が最もいい難消化性オリゴ糖はα-オリゴ糖であり、α-オリゴ糖が最も酪酸産生に有効であることを示す結果を紹介しておきます。水素の産生量においても図4と図2からα-オリゴ糖が最も有効なのです。

 

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この酪酸菌とα-オリゴ糖の入ったサプリメントが開発されています。『キウイとオリゴのパウダー』という製品です。激しい運動をする人、糖尿病や脂質異常症などの疾患を持っている人、そして、その予備軍、肌の光老化が気になる人など、酸化ストレスに起因する疾患の予防のためにもこのサプリメントを摂取しましょう。

 

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尚、この記事は雑誌会でRHさんがまとめてくれたプレゼン資料がベースとなっています。RHさん、ご苦労様でした。

 

スポーツパフォーマンスにおけるポリフェノールの役割

クルクミン、レスベラトロール、ケルセチンといったポリフェノール類による健康増進効果に関する研究報告は数多くあるのですが、スポーツパフォーマンスに特化した報告はそれほど多くありません。そこで、「スポーツパフォーマンスにおけるポリフェノールの役割」という演題のイタリアの研究グループのレビューがありましたので紹介させていただきます。パーソナル化サプリへのトッピングを決める上で参考にして頂ければ幸いです。

 

Review : Deciphering the Role of Polyphenols in Sports Performance: From Nutritional Genomics to the Gut Microbiota toward Phytonutritional Epigenomics

V. Sorrenti et al., Nutrients, Received: 16 March 2020; Accepted: 27 Accepted 2020; Published: 29 April 2020

 

ポリフェノールは、果物、野菜、シリアル、お茶、チョコレートなどのさまざまな食品や自然界に存在し、抗酸化・抗炎症・抗菌・抗ウイルス・鎮痒・抗寄生虫など、さまざまな健康特性を持っています。これまで、スポーツパフォーマンスにおけるポリフェノールの効果についても研究されており、運動中の酸化ストレスや炎症を抑制することでパフォーマンスを向上するものと考えられてきました。しかしながら、ポリフェノールの効果は酸化ストレスと炎症の抑制に限られたものではありません。

 

ポリフェノールを摂取すると、小腸で、その5-10%が吸収されますが、残りの90-95%は大腸に移行します。大腸に到達したポリフェノールは腸内細菌叢との相互作用を通じて、代謝および認知機能にとって非常に重要であることが知られている細菌属のアッカーマンシア菌、乳酸菌、ビフィズス菌などの増殖を促進できます。また、腸内細菌は大腸内に移行したポリフェノールを代謝して、小さな生物活性分子を生成し、エピジェネティックな(遺伝子発現をコントロールするような)メカニズムを発揮することでスポーツパフォーマンスは向上します。

 

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ポリフェノールが影響を与えることが知られている転写因子とその下流でどのような効果が見られるかを図2に示しました。

 

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2中の転写因子の説明:

 

l  AMPKAMP活性化プロテインキナーゼ):細胞エネルギーの恒常性維持における主要な制御因子。

l  SIRT-1(サーチュイン1):細胞周期・細胞老化・アポトーシス・インスリン/IGF-1 経路などを調節し、ストレス抵抗性や代謝に関与。

l  NRF2:細胞周期・細胞老化・アポトーシス・インスリン/IGF-1 経路などを調節し、ストレス抵抗性や代謝に関与。

l  eNOS:内皮型一酸化窒素合成酵素

l  PGC-1α:エネルギー産生や熱消費に関わる多くの遺伝子発現を制御

l  FOXO3:酸化ストレス応答, 糖新生, 細胞周期停止, アポトーシス誘導などの生体機能に関与。

 

注目されているポリフェノール類の腸内細菌の変化、および、代謝産物の検討内容についても紹介されています。

 

まず、ウコンに含まれる機能性成分のクルクミンです。クルクミンは様々な健康増進効果が報告されていますが、スポーツパフォーマンスに与えるメリットとしては、筋肉疲労・筋肉量減少・筋肉痛を抑え、筋疲労を回復する物質として知られています。この「健康まめ知識」でも取り上げています。

 

『クルクミンによるアスリートのパフォーマンス向上』

http://blog.livedoor.jp/cyclochem02/archives/51038692.html

 

 

このレビューでは、クルクミンの腸内フローラへの影響について調べた論文が紹介されています。

 

マウス試験でクルクミン摂取によるファーミキューテス菌/バクテロイデス菌比率(F/B比)の変化を調べています。尚、肥満のヒトの腸内フローラはヤセ型のヒトに比べ、ファーミキューテス菌の比率が高く、バクテロイデス菌の比率が低いので肥満のヒトはF/B比が高くなります。

 

100 mg/kg/dayのクルクミンを卵巣摘出マウスに12週間経口投与したところ、クルクミン摂取により、卵巣摘出によるF/B比の増加が抑制されることが確認されています。

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また、クルクミンを摂取すると腸内のビフィズス菌・乳酸菌・酪酸菌の量が増加し、有益な微生物叢と病原菌との関係を大幅に改善することができます。

 

吸収型クルクミン製剤であるセラクルミンを0.2 w/w配合したエサを、マウスに18日間自由摂取させたところ、糞便中の酪酸産生菌はコントロールの約2倍に増加することが判りました。デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)で炎症性腸疾患を誘発させると酪酸産生菌は減少しますが、クルクミンを摂取することでコントロールと同等まで改善しています。また、酪酸産生菌の増加に伴って糞便中の酪酸量も増加することを確認しています。さらに、クルクミンは腸球菌、コリオバクテリウム、エンテロバクター科の増殖を抑制し、免疫調節作用と抗炎症作用を示すことで腸内バリアを強化できることも明らかとしています。

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クルクミンの一部は腸内細菌の大腸菌によって還元され免疫強化に有効でクルクミンよりもさらに抗酸化作用の高いテトラヒドロクルクミン(THC)に変換されることが判明し、γシクロデキストリン包接によって代謝産物のTHCの生産量は高くなることをシクロケム社とワッカー社によって報告しています。

 

「腸内細菌による機能性成分からの有益な代謝産物」

http://blog.livedoor.jp/cyclochem02/archives/55886365.html

 

クルクミン以外にも腸内細菌によってイソフラボンからエクオールなど、さまざまなポリフェノール類から有益な分子が生成することが判っております。このレビューではレスベラトロールやケルセチンからの代謝産物が紹介されています。

 

赤ワインに含まれることで有名なレスベラトロールは筋力や疲労耐性の向上や筋肉の再生促進に有効であり、骨格筋のミトコンドリア容量を増大してスポーツパフォーマンスを向上します。

 

腸内フローラに関して、レスベラトロールは乳酸菌やアッカーマンシア菌を増やしてくれるのですが、特に、アッカーマンシア菌は腸壁の粘液の産生を刺激して、腸管バリア機能を高め、糖代謝と炎症の抑制に役立つことが知られています。また、レスベラトロールはエンテロコッカス・ファエカリスの増殖を抑え、動脈硬化の危険因子であるコリンからのトリメチルアミンの生成を抑制します。

 

5にはレスベラトロールの代謝産物である生理活性分子について示しています。

 

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玉ねぎに含まれる機能性成分のケルセチンも肉体的・精神的なスポーツパフォーマンスの向上が確認されています。レジスタンストレーニング中およびトレーニング後の神経筋パフォーマンスを改善し、筋原線維破壊と筋力低下を抑制して、運動後の疲労回復時間を短縮することが知られています。

 

ケルセチンはケルセチン代謝酵素をもつバチルス・サブティリス(枯草菌)などの腸内細菌によって代謝され生理活性分子が生成することが明かとなっています。

 

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このように、ポリフェノールがスポーツパフォーマンスに与える影響は、これまで一般的に考えられていた酸化ストレスや炎症の低減だけではなく、腸内細菌叢との相互作用についても考慮すべきであること最近の研究で明らかとなっています。

 

尚、このレビューはシクロケムバイオの雑誌会でAMさんが紹介してくれたものです。AMさん、ご苦労様でした。

αオリゴ糖は悪玉胆汁酸を減らして腸管バリア機能を高める

 胆汁に関して、この『健康まめ知識』では、『R-αリポ酸の効能とS-αリポ酸の毒性に関する論文の要約と考察(その)』という題名で、R-αリポ酸の胆汁分泌促進作用について紹介したことがあります。その出だしは、「日本人高齢者は肉が苦手な方が多いようですが、なぜだか、ご存知でしょうか? 胆汁の分泌量が若い人に比べて少なくなる傾向にあるのが原因なのです。」でした。

 

http://blog.livedoor.jp/cyclochem02/archives/52522605.html

 

胆汁は脂質を乳化することで酵素分解を助け、脂溶性物質の吸収を促進するといった役目を担っております。その胆汁の主要成分である胆汁酸は肝臓においてコレステロールから作られているのですが、R-αリポ酸は肝機能を高めることで胆汁分泌作用を促進するというものでした。

 

ヒトの体内ではコレステロールより主に5種類の胆汁酸が生産されています。肝臓においてはコレステロールからコール酸とケノデオキシコール酸が生産されます。それらの一次胆汁酸が、腸内に移行すると、クロストリジウム、ユウバクテリウムといった悪玉細菌によって大腸がんリスク因子であり腸管上皮細胞に対して細胞毒性を持つ悪玉胆汁酸とも呼ばれる一次胆汁酸のデオキシコール酸やリトコール酸が作られます。その一方で、乳酸菌などの善玉菌によって肝機能改善効果のある善玉のウルソデオキシコール酸も作られています。このウルソデオキシコール酸は体内に存在する物質なのですが、胃腸薬の有効成分としても知られています。

 

また、善玉の二次胆汁酸といえば、2021730日、慶応大と理化学研究所のグループは国際学術誌『Nature』オンライン版に、腸内細菌から産生されるイソアロリトコール酸という新たな二次胆汁酸が健康長寿に関わることを見出したとの報告がありました。イソアロリトコール酸は百寿者の便中に特異的に多く、グラム陽性病原性細菌に対して強い抗菌活性を持つことを明らかとしています。この報告によると、病原性細菌であるクロストリディオイデス・ディフィシルを培養したところにイソアロリトコール酸を添加すると強い抗菌作用が示されたようです。なので、この発見はヒトにおける感染症に対する予防・治療法、そして、健康長寿の秘訣の解明につながると期待されています。

 
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肝臓で作られた胆汁酸は小腸で脂肪吸収に働いた後、その95%以上は門脈を通って、肝臓に戻り、再利用されています。このサイクルは「腸肝循環」と呼ばれています。加齢によって肝臓の機能が低下すると胆汁流量が減少し、胆汁は減少していきます。

 

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悪玉細菌から作られる悪玉のデオキシコール酸やリトコール酸といった胆汁酸は疎水性が高く、ミセル化による脂肪吸収に効果的なのですが、その反面、腸管上皮細胞の細胞膜を壊すような細胞毒性を持った大腸リスク因子でもあります。一方、善玉細菌が作るウルソデオキシコール酸は善玉の二次胆汁酸として親水性のため細胞毒性は低く、消化管への負担が少ないのが特徴です。ウルソデオキシコール酸は、腸管から吸収されるとそのまま腸肝循環に入り、R-αリポ酸と同様に肝機能を改善して、胆汁分泌を促進することも知られています。

 

シクロケムではαオリゴ糖摂取による抗肥満効果について報告しています。

 

http://www.cyclochem.com/cyclochembio/research/092.html

 

この検討では、マウスを普通食群、高脂肪食群、そして、αオリゴ糖を添加した高脂肪食群に分けて、αオリゴ糖に抗肥満効果として体重増加抑制作用や内臓脂肪増加抑制作用のあることを確認しているのですが、同時に、腸内細菌叢の変化についても検討しており、高脂肪食によって悪玉のデオキシコール酸やリトコール酸を作り出すクロストリジウムは増加するのですが、αオリゴ糖を摂取することでクロストリジウムを減少させることを明らかとしています。また、短鎖脂肪酸を増やす、バクテロイデス(ヤセ菌)や善玉菌が増加することも確認しています。

 

悪玉胆汁酸の減少と善玉胆汁酸の増加に関する検討を行っています。エピラクトースをラットに経口投与すると、短鎖脂肪酸の生産量の増加に伴い、悪玉菌のクロストリジウムが減少し、乳酸菌が増加することが示されました。その結果、腸内において悪玉胆汁酸への変換が抑制されることを明らかとしています。

 

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このようにαオリゴ糖には腸管上皮細胞に対する細胞毒性を持つ悪玉胆汁酸の産生を抑制して腸管バリア機能を高める可能性があると考えられます。

 

αオリゴ糖には食用の合成乳化剤であるシュガーエステルの腸管上皮細胞に対する細胞毒性を抑制する作用のあることも知られていますので、αオリゴ糖はシュガーエステルや悪玉胆汁酸によって崩壊した腸管バリア機能を修復するためのダブルパワーを持ち合わせていることになります。

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