シトルリンを含むスイカの効能(その3.大腸炎と大腸がんの予防効果)

前々回の『健康まめ知識』ではシトルリンを含むスイカの効能の(その1)として「スポーツパフォーマンスの向上」を取り上げ、前回は(その2)として「体脂肪の低減とアテローム性動脈硬化の予防効果」を取り上げました。今回は「大腸炎と大腸がんの予防効果」に関する論文を取り上げます。

 

Effects of watermelon powder supplementation on colitis in high-fat diet-fed and dextran sodium sulfate-treated rats(高脂肪食給餌およびデキストラン硫酸ナトリウム処理ラットの大腸炎に対するスイカ粉末補給の影響)

M. Young Hong et al., Journal of Functional Foods 54 (2019) 520–528

 

日本における死因の第一位は言うまでもなく「がん」です。その中でも「大腸がん」は、日本のがん死亡数の上位に入る疾患なのです。厚労省の『人口動態統計月報年報』(2015)では、がんの中で死亡数の多い部位で「大腸」は女性が1位、男性でも3位でした。このように多くの方の命にかかわる大腸がんの問題は、症状がわかりにくく、気づいた時には既に進行してしまっていたということもよくあることです。

 

大腸がんの症状の現れ方は大腸の部位によって異なります。図1に示しますように大腸の区分の中で小腸に近い部位、たとえば、上行結腸などにできたがんは症状が現れにくいケースが多いのです。なぜなら肛門から遠いために出血があっても血便となり辛いからです。そこで、大事なのは定期的な大腸がん検査と大腸がんにならないための食生活を含む環境の改善です。

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 大腸がんリスクを増大させる最も重要な要因の一つに潰瘍性大腸炎があります。潰瘍性大腸炎は大腸細胞によるアルギニン取込み低下に起因する内皮機能障害を特徴としており、最近の研究では、潰瘍性大腸炎患者の大腸組織は正常者よりアルギニンが低濃度であることが判っています。また、潰瘍性大腸炎予防のためのアプローチとして、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘発大腸炎マウスにアルギニンを摂取させると、抗酸化活性の上昇・炎症性サイトカインレベルの低下・生存率や体重などの臨床パラメーターが改善されることは既に明かとなっていました。

 

一方、スイカに含まれるシトルリンはアルギニンの前駆体であり、ラットとヒトの両方の試験において循環アルギニンレベルを効果的に上昇させることが分かっています。さらに、スイカ粉末摂取ラットで、コントロール群と比較して、炎症と酸化ストレスレベルの低下が観察されています。炎症と酸化ストレスは潰瘍性大腸炎に深く関与しておりますので、スイカが疾患の重症度を軽減する可能性があります。

 

スイカは、高コレステロール血症、高血圧、スポーツパフォーマンス向上などの効能は知られていますが、炎症性腸疾患への影響は調査されていませんでした。このような理由から、今回紹介する報告では、DSS誘発性潰瘍性大腸炎ラットを用いてスイカ摂取の効果を評価しており、特にガンの見つけにくい大腸の部位の結腸における細胞増殖とアポトーシスの恒常性を調節し、大腸炎を改善することを明らかとしています。

 

実験方法としては、雄のSDラット(21日齢、40匹)すべてに高脂肪食(33%糖、21%脂肪)を与え、高脂肪食のみ与えたコントロール(C)群、DSS処理をしたDSSC+DSS)群、高脂肪食に対して0.33%のスイカ粉末を与えたスイカ粉末(WM)群、そして、DSS処理をして0.33%のスイカ粉末を与えた(WM+DSS)群の4群に分けて、各種パラメーターの変化を確認しています。尚、与えたスイカ粉末の成分はタンパク質2.09 g (L-シトルリン1.35 gL-アルギニン0.65 g)、炭水化物1.2 g (グルコース、フルクトース、スクロース)、繊維0.01 g / 3.3 gであり、すべての群の摂取カロリーは同じで13.2 kcalです。30日間自由摂取(水も)に続いて、DSS処理なしには飲料水、DSS処理ありには3DSS (w / v40 kDa) 飲料水を48時間摂取させています。

 

論文では、各種パラメーターとして、体重・食物と水分摂取量・無傷の陰窩、8-OHdG濃度、NO濃度、サイクリンD1発現、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γPPAR-γ)発現、細胞増殖と分化とアポトーシスなどを見ていますが、ここでは、注目すべき項目のみを選択して、以下に紹介します。

 

まず、腸の陰窩の傷の具合にスイカの効能が見えています。この陰窩とは、小腸と大腸の上皮で見つかっている腺で細かい毛のような突起なのですが、この線は消化酵素を分泌しており、この部分を通過する食物によって上皮が摩耗されるため新しい上皮が生成されています。この陰窩に傷がついた時に補修が間に合わない場合が大腸がんの原因となりますので、無傷の陰窩の数が多い方が大腸がんのリスクが低いことになります。

 

無傷の陰窩は、C群よりCDSS群の方が顕著に少ないことが分かります。また、C+DSS群に比べてWMDSS群の方が無傷の陰窩が顕著に多くなっていることが分かります。つまり、DSS処理によって傷ついた陰窩が増えるもののスイカの摂取で無傷の陰窩が増えて大腸がんリスクが減ることが分かります。

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 8-ヒドロキシデオキシグアノシン(8-OHG)はDNAが活性酸素によって損傷を受けた時に体のパトロール役である修復酵素が傷ついた部分を切り取った際に発生する物質ですので尿中や血漿中の8-OHG濃度を確認することでがんリスクを調べることができます。つまり、8-OHG濃度が高いとがんリスクがあることになります。この8-OHG評価でもDSS処理によって8-OHdG濃度は高まり、スイカ粉末を摂取することで8-OHG濃度は減少すること、がんリスクが低減することが明かとなっています。

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 一酸化窒素(NO)産生においてもスイカ摂取の効果が観られています。

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 DNA
が損傷を受けると発現するサイクリンD1においても、DSS処理で増加しましたが、WM群で改善しています。

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 PPAR-
γは脂肪細胞の分化や蓄積の調節、インスリン作用等に関与する物質ですが、DSS処理で減少し、スイカ摂取で上昇する傾向にありました。

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 また、結腸における細胞増殖、細胞分化、そして、アポトーシス(細胞死)の変化も調べており、DSS処理によって結腸の陰窩形態は悪化しますが、スイカの補充が正常な結腸陰窩形態を維持し、細胞増殖とアポトーシスの恒常性を調節することにより、大腸炎を改善することを明らかとしています。図7は結腸におけるアポトーシスですが、DSS処理によって、陰窩切片で高いアポトーシス指数(AI)が高いことが分かります。ここでは、その詳細は省きますが、スイカを摂取することでこのAIが低下することがこの研究で確認されています。

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 このように、スイカは大腸炎を改善し大腸がんリスクを低減できる効果のあることが分かってきました。


シトルリンを含むスイカの効能(その2.体脂肪低減とアテローム性動脈硬化軽減)

前回の『健康まめ知識』ではシトルリンを含むスイカの効能の(その1)として「スポーツパフォーマンスの向上」を取り上げました。今回は「体脂肪の低減とアテローム性動脈硬化の予防効果」に関する論文を紹介します。

 

Citrullus lanatus `Sentinel' (Watermelon) Extract Reduces Atherosclerosis in LDL Receptor Deficient Mice(スイカ(センチネル)抽出物によるLDL受容体欠損マウスのアテローム性動脈硬化の軽減)

Poduri A. et al., J Nutr Biochem. 2013 May; 24(5): 882886.

 

スイカを食すると、スイカに含まれるシトルリンの一酸化窒素(NO)の放出促進によって血管拡張、抗酸化、抗炎症などの作用を介して内皮機能不全の改善や大動脈血圧の低下などの心血管疾患に対する予防効果のあることが知られています。しかし、これまでにアテローム性動脈硬化症に対する直接的な影響は確認されていませんでした。そこで、この研究報告では、スイカ抽出物の経口投与がLDL受容体欠損マウスのアテローム性動脈硬化症に及ぼす影響について調べています。尚、LDL受容体はLDLコレステロールの体内の量を調節する働きがあるのですが、LDL受容体が欠損するとLDLコレステロール量が増加してしまいますので高LDLコレステロール血症となることがわかっています。

 

6週齢のLDL受容体欠損マウスに対して、スイカ抽出物群(n=10)は、果肉・果皮・種子を圧搾しろ過しシトルリン含有量が20-30 mg / gのスイカ抽出物を2%含む水溶液を13週間、自由に摂取させています。対照群(n=8)はスイカ抽出物群と炭水化物量(フルクトース・グルコース・スクロース・マルトデキストリン)を同じにした水溶液を、同様に13週間、自由に摂取させています。水溶液を与え始めて1週間後に飽和脂肪+コレステロール食(乳脂肪21wt / wt0.2wt / wt)を12週間与えています。では、検討結果です。

 

まず、除脂肪体重(LBM)ですが、大変興味深い結果が得られています。LBMとは脂肪を除いた体重のことで筋肉の他に骨・内臓・血液を含むのですが、主に筋肉を示します。したがって、LBMを調べることによって脂肪減少の際に筋肉は維持できているかどうかを確認できます。

 

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体重は、2群ともに最初の7週まで、約1.8g/週と着実に増えていきますが、8週から対照群(1.6g/) と比較して、スイカ抽出物群 (1.1g/) は大幅に増加率が減少しました。一方、LBMはスイカ抽出物群と対照群に差はなく、脂肪量には顕著な差が確認されました。つまり、スイカ抽出物群の脂肪量は対照群と比較して低いものの筋肉量はほぼ同等であることが判ります。この結果から、肥満患者だけでなく、アスリートや高齢者の筋肉維持や補強にスイカが効果的であることが明らかです。


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次に、各群における弓部と胸部大動脈におけるアテローム性動脈硬化病変領域を調べています。どちらの部位に対しても対照群と比較し、スイカ抽出物群で大幅に低いことが判ります。この結果は、スイカにはアテローム性動脈硬化の軽減作用のあることが示唆されます。


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最後に、スイカに抗炎症作用があるかどうかを検討しています。スイカ抽出物群は対照群と比較すると、炎症を誘発するサイトカインMCP-1IFN-γの血漿中濃度は大幅に低減し、その一方で、抗炎症性のサイトカインであるIL-10は大幅に増加することを明らかとしています。

 

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以上、スイカ抽出物は筋肉を維持しながら脂肪を低減し、アテローム性動脈硬化の病変部位を減少させ、抗炎症作用を有するという心血管疾患の予防に有効な機能性食品であることが判明しています。

 

今回の研究報告もシクロケムバイオの雑誌会でMOさんが発表したものです。MOさん、ご苦労様でした。


シトルリンを含むスイカの効能(その1.スポーツパフォーマンス向上)

TBSの朝の番組『健康カプセル!ゲンキの時間』(2020614日)では、このコロナ禍の外出自粛によって体臭の問題が浮上していると、体臭について取り上げていました。おしっこのようなアンモニア臭が全身から漂うようになっているとのことでした。

 

その理由は二つ挙げられていて、その一つは、家庭で運動量が減っているにもかかわらず肉類中心の食生活で、タンパク質が肝臓でうまく代謝できず、アンモニアが発生していると説明していました。

 

しかし、これは間違いで、タンパク質は消化酵素でアミノ酸かジペプチドやトリペプチドのような低分子にならないと消化管から体内には入りません。よって、肝臓ではアミノ酸からアンモニアが発生するということと、分解されなかったタンパク質は大腸で悪玉菌によって分解されて大量のアンモニアが発生し、体内にアンモニアが入るのがアンモニア臭の原因だと考えられます。

 

もう一つの理由として挙げていたのが、外出自粛によるストレスでした。ストレスを感じると交感神経が優位になり、その時間が続くとアンモニア臭も比例して高くなるそうです。これはストレスによって肝機能が低下してしまうのが原因で、その対処方法が番組では説明されていました。

 

でも、これらの二つの理由は何れも肝機能が関係しています。よって、ご存知のように、飲み過ぎて二日酔いにならないようにシジミエキスを配合したサプリメントが世の中に出ていますが、その機能性成分はオルニチンです。オルニチン回路は尿素回路とも呼ばれ、肝臓でアンモニアを尿素に変換して腎臓に送り尿として排出すれば、アンモニア臭はなくなるというものです。

 

オルニチンは肝臓内でシトルリンに変換されます。さらに、シトルリンはアルギニンに変換されて、血管拡張作用や動脈硬化抑制作用を有する一酸化窒素を合成しているのです。

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 このようにシトルリンとアルギニンはどちらを摂取しても一酸化窒素合成やアンモニアの解毒を行え、同じ効果と考えられるのですが、サプリメントとして摂取する場合は、最近の研究から代謝の影響を受け難く血管細胞まで到達できるシトルリンの方が有効であるとの見方が強くなってきています。

 

そこで、ここでやっと本日の主題のスイカの話となります。

 

スイカに関してはα-オリゴ糖を用いるフレッシュパウダーの原料候補としてこの『健康まめ知識』で既に取り上げています。

 

難消化性α-オリゴ糖を用いるフレッシュパウダーの候補(その1.スイカ)

http://blog.livedoor.jp/cyclochem02/archives/53387583.html

 

スイカの栄養成分としてはリコピン、βカロテン、ビタミンC、カリウム、シトルリン、そして、糖質分解酵素のマンノシダーゼが知られていて、その中でも、リコピンとシトルリンが注目されていますが、難消化性α-オリゴ糖を用いるフレッシュパウダーの候補として挙げた際にはリコピンについて説明しています。そこで、今回はシトルリンの効能について解説します。

 

シトルリンはそもそもスイカから発見された物質で、スイカ100g中に180㎎と他のウリ科の植物のメロン(50㎎/100g)やキュウリ(10㎎/100g)などに比べ、圧倒的に多く含まれています。

 

シトルリンはスポーツパフォーマンスの向上、アテローム性動脈硬化の軽減、抗炎症、そして、肌の潤いを保つ天然保湿因子(NMF)などさまざまな効果が報告されていますが、ここでは、まず、スポーツパフォーマンスの向上に関する研究報告を紹介します。

 

Supplementation of 100% Flesh Watermelon Juice Improves Swimming Performance in Rats

100%果肉スイカジュースの補給は、ラットの水泳能力を向上する)

R. Ridwan et al., Prev. Nutr. Food Sci. 2019;24(1):41-48

 

シトルリン(0.26 g / kg)、アルギニン(0.4 g / kg)、オルニチン(0.2 g / kg)を含有した餌をマウスへ与えると、運動後の血中アンモニアの蓄積が低下し、遊泳の体力消耗時間が延長することが確認されています。これらの発見は、シトルリンがアンモニアを除去し、持久力を改善して、回復促進する機能があることを示しています。

 

最近の研究では、シトルリンがアルギニンの経口摂取よりもアルギニン濃度を効果的に増加すると示しています。また、アルギニンの摂取は、胃腸不快感・吐き気・下痢を引き起こし、毎日の摂取には不向きであり、消化管での一酸化窒素生成が急増して、不快感をもたらすと考えられています。

 
そこで、この研究では、シトルリンを含有する100%果肉スイカジュースと100%果皮スイカジュースの14日間の摂取がラットの遊泳能力に及ぼす影響について、体力消耗までの遊泳時間、アンモニアや一酸化窒素濃度などの持久力パラメーターを測定しています。

 

赤い種なしスイカの赤肉と白皮からジュースを作り、健康的な6週齢の雄のラットに与えて検討しています。

 

●ネガティブコントロール(N)群(n=6)‥‥‥‥ろ過水道水のみ

●ポジティブコントロール群(C)群(n=6)‥‥シトルリン500 mg+ろ過水道水

100%果肉スイカジュース(FR)群(n=6) ‥‥‥シトルリン量2.5 mg / mL

100%果皮スイカジュース(RR)群(n=6)‥‥‥シトルリン量3.1 mg / mL

 

4群に分けて1214日間自由摂取後に以下のような遊泳運動をさせています。

 

室温に維持した水深30 cmのタンク(42 x 64 x 38 cm)に1日目と 2日目に朝と夕に各10分間ずつ、3日目には、朝と夕に疲労するまで123日間遊泳させています。尚、水面に顔を上げて15秒以内に吸入不可能となった際に疲労に達したと見なしています。

 

先ず、遊泳時間の比較です。驚くことに、果肉ジュース(FR)群はポジティブコントロール群(C)よりも顕著に遊泳時間は延長することが明かとなっています。

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 次に、代謝老廃物としてスポーツパフォーマンスを下げる要因の血漿中のアンモニアの濃度変化を調べたところ、やはり、果肉ジュース(FR)群がポジティブコントロール(C)群のみならず、果皮ジュース(RR)群と比較しても顕著にアンモニア濃度を下げることが判りました。

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 また、一酸化窒素(NO)は血管拡張作用をもたらしスポーツパフォーマンスを向上させることが知られているが、NO産生においても、果肉ジュース(FR)群はポジティブコントロール群やネガティブコントロール群と比較して顕著にNO産生作用のあることが判明しています。

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 これらの結果から、シトルリンにアンモニア除去作用とNO産生作用のあることは明らかですが、スイカの果肉にはシトルリンのみならず、他の機能性成分との相乗作用によってそれらの機能がさらに高められているようです。

 

尚、NO産生に関しては、シトルリンとともR-αリポ酸も重要な栄養素です。そのR-αリポ酸の効能に関しては、以前の『健康まめ知識』で取り上げています。

 

R-αリポ酸の効能とS-αリポ酸の毒性に関する論文の要約と考察(その11

http://blog.livedoor.jp/cyclochem02/archives/52645024.html

 

 今回の論文は、シクロケムバイオの雑誌会においてMOさんが報告してくれたものです。MOさん、ありがとうございました。


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