2022年02月

大豆サポニンB系列のγオリゴ糖による可溶化と風味改善

日常的な大豆加工食品の摂取は長寿国である日本における私たちの健康長寿を担っていることは言うまでもありません。大豆にはさまざまな健康のための機能性成分が含まれています。最も認知度の高いのはイソフラボンですが、近年になって、大豆サポニンが注目されてきました。

 

大豆サポニンは分類上、ソヤサポゲノールAをアグリコン(糖が結合していないもの)とするA系列とソヤサポゲノールBをアグリコンとするDDMPサポニンとその分解物のB系列とE系列に分かれます。この中でA系列は不快な味を呈する原因物質であり、その一方、B系列は不快な味はA系列よりも低く、健康機能性が示されています。

 

たとえば、大豆サポニンB系列(Bグループ)の健康機能性に関しては20088月に第25回和漢医薬学会学術大会において『大豆の老化タンパク質蓄積抑制機能“を発見』というタイトルで株式会社ファンケルが発表しています。

 

生体内の抗酸化機能によって消化しきれなかった活性酸素によって生体組織のタンパク質は異常化し『老化タンパク質(体のサビ)』となり、各組織に蓄積していくことが知られており、皮膚の加齢変化やアルツハイマー病、白内障など、さまざまな疾病の原因となっていますが、ファンケルは、その『老化タンパク質』の除去に大豆サポニンB系列が有効であることを見出したとのことでした。

 

しかしながら、B系列は水への溶解度が低いため、経口摂取されてもヒトへの体内へは吸収され難く、そのままの製剤では十分な効果を得るためにはたくさん摂取する必要があり、吸収性を高めることが課題と考えられます。今から30年前の1993年に株式会社ホーネンコーポレーションは大豆サポニンの可溶化をγ-オリゴ糖で検討しており、『大豆サポニンの可溶化法』という特許(特開平5-186359)を出願しています。しかしながら、この公開特許公報では、サポニンをA系列とかB系列に分類しておらず、実際には、サポニンA系列はそもそも水溶性が高いのでγ-オリゴ糖で包接する必要はなく、サポニンB系列のみを包接して可溶化するべきと考えられました。そして、可溶化できれは効能を有するB系列の吸収性は向上できると思われます。
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そこで、シクロケムバイオは大豆サポニンB系列のγ-オリゴ糖による可溶化と風味改善について検討しました。まず、可溶化の検討結果です。

 

天然のα-オリゴ糖、β-オリゴ糖、γ-オリゴ糖の3種の環状オリゴ糖添加による大豆サポニンBの水への溶解性(pH3.0クエン酸緩衝液)について検討しています。まず、何れの環状オリゴ糖を添加するだけでは大豆サポニンBは溶解しませんでしたので、80℃で60分間加熱処理を行ったところ、γ-オリゴ糖を添加した場合のみ溶解度に変化が観られました。そして、サポニンとγ-オリゴ糖のモル比が12でサポニンは完全に溶解することが判明しました。その後、凍結・解凍処理をしても再懸濁化は起こらないことも判りました。

 

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次に、サポニンが可溶化できるγ-オリゴ糖の最少添加量について検討しましたところ、サポニンとγ-オリゴ糖のモル比が11.8において完全に可溶化できることが明らかとなっています。この場合も可溶化後に凍結・解凍処理を行っても再懸濁化や沈殿は起こりませんでした。

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さらに、風味改善の検討結果を紹介します。大豆サポニンB系列を300㎎に対し、モル比で1.8倍、2.7倍、3.6倍量のγ-オリゴ糖を添加した3つの0.3%サポニン水溶液と、γ-オリゴ糖を含まない0.3%サポニン水懸濁液を健常者4名に試飲してもらい味覚評価をしました。以下の5段階の評価項目から該当するものを選んでもらう評価方法です。

 

 非常に悪くなった              (-2点)

 悪くなった                      (-1点)

❸ 変わらない                      0点)

 改善が観られた                 (+1点)

❺ 大幅な改善が観られた        (+2点)

 

その結果、γ-オリゴ糖をモル比で1.8倍添加すると既に味覚と臭気の改善が観られ、1.8倍から3.6倍まで高めるとともに改善作用は向上しています。

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以上、大豆サポニンBはγ-オリゴ糖をモル比で1.8倍量添加することで水への可溶化、味覚と臭気の改善が可能となりました。難溶性物質ですので生体利用率(バイオアベイラビリティ)が低いのですが、γ-オリゴ糖によって吸収性は改善できると考えられます。大豆サポニンBのγ-オリゴ糖包接体を摂取して、老化タンパク質を減少させて、肌老化、アルツハイマー病、白内障などの疾患を予防しましょう。

クロセチンのγオリゴ糖包接体による良質な眠りとピント調節とシミくすみ改善

クロセチンはカロテノイドの一種でクチナシの果実やサフランに含まれる天然の黄色色素です。抗酸化作用が知られており、生薬にも配合されるなど、古くから人々の健康のために利用されてきました。

 

慶應義塾大学と大阪大学、ロート製薬の研究グループは6-12歳の弱度~中度の近視の男女69人を対象に試験を行い、クロセチン7.5㎎含むソフトカプセルを1124週間服用してもらい、クロセチンが近視の進行を顕著に抑えることを確認しました。

 

また、クロセチンには睡眠の質を高める効果のあることも人試験によって実証されています。不眠症気味の健常人男女24人(平均年齢50.8歳)を対象に、クロセチン7.5㎎含むソフトカプセルを112週間服用してもらい、OSA-MA睡眠調査票(眠気・疲労回復の評価)を行ったところ、起床時の眠気・疲労回復のスコアが顕著に高くなることが確認されています。

 

このようにヒト試験によってクロセチンを1日に7.5㎎服用すると良質な眠りと目のピント調節に効果のあることが示されており、幾つもの機能性表示食品が販売されています。

 

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クロセチンは良質な眠りと目のピント調節以外にも、肌のシミやくすみの改善やアルツハイマー型認知症の治療目的に検討されています。そこで、YUさんがシクロケムバイオの雑誌会で以下の論文を紹介してくれました。

 

Delivering Crocetin across the Blood-Brain Barrier by Using γ-Cyclodextrin to Treat Alzheimer’s Disease (アルツハイマー病治療のためのγCDを用いた血液脳関門通過によるクロセチンの送達)K. H. Wong et al., Scientific Reports nature research 10, 3654 (2020)

 

この論文ではアルツハイマー病という神経変性疾患の治療に対して、血液脳関門(BBB)を通過する必要があり、その目的で機能性成分として神経変性疾患の治療効果のあるクロセチンを選択し、γオリゴ糖で包接させて可溶化し、吸収性を高めた医薬製剤の開発にていて研究を報告しています。しかし、この『健康まめ知識』では、その全体の詳細を説明するのではなく、論文の中でも今後の機能性表示食品を開発する際の有用な知見として、クロセチンγオリゴ糖包接体と未包接体の腹腔内投与後の生体吸収性を比較した結果のみを以下に紹介しておきます。

 

ラットへのクロセチン-γ-オリゴ糖包接体およびクロセチンの生理食塩水懸濁液の腹腔内投与の比較を図2.と表に示しています。尚、この論文ではクロセチン-γ-オリゴ糖包接体の静脈注射による投与も比較していますが、食品分野でのクロセチンの利用を目的としていますので、ここでは、省略させていただきました。包接体と未包接体のTmax(最高血中濃度到達時間)は共に0.5時間で同じでしたが、吸収性評価の指標となるCmax(最高血中濃度)AUC0-∞(血中濃度-時間曲線下面積)には大きな違いがありました。クロセチン包接体投与のCmax10.528±2.358μg/mLであり、未包接クロセチン投与のCmax0.272±0.052μg/mLなので、γ-オリゴ糖で包接化することで約39倍も向上しています。また、AUCの比較では、包接体が11.767±2.138μgh-1mL-1に対し、未包接体は0.963±0.278μgh-1mL-1となり、クロセチンはγ-オリゴ糖の包接化することで吸収性(バイオアベイラビリティ)は約12倍向上することが明らかとなっています。

 

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現在、眼精疲労の機能性表示と睡眠の質の向上の機能性表示したクロセチンを配合した機能性表示食品が販売されていて、何れの場合も、1日のクロセチン摂取量は7.5㎎であり、クロセチン未包接体のソフトカプセルです。したがって、クロセチン-γ-オリゴ糖包接体を用いることで、さらに高い効能効果を持つサプリメント開発に期待が寄せられています。

無消化性デキストリン

『難消化性デキストリン』は耳にしたことがあると思いますが、殆どの方が『無消化性デキストリン』は初めて聞くと思います。なぜなら私の作った造語だからです。そして、スーパー食物繊維のαオリゴ糖は世界で唯一の無消化性デキストリンなのです。今回の『健康まめ知識』では、その理由を説明していきます。

 

食物繊維は『ヒトの消化酵素で消化され難い食物中の難消化性成分の総体』と定義されています。つまり「消化が難しい“成分」の集合体なのです。しかしながら、αオリゴ糖は他の食物繊維と違って、単一分子であり、その分子は消化酵素によって分解されないので、分解が難しい”のではなく、全く分解され無い“、つまり、無消化性のデキストリン(日本語ではオリゴ糖”という)なのです。その無消化性をしめすドイツワッカーケミー社の研究データがあります。

 

通常ラットと腸内細菌を除去した無菌ラットに、13Cで標識したαオリゴ糖とγオリゴ糖を摂取させ、発生してくる二酸化炭素量を評価しています。

 

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尚、13Cとは炭素の同位体のことです。通常の炭素12Cは質量数が12で、13Cの方が重く、13C12C と同様に安定な(つまり、非放射性の)同位体です。そこで、通常の炭素12Cと区別して(13Cで標識するという)物質の変化を調べる場合に利用されます。

 

では、その研究データを考察していきます。

 

まず、図1の上側のグラフです。通常ラットと無菌ラットにγオリゴ糖を摂取させると、どちらも二酸化炭素の排出量は摂取2時間後に最大ピークを迎え、次第に、その排出量は減少していきます。ここで、二酸化炭素の全排出量を示すAUCArea Under Curve、曲線の下の面積)には双方のラットに差はありません。つまり、γオリゴ糖は消化酵素のアミラーゼによってほぼ完全に分解され、腸内細菌には影響を受けないことが示されています。

 

次に、図1の下側のグラフです。無菌のラットにαオリゴ糖を摂取させると、二酸化炭素の発生は認められません。しかしながら、通常のラットにαオリゴ糖を摂取させると二酸化炭素の排出量はゆっくりと増加し、γオリゴ糖とは異なり、摂取10時間後に最大ピークを迎え、その後、ゆっくりと減少し、22時間後に排出量はゼロとなります。そして、大変興味深いことにγオリゴ糖とαオリゴ糖は同じ量を摂取しているのですが、二酸化炭素の排出量もAUCからほぼ同じであることが判ります。つまり、αオリゴ糖の場合は他の水溶性食物繊維同様に腸内細菌によって発酵分解されるのですが、他の食物繊維と異なるところは、単一分子なので100%完全に分解されて短鎖脂肪酸に変換され、そして、二酸化炭素が発生しているのです。

 

糖質は一般的に消化性糖質と難消化性糖質に分けられており、消化性糖質はブドウ糖などの単糖まで消化分解され体内に吸収され、エネルギー変換の際に、二酸化炭素を発生させます。その一方で、難消化性糖質は消化酵素ではなく、腸内細菌によって発酵分解され、短鎖脂肪酸に変換されて、体内に吸収されて、同様にエネルギー変換され二酸化炭素が発生します。なので、一般的にはγオリゴ糖は消化性糖質に分類され、αオリゴ糖は難消化性糖質に分類されることになります。しかし、正確に言うと、αオリゴ糖は難消化性糖質ではなく無消化性糖質なのです。

 
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ワッカーケミー社でデータではなくアンダーセンらの報告ですが、βオリゴ糖の発酵分解性も検討されていて、澱粉と比較されています。澱粉はγオリゴ糖と同様に100%エネルギー変換されますので、澱粉とβオリゴ糖のAUCを比較から、βオリゴ糖はαオリゴ糖と異なり約25%しか、発酵分解されないことが示されています。そこで、αオリゴ糖、βオリゴ糖、γオリゴ糖の3種の環状オリゴ糖の消化性と発酵分解性をまとめてみました。

 

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なぜ、このようにαオリゴ糖は小腸において消化酵素ではまったく分解を受けず、大腸では100%発酵分解を受けて短鎖脂肪酸を作るのでしょうか?それは、環状オリゴ糖であり、アミラーゼ分解を受けず、善玉菌に資化され易い、最適な単一物質だからなのです。

 

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