日常的な大豆加工食品の摂取は長寿国である日本における私たちの健康長寿を担っていることは言うまでもありません。大豆にはさまざまな健康のための機能性成分が含まれています。最も認知度の高いのはイソフラボンですが、近年になって、大豆サポニンが注目されてきました。
大豆サポニンは分類上、ソヤサポゲノールAをアグリコン(糖が結合していないもの)とするA系列とソヤサポゲノールBをアグリコンとするDDMPサポニンとその分解物のB系列とE系列に分かれます。この中でA系列は不快な味を呈する原因物質であり、その一方、B系列は不快な味はA系列よりも低く、健康機能性が示されています。
たとえば、大豆サポニンB系列(Bグループ)の健康機能性に関しては2008年8月に第25回和漢医薬学会学術大会において『大豆の‟老化タンパク質蓄積抑制機能“を発見』というタイトルで株式会社ファンケルが発表しています。
生体内の抗酸化機能によって消化しきれなかった活性酸素によって生体組織のタンパク質は異常化し『老化タンパク質(体のサビ)』となり、各組織に蓄積していくことが知られており、皮膚の加齢変化やアルツハイマー病、白内障など、さまざまな疾病の原因となっていますが、ファンケルは、その『老化タンパク質』の除去に大豆サポニンB系列が有効であることを見出したとのことでした。
しかしながら、B系列は水への溶解度が低いため、経口摂取されてもヒトへの体内へは吸収され難く、そのままの製剤では十分な効果を得るためにはたくさん摂取する必要があり、吸収性を高めることが課題と考えられます。今から30年前の1993年に株式会社ホーネンコーポレーションは大豆サポニンの可溶化をγ-オリゴ糖で検討しており、『大豆サポニンの可溶化法』という特許(特開平5-186359)を出願しています。しかしながら、この公開特許公報では、サポニンをA系列とかB系列に分類しておらず、実際には、サポニンA系列はそもそも水溶性が高いのでγ-オリゴ糖で包接する必要はなく、サポニンB系列のみを包接して可溶化するべきと考えられました。そして、可溶化できれは効能を有するB系列の吸収性は向上できると思われます。
そこで、シクロケムバイオは大豆サポニンB系列のγ-オリゴ糖による可溶化と風味改善について検討しました。まず、可溶化の検討結果です。
天然のα-オリゴ糖、β-オリゴ糖、γ-オリゴ糖の3種の環状オリゴ糖添加による大豆サポニンBの水への溶解性(pH3.0クエン酸緩衝液)について検討しています。まず、何れの環状オリゴ糖を添加するだけでは大豆サポニンBは溶解しませんでしたので、80℃で60分間加熱処理を行ったところ、γ-オリゴ糖を添加した場合のみ溶解度に変化が観られました。そして、サポニンとγ-オリゴ糖のモル比が1:2でサポニンは完全に溶解することが判明しました。その後、凍結・解凍処理をしても再懸濁化は起こらないことも判りました。
次に、サポニンが可溶化できるγ-オリゴ糖の最少添加量について検討しましたところ、サポニンとγ-オリゴ糖のモル比が1:1.8において完全に可溶化できることが明らかとなっています。この場合も可溶化後に凍結・解凍処理を行っても再懸濁化や沈殿は起こりませんでした。
さらに、風味改善の検討結果を紹介します。大豆サポニンB系列を300㎎に対し、モル比で1.8倍、2.7倍、3.6倍量のγ-オリゴ糖を添加した3つの0.3%サポニン水溶液と、γ-オリゴ糖を含まない0.3%サポニン水懸濁液を健常者4名に試飲してもらい味覚評価をしました。以下の5段階の評価項目から該当するものを選んでもらう評価方法です。
➊ 非常に悪くなった (-2点)
➋ 悪くなった (-1点)
❸ 変わらない (0点)
➍ 改善が観られた (+1点)
❺ 大幅な改善が観られた (+2点)
その結果、γ-オリゴ糖をモル比で1.8倍添加すると既に味覚と臭気の改善が観られ、1.8倍から3.6倍まで高めるとともに改善作用は向上しています。
以上、大豆サポニンBはγ-オリゴ糖をモル比で1.8倍量添加することで水への可溶化、味覚と臭気の改善が可能となりました。難溶性物質ですので生体利用率(バイオアベイラビリティ)が低いのですが、γ-オリゴ糖によって吸収性は改善できると考えられます。大豆サポニンBのγ-オリゴ糖包接体を摂取して、老化タンパク質を減少させて、肌老化、アルツハイマー病、白内障などの疾患を予防しましょう。