胃食道逆流症(Gastro Esophageal Reflux Disease, GERD)は、胃酸を多く含む胃の内容物が食道に逆流して起こる病態のことを言います。日本人の有病率は約12.0%です。逆流の原因は、加齢、暴飲暴食、脂肪分の多い食事、不規則な食事時間などによって、食道と胃の境目である噴門部の筋肉(下部食道括約筋)が弱まることにあります。その結果、胃酸(胃液)は逆流することになります。
現在の治療法は、生活習慣を改善することと胃酸分泌を抑える薬剤の服用することです。
GERDの最も有用な薬剤は、ヒスタミンH2受容体拮抗薬やプロトンポンプ阻害剤(PPI)などの胃液の酸含有量を減少させるものです。殆どの人(75%~90%)は6~8週間でGERDの症状が消えますが、多くの場合、再発する傾向があります。また、治療を受けているかなりの患者が胸やけ、逆流、胸痛などのGERDの典型的な症状を依然として有していてQOLを低下させています。PPIは食道炎の治療には効果的ですが、胸やけなどの症状の改善は観られません。
そのような中、食品として摂取できる天然の抗酸化物質を含む蜂蜜が注目されています。中でもマヌカハニーは他の蜂蜜と比較してポリフェノールの含有量が高く、抗酸化能が比較的高いことが特徴であり、さらに、MGOの強力な殺菌効果と様々な生理活性化合物により、創傷治療の促進や胃粘膜の炎症の軽減が期待できます。
ここで紹介する論文はGERDの患者にマヌカハニーを経口投与したときの効果を評価した2023年の報告です。
被験者は、年齢21歳から75歳までの患者35名で平均年齢は55.1歳で男性14名、女性21名でしたが、最終的に5名が辞退したために30名での評価となっています。群はランダムに2つに分けています。
マヌカ群(マヌカハニー5g MGO400+を1日3回4週間):n = 15、男性4名、女性11名
プラセボ群(人工蜂蜜5gを1日3回4週間):n = 15、男性8名、女性7名
2週間後の改善率は、マヌカ群86.7%、プラセボ群26.7%であり、4週間後の改善率は、マヌカ群100%、プラセボ群40%でした。また、大幅な改善(++)が観られた患者はマヌカ群で73.3%、プラセボ群で20%でした。プラセボ群でも改善が観られたのは薬剤の服用によるものと考えられます。
しかしながら、特筆すべきは、30人中、非投薬の患者6名のうち、マヌカハニーを摂取した全ての患者(4名)が改善しましたが、プラセボ群の患者2名では改善は観察されなかったことです。また、非投薬でマヌカハニーを摂取した患者の4名のうち、3名は内視鏡検査においても改善が観られています。
患者の主観的評価と内視鏡検査の両方の結果より、マヌカハニーの摂取によってGARDの症状は軽減することが明らかとなっています。マヌカハニーの利点は、抗酸化作用、抗炎症作用、抗菌作用をもつ生理活性物質であるMGOやポリフェノールによるものと考えられます。さらに、蜂蜜の高密度、高粘度、低い表面張力のため、粘膜上のコーティングとして食道内に長く留まる可能性があります。(Lusby et al., 2005; Math et al., 2013)
以上により、この論文では、マヌカハニーと薬剤(PPI)を組み合わせたGERDの治療の可能性を提案しています。