CMC出版の月刊誌『ファインケミカル』の11月号に、「シクロデキストリンの機能性食品・化粧品への利用」という特集が組まれることになり、巻頭言の執筆依頼がありました。そこで、シクロデキストリンの製造と応用に関する歴史的な背景について、私の持っている知見を少しまとめてみました。この『まめ知識』でも紹介しておきたいと思います。



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シクロデキストリン(以下CD)は、グルコース分子がα-1,4グルコシド結合で環状に連なったオリゴ糖であり、グルコース数6個、7個、8個の環状オリゴ糖がそれぞれαCD、βCD、γCDと命名されています。歴史的な経過を辿ると、CDは天然に存在する物質として1891年に発見され、その後、CDそのものの環状の疎水性空洞内にさまざまな有機分子を取り込む包接作用があり、分子の包接安定化や徐放化など幅広い機能を発揮できることが次々と判明していきました。そして、発見されてから約90年の時を経て、1978年に、堀越らによって、先ず、βCDの工業生産が開始されました。さらに、20年経過した1999年に、G.Schmidらによって、従来、工業化は技術的に困難とされていたαCDとγCDの量産化に成功し、ここに3種すべてのCDの経済的生産が行われるようになりました。

 


このような工業生産の歴史的背景は、1980年から今日まで機能性食品・化粧品関連の産業分野におけるCDの応用研究にも劇的な変化をもたらしています。1980年から2000年までのCDの応用研究は、フレーバーや香料など揮発性物質の安定化と徐放、液体の粉末化、脂溶物質の可溶化、苦み低減といったように、ゲスト分子を物理化学的に物性変化させることが、CDの主な利用目的でした。しかし、天然型3種のCDが経済的に利用できるようになった2000年以降、CDの応用研究はさらに生化学的な分野へと大きな広がりをみせ、飛躍的に変貌を遂げることになります。

 


たとえば、最近の特筆すべき応用研究の一つに、機能性食品・化粧品分野におけるナノテクノロジーの革命ともいえる『γCDを用いた分子カプセル化法による脂溶性の薬理活性物質の可溶化と生体利用能向上』が挙げられます。このγCD分子カプセル化法は、リポソームや油脂系乳化剤を用いたマイクロカプセル化法に比べてナノ粒子の粒径は、一ケタ以上小さくでき、腸管吸収や皮膚浸透性が増大して飛躍的に生体利用能が向上する点、そして、この技術がさまざまな薬理活性物質に適用できる汎用性の高い点で、現在では、機能性食品や化粧品の開発に関わる多くの研究者に注目されております。

 


さらには、このような注目素材の機能性を高める副次的で脇役的なCDの利用だけではなく、CDそのものを機能性素材としてみる主役的なCDの利用も開発されています。一例として、αCDが、水溶性で難消化性のオリゴ糖であることに着目した研究では、αCDに血糖値上昇抑制効果、コレステロール、中性脂肪低減効果、体重減少効果などの一般的な食物繊維にみられる効果に加えて、最近では、悪玉の飽和脂肪酸の選択的排泄、整腸作用による抗アレルギー、高アンモニア血症の改善などのさまざまな効果が臨床試験によって実証されています。

 


この特集では、機能性食品・化粧品分野におけるCDの利用に関して、2000年以降に見出された注目すべき最新の研究成果を厳選して執筆をお願いしましたので、従来からCDを研究対象にされていた方々にも興味深くお読み頂けるものと考えております。

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巻頭言の中に記しているγCDを用いたナノテク革命については、Wiley-Blackwell出版社の『BIO-NANOTECHNOLOGYA REVOLUTION IN FOOD, BIOMEDICAL AND HEALTH SCIENCES』に、そして、αCDについては、ハート出版社の『新機能性食物繊維 α-シクロデキストリン』に詳細な内容が記載されています。


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