2005年11月15日
飯守泰次郎指揮 東京シティフィル公演 「パルジファル」
2005年11月13日(日) 午後2時開演
日生劇場
東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 創立30周年記念
第2回「三菱信託音楽賞 奨励賞」受賞記念
東京シティ・フィル オーケストラル・オペラVI
ワーグナー/舞台神聖祝祭劇「パルジファル」
(日本語字幕付き原語上演)
指揮:飯守泰次郎
演出:鈴木敬介
いや〜、痺れました。飯守の熱い音楽。これまでドミンゴとノーマンが競演したニューヨークでのMetの舞台、シュタイン、N響の演奏会形式上演(3幕のみ)、先の読売日響の舞台と体験してきましたが、何となく「荘厳」な音楽というイメージが先行してこんなに熱く情熱的な再現が可能な楽曲という認識がありませんでした。ハンナさんの初日のレポートを読んだ時点では、まあこのシリーズとしては想定内の演奏だったんだろうと思っておりましたが、やはり実際聴いて見なければ判らないもの。オール日本人キャストということを考えれば正しく想定外の感動を与えて貰い幸福な気分で会場を後にすることが出来ました。
僕はこのシリーズ、幸い初回のリング全曲からお付き合いしていて去年のローエングリンを経て今回で6回目でしたが、今回はこの楽団の30周年記念も兼ねているとか。此れまでずっと東京文化で1回のみだった公演を、会場を日生劇場に移して2回公演の2回目。パンフレットによれば劇場を長期借り切ってみっちり練習期間を設けたとのことでしたがその効果が如実に出ていたのではないでしょうか?最大の功労者は無論指揮者の飯守泰次郎にありますが5年前という関西二期会での上演の経験も加えてこの曲を知り尽くした本邦第一人者の意図を充分に汲み取って舞台成果として表すことができたのは、N響でも読売日響でも東フィルでもなく、まるでアマオケの様にこの演奏会に向けて練習を積むことができた若い東京シティフィルならではの快挙として声を大にして顕彰したい気持ちでいっぱいです。飯守はもともとわかり易い音楽を作る人で、一頃は拍を揃えてきちんと進むやり方が説明的な印象を受けたこともありましたが、それを円熟と呼ぶのかそうした几帳面さがうまく消化されて、今風ではないものの随分骨太な音楽をやるようになったと思います。
歌手は脇に至るまでみな良く歌っていました。中ではダントツに良かったのが無論云わずと知れた小山由美さん。最初は目をひん剥いた様なメイクが小池栄子みたいで笑えましたが2幕3幕と進むにつれて歌だけでなく演技にも物凄い入れ込みようのでこちらも引き込まれ大いに感動させてくれました。この人といい藤村さん、先日ゼンタを歌った蔵野さんと日本人歌手も女性陣は本当にレベルが上がってきましたね。男性陣でよかったのは島村武男さんのクリングゾルとアムフォルタスの福島明也さん。このシリーズでのワルキューレのヴォータンでは車椅子で登場し一人楽譜に噛り付きだった事で随分評判を落とした彼ですが今回は演技も含め名誉を挽回すべく?頑張っていたと思います。クリングゾルの衣装は道化師みたいでちょっと漫画チックで浮いてました。はっきりいって変。無論島村さんの非ではありませんが。
グルネマンツの木川田さんは初めて聴く歌手でしたが立派に役目を果たしていたんじゃないでしょうか。この難役、二期会重鎮が先日の高々2時間半のオランダ人で最後は息も絶え絶えの体たらくだったことを思い返しても、3幕4時間を超える長丁場を、最後まで大きな破綻なく安定して歌い果せたのは労を湛えるべきだと思いました。終わりがけ一瞬歌詞が覚束なくなってヒヤッとさせられる場面があるにはありましたけど。さて題名役の竹田昌弘さん。確かに声量が無く今の時点で「ヘルデン」には遠いと思いますが輝きのある美声で出色の逸材であることには間違いないでしょう。
関西でのパルシファル公演でこの人を大抜擢したのは当の飯守さんご本人だったと伺っていますがその慧眼と勇気に最大級の敬意を表します。5年前のその時点では今以上に殆どアマチュアだった訳ですから。僕は当時東京に居てその公演は残念ながら聴いておりませんが関西二期会がその創立何周年の記念事業として満を持しての公演だったはず。その記念の公演のしかも「パルシファル」の題名役にアマ同然の新人を起用するっていう勇気、余程の確信がなければできないことだとは思いませんか?今回の起用もその時の経験と成功を評価してのものと思いますが結果は正解だったと思います。僕は二期会のワーグナーは83年の「ジークフリート」からになりますが少なくともそれ以降の歴代のワーグナー歌いで今回第一の聖杯騎士役に回った伊達さん(91年黄昏のジークフリート役)を含めて今、今回の竹田以上にワーグナーの主役が歌えると太鼓判で推せる日本人歌手ははたして存在するのか?残念ながらいないというのが悲しいかなわが日本の現状ではないでしょうか?逆に言うと注目に値する逸材なんて、専門教育を受けてコンクールに受かった「俊英」の中からでも10年に一人でるかでないかの希少価値でしょう。吉田浩之がシュタイン指揮、N響のオランダ人の舵手で素晴らしい美声を披露したのは95年のことで今でも僕はその時の感動を忘れませんが、言うまでもなく彼は「ヘルデン」ではありません。吉田が今年のマイスタージンガーのダーヴィトで大いに気を吐いた様にこういう人が大きく育つか潰れてしまうかで10年20年後の日本のオペラシーンは大きく変わってくるはずです。新人らしくカーテンコールでは感極まって舞台上で一人大泣きしていましたがこれが関東デビュー、狭い日本で「関西の歌手」なんて地方を見下したようなレッテルを貼らず暖かく見守って行きたい物だと思いました。
演出は鈴木敬介さん。何時もながらの奇を衒わない物。予算の関係か背景をスライドで変化をつけるくらいであまり演出らしい工夫もない様に思えましたが、今回の上演形式では変にいじるより却って音楽の邪魔をせず良かったと思いました。
今回の上演、聴いたのがかぶりつき、指揮者の直下で歌の間もオケの奏でる情報量の多さに圧倒されっぱなしでしたが、なんと言っても最大の聴かせどころ、クライマックスは第3幕にありました。聖金曜日の音楽から場面転換を経てパルシファルによる聖杯の儀式と奇跡の成就にいたる場面の音楽はちょっと他に類例がない程に壮大で、東京オペラシンガーズの合唱がハンナさんの言うとおり持てる力を発揮したこともあり、堂に満ちる巨大な音楽には、これが大ワーグナーの辞世の句なのだとの感慨を胸にただ頭を垂れて聴き入るしかありませんでした。
アムフォルタス:福島明也
ティトゥレル:高橋啓三
グルネマンツ:木川田 澄
パルジファル:竹田昌弘
クリングゾル:島村武男
クンドリ:小山由美
第1の聖杯騎士:伊達英二
第2の聖杯騎士:佐藤泰弘
第1の侍童:堪山貴子
第2の侍童:穴澤ゆう子
第3の侍童:塚田裕之
第4の侍童:片寄純也
アルトの声:黒木香保里
クリングゾルの魔法の乙女たち1:増田のり子
クリングゾルの魔法の乙女たち2:井垣朋子
クリングゾルの魔法の乙女たち3:井坂 惠
クリングゾルの魔法の乙女たち I :平井香織
クリングゾルの魔法の乙女たち II:栗林朋子
クリングゾルの魔法の乙女たちIII:渡辺敦子
合唱:東京オペラシンガーズ
洗足学園音楽大学合唱団
副指揮:城谷正博(プロンプター)
海老原 光
富平恭平
合唱指揮:江上孝則(東京オペラシンガーズ)
四野見和敏(洗足学園音楽大学合唱団)
コレペティトール:大藤玲子、小梶由美子、篠原明子
伴奏ピアノ:戸田光彦、松原裕子、浜崎奈々子
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コメント一覧
は、ウィーン来日公演のルネ・コロだたわけで…。
それを基準にしてしまっては可哀想とは思いますけれど。「共に苦しんで智を得る純粋な愚者」には見えないし聞こえなかったです。
このシリーズは、どうしても日本人でなければ駄目なんでしょうか?中国や韓国あたりなら歌えそうな馬力のある人がいそうな気もしますが…。
だと舞台は立った人の胸から上しか見えなかったこと。
見切れるなら最初からそう断るべきだし、逆バイロイ
トと書いたのもある意味皮肉のつもりです。あまりに
題名役の印象が違うのは席のせいかなと思い始めました。本当に主催者に苦情を言おうと思ったくらい…。
第二幕からは周囲の人は、ほとんで座席を移動して
しまいました。その点では、主催者の見識を疑いた
いと思ってます。「見えないなら半額返せ」くらいは
言いたかった。実際、劇団四季で同じような不手際
があって、返金に応じている事例もあります。
僕は後ろから4列目くらいで、舞台を見るにはちょうどよい位置でした。「前の方はみにくいだろーなー」と思いながら見ていました
最前列はオケの定期などでは2列目ぐらいまでA席になっている場合もあり音的にも必ずしも理想的な場所ではないですね。僕はミーハーで直の声が聴きたいのでわざと前よりを選んでいるので文句を言う気はありませんけど。
見切れていたのは確かだしクレームつけてみればよかったのに…
金曜日は空いていたそうだしきっと別の場所を宛がってくれたと思いますけど。「半額かえせ」はおばさんっぽいし止めましょう。
感想の違いは…やはり較べるものの違いじゃないでしょうか?
因みに僕も最前列でしたけど(^^♪
こちらこそ、ご一緒できたお陰でとっても楽しかったです。トラックバックしておきますね。
実は今回の公演、私も前から2列目Bでした。たしかにヴァイオリン奏者とかぶって舞台が場所により見えない。でも耳を澄ませば立派なワーグナーなのですから、ここはじっと我慢でした。私も二期会ワーグナーはジークフリートからでした、そして初パルシファルはホルライザーのウィーン来日公演でした。今後ともよろしくお願いいたします。