満開の桜が、目の高さで波のように何重にも横に広がり、花の海に埋もれながら、五重の塔や伽藍(がらん)を眺められる。京都市右京区の仁和寺境内に咲く名勝、御室桜(おむろざくら)は、全国でも珍しい低木の桜を目近にめでるぜいたくな花見だ。

 古くから桜の名所として知られ、江戸中期の俳人、春泥舎は「仁和寺や あしもとよりぞ 花の雲」と詠んだ。

 この桜は「御室有明(おむろありあけ)」と呼ばれる遅咲きの品種で、「八重」のほか「一重」の花もつく。樹高が2~3メートルと低いのが特徴だ。

 ところが、最近になってめっきり樹勢が衰えはじめた。仁和寺では、元の桜から伸びた枝(萌芽枝)を接ぎ木し、次世代の苗をつくり、移植する。同じ美しい花を咲かせるには、遺伝子が変化しないように同じ細胞を増殖させる伝統のクローン技術を使う。

 それでも御室桜は360年を超える歳月を経ており、活発な苗が得られるか、不安が残った。

 そこで、仁和寺が庭園管理をしている住友林業に相談して、若返りの秘策として採用したのが「茎頂培養」というクローン苗づくりだ。新芽の先にある増殖力旺盛な若い組織(茎頂)を試験管内で培養して苗に成長させる。無菌状態なので病気にもならず、培養液を入れ替えることで保存も利く。

 ランなど付加価値の高い草花では行われている方法だが、樹木では経済効率の上から建材や製紙に使う材料が主な対象だ。それでも、同社は、ラワン材の組織培養の実績を生かし、京都・醍醐寺のシダレザクラなど名所の桜の茎頂培養にも成功していた。御室桜については平成19年から、千葉大学との共同プロジェクトを組み、ことしになって苗木ができあがった。境内に植えられるのは、2、3年後になるが、それまでにDNAや土壌の性質も調べる。低木なのは本来の遺伝的な性質か、土壌が粘土質で貧栄養なため成長が遅いせいか-など御室桜の長年の謎が明らかにされる。

 仁和寺では「温暖化の影響か、遅咲きの桜なのに開花時期が早くなっています。新たなバイオ技術の導入でできた苗が、美しい環境をつくるシンボルになればいい」と期待を込める。日本人がこよなく愛する桜の花はそれだけの力があるのは確かだ。

 こうした桜のバイオ技術では、日本製紙が、挿し穂を光合成のしやすい環境におくことで発根を促す方法を開発した。国立遺伝学研究所(静岡県)にある260種の桜の遺伝子源の保存などに導入されている。

 満開の状況を作り出すことについては、花咲かホルモン「フロリゲン」を発見した奈良先端科学技術大学院大学の島本功バイオサイエンス研究科教授は「桜は、花芽が開花の前年の夏に着くので、その時期に処理すれば、効果があるはず」と推測する。今後、花暦が少し変わるかもしれない。

 全国を席巻しているソメイヨシノは、もともと江戸末期に東京の植木屋が作り出した交雑種といわれる。美しく咲き誇る姿が気に入られ、接ぎ木など当時のバイオ技術が駆使されて広まった。クローンであるがゆえに、一斉に咲いて散る。寿命についても、60年など短命説が出ている。

 「散る桜 残る桜も 散る桜」(良寛)

 桜は日本人の死生観などに大きな影響を与えてきた。バイオ桜を楽しみながら、地球温暖化や生物多様性について思いをはせてもいいのではないか。

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