猫がぼくを見ていました。
ぼくは、確かにさっきまで友達と遊んでいた河原にいて
なぜだかぽつんとひとり、体操座りしていたのです。
こちらを見つめる猫の瞳は、薄暗がりに赤く燃えていて
ぼくは何かおそろしいような気がして目をつぶりました。
するとひょいと体が軽くなって、耳元にびゅんびゅん風の音が聞こえてきました。
思わず目を薄く開けると、ぼくは太く流れる川の上を、
大きな猫にくわえられて運ばれていくのでした。
川面には赤い炎がいくつも浮かんでいて、それは二度ほどまたたくと
ふわりと浮き上がって、揺らぎながら立ち上ってきます。
しゅーしゅーと、盛大に熱を発していた炎の玉は、ぼくの見ている前で温度を失い、
銀粉をまとったようになって黒い空一面に散っていきます。
ぼくはいったい、どこに連れていかれるのだろう。
銀粉が黒一色の空に吸い込まれていくのを見ながら
もうぼくはおそろしさを忘れて、
相変わらず立ち上る炎の玉をかすめながら運ばれて行きます。
そのとき、川岸にいくつもの赤い炎がゆっくりとまたたいているところがあり
真ん中に男の子がうつ伏せになっているのが見えました。
ぼくはあっと思う間もなく、すとーんとそのその子をめがけて落ちていきました。
それから、どれほど時間が経ったでしょう。
「おーい、おーい」
「いたぞ、あそこだ」
大人たちの声が聞こえて、ぼくは目を開けました。
「だいじょうぶか?」
大きな泥靴に囲まれたぼくは、暗闇に落ちていく前に
炎のような猫の目を見た気がします。
確かにぼくは、猫を見たのです。