DSC_8013
 


電話を切った。


耳に受話器を押し付けていたからか
一瞬、めまいがした。


息子が塾に行っていない。

じゃ、どこに?


「成績が下がっていましてね。しかしそれは、努力次第でまだ取り返せます。
なにしろ田中くんは、今学期に入ってから宿題も提出していないんですから。
しっかり息子さんと話してください。 なんだったらぼくも一緒に話しますから」


はい、はい、お願いします。


勝手に口が動いていた。
でもわたしは知っている。
わたしは誰にも相談しない。


あの子はわたしの子。
わたしだけの子。


いい子だったのに。
嘘なんてついたことはなかったのに。


いいえ、嘘、嘘、嘘。
あの子はこずるい子。
いつもわたしの顔色をうかがって
いつも都合のいいように立ち回っていた。


塾のことだって、うまく立ち回ってくれたらよかったのに。
あたしはなにも、無理なことは願っていない。


子どもなりに、うまく立ち回ればいいじゃないの。


ああ、どうしよう、どうしよう。
弘くんや比奈ちゃんは、もうわかっているんだわ。


お母さんたちに話したかもしれない。
今頃あのふたり、どこかの喫茶店でお茶を飲みながら噂しているんだわ。


いやだいやだ。  あたしはどんな顔してればいい? 
どうすればいい?  あの子はどうしてあたしを困らせるのよ。


リビングのソファに腰を下ろし、でもじっとしていられず
立ち上がって歩き回る。


息子の部屋の扉を開けた。
机の上には無造作に参考書が広げてある。 


その下には学校の教科書とノート。
宿題をしていたといわんばかりに広げているものの
ノートには何も書かれていない。


子どもは勉強が仕事でしょ。
逃げたって、どうにもならないわ。


帰ってきたら、とっちめてやる。
逃げられないって、思い知らせてやる。