ぽんたす島に住まう、父と母、そして娘からなる、とある一家。
父ぽんと娘すかぽんは食卓に。母ぽんは食卓を見下ろすカウンターキッチン何かをしている。
少子高齢化の日本に、ごく平均的な一家のごく平均的な夕食の席での会話。
父ぽん 「(新聞を見ながら)おっ、すっげー。山中教授、ノーベル賞授与やって! しかし若いなあ」
すかぽん 「これまではおじいちゃんばっかりやったもんね」
父ぽん 「そやなあ、変わった人ばっかりやったな」
すかぽん 「山中教授って、これまでに二回も挫折してんてねぇ、すごいねぇ」
父ぽん 「何がすごいねん。わしなんかなあ、わしなんか(遠い目になって)……七回も挫折してんぞ!」
すかぽん 「……ふうん、すごいねぇ。で、父ちゃん、ノーベル賞は?」
父ぽん 「……(慌てて新聞に顔を突っ込む)えっと。山中教授は外科医やったころ手術がへたくそで、医師仲間から “じゃまなか“ って呼ばれとったんやと」
すかぽん 「きゃははは」
父ぽん 「で、実験に必死やったころには、ねずみの世話に明け暮れとったから、やまちゅーって呼ばれとったんやと、がははは」
すかぽん 「……とぉぉぉちゃん、人の名前で遊んだらあかんのちゃうのぉ?」
父ぽん 「うっ。そやな、そやな。でも、偉い人はええんとちゃうか」
すかぽん 「偉いって、どこが?」
父ぽん 「うおっほん。よーするにやなあ、蛙の卵の核を抜いて、そこにおたまじゃくしの卵の核を入れてん」
母ぽん 「(カウンターキッチンから顔を上げて) なんやて? おたまじゃくしの卵って、蛙の卵やろ?」
父ぽん 「ちゃうちゃう、まちごうた。蛙の卵の核を抜いて、おたまじゃくしの細胞の核を入れてん。そしたら」
母ぽん 「そしたら?」
父ぽん 「おたまじゃくしの卵から蛙が生まれてん」
母ぽん 「な、ななな、なに?? 卵から蛙?」
すかぽん 「(六行の沈黙分、勢いよく噴き出して) あほかっ、卵からいきなり蛙は生まれへんよ、きゃはは」
母ぽん 「(カウンターの向こうでぎらりと柳刃を構え) これ娘よ。母親のことをあほとは何事か。これまであんたの父さんにあほかあほかと言われて18年、母はそれに耐えず、たびたびの刃傷沙汰。我が育てつる娘なれど、かくなるうえは! 」
父ぽん 「(委細構わず) ちゃうちゃう、おたまじゃくしの卵からおたまじゃくしが生まれてん」
母ぽん 「あたりまえやろが、それは!」
父ぼん 「だからっ! 常識的に考えたら、卵におたまじゃくしの核を入れても育たんと思われとってん、それがやな……」
母ぽん 「ああああ、うるさい~! 亭主ばかりか、娘まであたしをあほ呼ばわりするとは! すかぽんよ、あたしはあんたをそんな娘に育てた覚えはない! くやしーーー、蛙の子はやっぱり蛙やった~! 」
ああ、うるさ。