2009年03月31日
奇跡の海
1996年公開作品。
プロテスタント信仰が強い、70年代のスコットランドの村が舞台。ベスは、油田工場で働くヤンと結婚した。彼女は、仕事のために家に戻れない彼を愛するあまり、早く帰ってくるよう神に祈る。するとヤンは工場で事故にあい、願い通りに早く戻ってきた。だが回復しても寝たきりの上に、不能になっていた……。やがてヤンは、妻を愛する気持ちから他の男と寝るよう勧め、ベスもまた、夫を愛するがゆえに男たちを誘惑してゆく。全8章、2時間38分からなる、濃密な愛の物語。
監督・脚本 ラース・フォン・トリアー
製作総指揮 ラーシュ・ヨンソン
音楽 レイ・ウィリアムズ
キャスト(役名)は以下の通り。
エミリー・ワトソン(ベス)
ステラン・スカルスガルド(ヤン)
カトリン・カートリッジ(ドド)
ジャン=マルク・バール(テリー)
ジョナサン・ハケット
エイドリアン・ローリンズ(リチャードソン医師)
サンドラ・ヴォー(ベスの母親)
ウド・キア(トロール船の男)
ローフ・ラガス
初め観た所では、余りぱっとしない印象やもしれない。
普通の結婚式の場面から物語が始まる。いきなり主人公と思しき女性、ベスが登場。いたって普通に結婚式にお決まりの言葉を述べているだけ。
そんなに結婚資金を稼がなかったのか、いかにも安っぽい教会の中、ありきたりの誓いの言葉を述べる新婚カップル。
パッケージにある女性も、至って真面目そうな面持ちで、特徴はなさそう。
ストーリー自体は、悲劇の空気がするが、このシーンを観る限り、単に普通の新婚物語かのよう。
画面もそんなに特徴があるわけではない。
普通に結婚式の風景を撮影しているだけ。
BGMも特に鳴らない。
ただ忠実にその風景を撮影している。不気味なくらいに忠実に。
特筆すべきは、カットがわざとらしいところか。
堂々とカットしている。
何だか、「加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ」のおもしろビデオのデジタルリマスター版を見せられているかのような気分になる。
ただ、このベスがどうにもこうにも放っておけない愛嬌ある空気を発している。この不気味さは何を意味するのであろうか。
戸惑いが晴れないままにカメラは結婚式の会場から楽屋へ移る。
いきなりそこで新婚カップルは性交を始める。何の遠慮も無く。
ベスは、ウェディングドレスを着たままに。
ウェディングドレスは、あっけなく赤に染まり。。。
そこに、ベスの有する危うさと、どことなく放っておけない可愛らしさに惹かれ行くのである。
何故か「第2章」と表記せられたイラストが登場。
どうやら、この映画、章立てでストーリー展開してゆくようである。
幸せな新婚生活。危うい言動に走りがちなこのカップルをついつい口出ししてしまいたくなるところを、
「どうせ聞こえないから」とじっと見つめてしまう。
やがて、新郎は、出稼ぎに赴かねばならないことになってしまう。
泣き叫び、物にその悲しみを当り散らすベス。
幸せ感丸出しの新婚生活の風景を見せ付けられているだけに、観ているこちらまでベスと共に泣き出したくなるのだ。
そのくらいにこのベス、純真無垢であり、しかも可愛い。
これで魔女に呪いをかけられたかのようなブスだったらば、筆者、10分で観る気をなくしていたことであろう。
パッケージにある写真は、至って真面目な雰囲気に思えたのに、このギャップは何であろうか。筆者の思い込みが強すぎて余計に可愛らしく感ずるのやも知れない。
兎に角純真無垢で、新郎に対する思いが一途なのだ。
新郎の旅立ちの折は、本当に無事を祈りたくなってしまった。
この映画、章を進めてゆくごとにお分かりいただけると思うが、BGMが殆ど鳴らない。
全くと言ってよいほど鳴らない。画面はというと、おもしろビデオを補正したかのような家庭用カメラの雰囲気。それ故か、登場人物の言動が実に生々しく伝わってくるのだ。
ベスは純真無垢で、やや精神状態が弱弱しい面があるという危なっかしげな可愛い女性。その言動の危うさに、こちらも突っ込まれずには居られない。
当然スクリーンに突っ込みを入れても何も変わりやしまい。鑑賞者側は、じっとベスを見守る以外に方法はない。
映画なんだから当然だと袋たたきに遭いそう。仰るとおりである。
これが、この「突っ込みたくなる気にさせる」点が、この映画の巧さなのだ。
ただベスを見守る以外に方法は無い。いけないと突っ込みたくても、筋書きは何も変わらない。
而して我々はこの映画の世界にどっぷりと浸かってゆくのだ。
この映画の為せる業と筆者は考える。
ベスは実に愛妻家ならぬ愛夫者。
リンク先には、「事故で不能になってしまった夫と、そのために他の男を誘惑していく妻による愛の形を濃密に描いたラブロマンス」とある。
じ、事故?!
そう、新郎は、夫は出稼ぎ先で不運にも事故に遭うのである。
ベスがあれほどまでに、こちらが突っ込みたくなるほどに純真無垢に夫の帰りを祈り続けていたのである。
なるほど、夫は帰った。その帰り方が。。。
「元気な夫と一瞬しか共に過ごせない。愛する夫と共に居られることは居られるが。。。」
常識的に考えれば前者を選ぶことであろう。
しかし、そうは問屋が下ろしてくれない。ベスの「夫と居たい」という純真無垢な思い、、、
居たい人と過ごしたい時間は100時間でも短く、離れている時間は10分間は流石に何も感じないが、30時間を過ぎると2400時間に感ずるものである。
筆者がそれをわからないことはないだけに、このベスを通じた問いかけには本当に心が痛くなる。
冷静に前者を妥当とわかっていても、耐えられないこの思い、、、
何という悲哀を堪能させる気なのだろうか、この映画。
他の男を誘惑してゆくことに何の愛があるというのか。夫にとって何の得があるというのか。
それは純粋に不倫行為ではないのか。
誰しもが戸惑おうこのパラドックス。そこにベスの純真無垢であるが故の、余りもの愛夫者故の悲劇が展開せられるのである。
愛する者のためならば、如何に身を滅ぼさんとも。。。
端から見れば、この上なく愚かしく思えるこのベスの行為、純真無垢なベスと新郎の日々を第2章にて見せ付けられているだけに「愚かしい!」と突っ込みたくなる一方、ベスの思いが理解できなくも無く、ただ見守るだけの状態になってしまう。
嗚呼、こんなに悲哀に満ちた、重々しいテーマのラブロマンスがあったであろうか。
愛のためとは言え、ここまでして汚れ行く意義がどこにあるというのか。
是非その悲哀を堪能し、ベスの思いに同化していただきたく思うのである。
BGMが派手につかわれておらず、殆ど無音状態のまま、家庭用が如き映像ということもあって、悲哀の言動の数々は実に生々しい。
ベスの純愛ゆえに為す行為は、赤々と。。。
結果、賛否の二極化の激しい映画となっているようである。
筆者は勿論、大好きな映画!
各章の表示のときに、70年代あたりを代表するスタンダード・ナンバーがかかる。これが実に良きアクセントとなっている。筆者は、「青い影」を用いていたのが感動的であった。使う場所も良かった。
EDテーマも良い。
オルガントーンが最高。実は、この系統のオルガンサウンドが一番の好みである。
そこにトランペットが絡む。
もう、最高だ。
スタッフロールで泣かされた映画はこれくらいではなかろうか。
これが初めてということはないと思うのだが、そうそう見つからないのは確かである。
点数は、軽く9.63点は附したい。
出来れば鑑賞を勧める、というよりも、鑑賞して欲しいと言いたくなる映画。
最後に、この映画を通じて得た教訓をば1つ呈示する。
女性の全裸は怖い!
プロテスタント信仰が強い、70年代のスコットランドの村が舞台。ベスは、油田工場で働くヤンと結婚した。彼女は、仕事のために家に戻れない彼を愛するあまり、早く帰ってくるよう神に祈る。するとヤンは工場で事故にあい、願い通りに早く戻ってきた。だが回復しても寝たきりの上に、不能になっていた……。やがてヤンは、妻を愛する気持ちから他の男と寝るよう勧め、ベスもまた、夫を愛するがゆえに男たちを誘惑してゆく。全8章、2時間38分からなる、濃密な愛の物語。
監督・脚本 ラース・フォン・トリアー
製作総指揮 ラーシュ・ヨンソン
音楽 レイ・ウィリアムズ
キャスト(役名)は以下の通り。
エミリー・ワトソン(ベス)
ステラン・スカルスガルド(ヤン)
カトリン・カートリッジ(ドド)
ジャン=マルク・バール(テリー)
ジョナサン・ハケット
エイドリアン・ローリンズ(リチャードソン医師)
サンドラ・ヴォー(ベスの母親)
ウド・キア(トロール船の男)
ローフ・ラガス
初め観た所では、余りぱっとしない印象やもしれない。
普通の結婚式の場面から物語が始まる。いきなり主人公と思しき女性、ベスが登場。いたって普通に結婚式にお決まりの言葉を述べているだけ。
そんなに結婚資金を稼がなかったのか、いかにも安っぽい教会の中、ありきたりの誓いの言葉を述べる新婚カップル。
パッケージにある女性も、至って真面目そうな面持ちで、特徴はなさそう。
ストーリー自体は、悲劇の空気がするが、このシーンを観る限り、単に普通の新婚物語かのよう。
画面もそんなに特徴があるわけではない。
普通に結婚式の風景を撮影しているだけ。
BGMも特に鳴らない。
ただ忠実にその風景を撮影している。不気味なくらいに忠実に。
特筆すべきは、カットがわざとらしいところか。
堂々とカットしている。
何だか、「加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ」のおもしろビデオのデジタルリマスター版を見せられているかのような気分になる。
ただ、このベスがどうにもこうにも放っておけない愛嬌ある空気を発している。この不気味さは何を意味するのであろうか。
戸惑いが晴れないままにカメラは結婚式の会場から楽屋へ移る。
いきなりそこで新婚カップルは性交を始める。何の遠慮も無く。
ベスは、ウェディングドレスを着たままに。
ウェディングドレスは、あっけなく赤に染まり。。。
そこに、ベスの有する危うさと、どことなく放っておけない可愛らしさに惹かれ行くのである。
何故か「第2章」と表記せられたイラストが登場。
どうやら、この映画、章立てでストーリー展開してゆくようである。
幸せな新婚生活。危うい言動に走りがちなこのカップルをついつい口出ししてしまいたくなるところを、
「どうせ聞こえないから」とじっと見つめてしまう。
やがて、新郎は、出稼ぎに赴かねばならないことになってしまう。
泣き叫び、物にその悲しみを当り散らすベス。
幸せ感丸出しの新婚生活の風景を見せ付けられているだけに、観ているこちらまでベスと共に泣き出したくなるのだ。
そのくらいにこのベス、純真無垢であり、しかも可愛い。
これで魔女に呪いをかけられたかのようなブスだったらば、筆者、10分で観る気をなくしていたことであろう。
パッケージにある写真は、至って真面目な雰囲気に思えたのに、このギャップは何であろうか。筆者の思い込みが強すぎて余計に可愛らしく感ずるのやも知れない。
兎に角純真無垢で、新郎に対する思いが一途なのだ。
新郎の旅立ちの折は、本当に無事を祈りたくなってしまった。
この映画、章を進めてゆくごとにお分かりいただけると思うが、BGMが殆ど鳴らない。
全くと言ってよいほど鳴らない。画面はというと、おもしろビデオを補正したかのような家庭用カメラの雰囲気。それ故か、登場人物の言動が実に生々しく伝わってくるのだ。
ベスは純真無垢で、やや精神状態が弱弱しい面があるという危なっかしげな可愛い女性。その言動の危うさに、こちらも突っ込まれずには居られない。
当然スクリーンに突っ込みを入れても何も変わりやしまい。鑑賞者側は、じっとベスを見守る以外に方法はない。
映画なんだから当然だと袋たたきに遭いそう。仰るとおりである。
これが、この「突っ込みたくなる気にさせる」点が、この映画の巧さなのだ。
ただベスを見守る以外に方法は無い。いけないと突っ込みたくても、筋書きは何も変わらない。
而して我々はこの映画の世界にどっぷりと浸かってゆくのだ。
この映画の為せる業と筆者は考える。
ベスは実に愛妻家ならぬ愛夫者。
リンク先には、「事故で不能になってしまった夫と、そのために他の男を誘惑していく妻による愛の形を濃密に描いたラブロマンス」とある。
じ、事故?!
そう、新郎は、夫は出稼ぎ先で不運にも事故に遭うのである。
ベスがあれほどまでに、こちらが突っ込みたくなるほどに純真無垢に夫の帰りを祈り続けていたのである。
なるほど、夫は帰った。その帰り方が。。。
「元気な夫と一瞬しか共に過ごせない。愛する夫と共に居られることは居られるが。。。」
常識的に考えれば前者を選ぶことであろう。
しかし、そうは問屋が下ろしてくれない。ベスの「夫と居たい」という純真無垢な思い、、、
居たい人と過ごしたい時間は100時間でも短く、離れている時間は10分間は流石に何も感じないが、30時間を過ぎると2400時間に感ずるものである。
筆者がそれをわからないことはないだけに、このベスを通じた問いかけには本当に心が痛くなる。
冷静に前者を妥当とわかっていても、耐えられないこの思い、、、
何という悲哀を堪能させる気なのだろうか、この映画。
他の男を誘惑してゆくことに何の愛があるというのか。夫にとって何の得があるというのか。
それは純粋に不倫行為ではないのか。
誰しもが戸惑おうこのパラドックス。そこにベスの純真無垢であるが故の、余りもの愛夫者故の悲劇が展開せられるのである。
愛する者のためならば、如何に身を滅ぼさんとも。。。
端から見れば、この上なく愚かしく思えるこのベスの行為、純真無垢なベスと新郎の日々を第2章にて見せ付けられているだけに「愚かしい!」と突っ込みたくなる一方、ベスの思いが理解できなくも無く、ただ見守るだけの状態になってしまう。
嗚呼、こんなに悲哀に満ちた、重々しいテーマのラブロマンスがあったであろうか。
愛のためとは言え、ここまでして汚れ行く意義がどこにあるというのか。
是非その悲哀を堪能し、ベスの思いに同化していただきたく思うのである。
BGMが派手につかわれておらず、殆ど無音状態のまま、家庭用が如き映像ということもあって、悲哀の言動の数々は実に生々しい。
ベスの純愛ゆえに為す行為は、赤々と。。。
結果、賛否の二極化の激しい映画となっているようである。
筆者は勿論、大好きな映画!
各章の表示のときに、70年代あたりを代表するスタンダード・ナンバーがかかる。これが実に良きアクセントとなっている。筆者は、「青い影」を用いていたのが感動的であった。使う場所も良かった。
EDテーマも良い。
オルガントーンが最高。実は、この系統のオルガンサウンドが一番の好みである。
そこにトランペットが絡む。
もう、最高だ。
スタッフロールで泣かされた映画はこれくらいではなかろうか。
これが初めてということはないと思うのだが、そうそう見つからないのは確かである。
点数は、軽く9.63点は附したい。
出来れば鑑賞を勧める、というよりも、鑑賞して欲しいと言いたくなる映画。
最後に、この映画を通じて得た教訓をば1つ呈示する。
女性の全裸は怖い!