働きながら、社会を変える。――ビジネスパーソン「子どもの貧困」に挑む
働きながら、社会を変える。――ビジネスパーソン「子どもの貧困」に挑む

楽しみにしていた本書が手元に届いて、一気に読んだ。終えると、「伝えたい」という思いでいっぱいになった。いざ書こうとすると、筆が進まない。感じたことが多岐に渡り、まとめるのが簡単ではないことに気がついた。

ただ、知ってしまった以上、僕らは伝えなければならない、一人でも多くの人に。私たちが住む現代日本社会において、「子どもの貧困」がいまだ存在していることを。彼らが、そして彼らを親代わりに24時間育てている職員の方々を含めて、政治的にネグレクトされている事実を。その状況を改善するために、会社員でありながら睡眠時間を削って戦っている若者がいることを。

 マザー・テレサが来日した際に言っていたことを思い出す。
 「豊かそうに見えるこの日本で、心の飢えはないでしょうか。だれからも必要とされず、だれからも愛されていないという心の貧しさ。物質的な貧しさに比べ、心の貧しさは深刻です。心の貧しさこそ、一切れのパンの飢えよりも、もっともっと貧しいことだと思います。日本のみなさん、豊さんのなかで貧しさを忘れないでください」(p.34)
全国にある約580の児童養護施設にて、3万人以上の子どもが虐待や貧困など、親の事情を原因として住み慣れた家、家族、友人たちから引き離され、施設で生活している。精神的に大きな傷を負った子どもたちが育つ環境は決して恵まれていない。施設では彼らをケアする職員の数が圧倒的に不足している。子どもたちの高校中退率は7.6%(全国平均の3倍以上)、大学進学率は9.3%(全国平均の5分の1)という。大人になっても苦しい生活を余議なくされることが少なくない。

彼らに、「機会の平等」が十分に与えられていると言えるだろうか?

社会の一つの役割は、人の運命が神の偶然に翻弄されることを防ぐことにあると思う。(p.86)

偶然訪問した児童養護施設で衝撃を受け、なにかしなければならないと筆者は感じ、動き出す。施設に実際に住み込み、子どもたちと同じ生活をすることで、彼らと心を通わせる。

本書が児童養護施設に関する学術書などと違って心を動かすのは、投資ファンドで働く等身大の著者が子どもたち、および職員の方々と過ごした時間、交わした会話を再現することで、いわば「あちらの世界」と「こちらの世界」を連結する環の役割を果たしてくれているからだ。

著者は子どもたちとサッカーをして遊び、勉強を手伝ってあげ、就寝時間を過ぎて午前3時まで高校生と語りあい、職員に注意される。その体験を通じて、施設を訪問しただけでは分からない、子どもたちの心の傷を少しずつ知っていく。そして彼は行動する。自分が立ち上げたNPO団体を通じて、「チャンスメーカー」なる新しい寄付プログラムを立ち上げる。

本書は単なる体験談ではない。第二部は打って変わって、投資銀行のプレゼンを聴くようなデータが詰まっている。現場間あふれるミクロの体験と、マクロの現実をファクツをもって語る術を著者は知っている。

これは一人の若いリーダーが誕生する記録でもある。理不尽な現実を目の当たりにし、行動しなければという熱い思いにかられる。その問題をよりよく知るために、現場に飛び込む。たくさんの人と話をする。感情に流されるのではなく、自分にしかできないことはなにかをストラテジックに考案する。多くの人を巻き込み、導き、それを現実のものとする。一人の若者の感性と行動が、社会を確実に変えていく。

僕も自分に何ができるかを考え、まずはこのチャンスメーカー寄付プログラムに参加することにした。これからは、一人でも多くの政策決定者に本書を読んでもらえるよう、働きかけようと思う。

そしてこのブログを読んだ皆さん。あなたはどう行動するのか?どう変わるのか?どう社会を変えていくのか?そうあえて問いたい。そのヒントを得るために、ぜひ本書を手に取って頂きたい。なお、印税はすべてつくば市にある児童養護施設に寄付される。

最後にひとつツッコミを入れるるならば、著者は「サラリーマンをやりながらもNPO活動はできる」というが、私は必ずしもそうは思わない。というのは、著者の並はずれたエネルギーと行動力、粘り強さ、リーダーシップを知っているからだ。彼は投資会社の激務のなか、深夜まで会社の仕事をし、それから古典を読み、朝までNPO活動をやる。そんな彼がリーダーを務めたから、初めは面白半分で集まっていたがすぐに去っていき、数人しか残らないなかでも信念をもって継続したからできたのであり、普通の社会人にはなかなか真似ができない。本書ではかれのスーパーマンぶりに関する記述が落ちているため、誤った印象を与えかねないだろう。

【おまけ】
本の作りが見事!と感心もした。

本書は児童養護施設について書かれた本である。しかし、タイトルには「児童養護施設」という語は登場しない。本づくりと してうまいな、と思った。「子どもの貧困」というキーワードが使われているだけだ。会社とは別にNPOなどの活動に取り組みたいと考えている若者は少なく ない。

本書では(たまたま)その対象が児童養護施設であるわけだが、この本の作りであればより幅広い読者層に手に取ってもらえるだろう。(この点、拙著「ネットで 生保を売ろう」はタイトルがいまいちだったと反省している。生保に興味がない人には魅力的に映らないから。)装丁も白の背景に、水色のシルエットでクタイを して鞄をもつ若いビジネスマン(シルエットだけど髪型は著者・・・)が子どもたちとともに走っているものでステキ。