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レッツ プレイ ベースボール ~負けたら即☆結婚スペシャル~ 【完結】

ライトなラノベコンテストにエントリーした内藤サポシです。 大好きな野球と女子高生をテーマに書いてみました。よろしくお願いします。

31 1月

8回表

 またまた唯、帆乃香、千歳に三連打を浴びて窮地を迎えたが、後続を断つことに成功。

7回を終えて被安打14、失点0と出来過ぎな試合運びを見せてきた。

ラッキーセブンで幸運にも2点先制できたので、唯が崩れてくれたまま続投すれば追加点が望めるし、控えの筑紫芙雪に変わってくれれば追加点を望めなくても、大黒柱を失った雷霆女子なら余裕で逃げ切ることが出来る。

そう思っていた時期が烈にもあった。

 

この回、不動山高校は前半戦同様3者凡退で攻撃を終えた。

違うのは唯の投球内容である。

明らかに唯と帆乃香の間でサインのやり取りがなされていたし、ショートゴロ、サードフライ、セカンドゴロと打たせてとるピッチングに切り替えてきた。

「奥さんもう修正欠けてきたみたいやな」

「基本的に根が単純なのよね、彼女」

成穂華の闘志に思うところがあったのか。

プライドと能力の高さから未だ見下してはいるだろうが、ないがしろにすることはやめたらしい。

しかしそれだけでも唯にとっては驚異的な変化ともいえる。

その謙虚さ、3ヶ月くらい保ってほしい。

「っていうか奥さんって否定せんのな」

「今更否定しないさ、ただ……

「ただ?」

「名実ともにそうなるにはまだ早いぜ」

どうやら目的の1つは達成したようだが、もう一つの目的であるこの試合の勝利はまだ未達成である。

困難になったとはいえ、あきらめるつもりはない。

「よっしゃ円陣くもうや」

社の呼びかけで不動山高校ベンチ全員集まり円陣を組むと、勝利に向かって雄叫びを上げた。

31 1月

7回裏

 後続をシャットアウトし、なんとか2点で切り抜けた唯であったが、メンタルはもうボロボロであった。

 独り相撲をしたあげく、試合を無茶苦茶にしてしまった。

 ハッキリ言って合わせる顔がない。

 ベンチでぽつんと座っていると、左隣に青葉成穂華が、右隣に橙田帆乃香が座ってきた。

 明らかに挟みに来ている。流石に逃げられなかった。

 「唯ちゃん。キツいだろうけどなんとかバットに当ててきてね。そうすれば私が同点ホームラン打つから」

 「は?」

 帆乃香の言っていることが理解できなかった。

 え? 私がつなぎ要員? どういうこと?

 落ち込んでいるのを忘れて、一瞬素の考えになった。

 「あ~ら、帆乃香ちゃん。赤石さんにそんな大役が務まるかしら。心身共に疲れ果て、もう使い物にならなそうよ」

 「そうよね~あっ、芙雪ちゃん。次の回に登板するかもだからアップしておいてね」

 帆乃香は芙雪に対して投球練習をするように指示を出した。

 「はぁ?」

 だがちょっと待って欲しい。

 たしかに烈に犠牲フライを打たれ、パーフェクトもノーヒットノーランも完封も失ったが、まだヒットは1本も打たれていない。

 そりゃ連続四球とか、逃げのピッチングとかふがいない姿は見せたが、エースはこの私だ。マウンドを譲るつもりは毛頭なかった。

 「そうね、結婚も甲子園もあきらめた負け犬は用済みですわ。私たちだけで勝ちに行きましょう」

 「そうね。控えの桃ちゃんとか結構モノになってきたしね。それにこの試合勝てば烈ちゃんに拾ってもらえるから、引退しても将来安泰だし。私たちだけで甲子園頑張りましょう」

 「ええ目指すは深紅の優勝旗よ」

 「ちょっと待ちなさいよ!」

 2点とられた程度で凹んでいる場合ではない。

ついに堪忍袋の緒が切れた。

「さっきから黙って聞いてれば好き勝手いってくれちゃって……あんたらが私抜きで勝てると思ってるの?」

「いけるに決まってるじゃない」

成穂華は顎をさすりながらしれっと答えた。

「えっ? あんな球を顔面キャッチしちゃう程度の腕で本気で言ってるの?」

「やっぱりそう思っていたのね」

「あっ」

 思わず本心を口走ってしまった。

「それでいいのよ」

 怒ると思っていた成穂華から出てきた意外な言葉に、唯は驚き、思わず馬鹿みたいにぽかんとしてしまった。

「うん、それでいいの。唯ちゃんは私たちとレベルが違うんだから。いつも通り上から目線で偉そうにふんぞり返ってればいいわ」

……

 温厚な帆乃香にそんな風に思われていたのがちょっとショックで、さすがに態度を改めようかしらと反省した。

 「でも私たちも唯ちゃんに頼りきりだったし、唯ちゃんが私達を頼りないと思う気持ちも理解はできるわ」

 「頼りないとはまでは思ってないわよ、そこそこ使える奴はぼちぼちいる、位は思ってたわよ」

 「それ全然フォローになってないわよ」

 成穂華がため息をついた。精一杯のフォローのつもりが逆効果だったようだ。

 「と、いうことだからまだまだ私達も足りないことがあるけど、精一杯やっていくから、唯ちゃんも私達を少しは頼ってくれるとうれしいわ」

 「ま、まあそこまで言うなら、使ってあげなくないこともないわよ」

 「どっちなのよ……っていうかこの期に及んでまだ上から目線なのは、さすがにすこし感心してきたわ」

 「唯ちゃんだから仕方ないよ」

 「帆乃香、あなた実は腹黒いでしょ」

 「さあて、どうかしらね。そろそろバッターボックスいかないと怒られるよ」

 そういえばこの回の先頭打者は自分だった。

 帆乃香や成穂華にまだ言いたいことはあるが、出番が来たのなら仕方ない。

 行動で示してやる。

 唯はバットに誓いを立て、つなぎ扱いした帆乃香を見返してやろうと心に誓った。

31 1月

7回表

 野球において7回はラッキーセブンといわれており、試合のターニングポイントとなるイニングになる可能性が高い。

 まずは3番の闘山羊を三振に切って取ったにもかかわらず、唯の頭にそんな通説がよぎった。

 不安要素は唯のスタミナだ。

 もし走塁が成功していたらこの疲労も感じなかっただろうが、結果として無駄死になったのだから、精神的な疲労感も半端ない。

 次の打者の社に投じた1球目はあわやホームランかと危惧するほどの大ファール。

2球目もファールではあったが痛烈な当たりだった。

 一呼吸置くためになげたアウトローのボール球は完全に見切られた。

 社には絶対に打たれたくない。

 しかしはっきり言って状況はかなりまずい。

 この期に及んで一人でやるのはさすがに心細かったが、あそこまでチームメイトをなじった手前、今更彼女たちを頼るのはお門違いというものだ。

 「私が何とかするんだ!」

 唯は己の武器の中で一番信じられる高速縦スライダーにすべてを賭けた。

 だが、その賭けは儚くも散る。

 読みが的中した社は、思いっきりバットを振りぬいた。

 三塁線上の内側すれすれを低い軌道で滑空していたボールは三塁手の青葉成穂華の手前でバウンドした。

 成穂華の頭上を越えれば長打コース。唯の顔は青ざめた。

 「抜かせないわよ」

 成穂華はグラブに収めるのは無理と判断し、体を張って打球を止めに行った。

 不規則な回転をしていた打球はバウンドすると同時に、成穂華の顔面目がけて跳ねた。

 将来女子アナを目指している成穂華にとって顔は命である。

 それにもかかわらず成穂華は目を見開き、ボールを捕球しようと、ものすごいスピードで跳躍する硬球を恐れず飛び込んだ。

 だがボールはグラブに収まらない。

 アッパーカットのように成穂華の小さい顎を的確に捉え、ダメージを受けた成穂華はその場にがくっと崩れ落ちた。

 勢いの弱まったボールを素早く貴沙恵が拾いファーストに送球するも、判定はセーフ、記録はエラーとなった。

 判定が出た後も、成穂華は倒れたままピクリとも動かない。

 彼女のダウンしている姿を見た観客達は悲鳴と罵声を奏で、場内は騒然となった。

 ファンだろうがアンチだろうが球場にいる者全てが彼女の無事を皆祈った。

 もちろん少し赤石唯もその一人である。

 記録上エラーとなっているが、先程の打球は疑う余地もないヒット性の当たりだった。

 その強烈なボールを文字通り体を張って止めてくれたのだ。

 「あんな打球求められないの? だからあんたらは使えないのよ」とは流石に言えない。

今の打球は自分に責任があり、成穂華が体をはって尻ぬぐいをしてくれたのだ。

「どうしてそこまでしてくれるのだろう?」

腰掛けで野球をしているはずなのに。唯には理解できない。

だから問いただしたかった。

 「大丈夫? しっかりするにゃ!」

貴沙恵は昏倒した成穂華が起きるように必死に呼びかけていた。

 「ナホのアホ! そこまでムリすることないでしょ」

 チームの中で一番仲の良い千歳が半ば涙目になっている。

場内の観客は「成穂華コール」を開始し、彼女を夢の世界から呼び戻そうと必死の声援を飛ばしていた。

 「あ~やっべ寝坊した?」

 担架に運ばれる寸前、成穂華は自力で起き上がった。

 寝ぼけ眼で、いまいち状況を理解していない言動だ。

 「ナホ! 大丈夫?」

 「あれ、チトセッチ? ユニフォーム?」

 頭に衝撃を受けたため記憶が混濁している。

 「えーっとたしか今日は試合で……? っていうか試合中じゃん!」

 覚醒した成穂華はぱっと目を見開いて大声を出した。

 「さっきのどうなった?」

 「ごめんにゃ、一塁は間に合わなかったにゃ」

 貴沙恵が申し訳なさそうに答えた。

 「残念だわ。くたびれ損の骨折りもうけってやつかしら。折れてないけど」

 顎をさすり、痛みを確かめながら成穂華は残念そうな顔をした。

 「使えなくてごめんなさい。次はちゃんととるから」

 かける言葉を考えて棒立ちだった唯に謝罪をすると、成穂華は担架はいらない旨をつたえ、自分の守備位置へともどっていった。

 「どうしてそこまでしてくれたのか」

 目をみて見れば、聞くまでもないことだった。

 勝ちたいからだ。

それ以外の何物でもない。

場内から盛大な拍手を送られている成穂華をみて、唯は自分の過ちに気づき、急に恥ずかしい気持ちになってきた。

 

1アウト満塁。

この試合初めてのチャンスが不動山高校に到来した。

唯はサード強襲のエラー後、動揺しているためかまったく制球が定まらず、二者連続ストレートの四球をだした。

「このチャンス、絶対に逃す手はない」

帆乃香に軽口をたたくのも忘れ、烈は打席に集中した。

烈は唯の動揺についていくつか心当たりがある。

野球にたいして不誠実だと思っていた成穂華が体を張って打球を止めてくれたこと。

そんな成穂華達に自分がひどい態度をとっていたことを、今更ながら自覚したこと。

それらの精神的ダメージが疲労を実際よりも重く感じさせていること。

こんなところだろう。

ここで帆乃香がタイムをかけ、マウンド上でミーティングを行えば、ある程度持ち直すかもしれない。

だが、帆乃香は心を鬼にして彼女を一人にしているのだろう、と察した。

試合を捨てたわけではない。

むしろ逆で彼女の真の覚醒を信じて、勝利に結びつけるつもりなのだ。

良いパートナーに恵まれたものである。

よくもまあ、1年半も気づかず無駄にしたものだ。

 

唯の一球目。

スライダーがスライドしすぎてストライクゾーンから大きく外れた。

「逃げ出したい」という心の有り様がよくわかる、そんな気弱な投球だった。

唯の二球目。

こんどはインローを狙ったスローカーブ。

軌道を見るまでもないくそボールだ。

もはや烈が知っている天才投手の姿は影も形もない。

帆乃香からの返球があった後、唯はマウンド上で驚いたような表情をしていた。

サインを出したのだろう。

今の唯に配球を考えさせる訳にはいかない。全てが逃げる方向へむかっているのだから。

ここは戦場である。

逃げずに立ち向かう者だけが勝てる場所なのだ。

困惑していた唯だったが首を振り、3球目を投じた。

「この馬鹿が!」

帆乃香はおそらくインロー、あるいはアウトローに力一杯のストレートを要求したに違いない。

しかし彼女が投じたのはまたも外角に逃げるスライダー。しかも球威もキレもない。

烈は思いっきりバットを振り抜いた。

金属バットの小気味よい音が鳴り響き、ボールはレフト方向へぐんぐん伸びていく。

レフトの茶野真緒は必死の形相でボールを追いかけた。

そしてフェンスを駆け上がると、着地のことなど何も考えず、とにかく高くジャンプし、そして大きく手を伸ばした。

ギリギリホームランになると思われたその打球を真緒は見事にキャッチし、そして落とさないように大事に胸に抱えながら、地面に激突した。

タッチアップで全てのランナーが同時に一斉スタートする。

センターの千歳がフォローアップし、バックホームするも3塁ランナーの長者森社、そして2塁ランナーの皆川櫂が生還。

2-0

ついに試合の均衡が崩れた。

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