1:はじまらない物語


それは、昨年5月のことでした。


J3のグルージャ盛岡が、マスコットのデザインの募集を開始。

既にJ3もマスコット戦国時代に入ろうとしていたタイミング。
この流れに乗り遅れるなとばかりに、盛岡も参入してきたのです。


この募集では、他クラブのマスコット募集とは少し違った条件がありまして、


● チーム名の由来となっている
『鶴』をモチーフとしたデザインであること。



モチーフがあらかじめ縛られていたのです。


今思うと、この縛りが、それを前提としたあんな結果を生むことになったのかもしれません。
縛りなしだと辿り着けない解だったような気がします。



そんなマスコット募集、予定では2016年シーズンの最終戦あたりで結果をお披露目することになっていました。



しかし。



色々あって、それどころじゃなくなって。


2016年8月に募集を締め切ったマスコットの発表は、そのまま当然のように延期になってしまったのです。



そしてその年の年末に行われたクラブのサポーターカンファレンス(議事録では、マスコットについてこのように語られています。



Q.マスコットの製作状況はどうなっているのか?

宮野(常務取締役※引用者注):今シーズンの途中にマスコットの募集をかけさせて頂きましたが、本来は相当時間がかかるもので、社内での管理が抜けており、J リーグとの登録の関係、また、ネーミングも別で募集をかけることになっているので、1 年から1 年半はかかります。頂いたデザインはございますので、精査させて頂き、来シーズンの秋頃になるかと思うのですが、規則に則ったスケジュール管理のもと、皆さまにとって意義のあるマスコットを製作して参ります。


どうやら、内部のアレコレに加え、思ってたよりマスコットって時間かかるんだね的な気付きがあった模様。
キャラクターの扱いというのは難しいものです。


しかしこの時はまだ我々は知らされていなかったのです。



クラブが「頂いたデザイン」の中に、

あんな衝撃作があったということを…。








2:アンフェアワールド

そして2017年春。
マスコットに新たな展開が。

応募された作品から候補4作がピックアップされ、その中から一般の投票で新マスコットを決定するというのです。


その発表された候補がこれ。













ネットで有名な絵師さんなども参加しており、かなりレベルの高い戦いになってることが分かりますね。



そして最後に





!?





えーと…








ひとりだけ独自路線の候補が。

まさか「鶴」じゃなくて「折り鶴」モチーフのマスコットを持ってくるという超絶センス。

しかも、募集ページに掲載されていたキャラクター説明


・折鶴ながら「折れない心」の持ち主。

・サッカーはそこそこ上手い。

・落語が好き。好きな芸能人は鶴瓶。次が仁鶴。

・得意なダンスは「鶴の恩返し」

・選手たちから勝利祈願の対象。神様のつもりで調子に乗る。


見事なまでのネタ満載。


このインパクトの塊のような候補作にネット上騒然。
(発表直後の衝撃はドメサカブログ様でありありと記録されています


この投票はサポでない人もネットで参加できるため…







キヅールが独走状態。


しかし見た感じおおよそ立体化したマスコットとしての活動が想像できないデザイン。
「これ本当にマスコットになったら盛岡どうするんだろう」という心配が色んな人の脳裏によぎり続けます。


僕などはキヅールをどうにかして優勝させない秘策があるのかもしれないなどと邪推していました。
それくらいの問題作だったわけです。



そして投票が締め切られ…

ありのままでという意味深な言葉を残し、その後2か月の沈黙が続きます。









3:腹をくくる

そして、7月。


ついに結果が発表されました。





決まっちゃった。



結局大差で逃げ切った結果に。




このコメントからも分かるように、候補の時点でとんでもない話題をさらっていった炎上物件とも言えるキヅールを正面から扱っていくと、盛岡は腹をくくっていたのです。





決定を受けて、キヅールのデザイン担当者(匿名)がコメントを発表。


グルージャ盛岡関係者の皆さま、サポーターの皆さま、「キヅール」をマスコットキャラクターとして選定して頂き、ありがとうございます。

キヅールに関して、自分の想定以上に一部で盛り上がりを見せておりましたが、ネタとして応募したわけでは無く、

 

◎老若男女に愛されるデザイン

◎日本のサッカークラブとしての特徴のあるデザイン

◎鳥キャラの多いJマスコット界で目立てるデザイン

 

を目指して考えたキャラクターデザインです。キャラクター設定は少々悪ノリな部分もありますが、スポーツで大事な「折れない心」を盛り込んだつもりです。

名前は、勝利を祈願する対象として折り鶴の「」を「」に変え、「キヅール(祈鶴)」としました。

一時の話題では無く、末永くグルージャ盛岡さんやサポーターの皆さまに愛され、岩手中、日本中、世界中に羽ばたき、愛されるキャラクターになることを私自身も「祈」っております。

 

今後とも「キヅール」をよろしくお願いします。ありがとうございました。


めちゃくちゃ真面目に考えていた。

とても真摯な思いを込めて生まれていたのですね…。
(と同時に、見ている人のツボを心得た、とても上手いコメントであるとも感じます)



さて、じゃあ、どうするのかと。





どうやってキヅールを立体化するのか、という一番気になる問題に直面するわけですが。

ここで突然の新プロジェクト登場。






なんと、キヅールを立体化させるために、クラウドファンディングのプロジェクトが始動したのです。
一般から広くお金を集めるというあの手法。

ミニマム目標金額は2,926,000円。
キヅール立体化に必要な諸費用の最低限度ということです。



この金額を集めるために、グルージャ盛岡はこれまで見せたことのないような熱いアピールを繰り広げていくのです…。








4:ポエムと171%


盛岡は本気でした。



クラウドファンディングは通常、お金を出してくれた人に、その額に応じた返礼品や特典(リターン)を用意します。

盛岡が最初に用意したのは以下のとおり。





・キヅール折紙


・「キヅール」クリアファイル

・立体化「キヅール」付ボールペン

・「必勝祈願」キヅール御守

・「キヅール」スタイ&ロンパース

・「キヅール」キッズTシャツ

・「キヅール」ワンポケットTシャツ

・「キヅール」ビッグシルエット携帯ケース

・「キヅール」オリジナル手ぬぐい

・「キヅール」オリジナル扇子

・第27節 vs FC琉球チケット(お披露目予定日)

・「キヅール」1日イベント招致権(全国)

・「ミスター・グルージャ」松田賢太が助っ人で試合に出場

・お気に入り選手・監督・松田憲太強化・プロモーション担当のいずれか1名のサイン入り RESTART Tシャツ

・所属選手全員・監督・松田憲太強化・プロモーション担当のサイン入り RESTART Tシャツ


・グルージャ盛岡レジェンズ(松田憲太氏など)との前座試合


1
2


多いわ!!




あまりに豊富すぎる特別グッズの数々。
松田さんの熱い酷使が気になります。



注目すべきは「イベント1日招致権」。

キヅールが、あなたの街の、会社の、ご自宅のイベントに参加いたします!
全長2mを超えるシルエットですが、キヅールを求める皆さまの下へフットワークよくお伺いし、天井の低い室内にも何とか入り、ご期待に沿ったパフォーマンスで喜んで頂けるよう頑張ります!


岩手県内:50,000円

北海道・東北地方:120,000円

関東地方:175,000円

中部地方・近畿地方:220,000円

中国地方・四国地方:270,000円

九州地方・沖縄県:320,000円


この世界に姿を現す前から若手芸人のようなガッツを表明するキヅール。
ちょっとお金出してみようかと迷った人もけっこういたのではないでしょうか。

(なお最終的に、関東地方でこの権利をゲットした人が1名だけいた模様。それはまた別の話…)




そして注目すべきは、このクラウドファンディングの宣伝において、
グルージャ盛岡が見せた謎のポエム攻勢

















こんなポエミーなアカウントだったっけと思うようなキヅール推しっぷり。




時事ネタも貪欲に取り入れる



また、マスコット界の大御所からのコメントに対しても…





なんなのこの返答


そんなこんなの努力の甲斐もあり、クラウドファンディングは非常に順調に進行していきます。
40日の期間のうち、わずか7日間で目標金額の半分まで到達。






しかし盛岡はその攻勢を緩めることはありませんでした。

さらなる隠し玉。





オリジナルぬいぐるみをお礼品に追加。


この新リターンのインパクトは凄まじく、全国のマスコットぬいぐるみ大好きっ子たちがこぞって反応。
これまで参加を迷っていた人、そして既に他のお礼品を選択した人も、このぬいぐるみをゲットしようと応募が殺到。


このクラウドファンディング、最終的に1069人が参加したのですが、
うち半分以上の延べ588人がこのぬいぐるみをお礼品に選択したという数字からも、反響のほどが伺えるかと思います。




※一度品切れするほどの人気ぶり



そしてさらに、残り2週間になったところで最後の一押し。






なんと、今回のお礼グッズは、折紙以外ここでしか手に入らない限定品であると発表。

こんな情報を後出ししてくるあたり、相当な計算高さです。






そして8月に突入。
いよいよプロジェクトも最終コーナー。最後のアピールに全力を尽くす盛岡。
















そして…












見事プロジェクト達成。



集まったお金は5,005,456円。
なんと最初の目標金額の171.1%が集まったのです。大成功です。


ここから、キヅールの10月お披露目に向けて、いよいよ本格的に動き出していくのです…。






5:真面目に、本気で


ところで、このプロジェクト中、気になるツイートがありました。




「#まずはクラブを存続させます」


そうです。
最初のほうでも触れたとおり、グルージャ盛岡というクラブは、本来マスコットに力を入れている余裕などなかった経営状況。

6月にはこんな記事も出ています。

<J3盛岡>リーグ参加継続 正念場(河北新報)




それを前提として、プロジェクト成功の際のクラブからのメッセージには、キヅールに賭けるクラブの想いが余すところなく語られています。


昨今、クラブ存続を揺るがす幾多の困難を乗り越えながら(乗り越えている最中です)、
クラブのシンボルとも言えるマスコットの製作に着手し、一般公募、そして一般投票の中から選ばれた「キヅール」に命を宿すところまで、ようやく辿り着きました。

(中略)

「キヅール」のお披露目は、10月15日(日)にホーム・いわぎんスタジアムで開催する 対FC琉球戦を予定しています。

このシルエットゆえ、スタジアムで、ネットで、「本当に忠実な立体化ができるのか」、「そもそも、クラブは本気でキヅールを選ぶのか」、と多くの声を頂きましたが、我々は、真面目に、本気でキヅールを公式マスコットに据えます。

プロスポーツ文化不毛の地、岩手県において、「プロスポーツ」というエンターテインメントの魅力を一人でも多くの人に知って頂き、更に、全国において岩手県の認知度を少しでも高められるよう、取り組んで参ります。

その一環として、キヅールは、クラブの、ひいては岩手県の新たな顔となることを祈願しています。



こんな状況だからこそ、愛すべき異形のマスコットに全身全霊を注ぐ姿勢であると…






キヅールお披露目まで一か月を切りました。

このマスコットが、盛岡というクラブに何をもたらすのでしょうか。
それはまだわかりません。


ただ一つはっきりしていることは。




全国の人々が本当に楽しみにしているということ。



カウントダウンは続きます。




(お披露目時の様子レポート「キヅールと折れない心」に続きます)




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