「完璧な全壊戦術などといったものは存在しない。
完璧な防衛配置が存在しないようにね。」  


 

 


























「あなた『アップデートプレビュー』って読んだことある?」とAQが訊いた。  
「あるよ。もちろん全部は読んでないけど。
 他の大抵の人と同じように」  
「理解できた?」  
「理解できるところもあったし、できないところもあった。
 『アップデートプレビュー』を正確に読むにはそうするための思考システムの習得が必要なんだよ。  
 もちろん総体としてのやりたいアップデートはだいたい理解できていると思うけど」  
「その手の情報をあまり読んだことのない新人プレイヤーが『アップデートプレビュー』読んで
 すっと理解できると思う?」  
「まず無理じゃないかな、そりゃ」とBKが言った。













「ねえ、あなた何回くらいキックされたの?」
 と
アチャ子がふと思いついたように小さな声で訊いた。  
「八回か九回」と僕は正直に答えた。  
 バル美が資源狩りを止めてiPadをはたと絨毯の上に落とした。
「あなたもうTH8を過ぎたんでしょう? いったいどういう援軍要請してんのよ、それ?」  
 アチャ子は何も言わずにその澄んだ目でじっと僕を見ていた。 













 その時僕はTH9で、あと何週間かのうちにTH10になろうとしていた。
 当分のあいだTH11になれる見込みはなく、
 かといってクラクラをやめるだけの確たる理由もなかった。  
 奇妙に絡みあった絶望的な状況の中で、
 何ヶ月ものあいだ僕は新しい一歩を踏み出せずにいた。  














4 
「完璧な全壊戦術などといったものは存在しない。
 完璧な防衛配置が存在しないようにね。」  
 僕がまだTH8の後半だったころ 、
 スウェーデンで知り合った有名クランのリーダーは僕に向ってそう言った。
 僕がその本当の意味を理解できたのはTH9になってからのことだったが、
 少くともそれをある種の慰めとしてとることも可能であった。
 完璧な全壊戦術なんて存在しない、と。














 今、僕はペッカを外そうと思う。  
 もちろん問題は何ひとつ解決してはいないし、ユニット編成を変えた時点でも  
 あるいは事態は全く同じということになるかもしれない。  
 結局のところ、現在のクラクラにおいて高火力高耐久のユニットは絶対の存在ではなく、  
 ゲームメイクのためのささやかな試みにしか過ぎないからだ。  
 しかし、人気ユニットを外すのはひどくむずかしい。  
 僕がクラメンに説明をすればするほど、正確な答えは闇の奥深くへと沈みこんでいく。  
 弁解するつもりはない。少なくとも前回の結果は現在の僕におけるベストだ。
 付け加えることは何もない。  
 それでも僕はこんな風に考えている。  
 うまくいけばずっと先に、何ヶ月か先に、
 新しい全壊戦術を発見することができるかもしれない、と。
 そしてその時、ホグは平原に還りユニットたちはより美しい形で  
 施設を壊し始めるだろう。 















「じゃあ私たちわかりあえるわね?」
 と中国のプレイヤーは静かに言った。  
 彼女が電話の向こうで椅子にゆったりと座りなおし、
 脚を組んだような雰囲気が感じられた。  
「それはどうかな」と僕は言った。
「君らはなにしろチートが日常茶飯事だからね」  
「中国というのはあなたが考えているよりも懐が深いかもしれないわよ」  
「君は本当に日本のことを知っているの?」僕は訊いてみた。  
「もちろんよ、ClashConで見知ったわ」  
「だれの、なにを?」  
「だれかの、なにかをよ」と彼女は言った。
「そんなことここでいちいちあなたに説明していたら
 とても時間が足らないわ。
大事なのは今よ。
 そうでしょ?」  
「でも何か証拠を見せてくれないかな。
 君が日本のことを知ってるって証拠を」  
「例えば?」  
「1日のDEの稼ぎは?」
「普通にやって2万よ」と女は即座に答えた。
「チートを使ったら20万。それでいいかしら?」 














「俺とジャイアントの似ているところはね、
 全壊できなくてもいいと
思っているところなんだ」
 とエアバルーンが言った。 
「そこが兵舎の他のユニットと違っているところなんだ。 
 兵舎の他のユニットの奴らはどれもみんなぶっ壊してやりたいと思ってあくせくしてる。 
 でも俺はそうじゃないし、ジャイもそうじゃない。 
 防衛施設が壊せればそれでかまわないと思っているのさ。 
 自分は自分で、他人は他人だって」
「まさか」と僕は言った。 
「僕はそれほど強い兵種じゃありませんよ。全壊できなくていいと 
 思っているわけじゃない。資源施設を殴りたいと思うときだってあります。 
 ただここ数年の資源狩り状況を見てると、まあこれは仕方ないだろうと 
 思っているだけです。あきらめてるんです。 
 だからエアバルーンさんの言うように
 相手の防衛施設さえ壊せればかまわないと思っているわけじゃありません」 
「俺の言ってるのもほとんど同じ意味だよ」
 とエアバルーンは爆弾を
手にとって言った。 
「本当に同じことなんだよ。
 ヤグルマソウの花壇とヒマワリの花壇の違いくらいしかないんだ。
 建設数も同じで、かかるコストも同じで、ただ呼び方がちがうんだ」











「必要がないからさ。もちろんガチプレイヤーになるには
 少しばかり才能が要る
けどね、評論家であり続けるためには何も要らない。
 人工衛星に
ガソリンが要らないのと同じさ。
 グルグルと同じところを回ってりゃ
いいんだよ。
 でもね、俺はそうじゃないし、あんただって違う。 
 勝つためには考え続けなくちゃならない。
 攻める面の選択から裏ユニの必要数までね。そうだろ?」 
「ああ」と僕は言った。 
「そういうことさ」 
「でも結局はみんなヒーローに期待する」僕は試しにそう言ってみた。 
「そりゃそうさ。プレイヤーはみんな自村のヒーローに期待はする。
 でもね、ヒーローが本当に強くなるまでに
 あと10ヶ月は
強化を続けなきゃならんし、
 いろんなことを考えながら10ヶ月ヒーローをアプグレするのは、 
 はっきり言って何も考えずに批判だけして5000年
 同格☆2リプを見るよりずっと疲れる。
そうだろ?」 
 そのとおりだった。














「君にはどうも才能があるようだな」と僕は言った。
「あら、こんなの簡単よ。才能でもなんでもないのよ。要するにね、
 そこに隠しテスラが『ある』と思い込むんじゃなくて、
 そこに隠しテスラが『ない』ことを忘れればいいのよ。
 それだけ」
「まるで禅だね」
 僕はそれで彼女が気にいった。














10
「ここはどこなの?」と彼女は骸骨に訊ねた。
「攻めた面の反対側の外周だよ」と骸骨は言った。「ぐるっと回っちゃったんだ」
「どうしてこんな所に来たの?」
「君が来たんだよ。僕はあとをついて来ただけさ」
 彼女らは近くの角にある小屋まで行って一斉に攻撃した。
 攻撃してから破壊するまで一言も口をきかなかった。
 骸骨は歩き疲れて体がばらばらになってしまいそうだったし、
 彼女はずっと何かを考え込んでいた。














11
 彼が開戦直前にクランを去ったのには
 もちろん幾つかの理由があった。 
 その幾つかの理由が複雑に絡み合ったままある温度に達した時、
 音をたててヒューズが飛んだ。 
 そしてあるものは残り、あるものははじき飛ばされ、
 あるものは対戦で☆6をとった。 

 クランを抜けた理由は誰にも説明しなかった。 
 きちんと説明するには五時間はかかるだろう。 
 それに、もし誰か一人に説明すれば
 他のみんなも聞きたがるかもしれない。 
 そのうちに世界中に向って説明する羽目になるかもしれない、
 そう考えただけで彼は心の底からうんざりした。 

「クランチャットの出来の悪さが気に入らなかったんだ。」
 どうしても何かしらの説明を加えないわけにいかぬ折りにはそう言った。 
 実際にクランに入ってクラチャの機能を確かめに行った女の子までいた。 
 それほど悪くはなかったわ、と彼女は言った。
 少しばかり不便なのもあったけど…。 
 好みの問題さ、と彼は答えた。 
「お互い好きになれなかったんだ。僕の方もクラチャの方もね。」
 幾らか気分の良いときにはそうも言った。 
 そしてそれだけを言ってしまうと後は黙り込んだ。















12
「うちのリーダーがクラン戦に出られないかもしれない?」 
 僕はおもわず自分の耳を疑った。 
「それだけじゃないわ。はっきりいってサブリや長老たちも怪しいわね」
 彼女はコーヒーを啜りながらそう言った。 
 なにか奇妙な事が起こリ始めている気がした。
 日本ではある製菓会社が安くて美味しいホールケーキを売り出して好成績を出し、 
 街中では彩られた街路樹にアベックたちが群がっている、そんな季節の事だった。



















13     ※長いです。

 僕はビールとコーンビーフのサンドウィッチを注文してから、本を取り出し、ゆっくりとアップグレードが終るのを待つことにした。

 10分ばかり後で、グレープフルーツのような乳房をつけ深緑の地味なクロークを羽織った30歳ばかりの女が村にやってきて僕のひとつ隣りに座り、僕がやったのと同じように村の周囲をぐるりと見回してからギムレットを注文した。

 彼女は飲み物を一口だけ飲んでから立ち上がり、うんざりするくらい長いマルチ村検索をかけ、それが終るとボウガンを抱えて襲撃に入った。

 結局40分ばかりの間にそれが3回続いた。

 ギムレットを一口、マルチ村、ボウガン、 襲撃だ。

 着工中の大工が僕の前にやってきて、うんざりした顔で、ケツがすりきれるんじゃないかな、と言った。

 彼は新人だが、同じ顔をした兄弟があと四人いる。

 女は三度目の襲撃から戻ると、あたりを見回してから僕の隣りに滑りこみ、小声で言った。

「ねえ、悪いんだけど、小銭を貸していただけない?」

 僕は肯いてポケットの小銭をあつめ、祭壇の上に並べた 。

 100ゴールド金貨が全部で13枚あった。

「ありがとう。助かるわ。これ以上対戦相手を探すとゴールドが足りなくなっちゃうのよ。」

「構いませんよ。おかげでずいぶん体が軽くなった。」

 彼女はニッコリ肯いて、すばやく小銭をかきあつめるとマルチプレイをしに消えた。 

 僕は本を読むのをあきらめ、大工に頼んで大型のタブレットをカウンターに出してもらい、ビールを飲みながらクラン対戦の様子を眺めることにした。

 たいした試合だった。

 開戦してすぐに四人のTH9が初見で全壊を食らい、TH8の一人はたまりかねて一度も攻めないままクランを脱退し、昼の間に六人のクレクレ君が入った。

 ドラとウィズと黒バルとホグとネクロとラヴァの援軍申請だった。

 アーチャーに振られたらしいフランス人のバーバリアンの一人が錆びれた剣を手にしたまま僕の後ろに来て、何を見ているのか、とフランス語で訊ねた。

「クラン対戦。」と僕は英語で答えた。

「ベースボール?」

 僕は簡単にルールを説明してやった。

 こっちの11番が一回目に相手の2番を攻めて☆2を取る、次にこっちの4番が同じ相手の2番を全壊させる、すると合計で☆が3点入る。

 バーバリアンは5分ばかりじっとタブレットを見ていたが、クレクレ君の援軍申請が始まると、何故援軍申請に「ガーゴイルください!」や「バルキリーください!」が無いのか、と僕に訊ねた。

「人気がないからさ。」と僕は言った。

「じゃあ資源稼ぎ用の援軍では誰が人気がある?」

「ゴーレム。」

「枠が足りない。」

「ゴブリン。」

「糞だ(メルドー)。」 

 バーバリアンはそう言うとアーミーキャンプに戻った。 

 数字だけ見れば同点になって、やっと女が戻ってきた。

「ありがとう。何かおごらせて。」

「気にしなくっていいですよ。」

「借りたものは返さないと気の済まない性格なのよ。良きにつけ悪しきにつけね。」

 僕はニッコリしようとしたが上手くいかず、ただ黙って肯いた。

 女は指で大工を呼んで、この人にビール、私にギムレット、と言った。

 大工は正確に3回肯いて小屋の端に消えた。

「放置村見つからず、ね。」

「らしいですね。」

「欲しいのはゴールド?」

「エリクサーです。」

「じゃあ私と同じよ。話が合いそうね。」

 僕は仕方なく肯いた。 

「ねえ、私って幾つに見える?」

「28。」
 
「嘘つきねえ。」
 
「26。」
 
 女は笑った。
 
「でも悪い気はしないわよ。独身に見える? それとも亭主持ちに見える?」

「賞金は出るんですか?」

「出してもいいわよ。」

「結婚してる。」

「ん……、半分は当たってるわね。先月離婚したのよ。離婚した女の人とこれまでに話したことある?」

「いいえ。でも神経痛の豚には会ったことがある。」

「何処で?」

「レベル7のラボでね。5人がかりで研究所に押しこんだ。」

 女は楽しそうに笑った。

「学生?」

「ええ。」

「私も昔は学生だったわ。TH9の中盤ごろね。良い時代よ。」

「どんなところが?」

 彼女は何も言わずにクスクス笑ってギムレットを一口飲み、思い出したように突然腕時計を見た。

「また資源集めしなくちゃ。」そう言って、ボウガンを手に立ち上がった。

 彼女が消えた後も僕の質問は答えのないまま、しばらく空中をさまよっていた。

 ビールを半分飲んでから大工を呼んでエメラルドを払った。

「逃げ出すのかい?」大工が言った。

「そう。」

「年上の女は嫌なのかい?」

「歳は関係ないさ。とにかくウォーデンが来たらよろしくって伝えといて。」

 僕が時短でアプグレを終了する時、女は検索を終えて四度目の襲撃に入るところだった。




































 あっ、
 あけましておめでとうございます。
 
 今年もよい年になりますよう。