二週間ぶりに教室へとやってきたバルキリーちゃんは、自分の席で植物のようにじっとしたまま誰とも喋らない。ふと思うのだけど彼女には制服というものがあんまり似合っていない。誰でも違和感なく着こなせるのが制服のはずなのに。特にスカートが似合っていないような気がする。というか、彼女の脚には他にもっとしっくりとくるかたちのスカートがあるはず。少なくともそれはプリーツスカートではない。
 バルキリーちゃんが学校にやってくるというのは、私のみならず他大勢のひとたちにとって非日常的な事件となる。まず彼女は教室にやってくるだけで注目を浴び、教室の雰囲気を異質なものへと変え、クラスメイトたちは彼女の噂話をちいさな声で囁き始める。つまりバルキリーちゃんは学校に来るだけで教室じゅうを目に見えない影響力で支配する。その支配に最も強く拘束されてしまっているのが私である。
 ソフトモヒカンの松原くんもまた、彼女の支配に拘束され始めたひとりなのかもしれない。登校してきた彼がバルキリーちゃんに刮目したのはすぐにわかった。あれは何かを観察したり分析したりするときの目だ。私は朝の二度目の資源稼ぎの最中だったけれど、村探しのボタンを押す指を止め、彼と同じような目のモードで彼を監視した。カバンを降ろした彼は、バルキリーちゃんの机の前に近づいた。
「久しぶりじゃん。元気してた?」と松原くんは言った。
 クラス全体の気配が低く沈むのがはっきりとわかった。
「今までさ、何やってたの?」 
 バルキリーちゃんは何も答えない。それどころか目の前の相手を見ようともしない。
「川手さんってアルバイトとか興味ある?」
 バルキリーちゃんは何も答えない。
「俺のところ人手不足でさ、これもしよかったら」
 そう言って松原くんは名刺みたいなカードとA4の書類をバルキリーちゃんの目の前に差し出した。
 彼女がいつまでもそれを手に取ろうとしないので、彼はそれらを彼女のまっさらな机の上に置いた。
「気になったら連絡ちょうだい」
 松原くんはそれからさっさと自分の席に戻っていった。バルキリーちゃんはやっぱりうんともすんとも言わないまま、ただじっとしていた。彼女に変化はなかった。変化があったのは彼女の机の上だけ。
 教室の妙な緊張感が和らぎ、クラスメイトたちの声のトーンはさきほどよりかは明るくなった。私もそれに乗じるかたちで資源稼ぎを再開した。とりあえず今はゲームにのみ没入して、さっきの出来事については、後で考えようと思った。頭の整理が追いつかないのだ。
 ユニットを展開する指がおぼつかない。私は動揺していた。マルチプレイは☆0、ゴールドもエリクサーもダークエリクサーも、戦力の割に全然稼ぐことが出来なかった。いいとこなしだ。そしてクラッシュオブクランを終了してふと顔を上げたときには、バルキリーちゃんは机にカードと書類を置き去りにしたまま、すでにここから消え失せてしまっていた。
 今日は厄日か何かなの?