彼は石ころを転がすだけのボウラーとは違い、今まで様々なものを転がしてきた。

転がせるものはぜんぶ転がした。大工の小屋を転がしたこともあれば、大工そのものを転がしたこともあった。かくしテスラをわざわざ掘り出して転がした。エリクサータンクを転がした。爆弾をいくつも転がした。あまりにも多くのものを転がすものだからバーバリアンキングが苦情を言いにアーミーキャンプへやってきた。彼はバーバリアンキングをひょいと持ち上げ、有無を言わせず転がした。

なぜそこまでして目に見えるものすべてを転がそうとするのか? とアーチャーが訊ねた。
わからない、と彼は答えた。ただ転がしたくて転がしたくてたまらない気分なんだ。
そう言って彼はアーチャーを横に寝かせてぐるんぐるんと転がした。すっかり目を回してしまったアーチャーの衣服と腕輪と弓と矢と矢筒をいっぺんに剥ぎ取ると、それらぜんぶをまとめて転がした。それを見ていたウィザードが怒って彼に詰め寄った。もちろん彼はウィザードのことも転がした。目を回して吐き気をこらえるウィザードのローブをひと息に奪い取って丸い形に整えて転がした。ボウラーは転がせるものならなんでも転がすのだ。

しかし彼には唯一、転がそうと思っても転がせないものがある。それがネクロマンサーだ。
彼女には脚がない。脚がない彼女を転がそうとすると地面に浮かんでしまって転がらない。
何度転がそうとしても無駄だった。不意をついても全力でやっても結果は同じだった。ネクロマンサーはふわふわと浮いて転がらないのだ。
転がせそうなのに転がせないものが目の前に存在することは彼にとって苦痛だったし、プライドも幾分か傷ついた。

ただ転がしたいだけじゃ私は転がせないわよ、とネクロマンサーは言った。そして細い指先で彼のこめかみをとんとん、と小突いた。
それが彼の全身を強く痺れさせた。電撃。あるいは稲妻。
彼はそのときにようやく気づいたのだ。そうだ、俺は自分の頭の中を全く転がせていないじゃないか、と。

彼はそれから頭の中を転がすようになった。転がせるだけ転がしてみようと思って、一日じゅう転がした。
それまでの物理的回転と違って、観念的回転はひじょうにタフな精神力と集中力を必要とした。そして上手に転がすためにはよりたくさんの鍛錬と慣れを必要とした。必要とされるものは実に多量で、多種にわたった。

しかし彼の観念的回転は、やがてひとつの袋小路に辿り着いた。転がすことの意味なんてはじめからなかったのだ、と。
彼は頭の中を転がし続けることで、自分がものを転がしたがることについての意味性を発見できるものと思い込んでいた。自己の内的世界になにか必然性のようなものが埋まっているのだと信じていた。けれどいくら転がしてみても彼はその真理に辿り着けなかった。
当たり前の話だ。そこに真理なんて存在しなかったのだから。自分の中に回転の真理が存在しない、それが彼の発見できた唯一の真理だ。

ネクロマンサーがふわふわと揺れながら彼のもとへとやってきた。
あなたはなぜ転がしたかったの?
わからない。結局、いくら頭の中を執拗に転がしてみても駄目だった。そこには何も理由なんてなかったんだ。
転がし方に問題があったのよ。
転がし方?
あなたはいつもまっすぐにしか転がさないでしょう。それに自分の目に見えるものしか転がそうとしないでしょう。だから気づかないのよ。あなたを意味付けている有機的に絡みつくものの気配を。知っている? あなたの知らないところであなたの知らないものが転がり続けているってことを。
ネクロマンサーが甲高い声を上げると、地面からスケルトンたちがもこもこと湧き出してきた。スケルトンたちは彼の足下に集まると、彼の身体を持ち上げた。
「何をするんだ!」
「転がりなさい。全身で転がってみせなさい!」
スケルトンたちが「よっこらせ!」と言わんばかりの勢いで彼の身体を放り投げると、彼の身体は斜面を転がり落ちていった。

彼は転がり続けているうちにまたひとつ気づいた。
そうか、転がるんだ。
一部分ではなく、すべてで転がるんだ。
自分自身のすべてで転がり続けるんだ。

落ち着いて、世界と回転数を合わせるんだ。

不安定な軌道で転がり続けた彼が目にした光景は、回転を止めない村とそこに住む人々の姿だった。
耳の裏で密やかに世界の螺旋が感じられた。