昨年の今頃、姉歯建築士による構造計算書の偽装によって、耐震強度が基準値に達していないマンションが建設されていたという事件が発覚した。その後、構造計算書の偽装に関係したとみられるヒューザー、イーホームズ、木村建設などの関係者が次々と逮捕された。
 これらは、社会に対して非常に大きな衝撃をあたえた。自分の住んでいる家が、震度5とかで倒壊するということを知った住民のショックははかりしれない。だが、すんでいる人はそんな倒壊する可能性がある建物には住んでいられないから、新しく住むところを探すしかない。そして、彼らには手元には多額の借金だけが残ったのであろう。
 最近、耐震強度が不足している建物は取り壊されたというニュースをときどき耳にするが、倒壊の可能性のあるマンションに住んでいた住民についてのニュースはあまり報道されていない。彼らは、今頃どうしているのだろうか。私は、ほとんどの人が自己破産の選択をしたのではないかと思っている。ある日、突然、数千万の借金ができるのである。普通の家庭の人たちには返済することはほぼ不可能に近い。ここは、一生に一度しか使えない伝家の宝刀である自己破産を利用し借金をちゃらにした上で、また新たな人生をスタートするのが、最も懸命な判断ではないかと思う。仕方がないのである。借金が返せなくて自己破産したからといっても、今回は特別な場合で破産した人はまったく悪くない。だれも、責めたり、笑ったりなんかしない。いや、そんなことは許されない。悪いのは、偽装の事実を知っていてそれを計画した人や売った人だからである。
 また、彼らは建築業界全体のイメージを非常に悪くしたことも忘れてはいけない。彼らは、建築士の権威と信頼を失墜させたのである。今回の事件は、住民だけでなく業界の人にも多大な迷惑をかけているのだ。ほとんどの建築家の人が、まじめに働いているのに、建築関係はこれからどのように信頼を取り戻していくのだろうか。
 最近、新築のマンションや住宅を購入する場合に構造計算書や現場の写真を見せる会社があるようだが、専門家でない普通の人がそんなものを見せられたところでちゃんと正しく計算できているかを判断できる能力などない。だから、そのあたりは専門家の計算したものを信じるしかない。
 今回、被害に遭われた方は、この事件のために大きく人生計画が変わってしまった人も多いと思う。老後の生活のためにマンションを購入した人もいたようだし、子供がまだ小さい場合、教育費はどうするのであろう。自分の住む家やマンションなどは普通の人にとって、おそらく人生で最大の買い物であるに違いない。だから、それを作る建築士や施工業者などは、住人の人生も背負っていると考えるべきなのだ。非常に重い責任を負っているということ忘れては絶対にいけない。その人の人生は、たった一度しかないのだから。