hanabi1時間が過ぎた頃、やっと応接室の中から二人が出て来た。

研修生の木村は、すっかり肩を落として元気が無かった。
川井留美の夫は、「ご迷惑をお掛けしました」と言って純平に挨拶をした。
そして、研修生の木村には「じゃあ、明後日お宅にお邪魔するからな!」と木村を睨みつけて約束を守れよと言うような素振を見せた。

川井留美の夫が帰った後で、純平は研修生の木村をマスター室に呼んで尋ねた。
「まさかとは思ったが、あのビデオを見せられたら申し開きが出来ないな。いつから付き合っていたんだ」
「はい、半年前からです」
「ふ~ん。でも、お前は結婚して子供が生まれたばかりじゃないか?奥さんだって外泊したら疑っただろう?」
「はい、試合に行くからって誤魔化していました。それより、ボクは首になるんでしょうか?」

「会社にマイナスの事件を起こした奴で居残った従業員はいないから覚悟はして置いた方がいいな。それに今日は支配人もいないので明日、10時頃支配人室に来いよ。それと首は洗っておいたほうがいい。相手の旦那が会社に乗り込んで来ては助けようが無い。せめて、おまえの奥さんには話が届かないようにしたいものだな。赤ちゃんが生まれてばかりで、こんなことがバレたら奥さんがノイローゼになってしまうぞ」

「それで困っているんですよ。明後日、弁護士連れて家に押しかけると言っているんですよ」
「弁護士来たっていいじゃないか、お互い既婚者同士だ。不倫の罪は川井留美にもある。慰謝料を請求されたらお前の奥さんにも慰謝料を請求する権利がある。請求された同額を相手にも請求すればいいことじゃないか」
「そうは言ってもボクは婿養子だし、女房や相手の親が知ったら木村の家には居られなくなります」
「そう言うのを身から出た錆、自業自得というんだぞ」
「何とかなりませんかね?」
「何ともならないな。諦めて居直るか、奥さんとその両親にお前が土下座してでも許して貰うしかないだろう。奥さんがお前に未練があればどうにかなるだろうが、一度皹の入った器を元に戻すことは並大抵のことではできないだろう。覚悟だけはして置いた方がいい。それが男と言うものだろう。しかし、ご法度を破ってまで会社のキャディに手を出すこともなかっただろう?」

「はい、女房がお産中なのでムラムラしていて、言い寄って来た留美につい関係してしまいました」
「いいことしたんだからしょうがないだろうよ。相手は油の乗った人妻だ。それなりのテクニックがあって、おまえもズルズル引きずり込まれたんだろう?」
「はい、確かに凄い女でした。今までボクはあんな激しいSEXはしたことがありませんでした」

「よく言うよ。あの子は可愛い顔をしてけっこう淫乱そうだ。ことにSEXに狂った女ほどややこしいものはない。結婚をして5年も過ぎれば、旦那だってあの手この手で女房を喜ばせることなんかしないよ。だいたい男なんかいい加減で、いつでもやれる女に気なんか使わないよ。自分の袋に溜まったものを放出したいばっかりに、濡れてもいない女房に手抜きをして突き刺すから女は欲求不満になるんだよ。第一、おまえの奥さんにだって新婚時代とは違って、あっち舐めたり、こっち舐めたりして上げないだろう。女をいかせてからいくのが本当の男の思いやりってもんだ。俺なんかいまだに女房には2回行かしてから発射するんだぞ。そうすれば、女房なんか浮気しているなんて夢にも想像しないさ。そして、おまえが一番好きだ。俺にはおまえが必要なんだと思わせる暗黙の絆が創れなければダメなんだよ。

女房が洋服を新調したり、髪型を変えたら必ず褒めてやる。食事にも定期的に誘う、夫婦だってたまにはラブホに行って腰の抜けるほどSEXをすることも大事だ。気を使って金も使って、腰も使って女房を楽しませてやることの出来ない男が女房に浮気されるんだよ。」

「それじゃ、ホストと同じじゃないですか?」
「ホストで十分だろう。相手を喜ばせる技術と言うものはホストが一番だ。ホストと違うところは、釣った魚に餌をやらないとか、女から金を巻き上げることはしないということだ。どうしても会社の女とやりたかったら一度限りにすること。付き合って口の堅い女だったら多少は回数を増やしてもいい。ただし、誰かに見つかったらアウトになる。そんな時に上手くいい訳が出来る答えも3つは用意しておくこと、それが出来ない様じゃ女遊びなんか出来ないぞ」

「はぁ、凄く勉強になりました。さすがキャディマスターは、何につけても筋金入りですね。以前にホストやっていたんですか?」
「冗談言ってる場合じゃないだろう。それより、おまえは、明日付で支配人に解雇されるのは間違いない。飲酒運転と会社に迷惑な事件を持ち込む奴は、文句なしに首になる。人生勉強だと思って、この苦い経験を糧にして踏ん張ってみろ。それが出来ない様じゃ、いつまでたってもプロなんかに成れないぞ」

研修生の木村は、純平のさばさばした言葉に癒されながらも、この事件の後始末に頭の中が混乱しているようだった。そして心配そうな顔をして木村が重い口を開いた。

「分りました・・・・でも研修生の登録も抹消されますよね?」
「当たり前だろ。不倫事件起こして、大事なキャディを辞めさせて、おまけに会社に厄介な事件を持ち込んで、何でこのゴルフ場所属の研修生として居られる訳がないだろう?」
「ああ・・来月の研修会出られないや。困ったな・・?」
「ゴルフのクラブもろくに振らないで、女にばかり自分のクラブを振っていたんだ。1年ぐらいのブランクはしょうがないだろう」
「随分、酷い言い方じゃないですか?」
「バカヤロー、酷い言い方される責任はおまえにあるだろう。まともにやっていれば、おまえは会社にとってもいい研修生だったはずだ!」
「申し訳ありません・・・まさにその通りです」
「やけに素直になったな。いいか、いずれにせよ奥さんに知れたらまずいぞ。それに相手に弱味を見せたらいくらでも強請られるぞ。同じ既婚者同士、悪いのは五分五分だ。先方が慰謝料請求してきたら、こっちもおまえの奥さんに慰謝料を請求させろ。どっちにしてもばれてしまった以上、留美との関係は打ち止めにするんだな。それが出来なくてズルズルと関係を続けるなら二人で生き地獄を見るぞ!
あんまり事件を大きくすると、どこのゴルフ場もおまえを研修生として雇って貰えなくなる。プロを諦めて火遊びの相手と慰謝料払いながら働く気があれば、それも立派な人生だろうけどな。そんな真摯な気持ちがあれば、今頃はプロに成っていただろうよ?」
純平にすっかり毒気を抜かれた研修生の木村は、しょぼくれて帰って行った。
若い時は、何事も経験、失敗から跳ね上がってこそ、高いバーが飛べるようになる。
「咲くも散らすも 出たとこ勝負、やる気あるなら 前に出ろ
所詮人生、夢花火」と純平は、北島三郎の歌を口ずさみながらマスター室を出た。
<続く>

小説ランキング

 小説ランキング