スタート前に近隣ゴルフ場の支配人会の当番コースとなった支配人を捕まえて、「今日は、OUT・IN、3千円、トータル勝ち負け、5千円で握るんだぞ」と命令口調で支配人に無理強いをしていた。
普段、紳士な支配人も負けていなかった。
普段、紳士な支配人も負けていなかった。
「南條さん、今日は、うちが支配人会の会場です。この周りのゴルフ場の支配人がたくさん集まっている中で、そんなニギリの話は顰蹙を買うので止めて下さい。第一、週に2~3回もゴルフをやっている人が、たまにしかゴルフの出来ないゴルフ場の支配人を捕まえてニギリというのは非常識です。普段クラブステータスをもっと上げろと言うメンバーの言葉にしては、あまりに低俗的ですよ。なんでしたら理事会に諮問しますが、よろしいですか?」と丁重な言葉遣いで反撃した。
返す言葉に窮したか、ペンギンオジサンは口をもぐもぐさせていた。
それを見ていた純平は「いい様だ」とほくそ笑んでいた。
それが気に入らなかったのか、南條は腹癒せに純平に暴言を吐いた。
「今日は、プレーイングキャディに女子研修生の加山恵理を付けろ!」と命令口調で純平に言って来た。
「申し訳ございません。本日、加山は休暇を取っています」と純平が返答した。
すると、「研修生の木川直也をつけろ!」と横柄な態度で、また、命令口調で言ってきた。
「申し訳ございません。木川は、すでにインコースのお客様に付いています」と純平が答えた。
「まだ、スタートしていなんだから他のキャディと交換してもらえ!」と強引に要求をしてきた。
「当倶楽部は、キャディの指名は前日までの予約になっています。直前のキャディの指名は出来ない規則になっております」と純平が返答した。
「そんなことは、キャディマスターの力量でどうにでもなるだろう。だからお前は使えない」と純平に、またしても暴言を吐いた。
元々、気の長くない純平は早朝の忙しい時についに切れて、「南條さん、ちょっといいですか?」目に怒りを込めて睨みつけたまま南條をカート室に連れて行った。
「南條さん、いい加減にしろよ。従業員は奴隷じゃないんぞ!理事かメンバーか知らないけど、あまり無茶苦茶言うんだったらフェローシップ委員会を通してマナーの悪いメンバーとして理事会に上申するよ」と強い口調で抗議した。
純平の態度に業を煮やした南條は「昨日今日キャディマスターになったひよっこがメンバーに対して生意気な口を利くな!おまえこそ首にしてやる」と激怒した。
完全に純平の頭に血が昇って、「この下衆ヤロー、いい加減にしろよ。メンバーだから好き勝手できると思うなよ。うちのメンバーさんは、あんた以外はみんな紳士ばっかりだよ。フェローシップ委員会に掛ける前にこの場であんたをズタズタにしてやるけど、受ける根性あるのか?」と睨みつけた。
ヨイショの達人、純平は滅多に怒ることはしなかったが、余程、腹の虫が収まらなかったなかたのだろう。
南條の右足の靴の爪先部分を片足で押さえ込み、身動き取れないようにしてから左手でVサインを作り、南條の両目に突き出した。びっくりして動けなくなった南條の股間のキンタマをいきなり掴んで「こんな小さなキンタマしか持っていないで、一丁前に能書き垂れるんじゃないよ。うちの従業員を弱い者虐めする奴は許さないからな!」と言って、純平は、股間の袋を嫌と言うほど握り潰し南條をに眼を飛ばした。
あまりの痛みと純平の豹変振りに南條がびっくりして「イッ、イテェー」と悲鳴を上げた。「ガキの喧嘩じゃないんだぞ南條、このまま白黒つけようじゃないか?」びっくりした南條は、「悪い、俺が悪かった。だから手を離せ!」と怒鳴った。
「このタコ。俺は首掛けて勝負してんだよ。手を離せじゃ無いだろう。手を離してください。私が悪うございましただろう」と言うなり、また、南條のキンタマの袋を再度、渾身の力を込めて握り潰したから堪らない。
あまりの痛さにどうにもならなくなった南條は、先ほどの威勢のよさも微塵もなく「悪かった、俺が悪かった。もう勘弁して下さい」と泣くような声で懇願をするのだった。
あまりの痛さにどうにもならなくなった南條は、先ほどの威勢のよさも微塵もなく「悪かった、俺が悪かった。もう勘弁して下さい」と泣くような声で懇願をするのだった。
純平は、南條のキンタマをしっかりと握り潰した手は放さず、
「テメエも心療内科のドクターだろう。いつも好き勝手に毒舌吐いて、従業員苦しめて何が心のカウンセラーだ。そういうのは悪徳ヤブ医者って言うんだよ!」
純平は、頭に来ると相手が誰だろうとべらんめえ調のやくざ言葉になる。この会社に来てからこのような態度は、社長の美和の手前見せなかったが、本当に頭にきて今回ばかりは、昔の番長をしていた頃の不良の癖が出てしまった。
ゴルフ場のメンバーは、大体が世の中では経済的には余裕があり、少なからずともゴルフ場の従業員よりは、世の中の成功者の部類に居る。ただし、例外で悪い奴も必ずと言って紛れ込んでいるので、従業員であっても道理に合わないことや無理難題を言ってくるメンバーには断固として闘うべきだと純平も支配人の白鳥も共通したポリシーを持っていた。
暴力もTPOにあわせて使えば役に立つ。世間知らずのボンボンで育った医者の2世南條に対しては、良いお灸になった。
純平の空手5段の格闘技の腕は、純平の地元ではチンピラや暴走族が震え上がるだけの怖さを持っていた。
メンバーの南條は、股間の痛みに耐えながら蟹股でカート室を出て行った。純平は、何食わぬ顔でマスター室に戻った。
「南條さん、随分、おとなしくなってコースに出て行きましたが、なんかあったんですか?」とマスター室の事務員に聞かれたが、純平は「なんでもないよ」と言って知らぬ顔をした。
朝の忙しいキャディ付けの時間帯を邪魔された純平は、いつもの調子で元気良くキャディの名前を呼んでキャディ付けの業務を再開した。
<続く>
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