タブークラッシャー

破天荒な人生が想像を絶するドラマを演出する。 善も悪も決めるのは自分自身、「だからなんだ?」と居直る自分が滑稽だ。

2025年02月



この榛葉賀津也さんは素晴らしい!この演説を聞いていて感動しました。
日本にもこのような政治家がいたことを誇りに思います。
政治を変えるのは政治家ではありません。選挙で投票する選挙民です。
正しい選挙民こそが日本の政治を変えるのです。
日本が豊かで幸せになるのは「賢い良き選挙民の育成」にあります。
世の中で一番悲しいことは戦争をすることです。大量殺戮と大量破壊に
人類の幸福はありません。

kaisyuukouzikaisyuukouziしめやかな川井留美の密葬が、春の陽光に包まれた静かな朝、身内だけで執り行われた。幸い、留美の事件は会社を辞めてから発覚したため、関係者以外には知られることはなかった。首を吊ったという悲惨な最期は、首周りに痛々しい青痣となって残されていた。愛欲のすべてを狂人の如く露わにし、激しい炎のように燃え盛り、そして昇華していった彼女の人生は、あまりにも儚く、そして劇的だった。

遠く九州の地にいる研修生の木村には、留美の自殺事件は伏せられていた。しかし、いずれにせよ木村は、この悲劇をきっかけに、人生において重い十字架を背負わされることになった。

棺の中で眠る母親の顔を見つめ、「お母さん、どうして私を置いて死んでしまったの?」と慟哭する11歳の一人娘の姿は、参列者の涙を誘った。留美の位牌を持った夫は、魂が抜け落ちた空蝉のように、ただ茫然と立ち尽くしていた。

愛する対象を失ったが故の留美の死への選択は、母親である前に一人の女として生きたかったという彼女の切実な願いの表れでもあった。しかし、その願いはあまりにも残酷な形で終わりを迎え、関係者一同に癒しようのない深い傷跡を残した。

そんな悲しい出来事も、時の流れとともに人々の記憶から薄れていくのは世の常である。

レッドヒルズゴルフ倶楽部の乗用カート道路は、着々と工事が進められ、今春4月には最新式の電磁誘導乗用カート50台が導入される予定となった。

合わせて練習場の整備やアプローチ・バンカー練習場も増設され、設備的にはバージョンアップされた再生後のゴルフ場として、近隣のゴルフ場からも注目を集めていた。

純平は、キャディマスターの職を新人の大木プロに譲り、自身は白鳥支配人の後継者として副支配人に就任することが、3月中旬に内定した。

ゴルフクラブを握る仕事から離れることには一抹の不安を覚えたが、ゴルフ場の仕事であればゴルフとの縁が切れるわけでもなく、プロの道に限界を感じていた純平にとっては、千載一遇のチャンスだった。

事務所の中央には、副支配人職の新しいデスクが置かれている。経理部、営業部合わせて10人足らずの事務所ではあるが、その傘下にはキャディマスター室、コース管理、施設管理、レストランなどが含まれており、総勢85人の大所帯のナンバー2となるのは紛れもない事実だった。

6月には、支配人の白鳥が女社長美和の会社に営業本部の統括部長として本社にカムバックすることが内定している。いずれにせよ、数ヶ月後には純平がこのゴルフ場のトップとして君臨することになる。失敗は許されないというプレッシャーを感じながらも、純平は武者震いを覚え、支配人の白鳥に帝王学を学び始めた。弱冠33歳の春の息吹は、そこかしこに小さな蕾を膨らませ始めていた。

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furin boy&girl

次の日、支配人に呼ばれた研修生の木村は即刻解雇となった。 当然ながらクラブ所属の研修生としては脱会させられ、研修会の会長にはその旨が文書で通達された。 内容は、不祥事を起こしたぐらいに留めたが、所属のゴルフ場がなければ研修会には出られなくなるので、木村にとっては致命傷となった。

レッスンを通して小遣いを貰うプロや研修生は、金持ちの有閑マダムを相手にしてトラブルを起こすと事が面倒になる。ゴルフ以外のレッスンをして小遣いを貰うのも売れないプロや研修生にとっては生活の道だが、ジゴロのような悪徳プロや研修生がいることもこの業界には多いのも事実だ。 そして、研修生の木村のようにゴルフ場のキャディと問題を起こせば、双方がゴルフ場にいられなくなる。それが既婚者同士だったら、なおさら会社が被る信用失墜は多大だ。大事なキャディにも欠員が出て迷惑をかけることこの上ない。非情のようだが会社に迷惑をかけるような従業員は要らないという結論には情状酌量という余地はない。

結局、研修生の木村は、バイトもできず収入の道を閉ざされた上に研修会にも出場できなくなった。困り果てて、駆け落ちした人妻キャディの川井留美に相談した。 留美は、うちのゴルフ場を辞めて、他のゴルフ場に働きに出たので木村に言った。 「浩ちゃん、心配しないで、あなたがプロになるまで私が面倒見るからね。その代わり私のことを見捨てないでね」 木村は、その言葉に一瞬、震えるような怖さを覚えた。 婿養子に入った木村の家にこの件がばれたら当然いられなくなる。子供も2ヶ月前に長男が生まれたばかりだ。

木村が婿養子に入った家は、土地成金の家で金も土地もアパートも持っていてかなりの財産がある。留美のゴルフ場で稼ぐ収入から比べたらベンツと軽自動車以上の差がある。 成り行きで火遊びをした木村は、内心でそろそろ留美とも縁を切った方がいいとも考えていた。 もし、このまま二人の関係が続けば、二人には双方の夫妻から慰謝料も請求される。食えない研修生とアパート暮らしをするキャディが、そう簡単に払える慰謝料でもない。 木村の妻だって、留美には負けないほどの美人でもあり若さもある。不倫相手の留美は30歳も過ぎている。このままキャディを続ければ、紫外線で荒れた顔の皮膚にも小じわが目立つようになるのも時間の問題だ。 ましてや6歳も年上の女が、それほど魅力が持続するとも思えなくなっていた。良かったのは留美との男女の営みだけで、それを除けばすべてがマイナス要因ばかりだった。

留美は、満たされない性の不満を若い研修生に求め、木村は濃厚な人妻の性技に溺れただけの関係だった。女は死ぬ気で木村のことを愛してしまった。もし、別れ話でもしたら留美に寝首をかかれないとも限らない。一般的にB型の女は浮気性に見えるが、本当は一途に愛を求める性格なので食らいついたら最後、スッポンのように死ぬまで離してはくれないだろう。

留美の夫は、2人の子供もいるので、帰ってくれば今までのことは水に流すと言っていた。ところが木村の妻はプライドが強いのでおそらく不倫をした木村を許さないだろう。 どうしようもない崖っぷちに立たされた木村は苦悩の渦中に放り込まれた。

研修生の木村は、千葉の田舎に帰り、父親に一部始終を話し、200万円を工面してもらい、留美の夫と会った。そして、これ以上の金額はどうしても払えないので、これで何とか勘弁してくれと土下座をして謝った。そして留美の夫の出した「即刻留美とは別れるという条件」でいったんは和解になった。

ところが女の体に火がついた留美は、どんなに木村が話をしても聞き入れなかった。 「奥さんと別れて結婚しようというのは嘘だったの?僕には留美が必要なんだというのも嘘だったのね。あなたの欲しかったのは私の体だけなのね。死んでやるからね。一生あんたを呪ってやる!」散々わめき散らし、オイオイ泣き出すので木村は手がつけられなかった。

それと、どうしようもなく困り果てた留美の言葉は「私をこんな体にして、さんざんオモチャみたいに弄んで、別れるなんて言うなら私があんたの奥さんの所に行って全部バラすからね」と脅迫されてしまった。 留美が狂ったら平気でそのような行動を取ることを木村は分かっていた。自分の人生がすべておじゃんになると後悔したが後の祭りとなった。留美から遠ざかろうと木村は、毎日通っていた留美のアパートに行く回数を減らした。

ところが留美のアパートに帰らなければ、毎日でも昼に晩に電話がかかって来る。そしてついに木村の奥さんの所まで電話を頻繁に掛けるようになって、「浩ちゃんは、あんたなんかに絶対渡さないからね。第一、私のお腹には浩ちゃんの子供がいるのよ。もし、聞き入れないならあんたの近所中に私の子供がいるって言いふらすからね」と聞き分けのない狂女のようだった。

木村は、まさか妊娠なんかさせた覚えがないとたかをくくっていたが、驚いたことに留美は、性行為に使うコンドームすべてに針で穴を通してあった。木村が今考えてみれば「浩ちゃん、全部中に出していいのよ」という言葉の裏には妊娠が目的だったとは気がつかなかった。そうとも知らず、木村は妊娠だけはさせまいと必ずコンドームをつけて避妊を心がけていた。 ところがどっこい、留美は、本気で木村の子供が欲しいとコンドームに針の穴を通してあったのだ。 木村は、そこまで気がつかなかった自分の愚かさを責めるよりも、留美の狂人のようなめちゃくちゃな行為に恐怖を覚えた。 絶体絶命の中で木村は追い詰められ苦悩する毎日が続いた。

年下の研修生と不倫の恋に落ちたキャディの川井留美の恐るべき豹変ぶりに驚いたのは、不倫相手の研修生木村だけではなかった。 留美の夫も自分が許せば事態は収拾すると思っていたのだが、とんでもない方向に事件が発展してしまった。 もちろん、木村の奥さんは子供を出産したばかりで留美の狂人のような暴言と執拗な電話攻勢ですっかりノイローゼになってしまった。

留美の夫は、そこまで自分の愛する留美をめちゃくちゃにした研修生の木村に言いようのない憎しみを抱くようになった。 木村は収拾のつかなくなった事態に妻の実家にも戻れなくなり、師匠であるプロの北村に相談に行った。 その結果として、このままでは血なまぐさい事件にも発展しかねないので、留美の前から姿を消すことでとりあえず事態を収拾する方法を取った。

師匠の北村の提案で、九州の某ゴルフ場に知り合いの支配人がいるので、その人を頼って誰にも内緒で研修生として、一から出直せと言われた。わらをもすがる思いで木村は意を決して、自分の妻に書き置きを残した。

木村里香様

ボクのせいでこんなことになって申し訳ない。多分、留美はボクのことを許してくれないだろうから一生恨まれても仕方がないと思っている。 生まれたばかりの子供を置いていくことにはとても心残りだが、今の私にはみんなの前から姿を消すことしか方法がないと思っている。何度、詫びても謝りきれない思いを抱いてボクは一人で旅に出る。 留美の両親にも合わせる顔もない。馬鹿な自分を今更ながら恥じている。どうか、こんな男と一緒になったことを事故だと思って諦めてほしい。今まで尽くしてくれて本当にありがとう。 いつか、まっとうな人間になって会える日が来ることを夢に抱いて去るボクを許してほしい。                
                                         浩一

と記した書き置きを置いて、木村は小雪の舞い散る故郷を離れ、九州へと旅に出た。

木村の奥さんは書き置きを読み愕然とした。その日以来、ノイローゼ気味の毎日を過ごすようになった。幸い、奥さんの両親は健在なので乳飲み子を抱えた娘を介護しながら生まれたばかりの子供を育てることにした。

一方の留美は、姿をくらました木村の消息がつかめず毎日毎日、泣き崩れる日々が続いた。強度のノイローゼになって、夫や留美の両親が会いに行っても飲めない酒を強引にあおるほどになり手の施しようがなかった。 生きる望みがなくなったのか、キャディの仕事にも行かず、木村が消息を絶って2ヶ月後の朝、近所の小さな神社の裏山で首を吊って死んでしまった。 木村とのツーショットの写真を胸に抱き、木村のゴルフウェアを身に纏った留美は、木村を愛した証として自らの命を絶った。 そして、留美のお腹の中には2ヶ月になる赤ちゃんを宿していた。

最悪の結末を迎えたこの不倫劇は、小さな田舎町でも大きな噂になった。九州に身を隠した木村にこの情報が耳に入ったのは、半年も後だった。 木村は、留美とお腹に宿した小さな命を奪った張本人である。言いようのない後悔と懺悔の中で自分の過ちをひたすら詫びる以外になす術がなかった。 安易な気持ちで人を欺いた罰は、必ず自分の身に不幸となって返ってくる。木村は二度と自分の生まれた故郷に戻って来ることが出来なかった。

世の中の事件の背後には、必ず金と女が見え隠れする。 金も女も両刃の剣を持ち、扱い方いかんによってはとんでもない事件を巻き起こす。人間に108つの煩悩がある限り、日常茶飯事のように忌まわしい事件が起きていく。 そして、その事件に後悔や憤りを感じながらも数ヶ月も経つと忌まわしい事件を他人事のように忘れていく。 人間は、誰しもが同じ過ちを繰り返す。 反省なら猿でもできると言うが、心の痛みを忘れた人間の繰り返す罪は、よく考えてみれば猿以下なのかも知れない。
<続く>

 

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日本の政治に一石を投じるガールズバンド「寿(ことぶき)ガールズバンド」が現れたというニュースに、正直驚きを隠せません。

現代の若者は政治に関心が薄いと言われる中で、彼女たちの登場は、若者の政治への関心を喚起する起爆剤になるかもしれません。もしそうなら、日本の未来も捨てたものではないと、大いに期待してしまいます。

さて、私が敬愛する政治家は、石原慎太郎氏と田中角栄氏の二人です。

お二人とも、日本のことを心から愛し、確固たる政治信念を持っていました。

どんな困難にも屈せず、自らの信念を貫く生き様は、まさに潔く、そして感動的です。

テレビからマスメディア、そしてSNSへと情報伝達の主流が変化した現代。

温暖化による異常気象や頻発する大地震といった自然の脅威に加え、人間の欲望や執着が肥大化し、国を統治する権力者のモラルが著しく低下している現状は、憂慮に堪えません。

「経済、経済、また経済」と、お経のように繰り返す国のトップの姿を見ていると、困窮する国民から目が離れていくようで不安になります。

人間同士が殺し合う戦争ほど、悲惨なものはありません。

自由や平等の前に、人殺しをするような戦争は断固として反対です。

自分や家族の命は、世界中の誰にとっても最も大切なもののはずです。

戦争を経験した人々は、戦争のない平和な日々を切望しているに違いありません。

戦争のない国に、戦争を持ち込んではならない。

それは、いかなる国の指導者も命に代えても守らなければならない、人間の根源的な条件でしょう。

そして、私たち国民一人ひとりが良き選挙民となり、政治を監視し、平和な社会を築いていく必要があります。

寿ガールズバンドの正体はまだ不明ですが、彼女たちが日本の政治に新たな活力を与えてくれることを心から願っています。

寿ガールズバンド、素晴らしい!今後の活躍に期待します!












※上記の動画は、youtubeからお借りしています。
著作権・肖像権に抵触する場合は直ぐ削除しますのでコメント欄からお知らせ下さい。


hanabi1時間が過ぎた頃、やっと応接室の中から二人が出て来た。

研修生の木村は、すっかり肩を落として元気が無かった。
川井留美の夫は、「ご迷惑をお掛けしました」と言って純平に挨拶をした。
そして、研修生の木村には「じゃあ、明後日お宅にお邪魔するからな!」と木村を睨みつけて約束を守れよと言うような素振を見せた。

川井留美の夫が帰った後で、純平は研修生の木村をマスター室に呼んで尋ねた。
「まさかとは思ったが、あのビデオを見せられたら申し開きが出来ないな。いつから付き合っていたんだ」
「はい、半年前からです」
「ふ~ん。でも、お前は結婚して子供が生まれたばかりじゃないか?奥さんだって外泊したら疑っただろう?」
「はい、試合に行くからって誤魔化していました。それより、ボクは首になるんでしょうか?」

「会社にマイナスの事件を起こした奴で居残った従業員はいないから覚悟はして置いた方がいいな。それに今日は支配人もいないので明日、10時頃支配人室に来いよ。それと首は洗っておいたほうがいい。相手の旦那が会社に乗り込んで来ては助けようが無い。せめて、おまえの奥さんには話が届かないようにしたいものだな。赤ちゃんが生まれてばかりで、こんなことがバレたら奥さんがノイローゼになってしまうぞ」

「それで困っているんですよ。明後日、弁護士連れて家に押しかけると言っているんですよ」
「弁護士来たっていいじゃないか、お互い既婚者同士だ。不倫の罪は川井留美にもある。慰謝料を請求されたらお前の奥さんにも慰謝料を請求する権利がある。請求された同額を相手にも請求すればいいことじゃないか」
「そうは言ってもボクは婿養子だし、女房や相手の親が知ったら木村の家には居られなくなります」
「そう言うのを身から出た錆、自業自得というんだぞ」
「何とかなりませんかね?」
「何ともならないな。諦めて居直るか、奥さんとその両親にお前が土下座してでも許して貰うしかないだろう。奥さんがお前に未練があればどうにかなるだろうが、一度皹の入った器を元に戻すことは並大抵のことではできないだろう。覚悟だけはして置いた方がいい。それが男と言うものだろう。しかし、ご法度を破ってまで会社のキャディに手を出すこともなかっただろう?」

「はい、女房がお産中なのでムラムラしていて、言い寄って来た留美につい関係してしまいました」
「いいことしたんだからしょうがないだろうよ。相手は油の乗った人妻だ。それなりのテクニックがあって、おまえもズルズル引きずり込まれたんだろう?」
「はい、確かに凄い女でした。今までボクはあんな激しいSEXはしたことがありませんでした」

「よく言うよ。あの子は可愛い顔をしてけっこう淫乱そうだ。ことにSEXに狂った女ほどややこしいものはない。結婚をして5年も過ぎれば、旦那だってあの手この手で女房を喜ばせることなんかしないよ。だいたい男なんかいい加減で、いつでもやれる女に気なんか使わないよ。自分の袋に溜まったものを放出したいばっかりに、濡れてもいない女房に手抜きをして突き刺すから女は欲求不満になるんだよ。第一、おまえの奥さんにだって新婚時代とは違って、あっち舐めたり、こっち舐めたりして上げないだろう。女をいかせてからいくのが本当の男の思いやりってもんだ。俺なんかいまだに女房には2回行かしてから発射するんだぞ。そうすれば、女房なんか浮気しているなんて夢にも想像しないさ。そして、おまえが一番好きだ。俺にはおまえが必要なんだと思わせる暗黙の絆が創れなければダメなんだよ。

女房が洋服を新調したり、髪型を変えたら必ず褒めてやる。食事にも定期的に誘う、夫婦だってたまにはラブホに行って腰の抜けるほどSEXをすることも大事だ。気を使って金も使って、腰も使って女房を楽しませてやることの出来ない男が女房に浮気されるんだよ。」

「それじゃ、ホストと同じじゃないですか?」
「ホストで十分だろう。相手を喜ばせる技術と言うものはホストが一番だ。ホストと違うところは、釣った魚に餌をやらないとか、女から金を巻き上げることはしないということだ。どうしても会社の女とやりたかったら一度限りにすること。付き合って口の堅い女だったら多少は回数を増やしてもいい。ただし、誰かに見つかったらアウトになる。そんな時に上手くいい訳が出来る答えも3つは用意しておくこと、それが出来ない様じゃ女遊びなんか出来ないぞ」

「はぁ、凄く勉強になりました。さすがキャディマスターは、何につけても筋金入りですね。以前にホストやっていたんですか?」
「冗談言ってる場合じゃないだろう。それより、おまえは、明日付で支配人に解雇されるのは間違いない。飲酒運転と会社に迷惑な事件を持ち込む奴は、文句なしに首になる。人生勉強だと思って、この苦い経験を糧にして踏ん張ってみろ。それが出来ない様じゃ、いつまでたってもプロなんかに成れないぞ」

研修生の木村は、純平のさばさばした言葉に癒されながらも、この事件の後始末に頭の中が混乱しているようだった。そして心配そうな顔をして木村が重い口を開いた。

「分りました・・・・でも研修生の登録も抹消されますよね?」
「当たり前だろ。不倫事件起こして、大事なキャディを辞めさせて、おまけに会社に厄介な事件を持ち込んで、何でこのゴルフ場所属の研修生として居られる訳がないだろう?」
「ああ・・来月の研修会出られないや。困ったな・・?」
「ゴルフのクラブもろくに振らないで、女にばかり自分のクラブを振っていたんだ。1年ぐらいのブランクはしょうがないだろう」
「随分、酷い言い方じゃないですか?」
「バカヤロー、酷い言い方される責任はおまえにあるだろう。まともにやっていれば、おまえは会社にとってもいい研修生だったはずだ!」
「申し訳ありません・・・まさにその通りです」
「やけに素直になったな。いいか、いずれにせよ奥さんに知れたらまずいぞ。それに相手に弱味を見せたらいくらでも強請られるぞ。同じ既婚者同士、悪いのは五分五分だ。先方が慰謝料請求してきたら、こっちもおまえの奥さんに慰謝料を請求させろ。どっちにしてもばれてしまった以上、留美との関係は打ち止めにするんだな。それが出来なくてズルズルと関係を続けるなら二人で生き地獄を見るぞ!
あんまり事件を大きくすると、どこのゴルフ場もおまえを研修生として雇って貰えなくなる。プロを諦めて火遊びの相手と慰謝料払いながら働く気があれば、それも立派な人生だろうけどな。そんな真摯な気持ちがあれば、今頃はプロに成っていただろうよ?」
純平にすっかり毒気を抜かれた研修生の木村は、しょぼくれて帰って行った。
若い時は、何事も経験、失敗から跳ね上がってこそ、高いバーが飛べるようになる。
「咲くも散らすも 出たとこ勝負、やる気あるなら 前に出ろ
所詮人生、夢花火」と純平は、北島三郎の歌を口ずさみながらマスター室を出た。
<続く>

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master先月、家庭の事情で辞めたキャディの川井留美の夫が純平に面会を求めて来た。
様子が変なので「どのような件ですか?」と純平が川井の夫に尋ねると、
「お恥ずかしい話ですが、妻が2ヶ月前から急に家出をして帰って来ないんです。携帯に連絡してもぜんぜん反応も無く、ついこの間は着信拒否までされたんです。ここのゴルフ場を辞めたのは先月でしたよね?」
「はい、確か先月の20日付けで辞めていますね」
「どのような理由でしたか?」と川井留美の夫が尋ねた。
「夫の転勤で土浦の方に引越しするので、もう勤められませんと言う内容でしたが・・?」
「やはり、そうでしたか・・?」
「どうかしましたか?」
「実は、この写真の男と駆け落ちしたようです」
まさかの顔写真を見て純平は驚いた。
写真の顔は、間違いなくうちの研修生の木村浩二だった。
歳は25歳で反町隆史に似た背の高いイケメンだった。
一方、この夫の妻、川井留美は30歳になる小泉今日子似の可愛い系の美人だった。
このゴルフ場でも3本の指に入る人気キャディだった。
愛想も良く可愛らしい顔立ちがお客から人気を呼んでいた。
ただし、純平は丸顔の女性は嫌いなのでそれほど気にも留めていなかった。
それゆえに川井留美から退職届けが出た時にも「旦那の転勤じゃしょうがないね」とキャディが足らない事情でも諦めざるを得なかったので詳細についてはあまり聞かなかった。
言って見れば、ごく一般的な円満退職だった。

しかし、驚いたことにこの川井留美の退職に関してはたいへんな事情があった。
川井留美の夫の話によれば、この2カ月以上も妻が蒸発してしまい、まったく連絡が取れないとのことだった。そこで川井の夫は決死の覚悟で、このゴルフ場から友人と二人で妻の後を何日も尾行したと言う。そして、何度も尾行を巻かれ途中で見失いながらも、やっとの思いで妻の住処を突き止めたと言う。
そして、妻の居場所のアパートの近くの空き地に3日間も張り込みを続け、妻のアパートに出入りする男をビデオカメラに収めたと言う。

川井留美の夫は持ってきたビデオカメラを回して、純平にその証拠となるビデオを見せた。妻の留美が朝の5時40分にアパートから出て、その一時間後に研修生の木村浩二がキャディバッグを持ってアパートのドアを開け、出て来る様子が鮮明に録画されていた。
ズームアップされた顔は紛れもなくうちの研修生の木村浩二だった。その顔をプリントアウトしたのが先ほど見た顔写真だった。
「どうですか?」と川井留美の夫が確認を迫った。
「間違いなく、うちの研修生の木村浩二です」
「今、このゴルフ場に居ますか?」
「レッスンでコースに出ていますが・・」
「呼んで貰いませんかね?」
「事情が事情だけにトラブルにはなりませんか?」
「まあ、ぶち殺したい心境ですが、妻にも非があるので逢って話がしたいのですが・・」
「暴力事件を起こさないと言う条件を守っていただけるなら逢わせましょう」と川井留美の夫に了承を得てから、純平は携帯で木村に連絡を取った。

「木村か?」
「はい」
「羽鳥だ。川井留美のご主人がおまえに逢いたいそうだ」
「えっ、留美の旦那が・・?」
電話の向こうの木村が狼狽する様子が手に取るようにわかった。
「今、レッスン中なので後にしてもらう様に言っていただけませんか?」
「木村、諦めろ!川井留美のアパートからおまえが出てくるところをビデオに収録されている。業務命令だ!すぐ、事務所に戻って来い!それと冷静になって話をしろよ」と言って純平は携帯を切った。

「川井さん、腹立つ気持ちは分りますが、会社内でトラブルは起こさないで下さいよ。あいつは、1年前に結婚して奥さんもいます。2ヶ月前に子供も産まれました。明日、支配人にこの件を報告すれば、即刻、解雇になります。会社内で問題を起こしたらこの会社にはいられません。よって会社の方はそのような対処となりますがご了承下さい」
「分りました。会社がそのような対応をしてくれればご迷惑はかけません。約束します」
「分りました。木村が来たら応接室を貸しますので話をして下さい」

顔面を蒼白にして研修生の木村がばつ悪そうに事務所に入って来た。
「木村、事情は全部聞いてある。おまえも男としてケジメだけは付けて話し合いをしろよ」と純平が念を押して言い含めた後に、二人を応接室に通した。

何も事情を知らない事務員がお茶をふたつ持って来たが、純平は「お茶は出さなくていいよ」と止めた。
「なにか、あったんですか?」と事務員が尋ねて来たが「なんでもないよ」と純平は白を切った。
時々、川井の夫が大きな声を出していたが喧嘩にはなりそうになかったので、純平はずっと二人が出て来るのを待ち続けた。

それにしても女房を寝取られた夫の気持ちは複雑で怒りに満ちていると思った。
自分なら間違いなく相手を袋叩きにしていると思った。
家出した女房を何日も追尾して、やっと突き止めた妻のアパートで若い男と乳繰り合っていることを想像したら腸が煮えくり返る思いがするだろう。
豊かな妻の乳房を弄び、夫以外の突起物が妻の体内を陵辱する。
自分以外の男に妻が激しく腰を振り、悶え喘ぐ姿を想像しただけで気が変になるだろう。

純平は、そんな勝手な想像をしながら二人が出て来るまで応接室の外で待機していた。
何も知らない事務所の中では、業務を終え社員が次々と帰って行く。
不倫はどこの会社でもご法度だ。
バレる不倫ならしない方がいい。断末魔の光景が目に浮かぶようだ。
火遊びをして夢中になるのはいつも女の方だ。旦那や家族を捨て男に夢中になって蒸発する妻など、どの道を選んだところで地獄が待っている。男は、必ずと言っていいほど、その女の火傷のとばっちりに遭う。
不倫がバレた場合の解毒方法を知らない奴は、共に奈落の底にと落ちて行く。
研修生の木村が妻のお産で性欲に飢える気持ちは分からないでもないが、よりによって相手が会社の人妻社員では、あまりに相手が悪すぎると純平は呆れるばかりだった。
<続く>

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cart4月までに50名のキャディを確保することは、非常に危ぶまれていた。

バブル期のように、キャディを基本給のある正社員として雇用できるゴルフ場は、どこも給与を支払えなくなり、廃止していたからだ。

海外旅行もボーナスもなくなり、出来高制のキャディという職業は、昔のような旨味がなくなっていた。雨風に耐え、冬の寒さに震えながら、夏は炎天下の猛暑の中でハードな労働をするキャディという職業に、若者が見向きもしなくなっていた。

昔は、正社員としてボーナスも年間2~4か月分が支給された。

現在では、盆暮れに10万円程度の氷代や餅代が支給されれば、まだ優良なゴルフ場とされている。

ゴルフ場の経営破綻のそもそもの原因は、高額な会員権の返還請求による償還資金の逼迫だけではない。プレー料金の客単価の落ち込みが酷く、バブル期に比べ客単価が半分以下に目減りしている。

バブル期の平日の客単価は、30,000円前後、土日にあっては、50,000円近くなった。

考えてみたら、よくこのような高い遊びが出来たものだと感心させられる。



当時はベンツに別荘、そしてゴルフ会員権を所有することが、バブル期の金持ちのステータスにもなっていた。土地や株で儲けた企業や個人事業主が、こぞって会員権を買い漁った時代がまるで嘘のようである。客単価が半分以下にまで落ち込んだ状況で、経営を維持するには、従業員のリストラや人件費の削減、そして、会員の年会費の値上げと悪循環が重なり、首都圏や大都市から80km以上遠くに離れたゴルフ場は、来場者の低迷に苦難の道を歩むことを余儀なくされている。

ゴルフ場は、75万平方メートル前後の敷地があり、それを維持管理するには相当な資金が必要となる。施設の老朽化だけではなく。コースの芝は生き物である。肥料をやり、芝を刈り、その他の樹木の養生もしなければならない。台風が来れば樹木がなぎ倒され、バンカーの砂も流される。おまけに練習場のネットも破れ、柱もへし折れることもある。大型台風が来れば、400万円程度の損害が常に出る。

ましてや、借地の多いゴルフ場は地代の捻出にしのぎを削る。

消費税やゴルフ利用税は、まったなしに徴収される。以前は、消費税などは外税なので別会計になるが、現在では消費税も内税になり客単価の低下に拍車を掛けている。

バブル期は、会員募集で潤沢な資金を確保できたが、現在では安い客単価のプレー収入で運転資金を賄わなければならない状況である。かつては、どんなゴルフ場のオーナーだって、プレー収入で利益を生もうなどと思ってはいなかったはずだ。売れば巨額の金が入ってくる会員権に濡れ手に粟のぼろ儲けを期待していたはずだ。

一日、60組も入れたら朝のハーフが3時間、休憩が1時間半、おまけに残りのハーフも3時間、ティーグランドに何台もカートが詰まり、ストレスの溜まるゴルフプレーを余儀なくされる。

ゴルフ場の単価が下がり、一般大衆にはリーズナブルなゴルフが楽しめるようになったが、ティーグランドは芝が剥げ、バンカーは足跡だらけ、アプローチ周りはターフ跡がぎっしりと、グリーン上はボールマークだらけでは本来のゴルフの醍醐味は堪能できるはずも無い。

元々、イギリスの貴族が始めたゴルフは、本来から言えば金持ちの遊びだった。だからキャディさんにチップを払う習慣もあるのだと思う。ところが、最近のお客は1,000円違えば他のゴルフ場に行ってしまう大衆層が多いので、キャディにチップを渡すお客は少なくなったようだ。

オーナーがクラブステータスを目指す以上、キャディの確保は絶対条件だと支配人の白鳥は考えていた。どんなに施設が豪華でもキャディがいなければ、大衆割烹の居酒屋になってしまう。

それにクラブ競技にはキャディ付けが必要にもなる。

キャディの人件費は、ゴルフ場にとってかなりのウェートを占めるが、薄利多売の外資系のゴルフ場と格差をつけるには、メンバーシップで会員相場の高値安定を図りたいと目論んでいた。

乗用カートの導入に難色を示していたコース設計士の加藤幸太郎も、乗用カートが時流になった昨今、キャディ不足の日は乗用カートのセルフで対応をするという支配人のプレゼンに妥協をしなければならなかった。トレンディとブームは言葉の意味合いが違う。

一時的な反響はブームだろうが、今後のゴルフ場運営にはキャディ不足も考慮して乗用カートの導入無しでは、集客を限定しなければならなくなるので運営資金が足らなくなる。

まさに将来を見越したトレンディな経営が乗用カートにあると支配人の白鳥は考えていた。

オーナーの許可も出て、乗用カートの工事が今月の15日から開始される。工事期間は、約4ヶ月を要し、4月のトップシーズンまで掛かるが、冬場の来場者の少ない期間を利用しての突貫工事に拍車を掛ける以外方法がないと支配人の白鳥は計画を練った。

6月には、社長の美和は本社に赴く、それまでに32歳のアウトロー純平を支配人職まで出来るように仕上げるという社長命令は無謀に近いものがあった。

唯一、救われることはキャディマスターの純平には、人を惹きつける才能があった。

短気で武闘派なところはあるが、物怖じしない気迫とリーダーシップを発揮できる能力には、支配人の白鳥も一目を置いていた。



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kayo今日は32組と、いつもより客足は落ち着いていた。最終組がマスター室前に戻ってきたのは、午後4時10分だった。このゴルフ場が倒産する前から働くベテランキャディ、大山佳代が、客に丁寧に頭を下げ、クラブ確認表をマスター室に提出した。「お疲れ様」と純平が声を掛けると、「お疲れ様です」といつもの明るい笑顔が返ってくる。36歳、藤あや子似の色香漂う美人キャディである。面倒見が良く、新人キャディたちからも慕われている。

夫は女癖が悪く、家にもあまり寄りつかない。中学3年生の息子とアパートで二人暮らし。養育費も家賃も、すべて彼女の稼ぎで賄っていた。今年は息子の高校受験も控えており、彼女の苦労は並大抵のものではない。幸い、その美貌と気立ての良さから、客からのチップは月に4~5万円にもなる。それなのに、夫は家賃すら払おうとしない。食費、教育費、車のローン。風邪を引いても、休まず働かざるを得ない。「飲めない酒と親の意見は、後で利いてくる」という格言の意味を嫌というほど思い知らされたよ、と彼女は寂しそうに笑ったことがあった。夫はバツイチで、結婚を報告した際には彼女の両親から猛反対を受けた。それでも、彼に惚れ込んでいた彼女は、結婚式も挙げずに一緒になる道を選んだ。だが、幸せな時間は長くは続かなかった。

純平は、キャディたちの出勤状況に人一倍気を配っていた。キャディの数が足りなければ、キャディマスターとしての面目が立たない。そのため、彼女たちの健康状態や家庭の事情にも気を配り、できるだけ働きやすい環境を整えるよう努めていた。半年もすると、彼女たちの生理周期まで把握するようになっていた。
syazai

翌日のスタート表を確認し、キャディの人員に問題がないことを確かめる。事務員から業務報告書を受け取ろうとしたその時、白鳥支配人から内線が入った。「純平君、ちょっと来てくれ」。その声に、純平は嫌な予感がした。おそらく、南條の件だろう。

支配人室のドアをノックすると、「どうぞ」と中で声がした。ドアを開けて中に入ると、「まあ、そこに座りなさい」と白鳥支配人が厳しい表情で彼を見据えた。「君、やらかしたな?」予想通り、南條の件だ。「はい、申し訳ありません」。純平は素直に頭を下げた。「気持ちは分かるが、暴力はいかん」「はい、申し訳ありません」「あの南條というメンバーについては、私とて次回のフェローシップ委員会に報告するつもりでおったのだ。しかし、君の方が先に手を上げてしまった、というわけだな。南條さんの方も、“ヤクザみたいなキャディマスターを置いておくな”と捨て台詞を残して帰って行ったよ」「申し訳ございません」「南條さんに非があるのはわかっている。しかし、だからといって暴力はいかん。君のためにならん。傷害事件にでもなれば、それこそ警察沙汰だ。そうなれば、私も君を解雇せざるを得なくなる」「申し訳ございません」純平は何度も頭を下げることしかできなかった。

純平とて、解雇は覚悟の上だった。顔を殴れば一発でアウトだ。手加減はしたつもりだった。喧嘩慣れしている純平は、外傷を残さずにダメージを与える方法など、百も承知だ。今頃、南條の金玉袋はひどく腫れ上がり、満足に歩くこともままならないだろう。そう思うと、怒りの奥底から、ふつふつと笑いが込み上げてくるのを必死に堪えた。

「純平君、今後、このようなことは二度と起こさないと約束できるかね?」「はい、もちろんです。もし、ご迷惑をおかけするようなら、私は、身を引かせていただきます」「まだ、君もガキだね。君を見込んで会社も高い給料払っているんだ。せっかく築き上げた土台をまた平地に戻すようなことをしたら元の木阿弥だ。企業は一日にして成らず、毎日の地道な積み重ねが大事なんだよ。自分だけ責任を取って辞めれば済むと言うものではない。会社全体に大きな損害を与えることの意味が分かっていないようだな。今回のことは、正直、南条さんには私も腹が立っていたから内心では良くやったと褒めてやりたいぐらいだよ。ただし、日本は法治国家だ。これから支配人になろうとする人間の絶対してはいけないことが暴力事件でもある。殴ったら負け。この掟は、サービス業の基本だ」「はっ、はい」「で、どの程度やったんだ。南條さんに?」「はい、金玉袋を嫌と言うほどニギリ潰しました」「やっぱりな。顔に外傷がないからボディにパンチでも入れたのかと思ったら金玉袋を握り潰したのは素人では出来ない技だね。はっ、はっ、はっあ~」と支配人の白鳥は豪快に笑い、内心では喜んでいるようにも純平には思えた。

「純平君、君は空手の有段者らしいね」「はい」「何段なんだ?」「極真の4段です」「ほう、他には?」「剣道2段です」「他には?」「合気道を少々・・」「他には?」「えっ、・・・」「女性だよ」「そっちは、初段です」「冗談だろう。噂を聞いているぞ、社長に・・」「えっ、~?」まさか、社長の美和があの夜のことを喋ることはないと思ったが、顔が蒼白になった。「君、顔が青くなったよ。心当たりがあるだろう」と支配人の白鳥は見透かしたように大声で笑った。「冗談だよ。女性の多い職場だから女と暴力事件には十分気をつけてくれよ」と支配人の白鳥はにやけながら言った。

「今日のことは、私に任せなさい。いいかね。二度と暴力事件は起こしてはいけないよ。腹という字は横に寝かせなさい。腹は立てるな。男の立てるところは一箇所だけ、それも程ほどにしなさい」といって支配人の白鳥は大きな声を出して、また、磊落に笑った。

純平は、支配人の腹の太さと洞察力の鋭さに感服していた。この人には、何でも見透かされそうで逆に怖いとも思った。そして、男として、この支配人のためなら何でも力になってやりたいと深く心に決意した。
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kenka今朝も悪のメンバー南條がマスター室前で白鳥支配人を捕まえて何やら事件を起こしていた。
スタート前に近隣ゴルフ場の支配人会の当番コースとなった支配人を捕まえて、「今日は、OUT・IN、3千円、トータル勝ち負け、5千円で握るんだぞ」と命令口調で支配人に無理強いをしていた。

普段、紳士な支配人も負けていなかった。
「南條さん、今日は、うちが支配人会の会場です。この周りのゴルフ場の支配人がたくさん集まっている中で、そんなニギリの話は顰蹙を買うので止めて下さい。第一、週に2~3回もゴルフをやっている人が、たまにしかゴルフの出来ないゴルフ場の支配人を捕まえてニギリというのは非常識です。普段クラブステータスをもっと上げろと言うメンバーの言葉にしては、あまりに低俗的ですよ。なんでしたら理事会に諮問しますが、よろしいですか?」と丁重な言葉遣いで反撃した。

返す言葉に窮したか、ペンギンオジサンは口をもぐもぐさせていた。
それを見ていた純平は「いい様だ」とほくそ笑んでいた。
それが気に入らなかったのか、南條は腹癒せに純平に暴言を吐いた。
「今日は、プレーイングキャディに女子研修生の加山恵理を付けろ!」と命令口調で純平に言って来た。
「申し訳ございません。本日、加山は休暇を取っています」と純平が返答した。
すると、「研修生の木川直也をつけろ!」と横柄な態度で、また、命令口調で言ってきた。
「申し訳ございません。木川は、すでにインコースのお客様に付いています」と純平が答えた。
「まだ、スタートしていなんだから他のキャディと交換してもらえ!」と強引に要求をしてきた。

「当倶楽部は、キャディの指名は前日までの予約になっています。直前のキャディの指名は出来ない規則になっております」と純平が返答した。
「そんなことは、キャディマスターの力量でどうにでもなるだろう。だからお前は使えない」と純平に、またしても暴言を吐いた。
元々、気の長くない純平は早朝の忙しい時についに切れて、「南條さん、ちょっといいですか?」目に怒りを込めて睨みつけたまま南條をカート室に連れて行った。
「南條さん、いい加減にしろよ。従業員は奴隷じゃないんぞ!理事かメンバーか知らないけど、あまり無茶苦茶言うんだったらフェローシップ委員会を通してマナーの悪いメンバーとして理事会に上申するよ」と強い口調で抗議した。
純平の態度に業を煮やした南條は「昨日今日キャディマスターになったひよっこがメンバーに対して生意気な口を利くな!おまえこそ首にしてやる」と激怒した。

完全に純平の頭に血が昇って、「この下衆ヤロー、いい加減にしろよ。メンバーだから好き勝手できると思うなよ。うちのメンバーさんは、あんた以外はみんな紳士ばっかりだよ。フェローシップ委員会に掛ける前にこの場であんたをズタズタにしてやるけど、受ける根性あるのか?」と睨みつけた。
ヨイショの達人、純平は滅多に怒ることはしなかったが、余程、腹の虫が収まらなかったなかたのだろう。
南條の右足の靴の爪先部分を片足で押さえ込み、身動き取れないようにしてから左手でVサインを作り、南條の両目に突き出した。びっくりして動けなくなった南條の股間のキンタマをいきなり掴んで「こんな小さなキンタマしか持っていないで、一丁前に能書き垂れるんじゃないよ。うちの従業員を弱い者虐めする奴は許さないからな!」と言って、純平は、股間の袋を嫌と言うほど握り潰し南條をに眼を飛ばした。

あまりの痛みと純平の豹変振りに南條がびっくりして「イッ、イテェー」と悲鳴を上げた。「ガキの喧嘩じゃないんだぞ南條、このまま白黒つけようじゃないか?」びっくりした南條は、「悪い、俺が悪かった。だから手を離せ!」と怒鳴った。
「このタコ。俺は首掛けて勝負してんだよ。手を離せじゃ無いだろう。手を離してください。私が悪うございましただろう」と言うなり、また、南條のキンタマの袋を再度、渾身の力を込めて握り潰したから堪らない。
あまりの痛さにどうにもならなくなった南條は、先ほどの威勢のよさも微塵もなく「悪かった、俺が悪かった。もう勘弁して下さい」と泣くような声で懇願をするのだった。
純平は、南條のキンタマをしっかりと握り潰した手は放さず、
「テメエも心療内科のドクターだろう。いつも好き勝手に毒舌吐いて、従業員苦しめて何が心のカウンセラーだ。そういうのは悪徳ヤブ医者って言うんだよ!」
純平は、頭に来ると相手が誰だろうとべらんめえ調のやくざ言葉になる。この会社に来てからこのような態度は、社長の美和の手前見せなかったが、本当に頭にきて今回ばかりは、昔の番長をしていた頃の不良の癖が出てしまった。

ゴルフ場のメンバーは、大体が世の中では経済的には余裕があり、少なからずともゴルフ場の従業員よりは、世の中の成功者の部類に居る。ただし、例外で悪い奴も必ずと言って紛れ込んでいるので、従業員であっても道理に合わないことや無理難題を言ってくるメンバーには断固として闘うべきだと純平も支配人の白鳥も共通したポリシーを持っていた。

暴力もTPOにあわせて使えば役に立つ。世間知らずのボンボンで育った医者の2世南條に対しては、良いお灸になった。
純平の空手5段の格闘技の腕は、純平の地元ではチンピラや暴走族が震え上がるだけの怖さを持っていた。
メンバーの南條は、股間の痛みに耐えながら蟹股でカート室を出て行った。純平は、何食わぬ顔でマスター室に戻った。
「南條さん、随分、おとなしくなってコースに出て行きましたが、なんかあったんですか?」とマスター室の事務員に聞かれたが、純平は「なんでもないよ」と言って知らぬ顔をした。

朝の忙しいキャディ付けの時間帯を邪魔された純平は、いつもの調子で元気良くキャディの名前を呼んでキャディ付けの業務を再開した。
<続く>

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uketuke女社長、柳沢美和のトレードということもあって、羽鳥純平はゴルフ場の従業員からも一目置かれていた。しかし、純平はそのような背景にあっても奢ることなく、クラブ従業員に分け隔てなく接していたので人気も高かった。おまけに持って生まれたジャニーズ系の甘いマスクは、事務所の女子社員や古参のキャディにまでも色目を使われて困るほどのモテようだった。そのような状況の中で、キャディマスターに赴任早々、女社長の美和と関係があることが知れたら大スクープになる。

純平は、社長の美和と職場で接する態度には一線を踏み込まないように十分に注意を払った。

勤務について、1ヶ月も過ぎると職場の人間関係が、否が応でも目に付いてくる。

社長派は、支配人の白鳥誠一郎が筆頭で、営業部係長の伊達政男が手足となって動いていた。対する開発部長の黒岩修三には、経理部長の木崎澄夫がついていた。

この木崎は優秀な経理マンとして手腕を発揮していたが、頭がいいだけに不正経理の疑惑があった。

営業部長の新井耕介は、なかなか優柔不断でどちらの派閥にも所属しないでいたが、ただの風見鶏に過ぎなかった。

両部長とも旧オーナー会社の生き残りで、取締役職ではなかったことが幸いして、新オーナー会社のレオンリゾート開発になってからも運営上の問題から継続して雇用された。

男子社員は、支配人の白鳥を除いては事務所の中には3人しかいなかった。

その配下に営業部に4人の女子社員、経理部に2人の女子社員がいた。

純平のマスター室には、元、ゴルフ研修生の城井健太と女性社員の高山直子がいる。この高山直子は、伊達係長と職場恋愛による恋仲で、部署替えで今年の1月からマスター室に配属されていた。

そして、このゴルフ場きっての美人女子社員、片山美咲が経理部にいた。

利害関係に亀裂が入れば、人間関係は悪化するのは世の常である。

共存共栄の利益があってこそ、人間関係は平和的で友好的なバランスが保たれる。この法則を理解できない社員は、どんなに優秀な仕事のスキルを持っていてもいずれは企業から淘汰されてしまう結果となる。

純平は、マスター室に入ってパソコンのスタート表を開いた。

スタートのトップ、アウトコースに南條貞夫が入っていた。

クラブの理事でもあり、心療内科のドクターでもある。

元々医師というのは、気儘・我儘のオンパレードをしがちになる。

その典型がこの南條だ。「キャディ教育がなっていない。レストランの食事がまずい」などと、とにかく屁理屈をこねて毒舌を吐いて従業員に悪態をつく悪徳メンバーだった。

元来、心療内科のドクターと言うものは、心身症の患者をカウンセリングして心のケアをするのが仕事である。

にもかかわらず、言いたい放題の毒舌を吐き、従業員にとっては迷惑千万な厄介なメンバーだった。

プライドが強く、自分の発言は絶対だと言う驕りがある。

仕事柄、自殺したいなどと無気力になった心身症の患者をケアすることは、相当なストレスが溜まるらしい。

「死にたい」「生きていても価値が無い」「どうせ、私なんか誰も相手にしてくれない」などの鬱状態の患者と向き合って、心を開いて話しあうことなど並みの人間ではお手上げ状態になる。

それが故に、鬱状態の人間ばかりを相手にしていると、ドクターでさえも鬱状態に陥ることもありがちになることはよくある話だった。

そのストレスの解消法がゴルフ場に来て、憂さ晴らしに従業員に悪態をつき、コースメンテナンスなどにも異常なほどの批判をした。

44歳独身、趣味はゴルフに風俗通いとメンバー間では悪い噂の人物だった。

フロント女性にも可愛い子が何人もいるので、支配人も気を利かして彼のお嫁さんに候補に薦めるが、「ドクターと言う職業に魅力は感じますが、男としての魅力が南條さんにはまったくありません」と若い女子社員が皆口を揃えて嫌った。

前かがみで両手を背後に下げ、歩く姿は、腰痛持ちのペンギンのようだ。そんな訳で、彼の仇名は「ペンギンオジサン」である。

代々、医師の家系で育ちは悪くない。人間性も温情はあるのだが、突如として、狂ったような毒舌を吐くのが玉に瑕だった。

<続く>


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