2005年06月12日 14:53 [Edit]

だから、あなたも読みぬいて

週刊SPA!2005.06.14号は、17周年記念ということもあってか少し気合いが入っていた。その中の「平成の裏ベスト10」の、豊崎由美の「馬鹿ベストセラー10冊」には大笑いさせていただいた。

しかし、9位のこの本の選出だけは、違和感を感じた

その違和感の理由がわかったような気がするのでここに記す事にする。


私は金を出して(ベストセラーになってから)ベストセラー本を買う事はまずない。あえて出すにしてもブックオフだ。理由は簡単で、この手の「バカベストセラー」はたいてい内容が薄く、本屋の立ち読みで事足りてしまうからだ。とはいえ、一応目は通すのだが。豊崎氏のバカベストセラー10冊も、全部読んでいた。

そして、その場合のほとんどにおいて豊崎氏と同じ感想を抱いた。もっとも彼女ほど痛快な書評を書くほどの表現力は私にはないのだが。その点に敬意を表していくつか引用しておく。

[2位、『失楽園』を評して]渡辺淳一の中年不倫小説。「登場人物が、物語を転がすため駒でしかない。文章も劣悪。月明かりの下で裸にさせて〈月の光が、お仕置きをする〉だと?セーラームーンか、お前は」

いやあ、美少女戦士に代わってどんどんお仕置きしてくださいな。書評界のビートたけし(あえて北野武とはいわない)ですな。

この調子でずっと10冊を斬るのだが、「だから、あなたも生き抜いて」のところはこうだ。

[9位、『だから、あなたも生きぬいて』を評して]弁護士の大平光代の自伝本「転落も更生もとにかく極端。いじめられて割腹自殺未遂ですよっ、割腹!で、極道の妻→司法試験に一発合格。こんな人生のどこを参考にしろというのか!?」

豊崎氏のスタイルはここでも首尾一貫しているのだけど、この首尾一貫さがかえって違和感を際立たせている。大平氏以外の「バカベストセラー」の著者は、いづれも執筆を重要な糧とし(キヨサキと二谷はどうよという疑念もあるが)、豊崎氏はその表現の陳腐さや主張のトンデモさに噛み付いているのに対し、大平氏に対してだけは、実際に彼女の身に起った事実そのものに噛み付いている。

たしかに、文章としては、「だから、あなたも生き抜いて」は陳腐である。気の利いた中坊でももっと「読ませる」ように書いただろう。「だから、あなたも生き抜いて」以上のベストセラーである「五体不満足」に彼女が噛み付かなかったのは、乙武氏の方は、単に生い立ちが「極端」だけではなく、表現も上手だったからだろう。タイトル一つとっても、「五体不満足」の秀逸さと「だから、あなたも生き抜いて」の朴訥さは恐ろしいほどのコントラストだ。実際乙武氏が現在スポーツライターとして活躍中なのはご存知の通り。乙武氏は、デビュー当時から「プロのライター」であった。

乙武氏に関しては別の機会に詳しく書きたいのだが、大平氏に話を戻すと、実はこの朴訥さこそがこの本の魅力だというのが、「表現批評家」の豊崎氏にはおわかりにならないらしい。生ものは食い物にあらず、といわんがばかりに。

「とにかく極端」というのは、谷の底と山の高さだけつかまえて言った表現であって、ちゃんとそこにはそこに至るだけの崖も裾野もあり、全体として奇異なところはあまりない。むしろ、その生い立ちの平凡さこそ、本書が一見どこも参考に出来なさそうで、全てが参考にできる一点だろう。

彼女は一朝一夕で割腹自殺未遂→極道の妻に至ったわけではない。いじめのきっかけは、転校という誰にもありうることだった。それが繰り返されるうちに、どんどんと落ちてしまい、しかしそのたびに救済の手は下りず、その上下りてきたと思った救済の手は実は彼女を陥れるための罠で、最後のよりどころであったはずの家庭も彼女ではなく世間体を取り....といった具合で、実は彼女に起ったことは、現代日本のだれにでもおこりうることなのである。私の人生なんぞよりかよっぽど参考になります。

そんな彼女を救ったのが、養父大平氏。彼女はここに至って初めて「愛」を与えられ、それに答えるべく懸命にやった結果、いつの間に弁護士になったというのが後半のストーリー。これとて、宅検、司法書士、そして司法試験とちゃんと段階を踏んでいる。29歳司法試験合格、二年の研修を経て31歳弁護士就任というのはむしろ遅咲きの花といってよいだろう。

本書で唯一参考にできないとしたら、それは養父大平氏との出会いだろう。こればかりは運がものをいう。おそらく一人の大平光代の裏には、何百人もの「無愛者」がいるのだろう。

そんな「無愛者」たちの救済が、大平氏のライフワークであろうことは本書からもその後の活動からも読み取れる。個人的にはその意味では弁護士よりも家裁判事の方が「効率がいい」とも思うのだが。まさに「家裁の女(ひと)」というわけ。ここで彼女が使わなかった切り札である彫り物を遠山の金さんよろしく使う、ってのはちょっと調子に乗り過ぎか。

豊橋氏に話を戻すと、この人の「批判空間」の住民はフィクションであることが見えてくる。書の恨ミシュランを書かせるなら、もうこの人だろう。「クソ本」の批評は日垣氏もうまいが、痛快度で彼女に軍配があがる。

だから、豊崎氏がこの本を読み抜けなかったのが惜しい。

クソ本はあっても、クソ人生などないのだから。

Dan the Critics Critic


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この記事へのコメント
クソ人生はあるんじゃね?救済ですかそーですか...
Posted by luna at 2005年06月12日 16:51
TBありがとうございます。
「だからあなたも生き抜いて」私もこの本が大好きです。なるだけ多くの青少年に読んで欲しい本です。
人間は愚かだけど可能性があり、真剣に取り組めば道が開けるということを身をもって示してくれた本です。文の上手い下手は全く気にならず、一気に読み終え、まだ心に残っています。
Posted by さなえ at 2005年06月12日 21:56
なんか魅力的
椎名桜子の次くらいに
Posted by レギオス at 2005年06月13日 13:24