2006年01月08日 17:07 [Edit]

伝染(うつ)らないんです

吉田戦車は、長い間謎だった。

しかし先日のたけくまOffで、その謎に迫る重要な鍵をたけくま教授に頂いた。


彼には、「吉田フォーマット」とでもいうものがあって、それに物事を当てはめているんじゃないかなあ。

正確な引用ではないにしろ、そういう趣旨のことをおっしゃっていた。それでは、その「吉田フォーマット」とは一体なんなのだろう。

ある種の「幼児退行」ではないか。

実は吉田戦車の笑いに一番近い笑いを提供してくれるのは、言葉を覚えたての幼児なのだ。不覚にも、私は子供を持つまでその事に気がつかなかった。

私は二女の父だが、双方とも「吉田戦車期」を通ったときのことを経験している。下の娘の方がこの期が長かったように思うのだが、いづれにせよ双方通って来ている。

まだ言葉を覚えたての幼児も、「全体の雰囲気をわしずかみ」にする能力はそれほど大人と変わらないように思う。いや、もしかして大人よりも長けているかも知れない。歌など歌っているときは、遠くから聞くとちゃんと歌には聞こえる。

しかし歌詞がデタラメなのだ。たとえば次女が歌っていたドレミの歌はこんな感じだった。

♪ドはみかんのソ
♪レはレモンのファー
[中略]
♪ソはそこにある
♪ラはラッパのレー
♪シーは毒!

最後の「シーは毒!」というアンチクライマックス(?)を除けば、歌詞は毎回どこか違う。しかし「ドレミファソラシド」というフォーマットも、音程もまともなのである。

そう。遠くから見るとつじつまがあっているのに近づいてみるとちぐはぐ。そこに大人は笑いを感じずにはいられない。

大人になるにつれ、世界のディテールは徐々に明らかになってくる。明らかになってくると、ものを見る目も、「エラー補正」が働くようになってくる。「期待される現実」からわずかに離れた不突合は、「ノイズ」として処理され、見えなくなる。そしてその「エラー補正」しきれない「不突合」による落差が笑いを生じさせる。

通常の「大人の道化師」は、この「落差」を演繹的に発生させているか、実存する落差を観察するかのどちらかで得ている。ギャグ漫画家のほとんどがそうだろう。唐沢なをきから秋月りすまで、この法則にあてはまるりそうだ。そしてその極北が相原コージのように思われる。

たけくまメモ: シバれる夜には相原コージ
はたしてこれはギャグなのかどうかというのは、ぜひ読んで判断していただきたい。ある意味ギャグなんですが、相原くんはなんかとんでもないものを描いている気がする。

しかし「真・異種格闘大戦」は、「観察と演繹によるギャグ構成」という意味では「かってにシロクマ」の嫡子でもある。「かってにシロクマ」の方がほのぼのしていて安心して読めるかも知れないが、しかし「人間界のジョーシキを動物界に無理矢理当てはめた場合の落差」という点で両者は共通している。実に自然科学的、実に「理性的」だ。

しかし(おそらく)吉田戦車だけが、まったく正反対のアプローチからギャグをものにしている。それが「世界観の一部幼児化」だ。彼だけが、そういう「特技」を持っている。言われて出来ることではないのだ。実際上の娘は「戦車期」を過ぎて久しいし、下の娘の「戦車期」ももうそろそろ終わりを迎えようとしている。大人になってから、任意の場所で任意の分量だけ「幼児」になるのはもう才能としかいいようがない。

だから誰もが吉田戦車の漫画を笑えるのに、誰も真似できないのだ。

吉田戦車の笑いは伝染(うつ)るのに、吉田戦車そのものは伝染(うつ)らない。これはすごいコアコンピタンスだ。肉体的に例えれば任意に自分の関節を外せるのに匹敵する。相原氏が彼の出現に頭をかかえたというのが痛いほどよくわかる。

それでは、彼にはライバルはありえないのだろうか?

意外なライバルが考えられる。それは、機械である。

いみじくも、「伝染(うつ)るんです」の最終巻である第5巻には、機械のかわうそ君が出てくる。機械のかわうそ君は「本物」のかわうそ君より「2割いい」。同作ではそのことそのものがギャグなのだが、実は「疑似乱数」というのは電脳の得意技でもあるのだ。ハナモゲラ語などは、電脳の方が得意なのだ。

現在のところ、「電脳生成ギャグ」はまだ「ランダム過ぎて」ツボを外していることがほとんどだ。しかしどこをどうランダムにするかは人間の手で調整可能だ。実際「人口無能」と呼ばれるソフトは時に人間ではありえないギャグをかましてくれる。

そんな機械の吉田戦車が生身の吉田戦車に挑戦し、「2割いい」ことを証明する日は来るのだろうか?

少なくともその日までは、吉田戦車は安泰であろう。

Dan the Senshaphilia

追伸: 実は娘達の「みっちゃん化」計画を進めた事があるのだが、見事に失敗した。やはりみっちゃんのママと我々夫婦の演技力の差だろうか。それとも財力の差だろうか?


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