2006年02月12日 16:38 [Edit]

終わりなき肉欲との戦い

私が思い起こしていたのは、むしろこちら。

Rauru Blog - Blog Archive - 額に汗することのできる経済体制
供給が過剰となったポストインダストリアル世界の極北と言えば、ジョン・ヴァーリィのSF スチールビーチ が思い出される。生産も管理も人間がやるよりコンピュータに任せておく方がうまくいく未来社会。しかし人間は自尊心を保つために職業と労働を必要とする。そこで人々に形ばかりの職業を与えて働いた気分にさせてねばならない。額に汗するということが、特権すらも超えて、もはや福祉となってしまった世界だ。

邦訳版も手元にあったので、少し引用してみる。

「....全地球人は、十八年間の教育を無料でうける権利があります--このうち十四年は義務教育です。このことと就職からの開放が、有史以来例をみない学究的、創造的活動の芽となっているのです--今日活動をしている芸術家や作家の数は、キリスト紀元の最初の二世紀を生きて来た人間の数より多いのですよ。彼らの作品は、かつて存在したよりもずっと幅広い教育をうけた人々に支持されています」  それはよく考えるべきことであった。
 ラビが手を上げ、
「まだシェイクスピアのような人はでてますか?ミケランジェロは?」
 シリは女っぽい仕草で目にかかった髪をはらいあげた。
「それは適当な質問とは言えませんね.そうした比較をするのは、もっと後代の人に任せましょう」

なんだかblogosphereの行く末を暗示しているみたいである。

「就職からの開放」というのは、今風の言い方をすれば「人類総ニート」ということでもある。この世界では最優秀のほんの一握りの若者が、徴兵され宇宙人との戦争に赴く。

もっとも未来の地球の描写は、本書のメインテーマではない、というより、本書はいくつものメインテーマ--戦争、セックス、外挿的未来予測、異文化交流、そして愛--が複合的に絡み合ったSci-Fiの大傑作で、そのうちの一つではある。私は本書をSci-Fiのベスト10、いや5に入れる。まだ読んでない方はぜひ一読を。

とはいえ、そこはフィクションの悲しさ、外している部分ももちろんある。というより、ほとんどの欧米Sci-Fiが「外した」部分で、それが本Entryの実は主題だ。

それは、未来におけるセックスのありよう、だ。

ほとんどの欧米Sci-Fiでは、そのありようの変遷を人口爆発と結びつけて外装し、それを抑制する形にセックスが変遷していくことを暗示している。たとえば「終わりなき戦い」では、同性愛が推奨され、年を経るにしたがってそちらがむしろ「普通」になり、ウラシマ効果で結果的に未来に放り出された「かつて普通だった異性愛者」の主人公は多いに戸惑う。またLarry NivenRingworldシリーズでは、人口抑制、そして異文化交流の手段として、Rishathra(リシャスラ)という人類亜種どおしの異種セックス(獣姦!)が登場する。

ところが、これに関する現在の傾向は、どうみても「ニジゲンへの移住」、すなわち「脳内昇華」だ。欧米のSci-Fi Writersの外挿力が欠けているというのではない。実際脳内の快楽中枢を直接刺激する手法はかなりの作品に登場し、Ringworldでも"Wire"という形で出てくる。しかしそれらはなぜか麻薬と同じ、社会悪として扱われているのだ。同性愛だろうが獣姦だろうが、「きちんと体を張ってやる」ことをもってよし、なのである。彼らは別の意味において「発汗主義者」(perspirationist -- たった今造語)のようなのである。

「脳内主義」(inspirationism -- これも今造語)に関しては、日本の方が先行しているようにも見える。筒井康隆の「オナポート」(作品名失念。大傑作!)のような作品はなかったようだし、「いいか悪いかはさておき、やっぱいきつくことは脳内」という「ディアスポラ」のような作品は、「攻殻機動隊」のような世界観がまず日本で定着し、それが欧米に流出した結果のようにも思える。

この先どうなるかは私にはわからない。どちらの世界も受け入れるほど世界が広いといいのだが(リングワールドはそれくらい広い。リシャスラは楽しそうだ)。しかし地球に閉じ込められている限りにおいては、脳内主義者の方が優位に立っているようにも思える。「萌え」は地球を救うのだろうか?

Dan the 1% Inspirationist, 99% Perspirationist


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悲しいかな、私も同意見だ。 アンカテ(Uncategorizable Blog) - 働かなくても食っていける社会がもうすぐやってくるよつまり、「生活保護でかなりの贅沢をして暮らせるけど、『働く』為には、ものすごい才能と努力が必要になる社会」である。
働かなくても生きて行ける煉獄【404 Blog Not Found】at 2007年02月01日 09:31
それが本書のテーマにして結論だ。 Forever Peace 終わりなき平和 Joe Haldeman そしてもしかすると、Value 2.0の起点にして帰点かも知れない。
Alone, together. The way it always used to be.【404 Blog Not Found】at 2006年03月08日 22:03
ワン・ゼロ (1)佐藤 史生 小学館 1996-10by G-Tools 本書を
我々の未来としての「ワンゼロ」 Our Future at Nirvana【HPO:個人的な意見 ココログ版】at 2006年02月18日 13:50
この記事へのコメント
通りすがりさん、
>「郵性省」ですね。
そうだ!思い出した!ありがとうございます。
「御手淫船」のところで腎虚になるほど笑いました。
Dan the Amnesiac Tsutsuist
Posted by at 2006年02月13日 03:28
「オナポート」が出てくる筒井康隆さんの作品名は「郵性省」ですね。
Posted by 通りすがり at 2006年02月13日 03:00
九龍さん、
Thanks, fixed.
Dan the Typo Generator
Posted by at 2006年02月12日 22:21
誤字訂正
 シリは女っぽい仕草で目にかかった紙をはらいあげた。

 シリは女っぽい仕草で目にかかった髪をはらいあげた。

年を減るにしたがって

年を経るにしたがって
Posted by 九龍 at 2006年02月12日 21:25