2006年02月23日 16:44 [Edit]

この記事をクリップ! newsing it! Buzzurlにブックマーク b.hatena.ne.jp/entry 残り0.1%も仮説 - 書評 - 99.9%は仮説

ずいぶんおとなしいタイトルの本である。これでも。


本書は、「科学」という「仮説」に関する本である。

飛行機が飛ぶしくみにはじまり、プトレマイオス→コペルニクス→ケプラー→ニュートン→アインシュタインという天体物理学の流れ、ミリカンの知られざる「データ隠蔽」、ロボトミー、Intelligent Design、宇宙項、そして超ひも理論。実に数多くの実例を挙げながら、科学もまた仮説に過ぎないことを示している。

しかし、本書は「だから科学も大したことはない」という立場を取らない。

pp.153
科学と真理は、近づくことはできてもけっして重なることはできない、ある意味とても切ない関係なんです。

この切なさを無視するのでもなく、宗教や似非科学に「逃げる」でもなく、そのまま受け止めようというのが本書の立場であり、そしてそれが「科学的態度」なのだと本書は訴えている。

この切なさは、「切ない」という言葉では生易しいほど、文字通り身を切るような痛みでもある。「科学者」とはいえど、その切なさから逃れたいという気持ちとは無縁ではなく、そしてその気持ちが彼らの立てる「仮説」に陰を落とさざるを得ないことも本書は赤裸々に披露している。その意味は本書は「科学者の懺悔」でもある。

pp.175
わかっていないことについては、わかっていないとちゃんと教えるべきなんです。その線引きを曖昧にしてはいけません。

これこそが、科学的態度というべきものだろう。いや、厳密には半分だ。「それでもわかろうとする」こと、ふられてもふられても決して重なることができなくてもそれでも重なろうとする、それが科学だ。

本書はブルーバックスなどを読み慣れた「科学おたく」には歯ごたえが薄く感じられるかもしれない。文章も平易な上、要所は太字にしている。莫迦にされたと感じた読者もいるかも知れない。

しかし、私は本書を竹内薫の現時点における最高傑作だと認定する。氏のブルーバックスは恐らく全部読んだが(なにしろ私はブルーバックスであれば「盲買い」するのだ)、そのもったいぶった話しように必ずしも好意的ではなかった。

しかし、今回はストレートの豪速球である。実に晴れ晴れしい気持ちで読了した。それに15分しかかからなかったことがもったいないぐらいだ。しかしそれは本書が「軽い」のではなく、本書がいかに「難しいことを簡単に」書くことに成功したかということの一つの証である。

科学を知らない人にも、すでに「知っているつもり」の人にも、一読すべき価値がある。なんといっても時間もお金も類書よりかからない(笑)。

とはいえ、問題もいくつかある。たとえば図版。プロローグの「飛行機はなぜ飛ぶのか?実はよくわかっていない」の翼の断面図の迎え角(angle of attack)がマイナス、すなわち下を向いているのはまずいでしょう。将来の版ではきちんと手をいれてもらいたい。あれでは素人目にも「とばない」。

しかし、こうした点は些細なものだし、むしろ本書のあら探しを通じて「科学的思考法」を身につけられるかも知れないといったらあばたもえくぼが過ぎるだろうか。

加えて本書がさらに良心的なのは、読者に考える余地をきちんと残してあることだ。

「すべては仮説にはじまり、仮説におわる」というわたしの科学的主張は、はたして反証可能のでしょうか?

実は本書は、類書であれば外さないはずの二つの理論、不完全性定理と不確定性原理に触れていない。私はそれを竹内氏からのメッセージだと受け取った。もし本書を呼んで欲求不満になること、それこそがまさに竹内氏の狙いではないだろうか。科学は永遠に真理と重なることはないかもしれないが、その真理に一歩でも近づいたと感じた時のあの脳をつきぬけるような快感に、その欲求不満は欠かせないのだから。

薫日記: 重版御礼!
ここ数年、実に苦しい情況が続いていたのですが、暗雲の切れ目から、明るい日光が射し込んできたような印象です。

新潮新書もそうだが、最近の光文社新書の快進撃ぶりの背景には、この読みやすさと買いやすさがある。その意味で直球勝負に打って出た竹内氏と同時に、「よきプラットフォーム」を氏に提供した光文社新編集部にも拍手を贈りたい。

Dan the Hypothetical Man


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この記事へのコメント
科学と真理が一致しないことは「切ない」ことではなく、ウキウキすることだと思ったりしています。
だって、このことは科学が無限に発展する可能性を示しているように思うからです。
Posted by ふっきん管理人 at 2006年02月23日 20:09
TBありがとうございます。

ご指摘のとおり、科学書も小説も十数年にわたって、見えない「壁」というか「殻」からぬけだせず、もがき苦しんできました。

今回は、仮説という切り口、光文社新書というプラットフォーム、話し言葉を改めて文章として手をいれる方法など、すべてが好循環となって、初めて「殻」が割れた(?)感じです。

今後も試行錯誤が続くと思いますが、よろしくお願い申し上げます。
Posted by 竹内薫 at 2006年02月23日 21:37
100 - 99.9 = 0.1
Posted by tnk at 2006年02月23日 22:54
tnkさん、
>100 - 99.9 = 0.1
実は残り0.09%は「誤字脱字」、ぬわんちゃって;-)
というのもなんなのでタイトルを「検算」しました。
Dan the Miscalculator
Posted by at 2006年02月23日 23:38
「100%仮説」だと「100%仮説」ということが仮説ではなくなってしまうのでは?
Posted by   at 2008年11月14日 22:23